【悲報】この世界には魔法がない   作:すもも子

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評価、感想、誤字報告等ありがとうございます!ネタが尽きるまでちまちま書いてみます!



今回のメインは単行本6,7巻。
タンバルンでのあれこれには殆ど手出ししないつもりだった魔法使いさん。

※オリ主は原作をあまり覚えていません。千里眼もどきの魔法で現在と多少の未来は分かります。でも基本はあまり使いません。何故かって?便利すぎて怖いから。





第4話

 

 

 クラリネスは王都ウィスタルの港街で路上公演やってたら山の獅子メンツが居た件について。

 手品と称した魔法にいつも良いリアクションをくれる鹿月と、興味ない振りをしつつ種を暴こうとこっちを注視してくるイトヤがどうして山から下りてきているのだろう。

 フィナーレに景気よく鳩を飛ばし、お捻りを回収しているとあちらから話しかけてきた。まあ魔法使いさんは目立つよね。

 

「なあアンタ、いつもうちに来てる手品師だよな。今この辺回ってんの?」

「はい!そちらでのショーを最後にタンバルンを出まして、現在はウィスタル中心にクラリネスを巡業中ですよ」

 

 巳早相手なら「せやで」の一言で済ませるところだが、魔法使いさんのお客なので一応敬語を使っている。

 

「じゃあさ、クラリネスで赤い髪の女って噂になってない?うちのオヤジの娘らしいんだけど」

「タンバルンの愛妾騒ぎで有名になった赤髪だ」

 

 めっちゃ知ってますな!!!!!

 

「赤髪の白雪姫ですか、知ってますよ」

「マジ?!今どこに居るか分かる?!」

「えーウィスタル城近辺ですかね。第二王子と仲良くしてらっしゃるのを見たことがあります」

 

 ついこないだね!謎テンションのまま会っちゃってね!

 ……みたいなことを話したら二人共難しい顔して考え込んじゃった。

 なにゆえ。

 

「情報ありがとう、助かった。またうち来いよな!」

「……」

 

 そう言った鹿月と無言でお辞儀したイトヤはまた何処かへ行ってしまった。

 

「毎度ご贔屓にー」

 

 なんで探してるのか聞きそびれたな。とうとう武風が白雪姫に会う決断でもしたんだろうか。白雪姫が亡命したから?今更感あるけど。

 

 あっ直接聞きに行けばいいか。

 

 最近は転移より空中散歩がマイブームなので、周りから見られないように結界を張って飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の獅子の集落なう。

 室内に入るときだけはチリンと音を立てて転移する。なんかそれっぽいじゃんね。

 それから武風の背中に話しかけてみたんだが。

 

「なあ鹿月とイトヤがクラリネスに居たんだけど」

 

 

 

「鹿月とイトヤが今何処に居るって?」

 

 いたたたたたたた肩離して!魔法使いさんは貧弱なんだよ!

 えってか大将武風は知らなかったの?

 

「クラリネスだよ!ウィスタルの港街!あんたは知らなかったのかい」

「こないだから考え込んでると思えば、ちょっと出てきますの一言で暫く帰ってきていなくてな……」

「家出かな???」

「二人がそう言ってたのか?」

「いや違うけど。白雪姫を探しに、的なことは言ってたけど」

 

 首をかしげた自分の言葉に武風は目を丸くして、数秒後に「あー……」と言いながら頭をかいた。

 ふむ。困っているようだ。恥ずかしい?申し訳ない?心配?でも彼らの気持ちも理解る?そんな風に思案しているように思われる。

 

「なんとかしようか」

 

 すべてをなんとかできるだけのスペックがある、それが魔法使いさんです。

 

 ……それでも、本音を言うなら、チートなんか使いたくない。

 矛盾していると思うか?普段から魔法を多用しているように見えるからだろう。いや確かに使っている。だって便利だもの。皆が驚いて楽しんで笑ってくれるのが楽しいから、手品と称した魔法を使いたい。

 だが、言い訳染みたことを言うなら、いや実際言い訳なのだろうが、自分のそれと、この世界の誰かにとって都合のいいような魔法を使うのは、何かが違う気がするのだ。

 自分は散々白雪姫の味方をしておいて、その実この世界の誰かに対して大々的な魔法を使ったことはない。偶然を装った些細な悪戯、それが精一杯だった。だから白雪姫が国を出るとき、なんとかしてほしいと頼まれなかったことに、実は内心で安堵したのだ。

 だって、この世界には魔法がないじゃないか。

 魔法がないのだから、魔法使いさんがこの世界の住人に口出しするのは、お門違いではないかと思うのだ。

 とかなんとか言っておいて魔法に慣れた自分は気軽に魔法を使おうとするから、やはり自分は凡人だ。すぐ楽な方向に逃げる。つまりは不相応な力を手に入れただけの凡人でしかなかった。

 

「いや、これは俺らの問題だから大丈夫だ」

「そうかい」

 

 断ってくれてありがとう、なんて言う資格はない。

 魔法などという夢のような力をちらつかせ、使ってもいいのだと甘い蜜を垂らしておきながら拒否されることを望むなど、傲慢が過ぎるだろう。

 全く。何様だ、自分は。

 

「心配ありがとよ、魔法使い」

「べべべ別に心配してるわけじゃないんだからね!!!あくまで自分のためなんだからね!!!勘違いしないでよね!!!」

「へーへー」

「あしらい方適当すぎない???」

 

 そうだ、自分のためだ。

 この世界の人々は魔法なんてないのが当たり前で、それでも懸命に強く美しく格好良く生きている。

 そんな彼らの前で、彼らのためを理由に魔法を使いたくないだけなのだろう。

 だって、惨めじゃないか。情けないじゃないか。みっともないじゃないか。

 自分はチートだ。きっとなんだって思い通りになる。訳もわからず得たこの力を自分は手放せない。この世界には魔法がないのに。使えるから、便利だから、何かあったら困るから、色んな言い訳を並べ立てて今日も自分のために魔法を使う。

 

 頭の、どこか冷静な部分が、愚かだなと自嘲する。

 

「なにかあったら呼んでくれていいんだぜ?」

「そうさなぁ……どうしてもヤバくなったら頼らせてもらおうか」

「!」

 

 そう言ってくれる武風は、もうずっとよくしてくれている。

 白雪姫だって素敵に育った。王子様も、騎士も、側近さんも、魔法使いさんが出る幕もなく格好良い。

 この優しい世界が、眩しくて仕方がない。

 

「そうだろうそうだろう!この魔法使いさんが必要だろう!まかせろーばりばりー!」

 

 つまるところ、魔法使いさんは要らないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから暫く後。

 鹿月とイトヤがタンバルンに戻り、それを追うようにして第二王子御一行がクラリネスからタンバルンへ全速力で駆けているとき、その中に巳早の姿を見つけたので追いかけていると夜営に入った。

 ついでに言うとさっき鹿月たちが白雪姫をGETしたのが分かった。

 御一行に混じり、端の方で一人火の番をする巳早に鈴を鳴らして近づく。

 

「最近ナーバスになりがちだから慰めて」

「……こんなときに何なんだ、今の状況分かって……んだろうなお前のことだから」

「さっき白雪姫拉致られたよ」

「…………なんで!それを!ここで!俺に!言ってくれちゃってんだテメェはぁ!」

「巳早くらいにしか言えないじゃん?部外者同士仲良くしようず」

 

 あ"あ"あ"あ"あ"あ"と苦悩を滲ませた声を上げながら頭を抱える巳早。かわいそう。

 側近方にも見える位置に怪しげなローブ野郎が居るのに気づかない様子を見て、巳早は幻覚魔法の存在に気づいてくれたらしい。釈然としないような顔で質問をしてくる。

 

「てか、あの野良猫顔はどうしたんだよ。護衛のはずだろ?」

「実力的には同等かちょい上だったっぽいけど、一瞬の隙を突かれてたね」

「だっせ」

 

 てか夜会に侵入するために入ったベランダがドンピシャで白雪姫の部屋に繋がってるってどういう確率?美少年は神にすら愛されてるの?

 

「……これからどうすんだ魔法使い」

「それな」

 

 マジでどうしよう。

 

「暗躍でもしようかな」

「お前が暗躍するって思ったら一気にやる気なくした。帰りてえ」

「じゃあしない」

「おい」

「だって骨折り損のくたびれ儲けさせるのは申し訳ないし」

 

 まあ確かに?自分はスーパーチートな魔法使いさんですから?そんな自分が暗躍してるって知ってたら途端に危険が危険じゃなくなるし?「どうせ魔法使いがなんとかするから大丈夫」みたいな気持ちになるのも分からなくもないけど。

 前は自分の暗躍を推奨してくれてたけど、巳早的には当事者じゃないつもりだったもんね。今がっつり当事者だしね。鹿月とイトヤの顔を知ってるってだけで隣国くんだりまで出張させられたもんね。

 自分は巳早に報われてほしくないわけじゃないんだよ。

 

「うん…うん。じゃ、がんばれ」

「は?」

 

 三十六計逃げるに如かず。

 

 巳早のリアクションを待たず、魔法使いさんは転移して逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッピーエンドまでを順調に見届けた。

 

「やっぱこれ魔法使いさん要らないね???」

 

 何たる無様な……魔法使いさんが必要ないことが証明されてしまった!

 所々危なかったけれど、結局魔法使いさんの出る幕はなかった。皆みんな格好良すぎて出るタイミングが無かったとも言える。

 どーせヘタレでチキンでコミュ障な魔法使いさんですよ。泣きそう。

 

 いや、まあ、分かってたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーぉ魔法使い。遅かったな、宴は終わっちまったぞ」

「なんだよー離せよー縮むだろー」

 

 海の鉤爪が落ちた祝いの夜から一夜明け、白雪を含む第二王子御一行が帰路についた。

 これからまた山の獅子としての日常が戻ってくる、そんな平和な空気の中いつものように現れた魔法使いの頭を武風はしっかと掴む。

 

「魔法使いさんが嫌いになったかな」

 

 武風の手を軽く掴み、ふざけるように揺らしていた体を魔法使いは止めた。

 魔法使いの目がフード越しに武風を捉えていることが分かる。

 

「軽蔑する?侮蔑する?何故助けなかったと怒る?それは見当違いだよ武風。この世界には魔法がないのに、魔法使いさんがあれやこれやと手出しするわけにはいかないじゃないか」

 

 武風は口をつぐみ、魔法使いの言葉を促す。

 

「魔法使いさんが居なくても大丈夫だったじゃないか」

 

 声色はいつもと同じ。表情は今までだって見たことがないから、魔法使いが何を考えているかなんて知る由もない。

 

 それでも武風は、人ならざる力を、それも神のごとき尋常ならざる力を持つ魔法使いは、ずっと人との関わりを恐れてきたように見えていたから。

 

「なあ知ってるか。お前、気まずくなると口数が増えるんだぞ」

「うぇっ」

 

 武風はそれこそ見当違いなことを言う魔法使いを茶化す。

 

「俺はお前に対して怒ってねえし当たるつもりもねえ。お前に協力するなと言ったのは俺だしよ」

「そうだね」

「だから、まあ、なんだ。我慢してくれてありがとうな」

 

 ローブに隠れてわずかに見える口元が半開きのまま停止した。

 目を丸くしているだろう魔法使いに言い聞かせるようにして、武風は本心を口にする。

 

「お前がなんとかしてくれなかったから、俺ら自身の手でアイツらを終わらせることができた。礼を言う」

 

 呆然。

 それから憮然たる面持ちであろう魔法使いは一歩下がり、首を緩く振った。

 

「違う。なんで礼を言う。魔法使いさんなんて居なくても同じだったんだ。そうだろう」

「少なくとも俺はお前が居てよかったと思うぞ?なにせ種も仕掛けもない手品師だ。またうちでもショーやってくれよ」

 

 ちびどもがいつも楽しみにしてんだ、と言いながらニカッと笑いかければ、暫く硬直していた魔法使いは何事かを呟いて転移してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これだから白雪姫の父親は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




魔法使いさん
:圧倒的光属性や善性の固まりのようなヒトと接すると劣等感が刺激されるので相性が悪い。が、決して嫌いになれないし相性の悪い自分が嫌になる。
良くも悪くも凡人。なまじ力を得てしまったので厄介である。
それでいて主人公たちのような、美しくて確かな人との繋がりが羨ましくて仕方がない。


巳早
:魔法使いの野郎何しに来たんだ。
魔法使いさんを警戒しつつ、原作通り無事爵位をGETできたやや不憫枠。その不憫さを上回る野心が売り。
基本悪者ではないが、良い奴ってだけでもないから魔法使いに比較的懐かれてる(無意識)。


武風
:居なくてもよかったなんて、存在を軽んじるようなことを言ってくれるな。
大将やってるだけあって懐が深く、清濁合わせ持てるだろうけれど根っこは圧倒的光属性。




以下、ちらちらみんなの様子を伺っていた魔法使いさんがちょっと遊び心を発揮した没ネタ。


6巻末のおまけ頁を見た人なら知っているだろう、白雪と鹿月が取っ捕まってる海の鉤爪の本船への木々潜入作戦で食い下がったミツヒデのシーン。
「誰か女装したらいかがです」と進言した巳早だが、「髪が長いから地でいけるんじゃないか」みたいなことをゼンに言われた上「色も白いし服を着替えれば雰囲気でなんとかなるかもしれん。ちょっと儚げにしてみろ」という無茶ぶりに答える元貴族の巳早。

魔法使いさん「出番だねわかるとも!!!」

ゼンとオビの目の前に、魔法使いさんの悪ノリで女体化させられた巳早がーーーーー!







特に関係ありませんが作者の推しはオビです。



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