恵彩の両親が、指し示した娘の居場所は、峯晶宮と呼ばれていた。
確かに立派な門構えの大きな屋敷だったが、山の峰に建っている訳でもなく、水晶のようなものにたとえるようなもので飾られている様子もなく、宮殿という程のたたずまいでもない。
何ゆえに峯晶宮などというのかと、真佳は首を傾げた。
「あそこは『占いの姫』の屋敷だよ」
近隣の者に尋ねると、直ぐにそんな答えが返ってきた。
「うらないのひめ?」
益々、真佳の首は傾いだ。
誰もが知っている固有名詞のようにその女は言ったが、真佳には初耳だった。
「なんだ、あんた知らないのかい? 『占いの姫』はさ、何でもお見通しらしいんだよ。それまでただの一度も面識がなくても、その姫は一目でその人間の過去が分かってしまうのさ」
女は得意満面、真佳に語ってみせたが、女自身が『占いの姫』と面識があるわけではないらしい。
「あのお屋敷には、その姫だけが住んでるのか?」
広そうな屋敷だ、下男や下女がいるに決まってると、女は笑ったが、真佳の聞きたいのはそういうことではなかった。
「ああ、なんかさ。たくさん住んでるみたいだよ。若い男や女がさ、何十人もいるって話だよ。どういう素性のもんかは分からないけどさ。家族ではなさそうだね」
女は、人から少し聞いたり、ちょっとのぞき見た程度のことを語っているに過ぎない様子だったが、あの屋敷が普通の屋敷ではないことは真佳にも感じられた。
門はピタリと閉じられており、来る者を拒んでいるかのようだ。時折、荷馬車が出入りしている以外は、目だった人の動きはない。
真佳は峯晶宮のまわりをぐるりと巡ってみたが、中からは人の声が全く聞こえてこない。まるで空き家のようだ。
―― とりつくしまがない……
この屋敷は何か常識でははかり知れないものが潜んでいる。真佳が今までに感じたことのない奇妙な感覚だ。
―― バカバカしい
そう思いながらも、否定しきれない。
「馬鹿馬鹿しい」
口にしてみたが、何も変らなかった。
「ここに何か御用ですか?」
そう、声をかけられるまで、真佳はそこに人がいるのに気付かなかった。
ふいをつかれたことと、自分の迂闊さに、真佳は声を発することができなかった。
「……あなたは、迷っておいでですね」
翠色の髪をした女は、優しげに微笑んだ。
―― 迷っている?
道に迷って、ここをうろうろしているのか。と、いう意味なのだろうか。真佳は、返す言葉を探した。
「いえ、あの」
「分かっています。こちらへどうぞ」
女がゆるやかに誘う。
女の指し示すところへ、真佳の足は自然と向かった。