疾風と正義の女神と正義の味方   作:たい焼き

6 / 10
超絶難産&仕事忙しかった。

まあ僅かに残った自由時間を全部隻狼につぎ込んだせいで執筆進まなかったのもあるけど。


5話

 「救援要請?」

 

 「ああ」

 

 ガネーシャ・ファミリアが迷宮探索以外で請け負っている仕事は多伎に渡る。

 

 オラリオの街全体の治安維持活動。過去に闇派閥と呼ばれた連中やそれらと結びついていたギャングやマフィア、悪徳商会や奴隷商人といった連中がのさばっていた時期があった。それらは【疾風】によってその大部分が殺害、検挙されたため今残っている連中は残党といっていい程の力しかない。そういった連中が今後二度とオラリオに台頭してこないようにガネーシャ・ファミリアが主体となって警察のような役割を担っている。

 

 街の住民や他派閥から日々寄せられる要望などもガネーシャ・ファミリアに一部回ってくる物がある。一度ギルドに依頼などの形で寄せられた物のうち、腕利きの冒険者の力を必要とする物は多くの上級冒険者を抱えているガネーシャ・ファミリアの管轄となる。例を上げるときりがないが、特定の階層で採れる回復薬の材料になる薬草やドロップアイテム、希少鉱石の採取依頼だったり、モンスターの大量発生が起きて冒険者達に被害が出ると、ガネーシャ・ファミリアによる駆除も行われる。

 

 今回寄せられたのはそれらの中では割と珍しい物だ。たまたま通りかかったアーチャーは事の詳細をシャクティから説明してもらう。

 

 「ダンジョンの19~24階層のことを『大樹の迷宮』と呼ぶのだが、そこを探索中のパーティが帰還予定日になっても戻ってこないそうだ。それが一昨日のことで、心配したそのパーティの主神が昨日ギルドに依頼を発注、それからガネーシャ・ファミリアに回って来たんだ」

 

 「一昨日か。無事でいればいいのだが。それで、そのパーティは何が目的で大樹の迷宮に?」

 

 「被害にあっているファミリアによると普通に金銭稼ぎだそうだ。近いうちに本拠の改修工事をしたかったらしいから纏まった金が欲しかったのだろう」

 

 「となると24階層、宝石樹狙いか。宝財の番人と鉢合わせして交戦し、痛手を負って撤退して身動きが取れないといったところか」

 

 その名の通り宝石を実らせる樹である宝石樹にはそれを守る強力なモンスターが常に周りを巡回している。それが24階層で最強と言われるグリーンドラゴンで、その力は階層主にも匹敵する。

 

 「分かった。行って来よう」

 

 「一人で大丈夫か?こちらからも何人か手練を貸せるが」

 

 「いや一人で構わない。戦力よりも身軽さを優先したいのでね」

 

 アーチャーはガネーシャ・ファミリアの本拠の窓から飛び降り、そのまま屋根伝いに建物を飛び移りながらダンジョンへと向かっていった。

 

 「あっ、団長。お疲れ様です」

 

 「ああ、お疲れ」

 

 その場に居合わせたガネーシャ・ファミリアの構成員の一人が居た。

 

 「あの人が例の方ですか?」

 

 「ああ、そうだ」

 

 「その、大丈夫なのでしょうか」

 

 「大丈夫だ。あの人の力量は私も信頼している。間違いなく私よりも強い」

 

 「本当ですか?とても信じられないですが。レベル1、なのでしょう?」

 

 「いや、そもそもあの人は神の恩恵を受けていない」

 

 「はい?」

 

 間の抜けた声が部屋の中に響く。神の恩恵の有無は絶対的だ。レベル1だろうが、経験値を積んだ冒険者の身体能力は受けていない一般人を軽く上回る。それがこの世界において覆せない常識として知れ渡っていた。

 

 自分の中でそれが覆ったのはつい先日のことだ。たまたま空き時間が合い、たまたま顔を合わせたシャクティとアーチャーは軽い腕試しも兼ねて共に鍛錬をしたことがある。

 

 鍛錬用の槍と木刀とが打ち合う音が鍛錬場の中に響く。非殺傷の武器を使っていても槍に込めた必殺の意が劣化することはない。一つ一つの攻撃がアーチャーを打ち崩そうと空を切り裂き迫る。

 

 シャクティとてオラリオにも一握りしか居ないレベル5の第一級冒険者だ。神も認める偉業を都合4度乗り越え、鍛え上げたステイタスに自信を持っていた。自分よりも上の冒険者は数多くいるが、まるで敵わないとは思っていない。必要があれば刺し違えてでも敵に致命傷を与える覚悟もある。

 

 だがアーチャーの防御を崩せる気は全く起きなかった。技量も戦闘経験も雲泥の差だと見せつけられた気分になった。自分より格上と呼ばれる冒険者達でもこれほどまでに戦うことに特化した者は見たことがない。

 

 そして何度か武器を重ねているうちにシャクティはあることに気がついた。

 

 (技量も一級品の域だが、何よりも戦い方が上手いのか)

 

 戦闘中に相手を分析して次の手を読んで動きを見切る。強者同士の戦いにおいて最も重要とされるそれをアーチャーは高いレベルで習得している。心眼とも呼ばれるが経験が物を言うそれを習得するまでに一体どれほどの戦場を渡り歩いて来たのだろうか。攻撃・防御・回避、それらをこなしながら相手の動きや立ち回りを見切りつつ、相手の僅かな癖や行動パターンを読むことの難しさは長年冒険者としてモンスターや犯罪者達を相手取っている自分が何より理解している。

 

 その後の戦闘は見るに耐えない物だった。焦って技の精度を欠いたシャクティの槍をアーチャーが上手く絡め取って弾き飛ばした。上空を回転しながら後方へ飛んでいく槍を眺めながら、剣を首に突きつけられて終わりだ。

 

 これだけでも完敗なのだが、どうにも実力を隠しているような気がしてならない。

 

 手を抜いているわけではないだろうがあれは本気であって全力を尽くしているわけではないと感じた。出さなかった理由は定かではないが、いずれにしても消化不良であることには変わりない。だがいつかは一泡吹かせられるくらいにはなりたいものだ、と再び槍を手に演習場へ向かいながら再戦を誓う。

 

 

 

 ■

 

 

 

 「大丈夫? もうすぐ休めるからね」

 

 ダンジョンの第24階層に至って普通のパーティが安全な場所を求めて迷宮内を彷徨っていた。まさかあそこまで強いとは完全に予想外だったと自分たちの軽率な行動を、今更ながら悔いた。

 

 このパーティーは全員がレベル2になった冒険者で頭目の役目を担っているバスタードソードを担ぐ偉丈夫はレベル3に到達した。今は目標としていた宝石樹の防人から受けた痛打のせいで半死半生の目に会い生死をさまよっている。普段ならば鍛え上げた両腕で振るわれるバスタードソードで立ちはだかるモンスターを骨ごと断ち切ってみせるのだが、出血が酷かったせいで青褪めた顔色で意識が無い。

 

 「悪い。ちょいとドジ踏んじまった」

 

 屈めば身体がすっぽりと収まる程大きな盾を担いだ男が力なく呟いた。よく見ると足が正常な方に曲がっていない。千切れ飛んだわけではないため治療を受ければ治るだろうが、すぐに治るような物でもないだろう。持ち込んだポーションは全て使い切ってしまっており、治療を受けるには一度地上に戻らなければならないが、4人中2人がまともに動けない状況ではそう簡単にできることではない。

 

 「何言ってるのよ。気にしないで、仲間でしょ」

 

 「そうですよ。生き残っただけまだマシですよ」

 

 弓や短剣の投擲などで中遠距離からの支援や援護を主に動くエルフの少女と、広範囲の殲滅が可能な魔法を習得した魔法使いのヒューマンの女性、以上4人の冒険者達はモンスターと接触しないように地図に記されている行き止まりの奥で息を潜めていた。

 

 あわよくば一刻も早く地上に戻って、リーダーの治療をしたいがそれは限りなく難しい。帰ると告げた予定日から既に2日経ったはずなので、ファミリアの主神や仲間が今頃心配しているだろう。救援を期待するしかない状況に歯噛みする。

 

 宝石樹の番人であるグリーンドラゴンを追い詰めたまでは良かったが、そこから不運が重なった。追い詰めたモンスターは何を仕出かすかわからないもので、予想外の攻撃をいきなり繰り出して来た。不意の突進で体勢を崩されて吹き飛ばされた盾持ちを庇おうと前に出過ぎた偉丈夫が、グリーンドラゴンの爪によって思いっきり切り裂かれたのだ。

 

 急の事態で混乱しかけたが、出血が酷いとすぐに判断してエルフの少女が持っていた煙玉で煙幕を展開し、無事だった魔法使いと2人で重症を負った偉丈夫をなんとか担ぎあげて離脱した。盾持ちの男が動かなくなった足を剣を杖代わりにして付いて来てくれたおかげで全員命を落とさずに撤退できて良かったと今でも思う。もしあの時2人共動けなかったり、他のモンスターの追撃にあったりとさらなる不運が重なったらどうなっていたかなんて想像したくはない。

 

 「で、これからどうするんだ?」

 

 「これ以上の探索は無理だから地上に戻らないと行けないんだけど……難しいよね」

 

 「ですがもう水も食料も尽きかけています。これ以上は厳しいですよ」

 

 正規のルートから外れて隠れている自分達を誰かが発見してくれる可能性はかなり低い。単純に人が通る可能性が低いということだからだ。

 

 「そうだ。動けるうちにリーダー抱えてお前らだけでも地上に帰ればいい」

 

 「なっ!? そんなことしたら貴方が」

 

 「俺のことはいい。無事に戻って応援を呼んで来てくれればそれでいいさ」

 

 おそらく間に合わないだろう。それも覚悟の上での決断だった。ここから地上に帰るまでには日数がかかる。それまで生き残っていられる保証などどこにも存在しないのだから。だが救いは突如として現れる。通路の先の方から何かの足音が聞こえてくるのを全員の耳が捉える。

 

 「おい、聞こえたか?」

 

 「ええ、はっきりと」

 

 ゆっくりとだが確実に近づいてくる気配がおそらく一つ。全員が手元の武器に手をかけて応戦準備を整えたところで曲がり角から影が一つ現れる。

 

 「ようやく見つけたぞ」

 

 漆黒に染まった弓を片手に持ち、背部には大量の矢らしき物が収まったバックパックを背負った男が先程からの気配の正体だった。みたところ弓を主武装とする冒険者のようだが、少なくとも彼らは男の姿に見覚えはない。

 

 「―――ファミリアの冒険者だな? 君たちの捜索依頼が出ている。助けに来たぞ」

 

 救いの手は差し伸べられた。彼らにとっては紛れもなく希望であろう。男は自身を『弓兵(アーチャー)』と名乗った。

 

 「ほ、本当ですか? 私達、助かるんですか?」

 

 「ああ、必ず無事に地上まで送り届けると約束しよう」

 

 確実に成功できる策でもあるのか、それともただの自意識過剰なのかは分からないが、少なくとも今は誰でもいいから戦力を補充しておきたいところだ。

 

 「かなり深い傷を負っていたようだな。止血はしていても血を流し過ぎている。顔が青褪めているのはそのためだろう」

 

 「その、彼は助かりますか?」

 

 「何とも言えないが、地上に戻ってすぐに治療を受ければ助かるさ」

 

 だがここは24階層でかなり深い位置に存在している。接敵次第すぐに逃走して戦闘回数を最低限に抑えれば一日足らずでも地上に帰還できるだろう。ただし、全員が万全の状態ならば。

 

 「なら俺を置いて行ってくれよ。そうすりゃ足手まといが一人減るだろ?」

 

 「あんた。またそんなこと言って……」

 

 それは確かに最善を尽くせる策であり、事実ではあった。だが危険に満ちたダンジョンの中にまで救いの手を差し伸べるこの男には一人でも見捨てる選択肢は初めから存在していない。

 

 「少し怪我を見せてくれないか?」

 

 「ああ、いいけどよ」

 

 防具を外して露出した足首が変な方向に曲がっていたが、折れている様子は見られない。

 

 「骨が外れているな。少し痛むが我慢してくれ」

 

 ゴキッと嫌な音が響く。あまりの痛みに思わず涙が出そうになるが、そこはぐっと堪えてなんとか呻き声だけに留めることが出来た。

 

 「次からは自分でも治せるよう医学も齧っておくといい」

 

 するとどうだろうか。あれだけ痛みを生んでいたにも関わらず、骨がはめ込まれた時の痛みを最後にスッと痛みが引いて来たではないか。

 

 「おお、これならなんとか歩けるようになるかもしれねぇ。ありがとな」

 

 「どういたしまして。さて、ここを離れるなら早めの方が良い。戦闘は極力こちらで引き受けるので君たちは後を付いてきてくれ」

 

 「わかりました」

 

 重症のリーダーを担いで紅い外套の男についていく。助けられた4人はこれで助かると思ったが、このダンジョンの中では何が起こるか分からない。彼らへと突きつけられる危機はまだ終わっていなかった。




FGOにアストライア参戦

ちなみにこの小説のメインヒロイン(仮予定)のアストレア様はアストライアのラテン語系なので実質同一存在

まさかルヴィアが参戦するとは思ってなかったけど

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