広場での一件から2ヶ月後と少し。蒼兎はアインクラッドの最前線の攻略組にそれなりの頻度で参加していた。理由は転生者が攻略組に紛れていないかを確認するためである。
しかし参加した全てに転生者らしき能力を持った人物は居らず、現時点で第九層まで攻略までできているアインクラッド内全てを確認してきたがどのプレイヤーも転生者らしき能力をもった人物は居なかった。
ゲーム外に存在する可能性を考慮したが転生省で管理している上司がそんなミスをするとは思えないのでまだ活動していないと思われた。
「(だとしたら、今回の転生者は別に邪なことを考えてないんじゃないのか?)」
転生者の約半数が力を手に入れた全能感で序盤から主人公やヒロインに干渉する。殺害しての成り代わりやヒロインを奪おうとする行為などは最初期に行われるケースが殆どであるがなにかしらの計画をしてから行動する転生者も当然居る。
そして力を手に入れたとしても悪感情を抱かず、原作で犠牲になる人々を救うために四苦八苦する転生者もいる。
「(でも上司が指定するってことはやらかす奴がいるってことだしなぁ……)」
蒼兎の上司が指定した世界はどういう理屈か不明だが確実に犯罪行為に走る転生者が現れる。一種の予言のようなものだと蒼兎は考えているがその予言が今まで外れたことは無い。
確実に面倒な手合いがいることは間違えないが今回は計画的に動いていると予測できるためため息をついてしまう。
「はぁ………。」
粗方捜査を終えてしまい、やることが無くなってしまった蒼兎は仕方ないとゲーム内の依頼を受けることにした。最前線の攻略を形だけでも進めている蒼兎はその攻略に合った武器を持っていないと怪しまれてしまう。
実際に第八層ボス攻略の際、レベルに見合わないダメージを出ていたことでダメージボーナスを貰ってしまい不必要に周囲に目立ってしまっていた。
その為、ドロップ率が低いと言われるアイテムを採取しそれを武器屋の店主であるNPCに渡すと攻撃力がそこそこ高い武器を入手できるという依頼を受けていた。
「ここか…」
蒼兎がゲーム内で使用している武器は刀である。ソードアート・オンラインでは魔法が無い代わりにソードスキルというものが存在し、ゲーム内で武器を構えればシステムがそれを汲み取り、システムがアシストして様々な光跡を描いて自動的に剣戟を放つ。
体が勝手に動いて攻撃動作を行うため、その速度や威力は、通常時に武器を振るったときのものを上回り、その上、派手なライトエフェクトやサウンドエフェクトも発生し、使用者を大いに満足させてくれるものである。
蒼兎の場合は今までの戦闘経験からスキル無しでも十分であり、スキル使用直後の硬直時間やクールタイムが自身にとっては痛手なため、使用頻度は少ない。
ソードスキルにはエクストラスキルというものが存在し、その中には曲刀を振り続けていると入手できる刀スキルというものがある。単純に武器の好みが刀であった蒼兎は広場での一件のあとずっと曲刀を振って刀スキルを入手した。
依頼の物をドロップするモンスターを見つけ、刀を構える蒼兎。モンスターは短い角を持つ狼の群れ。プレイヤーを見つけたことで戦闘態勢になった狼達は蒼兎に1匹ずつ向かってくる。
「(一斉に向かってくるならともかく1匹ずつならまぁ……一斉でも纏めて切れるからいいが……)」
深く考えることも無く刀を舞うように振るい狼達を切っていく。レベル的に一撃で倒せるのも多くはないため切られたことで激昂する数匹の狼達。
「レベル制度ってやっぱり面倒だな……」
そんなことを呟きながら何事もなく狼のモンスターを全滅させた。それから約30分。無事に目的のアイテムをドロップし依頼主のNPCに届けに行く間、1人の青年が狼の群れに襲われていた。体力ゲージが残り六割になっており危なさを感じて逃げているようであった。
「………」
原作の流れに逆らわないと考えている蒼兎であるがやはり人死にはそれなりに少ない方がいいだろうとは思っている。すこし逡巡するもため息をつきながら青年の方へ向かった。
「あ、ありがとうございました!本当に死ぬかと思いました……!!」
青年を追いかけていた狼を5分足らずで全滅させた蒼兎。助けた青年は黒髪と黒い目をしており顔立ちもそこそこ整っていた。青年から礼を言われ曖昧に返す蒼兎。
「いえ、まぁ……危なそうだったので。」
用も済んだのでその場から離れようとする蒼兎。しかしそれを呼び止める青年。
「あっ!待って!お名前を伺ってもよろしいですか!?」
何も答えずに去れば付いてきそうな雰囲気を醸し出す青年。そんな青年の様子を見てついて来られるのも面倒だと思った蒼兎は自身のプレイヤーネームを答えた。
「……アオトです」
「アオトさんですね!覚えておきます!!」
「俺はトウマって言います!」
「この恩は忘れません!お礼は必ず!約束ですよ!!」
「………一応覚えておきます、機会があればまた。」
とりあえず名を告げて去る蒼兎。
「またお会いしましょうね!!」
トウマはそう言って蒼兎に手を振り続けた。
依頼を完了させ宿泊する宿にたどり着いた蒼兎。ゲーム内でも食事を摂れるが食に関心のない蒼兎はそのまま宿で睡眠をとることにした。
ゲーム内では睡眠も必要ないがずっと覚醒状態でも支障が出る。蒼兎は転生者狩りで睡眠を全くとらなずとも問題ないようにしているがやはり眠って起きた方が頭の回転はいい。
念の為に眠っている間に問題が起きないか仮面ライダーSCIPの能力で召喚したSCP-131アイポッドにゲーム内の巡回を任せ、蒼兎は眠りについた。
休息の眠りから目覚めた蒼兎。すでに蒼兎の元へ戻ってきていたアイポッド達から手早く情報を受け取る。その情報の中には次の階層につながるボス部屋を発見したという情報があった。
「(まさか見つけてきてくれるとは……)」
そんなことを思いながら見つけてきた赤いアイポッドを撫でる蒼兎。その日のうちに攻略組ギルドにボス部屋の位置情報を提供し他の攻略組プレイヤーが募られるのを待つことにした。
しかし提供先のギルドの行動は早く、すぐに情報はアインクラッド中に知れ渡り明後日の昼には攻略部屋へ向かうことになっていた。翌日に攻略組プレイヤーが集められボス攻略の作戦会議が始まった。
「(こんなに早いとは……まぁ早い方が助かるが……)」
作戦会議に参加しながら蒼兎は思った。自身の担当する配置などを理解したあと解散となり、蒼兎は再びアインクラッドを見回るためにその場から少し急いで離れる。しかし蒼兎を呼び止める青年が現れた。
「あ!アオトさん!!」
「貴方は……トウマさんですか?」
呼び止めていたのは昨日助けたトウマであった。昨日の時点では分からなかったがトウマの身長はかなり高いようだった。
「なにか用ですか?」
「助けてもらったお礼をしたくて……約束したじゃないですか?」
「今日のご飯、俺に奢らせてください!」
「ああ……」
別れ際にそんな話をしていたことを思い出した蒼兎はどうするかと迷う。
「(正直転生者がでないかアインクラッドを見回りたいが……ここで無視してもまた話しかけられそうだしな……)」
「分かりました、どこに行くんですか?」
「おすすめのお店があるんです!こっちです!」
宿と併設されたレストランに到着し、トウマが受付のNPCにご飯を注文している間に蒼兎はアイポッドに周辺とアインクラッドの見回りを頼んだ。
料理を待つ間トウマが蒼兎に話かける。
「アオトさんって攻略組なんですか?」
「ええ、一応はそのつもりです。」
「俺は最近攻略組に追いついてきまして、初めてのボス討伐なんです」
「だからちょっと緊張しちゃって…」
「そうだったんですね」
「アオトさんはどうして攻略組に?」
「そうですね…何もしないよりはなにかした方がいいかなと思ってですね」
しばらく話しているうちに料理が運ばれてきた。魚の丸焼きが大きな葉にのせられ皿に盛り付けられている。
「ここのご飯は現実の焼いたアジと似た味ですごくいいんですよ!」
「そうなんですか…」
「苦手でしたか?」
「いえ、苦手な食べ物はありません。いただきます。」
一口食べてみると確かに現実で食べるアジと同じ美味しさがあり蒼兎は少し驚いた。
「(なるほど……VRMMOもバカにできないな。)」
「じゃあ俺も、いただきます!」
少しの会話を交えつつ完食した2人はレストランから出る。蒼兎はトウマに感謝の意を伝える。
「ありがとうございました、紹介されたあのお店、よかったですよ。」
「なら安心しました!あの時は助けていただいてありがとうございました!」
頭を下げてお礼をするトウマに蒼兎は感心した。
「(ここまできっちり誠意を伝えるヤツもいるんだな……)」
日々悪意に染った転生者ばかりを見ていた蒼兎にとってそれは新鮮であった。
「明日はボス戦ですし、早く寝た方がいいですよ」
「はい!アオトさんもお気を付けて!」
走って去っていくトウマを見届けて蒼兎も自分の宿へ戻った。アイポッド達が蒼兎のもとへ集まり何も異常は無かったことを伝えられた。
「(もしかして物語の越境にさしかからないと出てこないのか?)」
翌日、階層ボス攻略のために集められたプレイヤー達はボス部屋の前の扉に集合していた。プレイヤー達を募ったギルドのリーダーである男が周囲にいるプレイヤー達に最後の確認を取る。
「これからボス部屋に入る、全員危ないと思ったらすぐに転移結晶を使うんだ」
転移結晶、使用して転移先の街の名前を言うとそこへ転移できる優れ物でクエストなどで死にかけた時に使える救済措置である。転移結晶のアイテムを持っていることを確認し、ギルドリーダーの男は扉を開けた。
そこに佇んでいたのは甲冑を着込んだ侍の風貌をした普通の人間よりも一回り大きい怪物だった。手に持っている刀を構えて突進してくるそれのウィンドウに表示されている名は『カガチ・ザ・サムライロード』
アインクラッド第10層フロアボスの討伐が開始された。
一番最初に前に出たのは黒いコートを着た剣士だった。
「あのビーター野郎また!!」
その様子に避難の声を上げ、次々と彼の後に続くプレイヤー達。黒いコートを着た剣士の名は『キリト』。この世界の主人公であり、ソードアート・オンラインのベータテスターであるため広場にいた他の誰よりも先に攻略に乗り出していた青年であった。
通常のプレイヤーよりも知識量があるため成長速度も違い、そのことを妬むプレイヤーの矛先の他のベータテスターに向かないように第1層のボス攻略の時点でベータテスターのチーターの略称であり蔑称、ビーターを名乗って今まで活動してきた。
ベータテストを経験しているため他のプレイヤーよりも動きのキレは鋭く階層ボスのサムライロードの振り下ろしを防いでからその胴体に一撃を入れようとする。
しかしサムライロードは後ろにジャンプしてそれを防ぐ。しかしその背後にはキリトと同じタイミングで飛び出していた蒼兎がサムライロードを切り上げた。
すぐに振り下ろされる刀を回避して後からやってきたプレイヤー達も追いついてサムライロードの攻撃をタンクであり盾持ちが受け止める。片手剣やハンマー、槍などを持ったプレイヤーは攻撃を連携して行い、少しずつサムライロードの体力を削っていった。
攻防が続き、大きく飛んで剣を振り下ろしたキリトの一撃で約半分まで体力が削れてサムライロードは第2形態に移行したようにもう一本の刀を取り出す。少し後ろに飛んで構えをとって攻略組プレイヤー達がいる場所へ一気に突撃する。
回避や防御が遅れたプレイヤーはふっ飛ばされ体力ゲージが危険域の赤になる。プレイヤー達はすぐに回復しようとするもその隙にサムライロードは左腕を突き出す。腕からは白い蛇が現れ、プレイヤー達を襲い出す。その攻撃で3名のプレイヤーの体力ゲージがゼロになり消えていった。
「そんな!!」
その様子を見て絶望の顔を浮かべていたのはトウマだった。蒼兎はその様子を見るも仕方なく無視してサムライロードへ向かう。
プレイヤーが倒されたことで他のプレイヤーも激昂し、サムライロードへ突っ込む。しかしサムライロードの不意打ちの横なぎの攻撃で全員が体力ゲージが危険域に到達してしまう。
蒼兎も咄嗟の防御に関わらず半分近くまで削れてしまっていた。
「(くっ…思ったより面倒だな……)」
全員が回復行動を取ろうとする中でトウマだけが片手剣を持って突撃する。
「なにやってんだ!死ぬぞ!!」
「うぉぉぉあぁぁ!!」
他のプレイヤーの警告を無視してトウマは突撃する。しかしサムライロードの振り下ろしの一撃でトウマは吹っ飛ばされてしまい体力ゲージも赤くなる。
「ぐっ……」
「早く回復しろ!!」
しかしトウマは体力ゲージが赤いにも関わらずサムライロードへ向かおうとする。
「(アイツ正気か?どうする……ここでSCPの力を使うのは今後に影響を受けそうだが……。)」
蒼兎が回復すらしようとしないトウマを見かねて仮面ライダーSCIPの力を使うか悩む。
「俺はもう!誰かが悲しむ姿は見たくない……!」
「もう誰にも死んで欲しくない……!」
トウマが自身を鼓舞するために叫んだ言葉が他のプレイヤーに響く。しかしトウマが命の危機であることに代わりはなかった。
「俺がみんなを守るんだ!!」
サムライロードの刀がトウマに向けて振り下ろされる。蒼兎がSCIPに変身し助けようとした瞬間、サムライロードとトウマの間に炎が割り込んで広がる。
「なんだ……?」
トウマの手には赤い本型のアイテムが握られ、目の前には炎に燃える剣が突き刺さっていた。
「なんだアレ……」
「ゲームの特殊イベントか?」
「アイツプレイヤーじゃないのか?」
他のプレイヤーが口々に言う中、トウマは炎の熱に耐えながらその剣に近づいていく。
「あれ熱くねぇのか!?」
「普通の奴じゃ抜けねぇよあんなの!!」
「(アレは……!?)」
偶然であろうSAOプレイヤーが発した発言、そしてトウマが握っている本型アイテムと炎の剣。蒼兎はこの光景を見て驚愕と同時に確信した。
「(間違いない、これは……)」
「グゥ……!」
トウマが熱に悶えながらも剣を掴み取る。そして雄叫びと同時に剣を引き抜いた。
「はぁあ!!」
引き抜かれた剣が周囲に広がっていた炎を吸収するよう集め、そして形状が変わった。
3つの窪みがあるバックルに収められた炎のエンブレムが輝く剣。
「これは……!」
サムライロードが刀を構えて突進しようとする。トウマは使い方を教わった訳でもなかったが、それでも当然のようにどう使えばいいのかが分かっていた。
剣が収められたバックル『聖剣ソードライバー』を腰にあててバックルからベルトが伸びる。腰に巻き付けられたベルトにSAOプレイヤー達が驚愕の声を上げる中、トウマは持っていた本型アイテム『ブレイブドラゴンワンダーライドブック』を開き、本の力を解放した。
『ブレイブドラゴン!』
『かつて全てを滅ぼすほどの偉大な力を手にした神獣がいた…』
本を閉じてソードライバーの一番左にセットする。壮大な音楽が流れる間にサムライロードは突進を開始した。トウマは焦らずバックルの剣を引き抜き、覚悟と共に叫んだ。
『烈火抜刀!』
「変身!」
空間を斜め十字に切って、その斬撃はサムライロードの突進と激突、拮抗しトウマへ跳ね返った。トウマの後ろから本に記されていたドラゴンが飛翔しトウマの身に纏うように周囲を周り、その姿を変えた。
跳ね返った十字の斬撃はトウマの顔に吸い込まれるように飛んできて仮面を形成した。
『ブレイブドラゴン!』
『烈火一冊!』
『勇気の龍と火炎剣烈火が交わる時、真紅の剣が悪を貫く!』
サムライロードの止まらない突進をトウマは変身した姿で受け止めた。自身が握る剣を炎を纏わせて下に向けて受け止めたトウマは思い切り剣を振り抜く。
火炎を纏って振り上げられたその剣は強化された肉体の力も相まってサムライロードを大きく吹っ飛ばした。
「すげぇ……」
「なんだあれ……」
プレイヤー達が口々に言う中、1番驚いていたのはキリトだった。
「(なんだあれは……あんなのベータテストには絶対になかった……新しく追加された仕様にしてもあんな魔法地味たものをあの茅場晶彦が追加するとは思えない……!)」
トウマは自身の体と握る剣を交互に見て興奮する。
「これならみんなを守れる……俺がみんなを救える!!」
『火炎剣烈火!』
トウマの喜びに呼応するように握っていた剣から名乗りの声を上げた。
「火炎剣烈火かぁ……よろしくな!」
サムライロードに火炎剣烈火を向けてトウマは宣言した。
「このゲームの結末は、俺が決める!」
SCP紹介
SCP-131アイポッド
勾玉のような形に1つの目がついたおもちゃのような姿をしているがれっきとした生き物。人間にとても友好的でそれどころか人懐っこい。財団世界では2体のアイポッドが確認されているが仮面ライダーSCIPでは合計10体のアイポッドが現れる。赤、青、水色、緑、黄緑、黄、オレンジ、紫、ピンク、白の色に別れている。
次に行く世界がラストです。
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この素晴らしい世界に祝福を!
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異世界はスマートフォンとともに
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ソードアート・オンライン