軽率であったかもしれない。
真佳は、今更ながらそう思う。
峯晶宮の中を探れないものかと思案しているところであったので、招き入れられるとは、渡りに舟。これを逃す手はない。
とは言え、何故に呼びいれてくれるのか、全く不明だ。しかも唐突である。
罠であるかもしれない。
最近、この峯晶宮に多数の男女が取り込まれているという話である。いかにも怪しい館だ。
もしやこんな風に皆連れ込まれたのかもしれないし、この館を探っている真佳を取り込もうとしているのかもしれない。
峯晶宮は思いのほか、質素なつくりだった。調度品も極実用的なものに見えたし、建物そのものも大きいが、古いものだった。柱の朱は、きれいに剥げ落ち、経年の黒ずみに染まっていた。
だが、どこもかしこも清浄だった。床は塵ひとつなく掃き清められ、覗き込めば顔が映りこむまで磨き上げられている。壁や柱も、天井も、どれひとつとっても、手を抜かれているところはない。
美しいが故に、奇妙な空気がよどんでいる。
「どうぞ」
椅子を勧められた。
卓には、香りのよい茶が運ばれた。
真佳の向かいには、先ほどの女が穏やかに微笑んでいる。
「あの」
真佳は、このもてなしに戸惑うばかりだ。
「ここにおいでになる方は、理由があるのですよ」
真佳がここを探っていたことを言っているのだろうか。ひやりとするが、それにしては、女の態度は優しげだ。
「例えば、ここを怪しんで調べようなどという方もいらっしゃいます」
やはり罠かと、真佳はどきりとする。
「けれど、それもまた導きなのですよ」
「導き?」
「ええ、あなたはここに来なければならなかった。だから来た。それだけのことです」
女の話は、とらえどころがない。
何を言っているのか、真佳には直ぐにそれを明らかにはできなかった。
「あなたが、恵彩を連れ戻そうとしているのは分かっています。その為にここを探っていたのだということも」
決まりだ。
真佳は、心の内で舌打ちをした。
「けれどそれは表向きのこと」
「は?」
真佳は、自分から意味のある言葉をひとことも発していない。
「あなたは、もっと別の理由があってここに導かれたのですよ」
そうではないと、言っていいものだろうか。確かに、真佳は恵彩を探す為だけにここに来ていたのだ。だからといって、そう正直に言っていいはずもない。
真佳の混乱をよそに、女はすらすらと話を勝手に進めた。
「誰に? と、お思いですね。この世界の意思にです」
女の声には、ぶれるところがない。
真佳は、もうどうとでもしてくれという投げやりな気持ちになりかけた。
「では、俺は何の為にここに来たんですか? 俺には、分かりません」
女は、その言葉に満足そうに微笑みを深くした。
「あなたは、邪まな想いを抱いています」
女は、突如として牙をむく。
「邪だと、あなたは思っている」
言葉を失うというのは、こういう時のことを言うのだと、このとき真佳は考える暇などなかった。
「あなたは苦しんでいる。だから、ここに来た。ここに呼ばれた。ここで、その苦しみを取り除く為に来たのですよ」