娘を連れ戻して欲しい。
それは初め、そんな依頼だった。
珊揮が戒莉につきっ切りになってから、真佳達の仕事はもっぱら人探しや、情報収集という、剣の腕を必要としないような仕事に限られていた。
今回も、家出娘の捜索だと思われた。ただ、実際の話は大分ちがっていた。娘の居場所をその父母は知っていたのだ。
しかも娘は、無理やり監禁されている訳でもなく、自らの意思でそこに行き、そこに留まっているのだという。更に言えば、娘とはいえ、それはもう二十にもなる立派な大人だ。
成人した者が、自分の意思で行動している。そして、彼女は犯罪を犯しているというわけでもない。ならば、たとえ親であろうと、彼女をどうこうできるようなものではない。
「あの子は、騙されているんです」
母親は言った。
成人している娘を、『あの子』と言う親に問題はないのか。
真佳は、眉を顰めた。こんな仕事を引き受けてもいいのだろうか。
そう、疑問を抱いたが、残念なことに、真佳は仕事の依頼を受けるか否かの決定権を持ち合わせていなかった。
「お引き受けいたします」
英俊は、もの腰柔らかにそう微笑んだ。
「何故、この仕事引き受けたんですか?」
英俊に対しては、真佳はどうにも丁寧な口調となる。なぜだろうか。そういえば、珊揮に対してもそうだ。
「何故って? 仕方がないじゃないですか。うちの腕力担当どもは、いま全く役にたたないんですから。少しでも稼げる仕事は引き受けていかないとこちらが干上がってまいます」
英俊は誰に対しても丁寧だ。ただし、ときおり織り込む乱暴な言葉や皮肉めいた笑みが、相手に屈服している訳ではないことを示している。
「あの親は、娘を連れ戻して欲しいと言った」
希央は、ぽつりと言う。
父親と母親にとって、娘は自慢の子供だったらしい。
両親は金貸しをしており、娘もその仕事を手伝っていた。それがある日突然、娘は金貸しをやめようと言い出した。金があるならば、貸すのではなく、分け与えるべきだと言い出した。
両親がそんな話を承諾するはずもなかったが、娘は真剣だったらしい。そして程なく、家にある金の半分と金貸しの証文を持って、娘は家を出た。
それが、ひと月ほど前のことだという。
「金と証文を取り返して欲しいという依頼ではなく、娘を連れ戻して欲しいという依頼でしたから、それならできるでしょう」
しれっと、英俊は言った。
「金と証文は、もう駄目でしょうからね」
家出をした娘の字は、恵彩といった。