どうにかこうにか今月中に投稿する事が出来ました。それじゃあどうぞ!
樹海
四国を守る結界を創り、勇者に力を与える存在である神樹がバーテックスが攻め込んできた時に発動する防御結界。この結界が発動している時は勇者以外の時間が止まるため勇者以外は認識できなかった。出来なかったはずなのだ。
何の因果か俺は樹海の中で動くことができる。本来なら生物・非生物問わず樹海化した瞬間に神樹と同化するはずなのにだ。何故かは分かっておらず、大赦も原因を探るため丸一日使って検査したのだが結果は芳しくなかったようでお手上げ状態。勇者の適正は当然あるわけもなく、完全に足手まとい。まあそこは仕方ない。女の子の後ろにガタガタ震えながら隠れることに思うことがないわけではないが仕方ない。仕方ないったら仕方ない。まあソノ(中乃木の新しいあだ名)のおかげで勇者部とは
「なんで!俺だけ!みんなと違う場所に
何度となく時間が止まり、何度となく樹海に来ているが一度たりとも勇者部メンバーの傍に転移されないのだ。しかも転移される場所はだいたい
(マジで何なの?神樹様俺の事嫌いなの?あれかな、今日の朝の挨拶で拝をせずに漫画を読んでいたこととか、神棚を掃除しなかったことに怒ってんのか。もしそれが原因だったら器小さすぎませんかね神樹さm…クソウッド!もうお前なんてクソウッドで十分だ!まあ口に出しては言わんがな。そんなこと言ったら大赦の人達に消されかねんし。というその前に
「おーい!みんな何処だーッ!マジで助けt…うわッ!ッぶな!いきなり突っ込んでくるなよ白饅頭!あ、嘘です。ごめんなさい。歯をカチカチ鳴らしながら迫ってこないでください。死んでしまいます。」
横から突然出てきた白饅頭を間一髪しゃがんで避ける。今の避けることができなかったらと思うとゾッとする。後ろを振り向けば最初より量が増えている。集合体恐怖症の人が見たら卒倒するだろうなこれ……
(……まだ二分くらいしか経ってないのに息が上がってきた。やはり運動不足は否めないなあ。体力付けないと…でも一人じゃ絶対続かないしなあ、どうしたものか……)
息を切らしながら今後のことを考えていると視界の端で何かが動いた。また追加かと思いそちらに振り返 る前に後ろから轟音が鳴り響き、走っていた方向に吹っ飛ばされる。あれ?これデジャブ?
「ぐぼへッ!」
ゴロゴロと数回転がったのちに背中から壁にぶつかり止まる。身体の節々が痛い。背中は多分痣が出来てるなこれ。
「大丈夫か?」
声のした方を向けば俺に向かっていたバーテックスをなぎ倒したであろうヌンチャクを片手に携えた白い勇者が一人。
「ええ、なんとか…今日はあなたですか棗先輩。」
彼女は
『…古波蔵棗だ……よろしく頼む。』
この人俺のご同類だ(不名誉極まりない)。
一見素っ気なく聞こえる自己紹介だったが、俺には分かる。その声には優しさが含まれて降り、こちらを気遣う気持ちがひしひしと伝わってきた。彼女は見た目で勘違いされる系の口下手リアン(口下手な人達の総称)なのだろう。系統は違うが俺のご同類だ。めっちゃ親近感。そんなこんなで今は問題なく会話出来ている。え?敬語を外す約束は良いのかって?先輩を敬うのは当然でしょ(すっとぼけ)。
「……すまない鈴木。私のせいで…」
普段からあまり動かない彼女の表情に影が差す。いったいどうした…ああ、俺が吹っ飛ばされたことかな?まいったな、確かに体中痛いがあいつらにカムカムされるよりましだし、彼女もわざとやったわけではないだろう。強いて言えば俺を彼女達のちかくに転移させないクソウッドが悪い。そうだよクソウッドが諸悪の根源じゃないか!あんにゃろうッ、マジ許さねえ!
「大丈夫ですよ棗先輩。大して怪我もしていませんし、問題ないでッ!」
立ち上がった瞬間、背中に痛みが走り思わず顔を歪めてしまう。それを見て彼女は一層心配そうに見てくる。
「やはり怪我を…すまない。私がもっと速く、もっと上手く助けられていれば怪我を負わずに済んだかもしれない……」
そう言って下を向いてしまう棗先輩。出会って数日しか経っておらず、接した回数だってそこまで多くはないが、それでも彼女が心優しい女の子だということはわかる。現に彼女は今自分を責めている。俺に怪我をさせたと心の底から自分責めているのだ。その優しさは彼女の美徳なのだろう。でもだからってこのまま引きずられても困る。シリアスな空気はホントに勘弁して欲しいのだ。息が詰まってしかたない。どうしたものか…あっそうだ。
「あの棗先輩。」
「……なんだ?」
「あのですね、棗先輩に頼みたいことがありまして…」
「分かった。」
「はやッ!」
めっちゃ即答された。食いつきは上々と言ったところだ。
「いやまだ何も言ってないですけど…」
「私は鈴木に怪我を負わせてしまった……だから償いたい。私のできることなら何でもしよう。」
何でもするというパワーワードがとても魅力的だが、今はふざけている時ではない。とても、とても!惜しいがちゃっちゃと本題に入ろう。
「いや大した事じゃないですよ。ただ俺の体力作りを手伝って欲しくて。」
「体力作り?」
「そうなんですよ。バーテックスに追われて思ったんですけど俺には圧倒的に体力が不足していると思ったんですよ。」
「確かに鈴木の体力の無さは壊滅的だからな。」
「お、おう……」
さっきまで落ち込んでいたのにかなりズバズバ言ってくれるじゃないか。
「んんッ!なので運動が得意な棗先輩に頼みたいのですが、駄目ですか?」
「いや、そのくらいなら構わないが…そんなことで良いのか?」
「いやいや結構大切ですよ。体力がないとすぐに息切れしてしまいますし、身体だって悲鳴上げます。運良く助かっているからこれからも大丈夫なんて楽観視してたら死にかねませんからね。俺にとってこれは死活問題なんですよ。それに一人だとサボるかもしれないので監視的な意味でもお願いしたいなあと。」
あっけらかんと言ってはいるが実際マジでやばいのだ。もしもバーテックスが大量に攻めてきたら?それにより救援が不可能な状態になったら?これからどうなるか分からないため体力には余裕が欲しい。
「……分かった。役に立つかは分からないが全力で頑張らせてもらう。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
どうやら無事シリアスパートを回避できたようだ。フハハハ!さす俺!
「それじゃあまた敵が来るかもしれないからそろそろ移動しましょう。」
「そうだな。」
俺の提案に棗先輩は同意し、淡々と右腕を腰より少し高い位置に、左腕を腿の裏にまわして持ち上げた…ん?
「あ、あの…棗先輩?」
「何だ?」
「これお姫様抱っこ……」
「この方が早く運べる。」
「あ、いやそうじゃなくて単純恥ずかしいいいいいぃぃぃぃぃッ!」
「あまり喋らないほうがいい、舌を噛むぞ。」
「それならもっとゆっくりいいいいいぃぃぃぃぃッ!」
「まだ敵が残っている、急がなければ。」
「 ッ!」
棗先輩に運ばれている俺は終始羞恥と空気抵抗に悶え苦しむことになる。その時棗先輩が俺をお姫様抱っこしている姿をみんなに見られたのは言うまでもない。
「走りに行くぞ鈴木。」
「棗先輩説明求ム。」
時刻は午前5時。普段ならまだ掛け布団に包まっているはずの時間なのだが、今日はこんな時間に親に叩き起こされた。そして何事かと親に言われて玄関に行ってみたところいきなり冒頭の棗先輩のセリフである。わけが分からん。
「良いからさっさと準備しなさい。」
「そうだぞ鈴木、時間は有限だ。」
「いやいやいやいやいや…」
この空間には俺と棗先輩以外にあと2人いる。勇者部随一の脳筋勇者である
「ちょっと誰が脳筋よ!」
「私のどこが天然だと言うんだ!」
「鈴木の家の場所は園子から聞いたんだ。」
「ちょっと、人の思考を勝手に読まないでもらえます。」
「全部口に出てんのよ!」
どうやら寝起きのため頭が回っておらず、思考が駄々漏れだったようだ。というかソノはどうやって俺の家を知ったんだ?少なからず勇者部の面々には教えていないはずなのだが…この件は後で本人聞くとしよう。今は目の前の案件が先だ。
「それで家に何ようですか?」
「走りに行くぞ鈴木。」
「それはさっき聞きました。俺が聞きたいのは何で急に…あっ、もしかして昨日のですか?」
「そうだ。」
「…もしかしなくても今日から?」
「?そうだぞ。」
そう言って頷く棗先輩。どうやら冗談とかではなく真面目に今日から走るらしい。マジか…確かに走る気ではいたが早くて明日からだと思っていた。だってこういうのって計画立てたりするものじゃないの?いやまあでも百歩譲って今日走るのは良い。良いのだが……
「何で二人までいるの?」
「何よ、私達がいちゃ悪いわけ?」
そう言ってこちらを睨んでくる夏凜。ええい、何故一々突っかかってくるだこの脳筋ツインテールは!あと質問を質問で返すなって先生に教わらなかったのかねぇ。
「それは私達が棗の相談相手だからだ。」
俺の質問に答える若葉。何でも棗先輩が部室で珍しく悩んでいるようだったので相談に乗ったらしい。俺が納得していると夏凜が話に入ってきた。
「アンタ私達に感謝する事ね。」
「ええ、何故急に上から目線…」
「もし私達が棗の相談に乗ってなかったら、アンタ時間が許す限り延々と遠泳させられることになってたわよ。」
「格別のご配慮をいただき、誠に痛みいりまする。夏凜様と若葉様には足を向けて寝られませぬ。このご恩は一生忘れぬ所存でござる。」
「はやッ!いつ土下座したのよ!」
「というか語尾が変わっているぞ…」
「何故鈴木は夏凜と若葉に土下座をしているんだ?」
棗先輩も天然ではあるとは思っていたがまさかここまでとは。天然は人を殺すんだな…また一つ賢くなったぜ☆あれ?でも棗先輩が相談したことによって天然がもう一人追加されちゃってるんだが…これ俺の死傷率が上がったのでは?
「夏凜様!貴方様だけが頼りでございます!どうか御身の寛大なお心で私めをお救い下さい!」
「ああもうッ!良いから動きやすい格好に着替えてきなさい!」
「イエスッ、マムッ!」
そんなコントじみたやり取りをしながらジャージに着替えるために部屋にダッシュする。
「どうやら夏凜とは既に打ち解けているようだな。」
「ああ、さすが夏凜だ。」
「は、はあッ!べ、別に打ち解けてなんかいないわよ!ただ、アイツが怪我したら私達の戦闘に支障が出るかもしれないからしょうがなく協力してるだけなんだから!」
「…これが風の言っていたツンデレか?」
「違うわよ!」
そんな会話が行われていることを鈴木本人は知る由もない。
「全く世話が焼けるわね。」
「面目ねえ…」
「まさかここまで体力がなかったとはな…よくこれでバーテックスから逃げられていたものだな。」
「大丈夫か、鈴木。」
場所は夏凜と若葉が鍛錬をしているらしい海辺。家からかなり離れていたがなんとか走りきれた。まあその後気を抜いてしまい膝から崩れ落ち、座れる場所まで運んでもらってしまったが。
「それじゃあ私達は何時も通り稽古してくるわ。あんたはさっき渡した鍛錬メニューに目を通しておきなさい。」
「はい…はあ…行って、らっしゃい…」
「ああ行ってくる。棗お前はどうする?」
「…私は遠慮しておく。二人で行ってきてくれ。」
棗先輩の返答にそうかと返した若葉は木刀を持って夏凜と共に稽古を始める。その木刀はどこから出したんだ?というか全然目で追えないのだが…えっちょっと待って、あの二人本当に人間か?俺も頑張ればああなれるのかねぇ…無理だな。
「鈴木。」
「はい何ですか?」
凄まじい二人の攻防にわかぼし引いていると棗先輩が話しかけてきた。
「すまないな。」
「…ん?何がですか?」
「…本当なら私が鈴木の鍛錬メニューを考えなければいけないのに、ほとんど夏凜と若葉に任せっきりになってしまった。」
「えっいや…え?」
「私は償うためにお前の申し出を受けた。だから私は…」
「……」
ええと…先輩は何でそんなに思い詰めてんの?あれ、これそんなに重い話だったか。何なの、棗先輩はシリアス大好きなの?シリアスな空気にしないと死んじゃうの?俺に関わってなかったら放っておくのに…
「あのですね棗先輩。不本意ですが俺はこれから大なり小なり怪我しますから、一々気にしてても仕方ありませんよ。」
「…それでもお前は痛がっていた。」
「そりゃあ痛いですよ、怪我をしたんですから。昨日なんて寝る前に背中の痣に塗り薬塗ったせいで塗った部分がヒリヒリしてあんまり眠れませんでしたし。」
「……」
「でも、」
「?」
「俺は棗先輩に命を救われました。だから感謝こそすれ責めることなんてしませんよ。」
「そう、か……」
んん…あともう一押しと言ったところか?さてどうしよう…ああ、ヤバい。火照ってた身体が冷め始めたせいで途端に睡魔が襲ってきた。早く考えないとこのままだと眠ってしまいそうだ。頑張れ、頑張れ俺!
「そういえば俺のために練習メニューを色々と考えてくれていたんですね。」
「ああ、だがそれも夏凜と若葉が…」
「何言ってるんですか。棗先輩俺なんかのために考えてくれた、その過程が嬉しいんですよ。」
「そんなものか…」
「そんなものです。それにさっきもキツくて息切れして正直途中でやめたくなりましたが、夏凜と若葉、それと棗先輩と一緒に走れて楽しかったです。棗先輩はどうでした?」
「私は……うん、私も楽しかった。」
「そうですか…ならこれからもお願いしてもいいですか?」
「…私でいいのか?」
「はい、俺は棗先輩にお願いしたいんです。」
「…ああ、わかった。お前がサボらないよう、しっかり監視させてもらう。」
「アハハ…お手柔らかに。」
なんかとても恥ずかしい事を言っていた気がしないでもないが、眠くてそれどころじゃない。まあ棗先輩も笑顔になってるみたいだし大丈夫だろ。さて夏凜と若葉には悪いが少し寝よう。それじゃあ、おやすm…
トンッ
…何故か急に右肩が重くなった。何だろう走っている時に腕を振りすぎたかな?後で湿布貼らないトナーアハハ……現実逃避はここまでにしよう。
「あの、棗先輩?」
「……ああ、すまん。昨日は私に出来ることを考えていてあまり眠れなかったんだ。」
「へ、へえ…」
やばい…ッ!何がやばいって目と鼻の先に棗先輩の頭が…あっ、綺麗な髪だな…いや何じっくり観察してるんだよ俺は!一旦落ち着け俺、深呼吸をするんだ。スー…ああいい匂い、仄かに潮の香りも…って違うだろ!何じっくり匂い嗅いでるんだよ!これじゃあまるで俺が変態みたいじゃないか!
「…なあ、鈴木。」
「え、あ、はい。なななんでせうか?」
こちらがパニックに陥っていると知ってか知らずか棗先輩が話しかけてくる。肩に頭を乗せたまま。何だろう肩に頭乗せながら話されるととてもこそばゆい。
「……俺なんかなんて言うな。」
「……」
「お前は私達の仲間なのだから。」
「 。」
「…スースー」
どうやら眠ってしまったようだ。全くこの先輩は人の肩で気持ち良さそうに寝おって。はあ…
「……もう少し頑張るか。」
この後夏凜と若葉の訓練が終わるまで練習メニューに目を通すのであった。
【おまけ】
「なあ鈴木。」
「何ですか棗先輩。」
「…お前は海が好きか?」
「海ですか?」
「ああ。」
「…まあ嫌いじゃないです。」
「…そうか。」
「はい。」
「……」
「……」
「鈴木。」
「は、はい。」
「今日、暇か?」
「は、はい暇です、はい。」
「そうか、なら鈴木に海の素晴らしさを教えたいと思う。」
「は、はい……え?」
「それじゃあ、また後で。」
「え、ええ?は、はい。」
スタスタ
「……これってデートのお誘い?」
その後ガッツポーズをしながら校庭を駆け回る男子生徒が目撃されたのは別の話。