疾風と正義の女神と正義の味方   作:たい焼き

7 / 10
久々にFGOに実装されたハンティングクエストに出てきた『ありがたい石像』なんだけど、あれどこからどうみてもガネーシャ様だよね?

なにしてんですかガネーシャ様


6話

 ダンジョンの中では常に冒険者の敵となるモンスター達が湧き続ける。詳細は明らかになっていないが、一説ではダンジョンは自我に近いものを持っていて、自分たちを地下に封印し続ける人間や神々を恨んでおり、敵として排除しようとモンスターを生み出し続けて冒険者達に差し向けているのではないかと言われている。

 

 モンスターが生まれながらに持っている人間に対しての殺戮願望がそれの裏付けとなっているが真相は誰も知らないというのが現状だ。

 

 そんなモンスター達と全く会わずにダンジョンから出ることはかなり難しいと言えるが、遭遇率を限りなくゼロにする方法はある。

 

 モンスターは壁や床、天井から湧き出てくる。強固な壁がひび割れてそこから這い出て来るのだ。ならばその壁を破壊しながら潜ればいい。単純に湧き出る壁が全て壊れていればモンスターが湧くことはない。ただし、この方法を試したとある冒険者は上層を抜ける前に疲労で力尽きたという。

 

 もうひとつは来た道を辿って戻る方法だ。冒険者が通った道というのは必然的にモンスターが倒された後ということになる。そのためこの方法ならばモンスターと戦うことなく地上に戻れるというわけだ。

 

 「ここに来るまでの間に障害になり得るモンスターや罠は予め処理してある。私について来てくれ」

 

 物陰から正規ルートの様子を伺いながら、救出した四人の冒険者達を率いて『安全階層』へと向かう。

 

 敵影は無し。ハンドサインで後方の四人に合図を送り予め駆除してあった敵の残骸や灰の側を抜けて行く。

 

 予定ではそろそろ18階層にある『安全階層』にガネーシャ・ファミリアの冒険者のパーティが待機しているはずであり、後は彼らが引き継いでより安全に救出した冒険者達を治療しながら地上へと帰還する手筈になっている。

 

 ダンジョン自体の特性のひとつに『安全階層』なるものが存在する。安全階層の特徴として、安全階層ではモンスターは一切産まれない。大草原、湖と呼べる規模の湖沼や森が存在し、ダンジョン内固有の人間も食べられる食料もあるためこの階層に世話になる冒険者も多いだろう。

 

 またモンスターが産まれないということもあり、この階層には『リヴィラの街』が存在する。冒険者達が更に下層の攻略の足掛かりに使ったりとそれなりに需要はあるが、隣接した階層からモンスターがやってくることが多々あり危険もそれなり以上にある。そのせいか売られている物価や宿などのサービスは地上のそれらと比べるとぼったくりもいいところだ。

 

 それでも不意の襲撃などで物資を消失してしまえば利用せざるを得ないわけであって、決して不要にはならず需要と供給のバランスがかなり高い位置でバランスが取れているのだろう。

 

 「それにしても助かったよ。助けに来てくれてありがと」

 

 「構わないよ。困った時はお互いに助け合えばいいだけの話だろう?」

 

 「ですが貴方が来なかったら私達はきっとあそこで死んでいたと思います。ですので貴方には本当に感謝しているんです」

 

 「そうだな。そこまで感謝されたのならば、私も最善を尽くした甲斐があったというものだよ」

 

 助かったことに安堵して警戒を緩めている女性陣二人に担がれている盾持ちの男はそれでも警戒を怠ることはなかった。周りの警戒はそこそこにしてその注意はむしろ先程アーチャーと名乗っていた男に向けられていた。

 

 自分達を助けに来たと語るこの男、捜索届けが出されてから一日も経っていないだろうにも関わらず、怪我どころか体力を消耗した様子も見られないところからかなりも実力を持っていると思われる。盾持ちの見立てでは最低でもレベル3、もしかしたら4か5の可能性もあり得る。

 

 だがそれこそありえないことだと内心では思っていた。

 

 娯楽を求めて地上に降りてきた神々は現在眷属を集めては自身の眷属を愛でたり自慢し合ったりするファミリアの運営に勤しんでいる最中だ。眷属の背中に刻んだ神の恩恵は眷属に秘められた潜在能力を先取りするかのように引き出す。ステイタスに現れたレベルは受けた本人の実力を顕著に示し誤魔化すことはできない。

 

 そしてレベルが上がった場合やレベル2以上でギルドに冒険者登録した場合は次の神会(デナトゥス)で神も認めた偉業を成した報奨代わりに二つ名を与えられ、ギルドからもその功績を大々的に発表される。

 

 そういった物は世間話のネタや同じ志を持つ者としての興味などもあって調べていた。だがこの男のことの噂や情報は全く無いし発表された覚えもない。つまり最近になってオラリオにやってきたということだが、モンスターが弱いオラリオ外でここまでのステイタスと技量を手に入れられるだろうか。少なくとも盾持ちがレベル2になるまでに数年かかった。

 

 「着いたぞ」

 

 思考に浸っている間に上層への階段が見えて来た。あの階段を上がればその先は18階層、ダンジョン内でモンスターが湧かない安全地帯だ。

 

 「リヴィラの街にガネーシャ・ファミリアの団員が集まっている。そこで彼を治療しながら地上まで送り届ける手筈になっている」

 

 「良かった。これで助かるんですね!?」

 

 追い詰められて張り詰めていた緊張が解れていくようだ。こればかりは彼やガネーシャ・ファミリアに感謝しかない。

 

 だが見えた希望を粉々に打ち砕く咆哮が後方から響いて来た。それに含まれるのは『怒り』や『恨み』か。

 

 つい先日見たモンスターだった。切り裂かれた鱗や皮から流れていた血は乾いているが傷は完治しておらず、折れた角は痛々しいが、体力が衰えた様子を見せず大木の竜は地響きを鳴らしながらその巨体で突っ込んで来る。

 

 「なっ!? まさか俺たちを追って来たってのか!?」

 

 だとしたら随分と恨まれたものである。宝財の番人(トレジャーキーパー)は基本的に守っている宝物から離れることはない。自らが産まれた役目すら放棄して私怨に走る前例など聞いたことがない。

 

 「ここは私に任せて君たちは早く階段に逃げ込みたまえ」

 

 「危険です!? 全員で戦った方がいいです!!」

 

 「君たちのリーダーにはもう時間はあまり残されてないぞ? それでもここに残るかね?」

 

 応急処置は済ませたが以前油断は許さない状況だ。

 

 「なら俺が担いで行くよ。一番の足手まといは俺だしな」

 

 頭目の男を肩に担いで盾持ちが階段へと向かって行く。

 

 「アンタは俺たちを助けるのが仕事かもしれないが、俺たちだってアンタに救われた恩を返したい。悪いが俺たちの我儘に付き合ってくれ」

 

 「わかった。力を借りるとしよう」

 

 盾持ちが階段の上へと消えたのを確認して、現在進行系でこちらに突っ込んで来ているグリーンドラゴンと相対する。

 

 「君たちは何ができる? 戦力を確認しておきたい」

 

 「私はこの弓や短剣の投擲で隙を作ったり突いたりしてるよ。怒り狂ってるアレには大した痛手にはならないと思うけど」

 

 「私は後衛担当で広範囲攻撃の魔法を使えます。時間はかかりますが」

 

 「魔法の完成までどれくらいかかる?」

 

 「5分、いえ3分ください」

 

 「いや5分時間を稼ごう。確実に叩き込んでくれ」

 

 「はい!!」

 

 詠唱を開始して魔法の準備にかかる。どんどん魔力が杖に集中しているのが分かる。

 

 「私が前に出よう。君は奴の隙を突いて弓を射掛けてくれ。狙いは任せる」

 

 「わかったよ」

 

 背後のバックパックから一本の剣を取り出す。それは他者を傷付けるための武器にも関わらず人を惹き付ける美しさを持っていた。思わず目を奪われそうになる名剣を手にアーチャーは駆け出した。

 

 それに気がついたグリーンドラゴンもまたアーチャーに突進していき、自慢の爪を繰り出した。それがアーチャーの剣とぶつかり合い、驚愕する。正面から打ち合ったにも関わらず自慢の爪がたった一本の剣を砕くことができないからだ。

 

 高レベルの冒険者でもまともに受ければ重症は避けられないその爪をアーチャーは正面から受けきった。巨体の重量と速く力の籠もった爪の振り下ろしは驚異ではあるが、アーチャーはそれよりも余程速く重く巧い一撃を受けたことがある。

 

 数秒火花を散らした後、逆に押し切って爪を切り飛ばした。

 

 痛みに呻き声を上げて仰け反ったところに矢が殺到した。射掛けた矢の数本のうち一本がグリーンドラゴンの片方の目に突き刺さり視界を奪った。その隙をついてアーチャーも持っていた剣を投擲してもう片方の目も潰してしまう。

 

 「やるじゃないか。良い腕をしている」

 

 「準備できました!! いつでも撃てます!!」

 

 「よし、やってくれ」

 

 速やかに引いて離脱した瞬間、豪炎がグリーンドラゴンを包み込み高温で全身を燃やしにかかる。

 

 種族の特性上火に極端に弱いグリーンドラゴンに対し火による攻撃は非常に有効だ。だが目の前のグリーンドラゴンはそれを耐えきって見せた。流れ出た血液は残らず蒸発してしまったが、その執念のみで生きつないでいるようだ。

 

 「終わりだ」

 

 爆炎が晴れた瞬間にアーチャーが突き刺した剣を一気に引き抜く。傷口が一気に広がったことで血が溢れ出すが、それを意に介さず抜いた勢いのまま袈裟斬りぎみ首をはねる。

 

 例えどれほどの執念を積み重ねて生き長らえていても首をはねられたり心臓や脳といった重要な器官を潰されて生きていられる生物はそうそういない。最後の一欠片まで抵抗し続けたグリーンドラゴンは激痛に苦悶の声をあげながら絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいこっちだ!! 早く輸血パック持ってきてくれ!!」

 

 「ハイポーションです。飲めますか?」

 

 リヴィラの街付近に急遽建てられた治療施設には既に怪我人が運び込まれていた。応急処置が適切で質が良かったおかげで大事には至らないだろうが、依然油断はできない状況だ。

 

 アーチャー達は先程までグリーンドラゴン撃破を手伝ってくれていた二人も仲間を見てやってくれと告げて解散した。二人共深々とお辞儀してお礼を伝えてから去っていった。

 

 これでアーチャーの役目はほぼ終わったと言ってもいい。ガネーシャ・ファミリアの冒険者達に引き継ぎを終えてから適当にリヴィラの街を見て回ってから今日の夕食の買い出しをして帰ろうと思っていたところに人影が通りかかった。

 

 「おや? 君はガネーシャ・ファミリアの団員じゃないな?」

 

 「ええ、私はディアンケヒト・ファミリアの『アミッド・テアサナーレ』と申します。救助されたあの方々の治療をガネーシャ・ファミリアからの依頼で行っています」

 

 ディアンケヒト・ファミリアは大手の医療系ファミリアとして有名だ。そしてアミッド本人もまたその知名度は治療師の中ではオラリオトップクラスであろう。彼女の医療技術や調薬技術や規格外の回復魔法はあまりにも有名だ。

 

 「そうか、ディアンケヒト・ファミリアにも援軍を頼んでいたのか」

 

 「はい。彼らも危ない状態ですがなんとか一命は取り留めましたよ」

 

 流石はディアンケヒト・ファミリアだろう。医療技術においては他のファミリアの追従を許さない。

 

 「むっ、見た限りその箱は重そうだな。一つこちらで受け持とう」

 

 「えっ、では悪い気もしますが、せっかくですのでお言葉に甘えます」

 

 箱の中身はこれからの治療でも使うであろうポーションが詰められていた。それを仮設のテントの側に置いて積み下ろしの作業は終わりらしい。

 

 「では私はこの辺りで失礼する。彼らを頼むぞ」

 

 「はい。おまかせください」

 

 アーチャーは急ぎで地上へ戻る。この後ガネーシャ・ファミリアに今回の依頼の顛末を報告しなければならないため、後のことは彼らに任せることになっているのだ。グリーンドラゴンの不意の襲撃には内心肝を冷やしたが損害無く撃破できたのならば後は問題ないはずだ。治療のエキスパートも揃っていることもあり、心配する要素も無い。

 

 後日、1週間程の安静を終えて彼らが無事に退院したことがアーチャーの耳に入り、何事も無く彼らの命が救われたことを実感するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あと数話で進展がありますが、ここで一つアンケート取ります

リューとの再開編、どっちがいいですか?

  • 平和ルート。特に何事も起こらず
  • ひと悶着ありルート。幸運:Eじゃ仕方ない

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