実はジナコの疑似サーヴァントだった→ファッ!?
ディアンケヒト・ファミリア。それがこのオラリオに置いて最大手の医療系ファミリアの名だ。
構成する眷属の人数は同じ医療系ファミリアの中では最多であり、調合難易度の高い薬を作成する調薬技術とそれに必要な薬品や素材も充実しており、胃薬といった日々欠かせない常備薬から果てには
またポーションの材料の多くは探索系ファミリアとの取引で入手しており、定期的に一定量を購入する手段も整っているので信頼度はかなり高い。
唯一、主神のディアンケヒトの性格が悪く、足元を見た発注を行うことが多い点さえ目を瞑れば良いファミリアであると言えるだろう。それは多くの眷属達共通の悩みでもあるわけだが、そこは腕と誠実さでカバーしたり、販売窓口に立つことの多いアミッドらの接客によって客との信頼関係を維持することが一番大切なことだ。
ガネーシャ・ファミリアからの依頼で救助された者の治療を終えて無事全員退院が認められた日から数日が経ったある日のことだ。そちらの方に人手を割いてしまったためにこちらの接客業や調合班の人員が減っていたが、それが解消されたことで感じていた忙しさがなくなり、通常業務に戻った。
薬などの販売を行っている治療院には多くの冒険者たちが来店し、販売されているポーションを見て周りながら、質の良いポーションを買い求め、ダンジョンへと潜って行く。
「ここがディアンケヒト・ファミリアの治療院か」
店の中に入ってまず目に入ってくるのはやはりその品揃えだろうか。数多くの薬やポーションをこれほどまで多く揃えているのはここディアンケヒト・ファミリアのみだろう。
例えば今手にとっている『
また、これより効果を高めた『
「ふむ。悪くない」
最近はオラリオで活動するうえで色々と金銭が入り用だった。アストレアが今後オラリオで活動できるように準備を整えねばならないし、間引かなければならない物騒な輩もまだ多くいる。
そういったことやダンジョンでの探索は備蓄していた多くのポーションを消耗した。値段は少しばかり高いがその分質に期待するとしよう。
「おや、貴方は……」
声がした方向へ振り向く。アーチャーよりもかなり背丈の低い見覚えのある姿の女性があった。
「君は確か、アミッドだったな」
腰元にまで伸ばした美しい白銀の髪を持った彼女は、以前ガネーシャ・ファミリアの依頼でダンジョンに潜った時に手を貸して貰った覚えがある。
「以前は世話になったな。おかげで彼らも助かった。礼を言おう」
「いえ、それが仕事ですので。ただ最善を尽くしただけですよ。それと、いらっしゃいませ。アーチャーさん」
アーチャーが今日この治療院を訪れたのは足りなくなった物を買い足すためだ。そろそろ塩と胡椒が切れるなと売り物の弁当を作っている最中に気が付き、それならばと他にも不足して来ているものを補充するために様々な店や露店を見て回っている。ついでに醤油や味噌などのあまり見かけないが是非とも使いたい調味料も探しては見ているが、中々出回っていないようだ。極東では必須でもここオラリオまでは広まっていないらしく、残念に思いながらあるもので代用してやりくりしているのが現状だった。
それとポーションもそろそろなくなりそうだと思い出し、先日縁があったディアンケヒト・ファミリアの治療院を訪れた。
「今日は何をお探しでしょうか?」
「そうだな。『
「ありますよ。全部でこれだけになります」
手早く算盤を弾いて合計金額を弾き出す。出た数字は決して安い物ではなかったが、アーチャーの顔に苦い表情はない。
「問題ない。一括で払えるよ」
空いた時間の殆どをダンジョン探索に出向いて効率良く魔石やドロップアイテムを集め、換金しているため、現在のアストレア・ファミリアの懐はかなり暖かいといえる。それでも突然の出費に備えたり、今後の活動次第では大金を使う可能性もあるため油断はならない。
「随分とたくさん買い込まれるみたいですが、お一人で使うのですか?」
「ん? まあそうだな」
特にマジックポーションはアーチャーの保有魔力の回復にも使えることが実際に試してみて判明している。現在のアーチャーは常に魔力が回復し続けている状態だ。それも少量ずつではあるのだが、これと単独行動のスキルを併用すればマスターなしでも半永久的に現界が可能になっている。規格外のEXランクと同じになるわけだが、戦闘行為を行ったり投影を多用すれば当然魔力は足りなくなる。
それを一度に大量の魔力を回復できるマジックポーションで補うのだ。
「はい、丁度頂きます。それとご注文の品がこちらです」
アーチャーが注文した品物を包んで手渡す。
「ありがとう。ポーションが切れた時はまた頼らせて貰うことにしよう」
「ええ。またのご来店をお待ちしております」
踵を返して店を出ようとすると、偶然店内での話し声が二人の耳に入った。
「今の話は何かね?」
「おや、知らないのですか? 最近では割と噂になっていますよ」
アーチャーの耳に入って気に留まったのは巷で話題となっている冒険者、所謂『正義の味方』だとか『救世主』だとか呼ばれている存在についてだ。
そいつはダンジョンの上層にも下層にもふらっと現れてはダンジョン内で死の危険に陥ったり、急の襲撃で追い詰められた時に駆けつけては矢のような物でモンスターを遠方から爆撃するように薙ぎ払い、モンスターを全滅させる。突然の出来事に呆けて我に返った時にはモンスターもそいつも消え去っているのだ。またさり気なく治療に使えとハイポーションが置かれている場合もあるらしい。
そんなケースが1件や2件だけなら気のせいや幻覚だと小馬鹿にされるだろうが、ギルドに寄せられている報告は既に数十を超えてもうすぐ百件に届きそうだという。
ちらっと姿を目撃した者も居たらしいが、紅と黒の人影を一つちらりと見た程度でしかなく、依然どこのファミリアに所属する者なのかすら分かっていないらしい。きっと凛としてクールな美女に違いないとか、金髪でイケメンに決まっているとか根拠の無い願望のみが先行しているらしい。
どちらにしてもその人に感謝の言葉やお礼の品を渡したいという冒険者が数多く集まってギルドの方でも対応に追われて行方や目撃情報を募っているが、進展は無いらしい。
「それはなんともご苦労なことだ。まあ助かる冒険者が増えることはいいことじゃないか」
素っ気ない態度で返す。だがアミッドは何かが引っかかった。全く他人事を言っているように聞こえないその態度にどうにも引っかかりを覚えた。確かあの時のアーチャーさんの服装は紅と黒の装備のはずだった。
「それはそうなのですが……。そういう人は珍しいと思いますので、話題になっているんですよきっと。その人が居ればきっと無事に帰れるって」
「だがそれで全ての人々を救えているわけではあるまい」
アミッドはその一言でどうにも悲しく、責務に疲れ切ったような声に聞こえてしまった。正義の味方の影と目の前のアーチャーの姿がピタリと重なるようで、首を横に振って振り解く。その一言で生まれてしまった正義の味方の幻影を目の前のアーチャーに重ねたくなかったからだろう。あの時の彼はもっと別の、優しい気持ちで居たはずなのだ。
「ああ、すまない。気が重くなってしまったな。今日はこの辺りでお暇しておこう」
「あっ、はい。またのご来店をお待ちしております」
この暗い雰囲気は耐え難かったため、アミッドは特に引き止めもせず挨拶をしてアーチャーを見送った。
「あっ、アミッドさん。ちょっとご相談が」
タイミングを見計らっていたのか後輩の団員の一人が声を掛けてくる。
「
「それは……困りましたね。ロキ・ファミリアに依頼を出しましょうか?」
呟くような声は、消えることなく近くに居た男にも聞こえていた。
深層。ここからは第一級冒険者でも一瞬の油断も許されないほどの危険地帯になる。出現するモンスターの戦闘力もだがそれ以上に牙を向く物がある。
ダンジョンに仕掛けられた天然の罠や多数のモンスターが一度に襲いかかってくるせいで常に気を張っていなければならず、碌に休息を取ることができない。
そのためこれより下の階層に潜るならば大人数のパーティを組む必要が出てくる。人数が減る程一人辺りの仕事量が増え、その分厳しくなる。ソロで潜れる者などおそらく一人しかいないだろう。
ダンジョンの50階層。深層に存在する安全地帯であるここに突然人が出現した。
「……ふぅ。ここまで丸一日弱か。やはり途中から霊体化に切り替えて正解だったな」
途中までは物陰に隠れてやり過ごしたり、数が少なければ奇襲して仕留めたりしていたが、27階層を超えた辺りからモンスターの一群の数が比べ物にならないくらい増えて来た。別にそれでもただ倒すだけなら問題はない。投影宝具を射出して『
だがそれは魔力を大量に消耗する。遭遇するたびにそんなことをしていればいくら自然に回復している魔力も保たない。そのため戦闘そのものを回避するために霊体化で姿を消して目的地にまで直行してきたのだ。
休息もそこそこに、ここからは姿を消さずに下の階層に降りる。なぜならカドモスの泉には『
パワーだけなら階層主『ウダイオス』より強い、51層では最強の存在だ。ドロップアイテムは『カドモスの皮膜』で大規模パーティの装備だけでなく様々な薬にも使用される貴重品だ。
マップ自体は既に先駆者達が済ませているので道に迷うことはないだろう。最短かつ比較的モンスターと遭遇しにくいとされるルートを選び進んでいくが、ここまで深い階層だとダンジョンは決して優しくはない。
「早速か」
現れたのは黒いサイのようなモンスター『ブラックライノス』だ。それが一度に大量に生み出される。数は凡そ30体程になるだろうか。単純に強靭な筋肉から繰り出される物理攻撃や硬い皮膚の防御は厄介で並の武器では刃が立たず折れるだろう。
「ハッ!!」
存在を認めて瞬時に弓と矢を投影。それらを群れ目掛けて射ち出す。アーチャーが使う剣の数々は眼の前の敵に刃が立たないような並の武器ではない。高速で飛来する剣の矢はブラックライノスの尽くを切り裂き貫く。魔石を砕かれた個体は灰と化し、そうでなくとも頭などの致命傷となり得る箇所に矢を受けた個体はそのまま絶命する。
「こうすれば資金には困らんな」
さっと魔石をくり抜いて回収する。砕けて回収できなかった物を除いても20程の魔石を回収できた。これでも相当な稼ぎになるだろう。
この後数回モンスターと鉢合わせたり、産み出されたモンスターに囲まれかけるが、魔力の消耗だけで切り抜けることができた。
「さて、問題はここからだが……」
この曲がり角の先がカドモスの泉だ。ほんの少し顔を覗かせて先の様子を確認する。するとやはりというべきか巨大な竜が居座っていた。資料の見たことがあるが、あれがカドモスで間違いないだろう。
「では、行くか」
曲がり角から飛び出し、カドモスがこちらに気付く前に先手を仕掛ける。まずは矢を数本投影し走る勢いを弱めることなく射掛ける。カドモスの横っ腹にそれらが刺さるがそれだけで大したダメージにはなってないだろう。
「やはり一筋縄ではいかないな」
こちらに気がついたカドモスが振り返り、階層主すら上回るパワーで押し潰しにかかる。視界を埋め尽くすほど太い腕が横薙ぎに振るわれ、空を切る。
顔を上げたカドモスの視線には既に空中に跳び上がったアーチャーがおり、既に新しい矢を投影し終えて弓に番えている姿が映っていた。
「――――
―――
捻れた剣が撃ち出される。空間をも削り取りながらカドモスの背中に突き刺さり抉る。想像もしていなかったであろう痛みに呻き声が上がる。それでもなお命尽きずに抵抗の意志を見せる様は自分に与えられた使命によるものだろうか。
「終わりだ」
落下してきたアーチャーが投影した剣を脳天目掛けて突き刺す。カドモスの硬い鱗を豆腐を切るかのように突き刺さった剣が確実にカドモスに止めを刺し、引き抜きその太い首も刎ねる。完全に命を絶たれたカドモスの体が灰へと変わり、大きな魔石とドロップアイテムを残して消え去った。
カドモスは間違いなく強敵だった。パワーは知られているモンスターの中でも実質トップで鱗の硬さも強靭なタフネスも相まって階層主にも引けを取らないが、相手が悪かったとしか言えないだろう。
アーチャーはカドモスクラスの敵を相手に引けを取らない歴戦の英霊だった。それに、カドモスと同等以上に筋力があり、硬く素早さもあり、そしてなにより巧く戦う存在を知っている。
「なんとかなったか」
泉水を投影した容器に移し、消耗した魔力を回復するためにマジックポーションを飲みながら今の戦闘を振り返る。
あれは奇襲が上手くいったからこその結果だろう。正面から相対しての戦闘だったらこうまで上手くはいかなかった。負けることはないにしても、勝つか撤退するまでの間にダメージは避けられないというのがアーチャーの見解だ。
「これくらいあればいいだろうか? いや念の為もう一箇所も回っておこう」
近くにある他のカドモスの泉に気配を殺しながら移動する。だが妙な胸騒ぎがするのが気になっていた。杞憂ならば良いのだが、こういった悪い予感というものはアーチャーの経験上、良く当たってしまうのだ。
目的地に近づくにつれて鼻につく嫌な匂いが漂ってきた。それに居るはずのカドモスの気配が無い。
「これは……」
眼の前の光景に思わず絶句してしまった。あちこちに何らかの腐食性の液体で溶かされた草木の跡が残っているが、驚くべきはその先にある灰になったカドモスの死体だろう。魔石は見当たらないが、ドロップアイテムの皮膜は放置されたままだ。カドモスの皮膜は入手の難度と素材の加工先が多岐に渡るため非常に高価で取引される。それを放置する冒険者は絶対に居ない。
つまりこれは冒険者ではない何かが引き起こした惨状なのだろう。
結果的に守る者が居なくなった泉水を回収しながら何が起きたのか分析するが大体は想像できる。この階層で生まれるモンスターではカドモスには束になっても敵わない。つまり完全新種のモンスターが現れたということなのだろう。
単体か複数体か。詳細は分からないがこれから取るべき行動は逃げの一手しかあり得ない。既に目標は達したし、わざわざ深入りして手痛い打撃を受ける気はないからだ。
泉水を回収してすぐに地上に引き上げようとするが、どうやら手遅れのようだった。
「くっ、参ったな」
通路を埋め尽くす程の群れで押し寄せてくるモンスター達が居た。極彩色の体表と足のような触手の生えた芋虫のようなモンスターだ。口の中に何かを発射する管のような物もある。
そこから腐食液を撒き散らし、カドモスを数と腐食液で溶かして殺したといったところか。
アーチャーは敵の姿を認めた瞬間、そいつらが来る方の通路の反対の通路へ駆け出した。流石に未知の相手と相対して愚直に突っ込む程アーチャーは馬鹿ではない。背を向けて走って逃げるが、彼我の速度はほぼ互角といったところで、ただ走って逃げ切れるか微妙とみた。
逃げるアーチャー目掛けて芋虫型モンスターが液体を噴射してくる。十中八九あの腐食液だろう。アーチャーはそれに目掛けて短刀を二本程投影して投擲するが、腐食液に触れた瞬間に短刀の方が溶けて跡形もなくなった。
(金属で出来た剣が跡形もなく……。ミスリルとアダマンタイトで出来たヘファイストス・ファミリア製の武器だったのだがな。まともに被れば手足が溶け落ちるか失明もあり得るか)
アーチャーは逃げながらもこれから取るべき戦術を練る。あの腐食液は驚異的だが、気をつけるべきなのは一点だけだ。液体に触れても溶けないであろう
「ここはやはり、試してみるか」
頭の中に武器のイメージを走らせる。イメージするのは一本の名剣。決して折れず、曲がらず、刃毀れしない概念を持った宝具だ。
「デュランダル!!」
今ここに投影された伝説の名剣を立ち止まり振り向きながら横薙ぎに振り抜いた。直接剣に触れたモンスターとあまりに切れ味が良好過ぎるが故に発生した真空波がその後方のモンスター毎切り裂いた。
確かな手応えを感じたアーチャーだったが、顔を驚愕させた次の瞬間に後方へ大きく跳んで下がった。切られて力尽きたモンスターは信じられないことに爆発し腐食液を周囲に撒き散らしたのだ。
「絶命すると爆発する腐食液の貯蔵タンクでもあるモンスターか。質が悪すぎる。肝が冷えたぞ」
だが腐食液を被った同種のモンスターも腐食液に対しては耐性が無いらしく、至近距離でそれを被ったモンスターが絶命し、また爆発してを繰り返している。運がいいことにそれでそいつらも壊滅したようだ。
「今のうちに退却するべきだな」
モンスター達を尻目に頭に入っている地図を頼りに地上を目指し始める。
(気のせいだろうか。どうにも私個人に固執していたようにも見えたが……。)
気のせいであって欲しいと願いながら、ダンジョンの迷宮を走り抜ける。
それが気のせいではなかったと判明し、オラリオに根付く闇に関わってしまうのはまだ当分先の話だ。
「もうこんな時間ですか……」
時刻はもう遅く、日はとうに沈んでしまい昼間は繁盛していた治療院も客足が遠のいて静まり返っている。もう間もなく訪れる閉店時刻を迎えるれば一息つく暇も出来る。この後にまだ本日の売上の勘定や戸締まりなどの雑務もあるが、今日の勤めはほぼ終わったと言っていい。
そんなディアンケヒト・ファミリアの治療院にカランと鈴の音が響いた。
「あっ、貴方は……!?」
店に入ってきたのは最近何かとよく見るあの人だった。だが様子が普通じゃない。前に店に買い物に来た時は黒のシャツとズボンだったが、今は紅い外套と黒のボディアーマーと初めて会ったあの時と同じ格好をしていた物が、その外套が乾いた血と埃で汚れていた。
「一体どうされたのですか!? すぐに治療しないと!!」
「落ち着け。傷口は塞がっているし、返り血の方が多いから大丈夫だ。ただ急いで戻って来たのでね。こんな格好だが許してくれ」
とてもじゃないが大丈夫と言われてそうですかと言えるような格好ではなかった。こんな重症を負うような場所はダンジョンしかないが、一体どこまで潜って来たのだろう?
「これを取って来た」
「これは……、カドモスの泉水!?」
それは確かにカドモスの泉水だった。ダンジョン51階層でしか採取できない高価で貴重な素材だ。だがこれを獲得するに51階層まで行くしかないが彼が最後にここに訪れたのは一昨日のことだった。第一級冒険者でもパーティを組まなければまず五体満足で生きて帰ってこれない場所なのに、たった一人でそれも二日程度の時間で往復できるなんて人間業ではない。それこそレベル7のあの男ならば別だろうが。
「先日たまたま耳に入って来たのでね。必要なのだろう?」
「ええ、確かに必要ではありますが、これを一体どうやって? いえそれよりどうして関わりの無い貴方がこれを取りに……」
アミッドがその先を口にすることはなかった。首を横に振るアーチャーが暗にその先を言わないでくれと頼んでいるようだったからだ。
「そうですか……。事情がお有りのようでしたらこれ以上詮索は致しません」
「すまないな」
「いえ、そういうお客様も割と多くおりますので。それで泉水の買い取り金額なのですが、こちらで如何でしょうか?」
「いや、それの三分の一でいい」
「えっ?」
「これから長い付き合いになりそうなのでね。少しでも貸しを作っておけばそちらを頼る時に頼みやすくなるからな」
「それはそうですが……」
今回助けられたのはこちらだ。こちらはエリクサーの材料を早く、より安く手に入れられたが、代わりに彼が少なくない傷を負った。これで受けた借りは決して少しなんかじゃない。
「せめてこれを受け取ってください。疲労回復によく効くポーションです。もちろんお代は要りません」
「そうだな。貰おうか」
それと彼が今回のダンジョン探索で使ったポーションを補充して泉水の代金と一緒に袋に詰める。補充したポーションの代金は泉水の代金から差し引いたが、さり気なく割引している。
「今回は本当に助かりました。今後もご贔屓願います」
「ああ、また来させてもらうよ」
キィと木製の扉を開ける音が響く。
「ああ、そうだ」
「どうされましたか?」
アーチャーは背を向けながらも顔だけはこちらを見据えていた。
「君は関係無い私が取りに行ったのかと聞いて来たが、私も君たちと同じく困っている人を見過ごせない質らしい。いや、その生き方しかできなかったと言っていい。いいじゃないか、『正義の味方』。―――なんでか、妙に張りたくなる」
アミッドはそう言い残して退店した彼から目を逸らさずに見送った。後日、依頼されたエリクサーが予定よりも早く完成し、無事依頼主に届けられたという。急な対応にもしっかり対応してくれるとしてディアンケヒト・ファミリアの評判は更に高まるが、そこに名も知れぬ冒険者の功績があったことは知る由もないが、アミッド・テアサナーレだけは冒険者への感謝をいつまでも覚えているだろう。
リューとの再開編、どっちがいいですか?
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平和ルート。特に何事も起こらず
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ひと悶着ありルート。幸運:Eじゃ仕方ない