疾風と正義の女神と正義の味方   作:たい焼き

4 / 10
今回急いで書いたのでちょっと短いかなって思います


3話

 「おはようございます、アーチャー。朝から良い匂いがしますね。寝室まで匂いが届いていますよ」

 

 コトコトと火のかけられたスープが煮えている。牛や鶏のお肉や魚などからとった出汁に更に脂肪の少ない肉や野菜を加えて煮立て、 出てきた灰汁を丁寧に取り除いて作ったというコンソメスープという物らしい。こうすることで濁りの無い透き通った綺麗なスープになる。

 

 「おはようアストレア。今は少々立て込んでいてね、そこの温まっているスープとパンで先に食べていてくれ」

 

 チラリと後ろを見て挨拶すると、すぐにキッチンと向かい合うように前を向いてしまう。自分への挨拶を素っ気なく返されたのか気に入らなかったからか、食卓に付かずに彼が仕事を脇から覗いて見る。そこにはおよそ二人で食べるには多すぎる料理が並んでいた。隣には重ねられた箱が積み上げられていた。アーチャーはその箱の中にキッチリと出来上がっている料理を詰めていく。

 

 「それは、お弁当? なのかしら」

 

 「ああ、とりあえず二種類の弁当を計三十個用意できた。これをギルドの入り口近くの露店で売る」

 

 「えっ? でももうダンジョンに潜れるのだからそっちの方がよっぽど稼げるんじゃないの?」

 

 アーチャーはこれをどちらも300ヴァリスで売るらしい。価格としては妥当な方であるが、これでは全て売れたとしても9000ヴァリスにしかならない。一度の冒険で得た戦利品が合計で数万ヴァリスになったのだから金を稼ぐのならばダンジョンに潜った方がよっぽど効率がいい。

 

 「アストレア、もしかして君は肝心なことを忘れているんじゃないか?」

 

 ドキリと心臓を直接鷲掴みにされたような感覚に陥る。僅かに黒い感情が奥底から湧き上がって来るのを神にも与えられた人らしい感性が教えてくれる。できることなら私の本心を見ないで、アーチャー。

 

 「君は生き残りの眷属を探すのだろう? 確かにこれはダンジョンで集めた魔石やドロップアイテムを換金して得た金と比べたら小遣い稼ぎみたいな物だ。だが生活資金も得ることができた我々は、本来の目的のために動く余裕ができただろう?」

 

 そう、私がオラリオに戻ってきた目的はただ一つ。文化的で裕福な生活を送りたいなんてものでは断じて無く……。

 

 「【疾風】を探して再会することが我々の最優先だ。だからこそ情報収集や聞き込みも兼ねての客商売だ。薄暗いダンジョンの中よりはよっぽど人が居る。ギルドの前ならばこれからダンジョンに潜る冒険者や出てきて朝帰りの冒険者もたくさんいるだろう。その中の一人くらいは有力な情報を持っているんじゃないか?」

 

 ええ、そうね。と相鎚だけで返す。

 

 「……では行ってくる。昼食はいつも通り用意してあるからそれを食べて待っていてくれ」

 

 アーチャーの姿が扉の向こうへ消えて扉が閉じられる。それを確認してからアストレアは力なくへたり込んだ。気温は暑くも寒くもなく、むしろ丁度いい気候と言えるだろう。にもかかわらずアストレアの体から止めどなく汗が流れて、軽く過呼吸状態になった。それが落ち着いたのはアーチャーが外出してから十分ほどしてからだろうか。

 

 「はぁ……ふぅ……。シャワーを浴びねばなりませんね」

 

 どれだけ気丈に振る舞っても心の内側に隠した本心は消えることはない。諭されて強く在ろうとしてもへばり付いたトラウマは消え失せない。今まで隠し通せていただろうが、アストレアがリューのことを思い出す度に繰り返していた現象がこれだ。

 

 アストレアは恐れている。会いたいと願っている眷属が今の自分をどう思っているのかを想像することが。もしかしたら後悔の念で押し潰され、怨嗟の声を叩きつけて来るかもしれない。

 

 アーチャーの言葉で多少は拭えた恐怖も全てではない。ファミリアの中でも一番の不器用な子だったリューの性格はアストレアもよく理解しているし、よく似ているのだとも思っている。自分の周りで起きた不幸や失敗、それらが例え自分や仲間の失態が原因でなかったとしても自分が悪いのだと信じてやまない、途轍もないまでの自己嫌悪こそがリューもアストレアも苦しめる。

 

 そう、私はきっと再会を望むと同時に怖れているのでしょうね。そんな誰にも届かない呟きは虚空へと消えていった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 今日もオラリオは快晴だ。朝一番で浴びる朝日は心地よいし、洗濯物を干せばしっかりと乾くだろう。今の季節では朝は少しばかり肌寒いが、乾いた風と朝の日差しのおかげでそこまで寒さは感じない。

 

 そして街の中央にあるバベルに向かった武装した多くの冒険者達が集う。時刻は日が登ってからそこまで経っていない午前7時頃。今日もまた富や名声を求めて冒険者達はダンジョンへと繰り出す。

 

 そんな数多くいる冒険者の中の一人であるレベル2の魔法使いの少女はいつものように仲間と共にダンジョンへと向かっていた。

 

 「おや? あれは何でしょうか?」

 

 近い年頃の女の子の三人パーティの斥候職を務めている少女がふとギルドの入り口の側の人集りに気がついた。自分達の他に十人近くの冒険者達が目の前の屋台に目を向けている。

 

 「んーと、なになに……。お弁当屋さんみたいですね」

 

 側に立てられた看板にそう書かれていた。ダンジョンの中では持ち込める食料はかなり限定される。日帰りならば弁当を持ち込むのもありだが、何日もダンジョンに潜り続けるならばそうもいかない。腐りにくい乾物だったり、あまり美味しくない固形の携帯食料だったりと、食事は自分達の士気を保つためにも重要なダンジョンの中での数少ない娯楽とも言える。

 

 「いらっしゃいませ。よろしければこちらの弁当などいかがでしょうか?」

 

 黒のTシャツにスラックスと至ってシンプルな服装に黒のエプロンをつけている。あと目立つのは黒縁の眼鏡だろうか。短く整えられた白髪と褐色の肌の人物が声をかけてくる。この店の店員なのだろう。素人目でも鍛えられた戦士のような筋肉のある腕がちらりと見えたが、この人は冒険者ではないのだろうか。下手なレベル1の冒険者よりも強く見えてしまう。

 

 「あー、えっと、どんなお弁当がありますか?」

 

 パーティの中で一応方針とかを決めるリーダーが応じた。心なしか頬の辺りが少し赤いのは気の所為だろうか。

 

 「基本的に二種類の弁当を日替わりで用意しています。今日の弁当はカツレツを挟んだカツサンドを詰めた物と極東の食事を参考にした定食弁当の二種類をご用意させていただいております」

 

 まるで風景を切り取ったような絵に描かれた二つの弁当を見比べる。直接見たわけではないが、確かにどちらも美味しそうだ。

 

 「じゃあ、定食弁当の方をください」

 

 「私はサンドイッチの方にします」

 

 あっという間に二人ともが購入を決めてしまう。確かに今日は日帰りの予定ではあるが、昼食は保存食ではあるが用意してある。今日無理して食べる必要は全く無いし、ここで自分だけ買わないというのもバツが悪いが、もし美味しくなかったらどうするつもりなんだろう。

 

 「じゃあ、私もサンドイッチの方にします」

 

 「サンドイッチが二つに定食が一つですね? 3つお買い上げでお値段が900ヴァリスになります」

 

 900ヴァリスちょうどを差し出す。これだけ立派な弁当で900ヴァリスというのは破格ではないだろうか。一般人には少し高いかもしれないが冒険者向けと割り切れば問題なく払える値段だ。駆け出しの新人がソロで潜ったとしても1000ヴァリスは稼げるだろうからその辺りも考慮しているのなら良心的過ぎる。

 

 「またのご来店をお待ちしております。貴女がたの冒険の成功をお祈りしております」

 

 接客に関しても全く不愉快な物は感じない。これはきっと人気が出る店になるだろう。

 

 ダンジョンに潜ってからは案の定リーダーがその話題を持ち出した。カッコ良かったねとか、いい人だったねとか言っていたが、確かにその通りだった。明日もまた買ってもいいかもしれない。

 

 なお、いざ弁当を食べてみると想像以上に美味しく、ダンジョンの中にもかかわらず思わず気を抜いてしまいそうになってしまった。というより気を抜いた隙に一つ取られてしまい、違う意味で油断ならない状況になっていた。こうなったら絶対明日も買いに行こう。そう決めて午後からのダンジョン攻略に勤しんだ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 「この口調も疲れるな」

 

 時刻は午前11時30分を差していた。予想以上に弁当は売れ、残り二つでちょうど完売する。だがこの頃になるとダンジョンに入る人影は減り始め、冒険者に代わってそれ以外の一般人の往来が増えてくる。冒険者は基本的には自由業みたいな物だ。今日は暦の上では休日であり、多くの飲食店やサービス業などに取っては稼ぎ時であるが、友人同士や恋人同士と見える人々が目に入る。喫茶店などの飲食店に多くの人が流れ始めて、売れ残りの弁当は魅力が落ちてしまうのは仕方のないことだ。

 

 それと、さり気なくだが【疾風】についての情報収集もしていた。が結果は芳しくなく、有益な情報は禄に入ってこない。

 

 「シル、貴女は少しばかり計画性が足りない。全財産というわけではないでしょうが、昼食を食べる前に殆ど使い切ってしまうのはあまりよろしくない」

 

 「だって、良い買い物だと思ったから……」

 

 屋台の側の噴水に腰をかけた少女達の声が耳に入った。傍らには何やら重そうな荷物がある。おそらくだが友人同士で休日に買い物に出かけ、その途中で予算を使い切ってしまったのだろう。片方は薄鈍色の人間、もう片方は薄緑の髪のエルフのようだ。

 

 (それにしても、似ているな)

 

 髪の色は違うが、似顔絵と見比べても顔の形はかなり似ている。遠目じゃ判断は付かないので少し接触を図ってみるのもいいかもしれない、とふと思いついた。

 

 「君たち、どうかしたのかね?」

 

 アーチャーの声に気がついた二人がそちらに振り返る。

 

 「何か御用でしょうか?」

 

 「いや、別に怪しい者ではない。私はそこの屋台で弁当を販売している者なのだが、君たちの声が聞こえて来たのでね。思いきって声をかけてみたのさ」

 

 いきなり見知らぬ男に声をかけられたせいか、ナンパか何かと勘違いされているようで警戒されてしまっている。

 

 「えっと恥ずかしいことなのですが、少しはしゃぎ過ぎてお昼ご飯を買うお金を使い切ってしまったのです」

 

 比較的態度が柔らかい人間の少女の方が事情を説明する。大体は合っていたようだ。

 

 「そうか。それは不注意だったな。そうだ。少し待っていてくれ」

 

 屋台に戻り、売れ残っていたカツサンドと定食弁当を一つずつを彼女達に差し出す。

 

 「売れ残りで悪いが、良かったら食べてくれ。勿論代金は要らない」

 

 「えっ、でも悪いですよ」

 

 「いやいいんだ。何度も言うがそれは売れ残ってしまった物だが、味は保証する。それにそのままじゃ廃棄するものだ。だから受け取って欲しい」

 

 では、いただきます。と言って受け取ってくれた。

 

 「君はどうする?」

 

 「シルが受け取るのでしたら……、いただきます」

 

 やや戸惑っていたようだが、受け取ってくれた。予定外だったがこれで弁当も完売した。

 

 「ありがとうございました。あっ、私はシル・フローヴァっていいます。そしてこっちは」

 

 「リュー・リオンと申します。この度はありがとうございました」

 

 リュー・リオン。それはかつてのアストレア・ファミリアに所属していた冒険者で【疾風】と呼ばれていた者の名だ。【疾風】もエルフで彼女もエルフ。これで確定した。

 

 「えっと、私の顔に何かついてますか?」

 

 「ん?ああすまない。なんでもないよ」

 

 怪しまれかけたが、少し不自然だが訂正する。

 

 「そうだ。もしよろしければお礼も兼ねてうちの店に来てください。私のできる範囲でサービスさせてもらいますよ」

 

 「ふむ、折角だ。予定が会えば立ち寄らせてもらおう。何という店なのかね?」

 

 「豊穣の女主人というお店です。昼も夜もやっていますので、是非いらしてください」

 

 「豊穣の女主人か。二人共そこで働いているのかね?」

 

 「はい、そうです」

 

 現在の居住地も判明した。後はアストレアを連れて向かうだけだな。まさかここまでトントン拍子で進むとは思っていなかった。

 

 アーチャーはいつか必ず伺うと約束し、二人と別れた。屋台の片付けを行い、明日の弁当販売の食材の購入のためにオラリオの商店街へと足を運ぶことにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。