「なあ鈴木、どうだったんだ?」
「は?何が?」
「だから、どうだったんだよ。」
「分かんねえよ。主語をつけろ。」
昨日の不思議体験から日を跨いで現在昼飯時。クラスメイトは各々友人と机を繋げて弁当を食べながら談笑している。俺もクラスでよくつるんでいる田中と購買で買った菓子パンを食べている。そんな中、田中が訳の分からないことを聞いてくる。こういう突拍子もないことを言い出すのは何時もの事なのだが正直今は返事を返すのも億劫なので勘弁して欲しい。因みに鈴木とは俺の事である。
「あれだよ、お前昨日行ったんだろ、勇者部。」
「……はあ~」
「え?なんでため息?」
こいつ今一番触れられたくないことをあっけらかんと聞いてきやがった。俺が昨日どれだけ自分の部屋のベットで悶えたと思ってんだよ。おかげで昨日はほとんど寝ていない。ああ、というか、ちょっと待って、ああ……
「おいどうした。頭抱えて呻きだしたりして、頭痛いのか?」
「お前ホントそういうところだぞ。」
「?何言ってんだお前。」
「……何でもない、もう治まった。心配かけて悪い。」
「そうか?ならいいけど……無理すんなよ。」
「おう……」
心配そうにこちらを見てくる田中。こういった友達思いな部分を前面に出せば彼女の一人や二人出来そうなものだが、当の本人はというと……
「それよりもさ、どうだったんだよ勇者部は?あの部活は美人美少女のオンパレードだからな!それに何より巨乳率高い!霊峰チョモランマ、一度でいいから近くで拝んで見たいものだ。あっ、でも山だけじゃなく平野も好きだぞ!ちっぱいはステータスだからな!」
「お前マジ口閉じろ。」
これである。こいつ自身顔もまあまあ良いし、成績も上位に入っていて勉強もできる、運動もそつなくこなす。モテる要素をこんなにも揃ってるのに口を開いてしまうばっかりに評価が急降下して今では地面にめり込んでマントル付近まで行ってしまっいる始末。今も周りを見れば、女子の冷ややかな視線がこれでもかと突き刺さってくる。当然一緒にいる俺も対象である。マジで勘弁してくれ……
「まあこの話は置いといて、それでどうだったんだよ。悩みは解決したのか?」
「……その、なんというか……結果的には解決した。」
「結果的には?」
ああ、と返事をして昨日のことを思い出す。勇者部の話を聞く限りでは、俺が違和感を覚え始めた時期と神樹様が内部に特別な世界を作り、結界内の生物を召喚した時期はほぼ一致しているため、多分そういうことなんだろう。ただ何故勇者でも巫女でもない自分が違和感を覚えたのかは分からないそうだ。
「それじゃあさ、悩みも解決した事だし今日の放課後にでも飯食いに行こうぜ!」
「ああスマン、今日は無理。というか多分これから放課後遊べなくなるかもだ。」
「どうした、何かあるのか?」
俺の言葉に眉をひそめる田中。俺だって別に好きでこんなこと言ってるんじゃないんだ。これは自分を守るためなんだ。
「部活に入ることになったんだよ。」
「おおマジか!万年帰宅部なお前が部活に入るとかどういう風の吹き回しだ?」
「帰宅部歴まだ一年ちょっとなんだけど……」
「言葉の綾だよ。それで何部に入ったんだ?」
「勇者部。」
「……ん?何て?」
「勇者部。」
「……はあああああぁぁぁッ!!」
この後、昼休みが終わるまで質問攻めにあったのは言うまでもない。
「鈴木くーん、迎えに来たよ!」
「……鈴木さんはいつから美少女に迎えに来てもらえる程偉くなったんでしょうね~、あ~羨ましいなぁ~。鈴木さんや、ちょっと君の左の頬を貸してくれないかい?なぁに大丈夫、すぐに楽にして殺るから。」
「落ち着け田中、拳を収めるんだ。暴力は何も生まないって死んだじっちゃんも言ってた。」
「……そうだな、俺も頭に血が上ってたみたいだ。あとお前のじいちゃんこの前ゲートボールで大活躍してたぞ。」
「お、おう。ずいぶん物分かりがいいな。あと何で知ってんだよ。」
「この前俺も参加してたからな。それよりもごめんな。」
「は?何が?」
「お前の好みを理解してやれなくてだよ。そうだよなぁ、お前は拳で殴られるよりビンタの方が良いんだもんな。」
「全く分かってなかった!」
時間は放課後、荷物をまとめて勇者部の部室に行く準備をしていたところ、勇者部の部員の一人である結城友奈が教室に飛び込んできた。その後ろには結城と同じクラスの勇者部メンバーも控えている。因みに迎えを頼んだ覚えはない。田中の怒りは完全に思い違いである。そして田中ほどではないがこちらを注目しているクラスメイト。完全に注目の的である。
「という訳だ、俺は行く。また明日な。」
「あッおい!」
バックを背負い田中の横をすり抜け扉まで一直線に駆け抜ける。後ろから「裏切り者ッ!」や「どんな手を使った!」や「モブ顔のくせにッ…!」など聞こえてくる。最後の奴は後で絞める。
「ええと、お待たせしました?」
「ううん、ぜーんぜんッ待ってないよ。じゃあ出発しんこーッ!」
「ちょっと友奈!教室の前であんまりはしゃぐんじゃないわよ!目立ってしかたないわ……」
「ゆーゆはいつも通り元気もりもりだね~」
「ええ、さすが友奈ちゃんだわ。」
「いや、何がさすがなのよ……」
いつまでも教室の前にいるわけにもいかないため結城を先頭に歩き始める。道中彼女達が他愛もない会話をしているのを静かについていく。そんな俺にも会話を振ってくる彼女たちだが無難に返答しかできない。彼女達が友好的に接してくれるのはありがたいが俺自身女子とはほとんど会話しないため仕方ない。仕方ないったら仕方ない。小学生の時は案外話してた気がするんだがなあ。小学生男子が安い下ネタで盛り上がっている間に女子は精神的に成長しているのだろう。ため息が出てくる。
「どうしたの?」
「んあ?」
どうやら考え事をしている間にいつの間にか前にいた結城が俺のとなりに来ていた。普通にびっくりしたがなんとか答える。その結果間抜けな声になってしまったが。
「大丈夫?ため息ついてたみたいだけど、何か困ったことがあるなら聞くよ。鈴木君も勇者部の部員なんだから。勇者部五箇条!悩んだら相談!だよ!」
「お、おう…」
まだ入部届出してないから正確な部員ではないが彼女の中ではすでに俺は勇者部の部員らしい。自分から昨日入ると言ったのだから当然と言えば当然である。まあ入部する理由が近くにいれば守ってもらえるという打算とただで守ってもらうのは気が引けるという後ろめたさから来るものだが…
「それで~、なんですずむーはため息をついたのかな~」
「いや、大したことじゃ……ちょっと待ってください。」
「ん~?」
間延びした口調で小首を傾げるのは
「すずむーって何ですか?」
ここで誰?なんて馬鹿なことは聞かない。明らかにそれは俺に言っているのだから。
「すずむーの名字が鈴木だからすずむー。どう~可愛いでしょ~」
「……むーは何処から来たんですか?」
「ん~、頭の中からボワーッと出てきたんよ~」
「……分からん。」
全く分からんが彼女の感性は少々独特であることが分かった。しかしすずむー、すずむーか……
「鈴虫みたいですね。」
「おお!つまり人を惹きつける美声の持ち主ということだね~」
「俺を鈴虫に寄せるのはよしてください。」
「どうしたんですか?」
「いや~、もしかしたらあだ名をつけられるのいやだったかなあ~って。」
不安そうな顔から少し悲しそうな顔をする中乃木。あれかな、俺の顔を見て嫌がっていると思ったのかな?ならここでちゃんと訂正しておかなければ。後々気まずい雰囲気になるのは嫌だしな。
「ごめんね~次からちゃんと…」
「中乃木さん。」
「…え?なかのぎさん?」
おっと急ぐあまり脳内でのあだ名を言ってしまった。まあいいや、このまま続けよう。
「別にあだ名は嫌じゃないですよ。」
「えっ、でも……」
「さっき顔をしかめたのは鈴虫を口いっぱい頬張っている自分を想像してただけなので気にしないでください。」
この発言を皮切りに他の三人も会話に交じってくる。
「いや、何想像してんのよ!気持ち悪ッ…」
「ねえ三好さん、それは鈴虫がってことですよね?俺が気持ち悪いってことじゃないですよね?」
「何で鈴木君は鈴虫を食べたの?」
「結城さん、それだと俺が実際に鈴虫を食べたことになってますよ。」
「鈴木さんがそれを想像したのは鈴虫が共食いをするからではないかしら?」
「ああ、はい。その通りです。東郷さんよく知ってますね。」
「おお!東郷さんは相変わらず物知りだね。さすが東郷さん!」
「もう友奈ちゃんたら、褒めても何もでないわよ。」
いや少なからず何かは出てるよ。だってあっという間に百合空間が形成されてるし。
「まあそういうことだから。別に気にしてないので好きに呼んでもらって大丈夫ですよ。」
これで大丈夫でしょ…と思ったのだが表情は依然変わってない中乃木。むしろ何かを覚悟した表情になったんだけど。えっまだ続くの?
「すずむーは私にあだ名で呼ばれるの、嫌じゃないの?」
今度は真剣な表情で質問してくる中乃木。そのためか間延びしていた話し方は鳴りを潜めている。あれ?何この空気?あだ名で呼ぶ呼ばないでこんなシリアスな雰囲気になるもんなの。これが女子との会話というやつなのか!くそッ!なんて答えるのが正解なんだッ!……ん?
(手が震えてる?)
彼女の胸の前で握っている手が僅かだが震えていることに気づく。まるで何かに怯えているようだ。そうだとすれば彼女は一体何に怯えているのだろうか?
(……ッ!まさか……)
まさか昔何かあったのか?男子に同じようにあだ名をつけて拒絶されたとか?ありえない話ではないか。人によっては悪口に受け取る人もいるだろう。勇者部の面々は気にしなさそうだが。さて、そうならばここは慎重に答えなければいかんな。変にトラウマを刺激しかないし。
「さっきも言ったけど別に気にしませんよ。」
「……でも私は『乃木』だよ?」
「?ええ、そうですね。」
何言ってんだこの人。昨日自己紹介してもらっただろ。ちゃんと全部憶えましたよ。あっあれかな、中乃木って呼んだから名前を憶えていないと思ったのかな?普通に乃木さんって呼ぶか。
「せっかく乃木さんが考えてくれたあだ名ですから、無下にはしませんよ。」
「それは私が『乃木』だから?」
さっきからすげえ乃木の名字を強調されるのだが、あだ名で呼んだのがそんなに嫌だったのか。自信はあったのだが少しショックだ……よし、こうなりゃあやけくそだ!意地でもあだ名で呼んでもらおう。
「あなただからですよ。」
「私…だから?」
「そうです。俺は乃木園子にあだ名をつけてもらえて、少し…うれしかったんですよ。」
けっこう恥ずかしいことを言っている自覚はあるが今は我慢だ。おいお前ら顔赤くしてこっち向くなよ。こっちまで顔が赤くなっちまうだろうが!しょうがないだろ、あっちがまじめに聞いてきたんだ。なら俺もまじめに本音で答えるのが筋というものだろう。現にあだ名を呼ばれて困惑したがそれと同時に少々浮かれたのも事実だしな。これだけ言えばこの場は収まるだろ。一件落ちゃk
「少し?」
「ん?」
「少しだけなの~」
……ええと、これはどう答えれば良いんだ?多分あれだよね。俺の言ったことだよな?最後恥ずかしくなって少しってつけたのが不満だったのかな?これ返答しなきゃ駄目ですか?さっきのは勢いで言ったものであり、今同じセリフを言えと言われたら間違いなく顔を赤くして声が小さくなる自信がある。このまま突き通すか?でも中乃木がこちらをじっと見て離さないのだが。気のせいか少しソワソワしているように見える。ぐッ、覚悟を決めるしかないかッ!
「…普通に嬉しかったです。」
「普通~?」
「……とても嬉しかったです。」
「もう一声~!」
「ッ!すッごく嬉しかったです!」
「もっと激しく~!」
「滅茶苦茶嬉しかったです!内心浮かれてるのを隠すために必死で表情が動かないように我慢してましたッ!これからもそのあだ名呼んでください!よろしくお願いします!」
はい言い切った、言い切ってやったぞ!これでどうだ満足だろ!満足してくれ!頼む満足してくださいお願いします!これ以上は人が死ぬぞ。主に俺が。
「…うん、こちらこそよろしくね~すずむー!」
どうやら満足してもらえたようだ。それと一様釘をさしておかなければ。
「あと、一ついいですか?」
「ん~、何かな~?」
「その、クラスの奴らの前では控えてもらえますか?あいつら全力でいじってくると思うから……」
絶対に田中を筆頭にいじってくるのが想像に容易い。何なら今想像してイラッきたよ。明日殴ろう。
「……う~ん、どうしようかな~」
「え」
てっきりあっさりOKしてもらえると思ったのだが。何か要求してくるのだろうか。お兄さん今金欠だから奢れないよ。
「そこを何とか…」
「え~どうしようかな?」
「俺に出来ることなら何でもします。」
「今何でもするって言った~?
「あ」
目の前には俺の言葉を聞いて不敵に笑う中乃木。やべえやらかした。これが狙いだったのか!中乃木マジ汚え。
「あの、今のは言葉の綾で…」
「敬語。」
「え?」
俺の言葉は中乃木の一言で遮られる。
「今からすずむーは敬語禁止で~す。あと~他の子に敬語じゃなくていいって言われたら素直にそうすること~」
「ええ……」
腰に手をあて、指をビシッとこちらに向けてくる中乃木。こらっ人に指を向けるんじゃありません。というか何で敬語駄目なんだよ。正直女子と話すときはなるべく敬語が良い。恥ずかしさを隠すのにうってつけなのだ。こればっかりは譲らんぞ!
「何でもするんでしょ~?」
「いや、でもさあ……」
「あ~何だか急にすずむ~のこと呼びながら学内を回りたくなってきたなあ~」
「おう!これからよろしくな乃木!」
俺弱ぇぇぇぇ。もうちょっと粘れよ。するとさっきまで外野にいた三人も俺に話しかけてくる。
「それじゃあ私も敬語なくしてほしいなあ。鈴木君ともっと仲良くなりたいもん!」
「敬語を使うのは良いけどれど慣れないと大変でしょ。私も敬語は外してもらって構わないわ。」
「あたしも調子狂うから外してちょうだい。それと名字じゃなくて名前で呼んでくれる?名字はあんまり好きじゃないのよ。」
マジか、一気に敬語禁止勢が増えたよ。というか三好よ、ハードル上げるなよ。何こいつら俺の事辱めたいの?だったら大成功だよこの野郎ッ!と言ってもいうこと聞かなきゃ進まないだろうなこれ。…はあ~
「分かったよ。これからよろしくな。」
この後中乃木に言ったセリフを勇者部全員に知られてしまい黒歴史が出来てしまったのはまた別の話。
【おまけ】
「そういえばすずむー。」
「なんだ。」
「さっき私のことを中乃木って言ってたよね?」
「…ああ、うん。言ったね。」
「それって私のあだ名~?」
「そうだが…嫌だったか?」
「ううん、そうじゃないけど~、もうちょっと可愛いのがいいなあ~って。」
「…分かった、考えておく。」
「ホント?やった~!」
「おう、任せとけ。」
「出来れば、下の名前を主体にしてほしいな~」
「…………善処する。」
「うん!楽しみにしてるね、すずむー!」
こんな会話があったとかなかったとか。