鉄血の変質者 作:報酬全額前払い
「ぴゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」
その日もまた、鉄血工造内部には凄まじい悲鳴が響いていた。
その悲鳴を出している鉄血の上級人形のデストロイヤーは、その見た目に相応しいガチ泣き顔と、その見た目に相応しくない速度のダッシュというアンバランスさで、何か恐ろしいものから逃げようとしている。
「くっ、来るな変質者!なんであたしにばっかり構うのよーーっ!!」
走りながら背後を振り返ってみても誰の姿も見えない。一見すればデストロイヤーが何でガチ泣きしながら走っているのか分からないくらいだ。
が、油断してはいけない。あいつが本気を出した時は決まってこうだという事をデストロイヤーは知っている。
レーダーや監視カメラに映らず、目でも捉えられない。それがデストロイヤーを追いかけている奴の特殊能力。
だからもしかしたら、気付けないだけで実は真正面に立っているのかも──
「──っ、そんな訳ないじゃない。まさか、そんな」
言い聞かせるように呟く。足音が聞こえない事から、どうやらバカ正直に追ってきていないらしい事は分かっているのだが、それはまったく慰めにならない。
というかむしろヤバい。あんな待ち伏せの権化みたいな奴が追ってきてないなんて、どこかで待ち伏せしてますって言われてるようなものだ。
どうしたら助かるだろうか。上級人形が持つ超演算能力をフル稼働させて必死に思考を巡らせる。
「あら、どうしたのデストロイヤー。そんなダカダカと走りながら大声で喚き散らして」
「ドリーマー!」
そんなデストロイヤーに声をかけた人形がいる。眠そうな目をした、どこか気怠げな感じのドリーマーにデストロイヤーは駆け寄った。
「ちょっと聞いてよ!あいつ、あいつがまた、あたしを追いかけてくるの!」
「あいつ?……ああ、そう。だから?」
「あいつを追い払うの手伝ってよ。なんかこう、ガツンって感じで!」
デストロイヤーの言うあいつが誰なのかはドリーマーも分かっている。だけど面倒くさい。
「なんであたしが、あんたのために貴重な労力を使わなきゃいけないのよ」
「なんでって、いつも助けてくれるじゃない」
「それは仕事だからよ。なんでプライベートまで子守なんてする必要があるの?」
あっちへいけと言わんばかりに手をヒラヒラさせながらドリーマーは告げる。その言葉に、デストロイヤーは大きくショックを受けた。
「こ、こもっ……!?あんた、あたしをそんな風に思ってたの?!」
「だってそうでしょ?見た目も中身も子供じゃない」
「あ、あんたねぇ!あたしが気にしている事を!」
だから、そうやってすぐキレる所が子供なのよ。
ドリーマーは目の前でキレているデストロイヤーを見ながら内心で呟く。恐らく本気で怒っているであろうデストロイヤーだが、しかしその風貌のせいで全く恐ろしさを感じない。
その様子が面白いから少し放置していると、怒ることに疲れたらしいデストロイヤーがハッと周囲を見渡した。
「って、こんな事やってる場合じゃなかった!はやく逃げないと変質者に捕まっちゃう!」
「捕まりたくないの?」
「当たり前でしょ。だって捕まったら……その……」
言い淀んだデストロイヤーの表情が、百面相と呼べるくらいコロコロと表情が変わっていく。それだけでなく、もじもじしながら内股になってスカートの布を押し下げていた。
デストロイヤーは何を思い出しているのか、頬に僅かに朱色が灯った。
「何が不満なのよ。可愛がられてるじゃない」
「あんなの可愛がられてるって言わないわ、変質者があたしを使って欲望を満たしてるだけよ」
「でも、あなただって悦んでるでしょ。途中から凄くあんあん言ってるし」
「だ、だからそんなわけないって!」
あくまでも認めないデストロイヤーの相手をするのが嫌になったドリーマーは自分の部屋を指さした。ドアが開いていて部屋の中が丸見えだが、当のドリーマーはまるで気にしていないようだった。
「まあいいわ。そっちに逃げ込みなさい」
「助けてくれるの?ありがとうドリーマー!」
見た目通りに純粋なところがあるデストロイヤーは、ドリーマーを信じて疑わない。そうして急いでドリーマーの部屋に逃げ込むと、
「遅かったじゃないか……」
「へ、変質者!?」
何故か奴がいた。
変質者、またの名をストーカー。鉄血でも屈指のド変態であり、人形とレズる事に命を懸けるぶっ壊れた人形である。
既に多くの人形が一度は彼女の毒牙にかかっており、上司である代理人とすら隙あらばレズろうとする姿勢は、製造段階で頭のネジがトんだとしか思えない。そのまま首も飛んでいればよかったのに、と一部からは思われている。
そんな変質者が何故ここに、とデストロイヤーが固まっていると、ピピッと背後から無情な音がする。外部から扉にロックを掛けられたのだ。
「ああ、ごめんなさい。気付かない間に入り込まれてたみたい」
「あんたら絶対グルでしょ!!」
白々しいにも程があるドリーマーの誠意を感じない謝罪にデストロイヤーが踵を返してドアを壊す勢いと強さでぶっ叩くが、そこは質実剛健な鉄血製。上級人形のフルパワーでも壊れない頑丈なドアは簡単には破れない。
「昔話をしてあげる……」
「ひいっ!」
そして、そうこうしている間にも変質者がゆっくりねっとりと歩いて近寄ってくる。その気色悪さにデストロイヤーのタダでさえ悪い顔色が更に悪くなった。
「なんで逃げるの?好きでしょ、おとぎ話とか昔話」
「あんたのは意味分かんないのよ!しかも途中から、みょっ、妙な手つきでボディをまさぐったりしてくるし!」
ドアが破れない事を計算で理解してしまったデストロイヤーは、縮こまりながら子犬のようにふるふると震えだした。
その加虐心を煽る様子に興奮しながら、変質者は更に近づく。
「神様は人間を救いたいと思ってた。だから手を差し伸べた」
「それに侵入者と違ってレパートリーも少ないじゃない!それしか言えないの!?」
「ふへっ、ふへへへへ」
「聞きなさいよ!!」
欲望をボディの端から滲み出しながら、デストロイヤーの話を聞かずに手をワキワキさせている。
そして一歩、また一歩と近寄った。
「刺激的にやろうよ」
「嫌よ!」
「よいではないかーよいではないかー!」
「や、やめっきゃぁぁあああああああああ!?」
ドリーマーは百合の造花が咲き乱れるハッテン場と化した自室に背を向けてフラフラと歩き出した。
聞こえてくるデストロイヤーの悲鳴が段々と甘くなって、最後にふにゃふにゃになっていく時間を測定し、昨日のデータと比べてみると、0.5秒くらい堕ちるのが早くなっている。
「ボディは正直……なのね」
何気なしにそう言って、ハッと口に手を当てた。今のはあのド変態が口癖のように言っている言葉だ。まさか伝染ったのか。
「……寒気がしてきたわ」
このボディと電脳を破棄しようか本気で悩みながら、ドリーマーは鉄血工造の奥へと消えていった。
ちなみにヤられた後デストロイヤーは凄く拗ねたのだが、人間から略奪してきたお菓子でアッサリ機嫌が直ったのだった。
ちょろかわいいデストロイヤーを見て、変質者は更に身悶えていたのだとか。
さて、そんな変質者であるが、仕事をする時は至って真面目に仕事をこなす。
《それで、どうかしら?》
「エロいよね」
《はい?》
「拷問されてたスコーピオンの感想でしょ?私もすこすこスコーピオンしたい」
…………真面目に、こなす。
予想したのとは違う答えに、通信の相手であるスケアクロウは呆気に取られ、その顔が面白かったのか変質者はくつくつと笑った。
「冗談冗談。いや、すこすこスコーピオンしたいっていうのはマジだけど」
《そういうのいいから早くしてくださる?》
「はーい。で、情報が嘘か本当かだよね?」
《まさか本当の事を言ってなどいないでしょうけど。でも一応、貴女の見解を聞いておきたくて》
グリフィンと鉄血は敵対関係にある。だから尋問をしても本当の情報など教えられる筈がないという事は分かっていた。
しかし、もしかしたら何か有益な情報が混ざっているかもしれない。スケアクロウが聞きたいのは、自分が見逃してるかもしれないそういう情報だった。
送られてきたデータを確認しながら、スケアクロウが気を利かせて見せてくれている尋問後のスコーピオンを脳内フォルダに保存しながら言った。
「
《ちょっと?》
「おっと失礼、本心が漏れた。今から真面目にするからスコーピオン映して、お願いだから」
溢れる鼻血(っぽい擬似血液)を拭いもせずに懇願する。その姿が非常に気持ち悪く感じたスケアクロウが望み通りにスコーピオンを再び映すと、変質者は至福の表情を浮かべながら話を続けた。
「…………まず前提としてなんだけど、グリフィンの人形は完璧な嘘をつけない」
《断言するんですのね》
「断言するよ。理由は伏せるけどね」
《……まあいいですわ。仕事中の真面目な貴女を一応信じましょう》
「えっ?」
《なにか?》
普段の私も信じて欲しいなぁ。とは口に出さない。普段のセクハラ行為のせいで、信用されない事は自分でも分かっているからだった。
しかし、今の変質者の様子を見て、それでも信じる判断をしたスケアクロウの電脳は割りと本気で疑う。
困惑した変質者だが、しかし今はそんなことは重要じゃないと思い直した。
「……まあいいや。嘘のウェイトがどのくらいかは分からないけど、まあ最低でも一割くらいは本当の情報が混じってると思う」
《それを見分ける方法は?》
「尋問で引き出した情報を重ねて分析すれば出るでしょ。どこかしらに共通点がある筈だよ」
代理人から物理的に首を切られたりしない理由は、彼女が変に有能だからだ。
それは彼女が普段セクハラにしか使わない特殊能力もそうだが、こうしてアッサリと答えを導き出せる頭脳もその理由の一つだった。
どうやら変態と天才は両立できるらしい。いや、もしかすると変態だから天才になれるのかもしれない。
《…………なるほど。やってみますわ》
「頑張れー。あ、尋問の人手が必要なら私も混ぜて。3人で気持ちよくなろう」
《何があっても現場には呼ばないから安心してデストロイヤーを愛でていなさい》
「デストロイヤーはさっきまで愛でてたんだよねぇ……壊れちゃったけど」
《………………》
スケアクロウは、ほぼ間違いなくビクンビクンしながら他の人形に見せられない顔を晒しているであろうデストロイヤーに黙祷を捧げた。
どういう理由か鉄血の人形には人工の女性器などがデフォルトで装備されているが、性欲というものは存在しない。
とはいっても、それは快楽を感じないという事とはイコールで繋がらず、後から快楽を与える事で性欲を目覚めさせる事は可能であった。
だがそれは、あくまでも人間から快楽を与えられる事を想定されており、最初から性欲が存在する人形というのはイレギュラー。普通はありえない。
ちなみに、イレギュラーである変質者のお気に入りなデストロイヤーは毒牙に掛かりまくってしまったからなのか、普通に性欲を抱くようにAIまで改造されてしまっている。
「まあ頑張りなー。帰ってきたら強奪してきたお菓子でパーティーしよう」
《……ええ。楽しみにします》
その言葉を最後に、通信が切れた。聞こえなくなったスケアクロウの声と見えなくなったスコーピオンの姿に寂しさを感じながら、椅子から立ち上がった。
「AR小隊ねぇ……」
鉄血が何故か探している16Lab謹製のオンリーワンな戦術人形たちで構成された部隊。換えの効かない、人間のような人形たちの集まり。
物憂げに何かを考えた変質者は、思ったことを虚空に呟いた。
「…………性欲、あるのかな」
鉄血パーソナルファイル01:変質者
変質者と書いてストーカーとも読む。趣味はデストロイヤーをじっくりねっとりと追い回してから食べること。
彼女は特殊なステルス能力を持ち、発動中は機械類のセンサーやレーダーなどでは探知が出来ない。当然だが、所詮は機械である人形も探知不可能。目の前に立ってても気づかれない。変質者がデストロイヤーのストーカーになれる所以だが、機械にしか効果が無いので人間には無意味。
これだけだとチートだが、足音は消せないし影は見えるのでバレる時はアッサリバレる。そして何よりクッソエネルギーを使う(という設定)なので、ロクな装備も持てない。
主兵装はステルスと、ライフル並みの攻撃力を持つハンドガン二丁。リボハンと言って通じるかな?
ちなみに武器腕。中身は気分で変えてるけど大体スナライ。