【悲報】この世界には魔法がない   作:すもも子

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「白雪姫」って呼ぶ魔法使いさんが見たかった。
あと魔法がない中世欧州ファンタジー世界に魔法使いさんをぶっこんでみたかった。
反省も後悔もしていない。
※オリ主の性別は決めてないです。
※捏造キャラ出ます。


第1話

 

 ここが『赤髪の白雪姫』という中世欧州ファンタジー系少女漫画の世界じゃねと気づいたのは、空腹で行き倒れていたところを主人公ちゃん(小)に助けられてからだった。

 そこ、クソだせえとか言わない。自覚してるから。

 シチュエーションが謎って?説明するから待って。

 

 

 

 自分はタンバルンどころかクラリネスでもないどっかの国のスラム街で目を覚ました。

 姿形も見慣れた自分自身のものだったし、コタツでぬくぬく寝落ちした記憶があったのでたぶんトリップ的なアレだったんだろう。アレだよ、次元の狭間に落っこちた的な。知らんけど。

 知らない世界に来たと直感してからの記憶は曖昧だ。社会経験もろくにないし専門知識があるわけでもないのに現代日本から気づけばよく分からん場所で地面とキスしていたのだから、まあお察し案件である。

 

 意識がハッキリしだしたのは奥深い森で人と関わらなくなってから。

 自分が自分でないようなフワフワした心地が段々薄くなり、ボロ小屋の横で魔法を使って火を起こしていたら完全に覚醒した、のだと思う。

 

 そう、魔法である。

 

 な、何を言っているかわからねーと思うが以下略。

 本気で分からない。科学的に説明されるような法則を完全に無視した、単なるイメージだけで魔法というべきアレコレが使えてしまった。白目剥いた。

 スラム街でも記憶が曖昧な期間においてでも、魔法なんて存在はなかったはずなのに。

 恐る恐る漫画やゲームで得たうろ覚えな魔法をとにかく使おうとしてみたら、だ。

 風を操ったり火を起こしたり水を浮かせたり凍らせたり、植物を生やしたり枯らしたりダイヤモンドを錬金したり、変身したり素手で木を斬ったり影に潜ったり天候を操ったり(「あっ操れる」と思ったところで止めた)、とりあえず想像したことがすべてできてしまった。白目剥くどころか気絶したくなった。

 端的に言ってやばいとしか言えない。ヤバみが深みでまっことつらみ。自分で自分が恐ろしすぎた。

 ほぼノーモーションで魔法もどきが使えるなど、神にでもなったのだろうか。尋常じゃない冷や汗と限界まで走った後みたいな心臓の鼓動、そして腹痛がなければたぶん神だった。ついでに腹痛は治癒魔法的な何かで治せた。

 魔法の発動に必要なそれっぽい魔法陣すら出ない。いや、魔法陣出ろとおもったら空中にそれっぽい魔法陣が出た。出した張本人ですら意味が分からないのでたぶん見掛け倒しのハッタリ魔法陣である。

 誰かが作った術式ならまだ安心できたのに。そう思う自分はやはり小心者で神ではない。

 とりあえずその辺の木の棒を魔法の杖っぽく加工して、指向性を持たせ魔力を適切に調整する的な役割を担わせたら多少魔法の規模&威力はマシになった。

 

 ゆえに、引きこもろうと決意した。最初は。

 だって自分で自分が怖いもん。死にたくはないから自殺はしないが、イメージで使えてしまう魔法もどきが恐ろしすぎる。こんな大層な力は望んじゃいない。

 そんなこんなで、魔法という超絶便利なツールを必要最低限用いて森に引きこもること幾星霜。

 

 時間感覚が曖昧になってきた頃、己の人間性が欠如していくことに気づき、やはり街に出た方がいいと思い直した。

 やー他人が怖いくせに人と関わらなきゃ精神崩壊みたいなルート一直線なのホント草。わろえないけど。まあ精神いじくる魔法を使えばいいんだろうけど、生理的な嫌悪感みたいな、倫理的に無理的な心情があったので選択肢を削除しました。自分はまだちゃんと人間です。

 

 増えた独り言のおかげで声帯は問題なく機能するが、表情筋がガチで固くなっていたので解しつつ適当に歩きすすめる。

 

 

 

 

 そうして、ペース考えずに気合で歩き続けた挙げ句お腹が減って動けないポンコツを晒していたところ、フード付きの服を着た赤髪の少女が話しかけてきたのだ。

 場所は森の出口近く。地面に倒れローブに包まれ布饅頭と化して動かない自分を心配してくれたのだろう。

 天使かと思った。おまわりさんこっちです。

 

「大丈夫ですか?!」

 

 大丈夫です。腹が減ってるだけです。

 

「え?」

 

 ……おなかすいただけですぅ!

 

「……い、今おじいちゃん呼んできます!待っててください!」

 

 

 どこかへ駆けていく少女。持ってきたのであろう薬草辞典が自分のすぐ近くに放置されている。

 

 近くに少女が居たから身動きがとれなかったのであって、人さえ居なければ適当に浮いて森に戻り食料を調達するのだが。

 ……顔も見えない怪しい奴を心配して駆け寄り、自分の持ち物を忘れてまで大人を呼びに行ってくれた少女に「もう少し警戒心を持ちなさい」と言いたく思ったので、大人しく倒れておくことにした。

 断じて少女の優しさが日陰者に染みたわけではないぞ。記憶があやふやな頃を除いたら第一な異世界人との会話に感動したわけではないんだからな。……ウソです感動に打ち震えていました。

 

 

 少女が呼んできた男性は中々にムキムキなダンディおじ様だった。アジア人からしたら西洋の方は大体イケメンに見えるエフェクトがかかっているけれど、なんかこう勢いがあって気持ちのいいおじさんだった。少女の祖父らしいが、全然爺って感じじゃない。

 

「おじいちゃん、この人!」

「分かった分かった。おうい、生きてるかアンタ」

 

 生きてます。

 

「立てるか?肩貸すぞ」

 

 申し訳ない。

 

「ハッハッハ、このくらいかまわんさ。で、腹減ってるって聞いたんだが、うちで飯食ってくか?」

 

 自分金ないんですが。

 

「ふむ……じゃああとで働いて返してもらおうかな!」

 

 神かよ。

 

「そう言われたのは初めてだなぁ!」

 

 少女に心配されつつ肩を貸してもらって、近所の方からかけられる声に萎縮しつつしばらく歩いた先は酒場だった。

 ご夫婦で経営しているらしい。今は仕込み中だったとのこと。お邪魔して申し訳ないと言いつつ、店の椅子に座らされた。

 お言葉に甘えて料理が来るまで少しお話をした。

 少女は暇ができるたび、薬草辞典を片手に近隣の森を散歩するらしい。純粋にすごいなと思った。酒場のお手伝いもちゃんとする良い子のようだ。圧倒的光属性に浄化されそうだった。

 

 少女のおばあちゃん(肝っ玉母さん感でいっぱいだった)に介抱されつつスープに浸した柔らかいパンを食べる。

 

 本音を言えばあまり美味しくはなかった。

 自分は日本人らしく舌が肥えていたし、急拵えで悪いがと注釈もつけられていた。

 

 それでも、食べながら泣いた。エグエグ泣いた。

 ずっと着てるボロボロのローブで目元を擦ろうとすれば少女がキレイなタオルを貸してくれた。

 さらに泣いた。

 「何があったか知らんが、飯食って泣けるなら上出来だ」とお爺様が快活に笑った。

 さらに泣いた。

 「ベッドはそれでいいね。飯代分は働いてもらうから、覚悟するんだよ?」と茶目っ気たっぷりにお婆様が笑った。

 さらに泣いた。なんなん見ず知らずの薄汚い輩に優しすぎじゃろ。

 

「私、白雪って言います。あなたの名前は?」

 

 とりあえず下の名前だけを答えて、スンッ……と真顔になった。

 

 目の前の少女は赤髪である。

 赤い髪の白雪という名の少女。

 薬草辞典。

 酒場経営者の祖父母。

 

 まさかまさかまさかと思考する頭を抑えるように額に手を当て、ここは何という国ですかと聞いてみる。

 

「アンタ知らずに来たのかい?ここはタンバルンだよ」

 

 ……ラジ王子?

 

「おう。知ってるじゃねえか」

 

 ……隣国は、クラリネス?

 

「うん」

 

 満場一致で肯定されて、めのまえが まっしろに なった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い髪を珍しがったこの国の第一王子に求婚されたので国を出る準備をしていたとき、チリンと軽い鈴音がした。

 

「や。久しぶり」

 

 フードを深く被った人影が、気配もなくいつの間にか室内に居る。

 鈴音は、今から来ますよという合図だ。

 魔法使いだというこの人はいつも何かしらこうやって直接側に現れるので、毎回毎回驚くからせめて鈴音を鳴らしてほしいと言ったことを、こうして律儀に守ってくれている。

 

「久しぶりっていうほどかな」

「さあ?とりあえず白雪姫が王子に求婚されたって聞いて、ちょっと急いで飛んできた」

「姫じゃないしなるつもりもない。心配ありがとう」

「白雪といったら姫ですぅー……今は洒落にならんか、すまん。そしてどいたま」

 

 この人は私のことをいつも「白雪姫」と呼ぶ。

 私が「姫じゃない」と返すまでがワンセットだ。

 まあ、第一王子から妾にされそうになってる今は本気で洒落にならないのだけれど。

 

 

 

 

 よく通っていた森で行き倒れていたところを拾ったこと人は、なんだか最初から不思議な人物だった。

 ボロボロのローブを羽織っているのに下の服は上等なもの。働いたことのないような白い手。完璧ってわけではないけれど、最低限以上に身についていたらしい綺麗な所作。余り物のスープに浸したパンを食べて号泣して、ここはどこだと聞いた様。

 今は亡き祖父母は、どこかの貴族だったのではないかと推測していた。

 結局ずっと本人から過去を聞くことのないまま、出会ってからもう十年の付き合いになる。

 

「荷造りしてるっぽいけど、家出するの?」

「そのつもり」

 

 フードの隙間から、口元がへにょりと曲がったのが見える。

 

「なんとかしようか」

 

 ほら、くると思った。

 

 祖父母が褒めてくれた赤い髪を理由にからかわれたときは、相手が鳥に糞をかけられたり変なところで迷子になったりしていた。仕返しなんてしなくていいから!と言っても「なんのこと?」と知らんぷり。いたずらっ子と言えば可愛いけれど、魔法使いさんは魔法が使えるのだから、ちょっとだけ困る。

 私のことを気に入っているらしい魔法使いさんは、何かにつけて味方になってくれるのだ。

 今回だってこうして、遠くに居たはずなのに心配して来てくれたし、第一王子からの求婚という冗談キツい話をなんとかしようかと提案してくれた。

 だからこそせめて洒落の範囲で収めなければならない。

 

 ボロボロの猫の傷を暖かな光で癒やす様子を目撃してしまった私に、この人は「実は魔法使いなんだ」って、あっけらかんと話してくれた。

 魔法使いは存在したんだ!

 今よりずっと子どもの私は、そう無邪気にはしゃいだことを覚えている。

 でも、数年前にふと疑問に思ったんだ。

 この人は一体、どれくらいの魔法が使えるのだろう?

 どれくらいの、というのは規模や威力、時間諸々全て引っくるめたアバウトな聞き方だろうけれど、私は疑問ををそのままぶつけてしまった。

 一拍置いて、いつもフードや髪に隠れている目が何故か私と合う。

 

『なんでも、かな』

 

 底の知れなさを思わせる真っ暗な目が、とても恐ろしかった。ゾッとした。冷や汗をかいた。

 次の瞬間「何、自分に興味持ってくれたの?思春期か?お?」と軽いノリで絡んできてくれなければ、私はこの人から逃げていたかもしれない。

 

 

 

 基本優しくて、ノリが軽くて、律儀なところもあって、ちょっぴり得体のしれない人。

 

 成り行きでうちの酒場で働き、今ではこっそり魔法(という名のズルだとこの人は言う)を用い巡業手品師として生計を立てているこの人への印象は、こんなところだ。

 ついでに言っておくと、この人は年をとっている感じがしない。

 

 

 

「うーん、あなたの❝なんとかする❞はちょっと怖いから遠慮しようかな」

「そ?……魔法の出番が欲しかったらいつでもいってくれよー」

「ありがとう、魔法使いさん」

 

 魔法使いさん。

 そう言うと目に見えて機嫌が良くなった。魔法使いであることを吹聴しないのは色々と面倒事を避けるためだと言うけれど、魔法使いさんと呼ばれるのは好きらしい。

 手品師としての芸名も『魔法使いさん』だ。まんまだなあと思った。

 

「亡命するならこの森からがいいよ」

「本当?」

「ホントホント。魔法使いさんウソつかない。もうちょっとしてから行けば暗くなる頃には空き家にたどり着くだろう。そこで休みな」

「分かった」

 

 ローブの内側、どこからか出した地図を指し示す。

 予め私が行くつもりだった場所とあまり変わらなかったので、採用しようかな。

 

「兵士が来たらアレだし、国境までは送ってくよ」

「えっ、いや、そこまでしてもらわなくても」

「いいからいいから。じゃ、準備できたら呼んでね」

 

 鈴が鳴って、姿がかき消える。

 たぶん心配の現れだろうこの強引さは久しぶりだ。

 そこまでしてもらわなくてもいいという気持ちは本当だけれど、魔法使いさんが付いてきてくれると思うと少し安心するのも本音。

 お言葉に甘えるしかなさそうだ。

 

「よし」

 

 深呼吸をして束ねていた髪を切り、魔法使いさんと合流して家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃい」

「いってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チリン、と鈴が鳴る。

 

「や。久しぶり」

 

 ❝山の獅子❞の中心も中心、大将たる武風の執務室にローブを深く被った人物が気配もなく下り立った。

 

「おう、久しぶりだな。手品師の巡業はうまくいってんのか?」

 

 武風の対応も慣れたものだ。

 

「この魔法使いさんに何言ってんだ。此処でしばらくやったらクラリネスへ行くつもり」

「さすがだな」

「もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「お前はすごい!さすが皆を喜ばせる魔法使いだ!よくやってる!」

「ヒョエ……浄化される……」

 

 初めて会った頃から姿形が変わっていないだろうと思われる魔法使いの頭をローブ越しにわしゃわしゃと撫でてやると、本気で照れている様子がわかる。

 子ども扱いされることに慣れていないのだろう。

 それでも武風にとっては、十年以上の付き合いになる可愛い子どもである。

 魔法使いを名乗るそれが、たとえ人の理を外れたものであろうとも。

 

 

 

「そーいや白雪姫さー」

「お前さんまだ姫呼びしてんのか……」

 

 よれた服を直しながら、話題をそらすように魔法使いが口にしたのは武風の実の娘のことだった。

 死んだことになっているためそう易々とは会いに行けず、どんどん自立していく娘のことを赤の他人のはずの魔法使いから聞くことは常である。元々娘をきっかけにこうして交流を深めたのだから、当然のことではあるが。

 

 

 

 

 

「ついさっき国を出たよ」

 

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とりあえずラクスド砦で
「ここには恐ろしい魔物が!」
って言われて
「魔物…」←脳裏にテヘペロしてる魔法使いさんが過る

そんなシーンが書きたかった。
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