【悲報】この世界には魔法がない   作:すもも子

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とても短いし進んでいるわけではない。
時系列的にはまだ単行本1巻。



第2話

 

 

 チリン。

 雑音の多い酒場だからこそ、かすかな鈴の音が彼にだけ届くよう調節する。

 

「や。久しぶり」

 

 なんとなく転移後の決まり文句になってきた一言を告げ、先に始めていた彼と同じテーブルにつく。

 周囲からの注目を浴びないよう認識阻害的な結界を張り、突っ伏してから思いの丈を叫んだ。

 

「白雪姫がイケメンすぎてつらい!!!!!」

「あ、店員さん酒お代わりください」

 

 外から内への干渉を阻害しているだけなので、内から外に声をかけたら普通に届く。それを勝手知ったるこの男、巳早は悶える自分を無視してどんどん注文を進めている。畜生慣れきってやがる。

 人の奢りだからって高いものから頼む、お前ホントそういうとこだぞって。いや別にいいけど。強欲でいいと思うけど。

 

「畜生他人事だと思いやがって……」

「まあ他人事だからな」

「せやな!!!!!」

 

 せやな。

 それでも一応話は聞いてくれるらしい。巳早から話を続けてくれた。

 

「白雪姫白雪姫って、よくもまあそんなに入れ込めるもんだ」

「尊いからね。しょうがないね」

「キモい」

「まあ白雪姫国出ちゃったけど」

「へー。店員さんこれと同じの一つ追加で」

 

 何かしらの仕事終わりだっただろう巳早を手紙で酒場に集合かけたのは自分である。

 奢りって言っとけばほぼ確実に来てくれるから、知り合って以降こうしてお喋りに付き合ってもらっているのだ。キャバクラ風カウンセリング的なノリで。お喋りするならそりゃ可愛い女の子の方がよかったけどコミュ障にはハードルが高かった。

 その点稼ぎたがりの野心家たる巳早に出会ったのは運が良かったのかもしれない。

 近所のちびっこたちに手品と称した魔法をこっそり披露してたのを偶然見られて、「手品で稼ぐ気はないか」と声をかけられたのだ。そう、自分に手品師の道を提示したのは、何を隠そう巳早である。

 おもしろそうだったので話に乗り、暫くの間自分がパフォーマンスをして、巳早が役所への届け出とか公演依頼とか知名度アップとか諸々を担当していた。パトロンみたいなものかなと思っていた。

 そして、最初は良かったのだけれど、魔法使いたる自分はそれほど目立つ気がなかったので、方向性の違い?的なあれそれで結局コンビを解消した。

 巳早は自分という金の成る木を思いの外アッサリ手放した。あまりしつこくするのは得策じゃないと思ったらしい。いざとなれば魔法使ってやろうと思っていたので、察しが良いですな。現代日本で株やっても大丈夫なんじゃね?たまにポカしそうだけど。

 さらっと聞いたが巳早は没落貴族らしく、あれこれ失ったからこそ稼げるもの使って稼ぐのが今の信条のようだ。財はいくらあっても困らないもんね、基本は。でも人間的に屑で下衆で下劣というべきところまでは堕ちきっていないと思われる。

 そういうところが好印象なのである。

 白雪姫以外で最初に長く付き合ってきた男なので関係を終わらせるのが少し勿体なく思い、今でもこうして酒と食事を理由に駄弁ってもらっている。

 これ友達っぽくね?向こうがどう思ってるか知らんけど。コミュ障にしてはがんばってるんだよ。

 ……嫌われてはいない、はずだ。

 あっ泣きたくなってきた。

 

「そう、そんで相談なんだけどさあ」

 

 まあそれは置いといて本題に入ろう。

 

「んだよ」

「白雪姫はこれから結構危ない目に合うんだが、手助けするべきかなあどうだろう」

「……未来予知もできんの?」

「化物見る目やめて???泣くぞ???いい年した魔法使いさん泣くぞ???」

「えっむしろ化物じゃないつもりだったのかお前」

「泣いた」

 

 ナチュラルな化物扱い!ひどい!でも否定できない!

 

「もー!それは置いといて!」

「危ない目って具体的には?」

「……たまに命の危機?」

「やべえな」

「でもさー、死ぬわけじゃあないと思われるんだよ。自分はほら、魔法使いさんだからさ、気づかれないように危険な芽を摘むとかできるわけだけど、それが本当に白雪姫のためになるかと言われたら微妙だし」

 

 呆れを含ませた巳早のジト目に気づかない振りをして話し続けてみた。

 

「自分が勝手に保護者気分で守りたがってるだけとも言えるし。白雪姫には王子様がいるし、騎士がつくし」

「過保護通り越してストーカー扱いされたくなかったら白雪姫離れした方がいいんじゃねえの」

「グハッ」

 

 ガラスのハートに正論がクリティカルヒット!

 

「少なくとも俺は嫌だね。保護者面した怪しい魔法使いがいつまでもくっついてくんのは」

「ガフッ」

 

 フルコンボだドン!

 

「……そうだよな……セコムもいきすぎたらダメだよな……」

「死ぬわけじゃねえならほっとけよ」

「でも白雪姫に手を出す輩はぶっ飛ばしたい……」

「じゃあ後で闇討ちするってのは?悪夢見せるとか。お前がやったってのがバレなきゃセーフだろ」

「……なるほど」

 

 彼らに介入せず、暗躍するということか。あくまで自分のために。

 ……魔法使いなんてイレギュラーもイレギュラーだけど、それくらいは許されるだろう。

 

「おし、王子や騎士の邪魔はせんようにしよ。馬に蹴られたくないし。そんで不貞の輩は白雪姫にバレないようにぶっ飛ばす」

「あっそ」

 

 我関せずとばかりに流す巳早。知ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金になりそうな赤髪の娘は結局使えなかった。

 なんなんだアイツ。普通拐われたらビビって動けなくなるもんじゃねえの?そこで優しくすれば落ちるかと思ってたんだが、まさか全力で抵抗されるとは思わなかった。

 しかも第二王子が騎士やってるし。マジでどういう繋がりだよ。

 勿体無いが、計画は諦めるしかなさそうだ。

 

 麓の役人に引き渡されて、暫く拘留されることになった。

 マトモに取っ捕まったのは初めてかもな。父や兄はどんな気分で牢に入ったのだろう。……やめやめ、んなの考える暇があるなら次の稼ぎについて思いを馳せた方が余程いい。

 ガリガリと頭をかいているとき、ふと引っかかったことがあった。

 

「……白雪?」

 

 赤髪の名前だ。第二王子には「気安く呼ぶな」みたいなことを言われたが。

 そう、そして、その名前は、あの化物が散々連呼しているものと一致しないだろうか?

 

「……………………白雪姫?」

 

 

 

 

 

 チリン。

 

 

 

 

 

「や。久しぶり」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分で言った言葉には責任を持とうね」

 

「お前が言ってた白雪姫って赤髪かよ!言えよ!聞いてたら手出しなんざしなかったよ!」

「ほんとにござるかぁ?」

「……」

「そこで即答できないところが巳早だなって」

「いやっ、お前に喧嘩売るとか命知らずなことはしねえぞ?!ていうか赤髪が白雪姫……姫って柄かあれは!」

「白雪姫はイケメンだからね」

「飛んだお転婆娘だよ!あと第二王子って、あれか、前言ってた白雪姫の王子か?!ガチで王子なのかよ!」

「せやで。騎士もガチで騎士やで。まだ居ないけど」

「……クソっ、関わるんじゃなかった」

「……まあ、別に怒ってないしどんどん関わってくれていいよ」

「はぁ?どういう風の吹き回しだ、あんだけ過保護だったのに」

「お前は手段を選ばないけど、救いようのないゲスクズじゃないからね。むしろその貪欲さが羨ましいレベルだし。白雪姫は白雪姫だけど、自分は巳早のこともそれなりに気に入ってるんだぜ」

「……そうかよ」

「ひとの交友関係に口出ししないよ!大人でしょ!」

「普通じゃね?」

「ぐう正」

 

 

 

 

 




魔法使いさん
:原作介入はほぼしないことに決定。
マジでヤバくなるまでは手出ししない、白雪姫をおびやかした者は独断と偏見により個人的に復讐する腹積もり。
異変を察知されたら白雪姫は魔法使いさんの仕業だと気づくだろうし、王子勢に目をつけられるのも厄介そうだから、目立ったことはしない。
ストーリーテラー気分だが、要は人見知り拗らせて誰かと関わるのが怖い状態。
主人公ちゃんとは最初から関わってたし、巳早はそっちから近づいてきたので平気。武風さんに対してはがんばった。



巳早
:わりとちゃんと魔法使いさんに脅威を感じてる。
手品師として生計を立ててやったが、ガチの魔法使いであり魔法の底が知れなさ過ぎて本能的な恐怖を感じ、魔法使いさんで稼ぐのが限界だなって頃に離れた。
が、なんか気に入られてたまに飲みに誘われる。奢りだというので遠慮なく飲み食いする。
扱いさえ間違えなければ安全、という認識。
魔法使いさんにはどうやっても勝てないと確信して開き直ったとも言える。




白雪姫
:魔法使いさんは、近所の兄ちゃんという認識が近い。
神出鬼没なのでいずれどこかで会えるだろうと思っている。
魔法使いさんにそこまでビビっていない。
ぅゎ主人公っょぃ。




第二王子
:白雪の話に出てきた魔法使いさんとやらがちょっと気になる。
クラリネスでショーがあったら一回くらい見に行こうかな。タイミングが合えば。





主人公ちゃんが魔法使いさんと他の人たちとの関係を知るのは海の鉤爪とのアレコレが終わってから。
魔法使いさんは自分のことをあまり主人公ちゃんに話さないし、主人公ちゃんも聞かないから。


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