痴女っこの震えが収まったのはユーノ少年の努力の成果だと思う。
この痴女っこにクロノ少年の不器用な優しさは伝わり難く寧ろ……。
「黙れシロノ。それで、君たちは何故ジュエルシードを集めていたんだ?」
ビクリ と痴女っこは肩を震わせた後、ユーノ少年の服をチョイチョイと引っ張り耳元に顔を寄せて行く。
「ユーノ、あのね………だよ」
「ああ……うん。えっと、あなた達にその事を教えるつもりはありません…だって」
「そう……か。では、君たち以外にジュエルシードを探索している魔導師は?」
「ユーノ……」
あ、地味にクロノ少年が傷ついてる。
確かに今までの犯罪者でないパターンだものね。
威勢良く啖呵を切る奴とか、勇ましく白を切る奴とかいても小動物が怯えるようにあからさまに怖がられたの初めてだよね。
そしてそこの狼娘。クロノ少年の姿に笑いすぎ。
クロノ少年の額の青筋の八割は君の所為だぞ狼娘。
「えっと……そんな事を教えると思わないで下さい…だって」
「では……ジュエルシードを運んでいた船を落としたのは君か?」
「もがっ」
あ、とうとう我慢できなかったんだねクロノ少年。
狼娘の口がバインドで雁字搦めだ。
その光景をビクリ と震えて見た痴女っこは……。
「アルフを虐める人に教える事は何もありません……だってさ」
「………探索に行ってくる」
心が折れたクロノ少年は立ち上がってフラフラと窓に手をかけた。
いや、何か人生を儚んで自殺する人みたいだよ少年。
「シロノ……済まないが真面目に黙っていてくれ。ついうっかり消してしまいそうだ」
O.K Boss!
黙っていましょう許可出るまで!
だからお願い殺さないでぇぇぇ!!
そして、ユーノ少年。あとは頼む。
スーパークロノタイムはきっと戦闘でしか役に立たないのだ。
「あ〜うん。了解。クロノ、ここは任せて当分は外出歩いていいよ」
「分かった」
俗に言う 邪魔だから帰ってくるな を優しく言ったユーノ少年にクロノ少年はそれだけ返事すると空に飛びたった。
とは言ってもすぐに地面に足を着けたが。
ここはクロノ少年がこの世界に来て気に入った公園だ。
クロノ少年はここの屋台にあるカレー味チーズ味の鯛焼きを好んで食べている。
鯛焼きでカレー味チーズ味とは中々渋いなクロノ少年。
因みに俺はお好み焼き風とこの世全ての辛味なる麻婆風が好きだ!!
「麻婆風はもう絶対食べないからな」
と、クロノ少年が死刑宣告してくれやがりました。
何故だ……何故麻婆がダメなんだ…。
君には分からないのかクロノ少年……あの唐辛子を百年くらいつけた上に奇跡の合体を果たした神々しい赤の旨味が!!
「事故と禍々しいの間違いだろう。兎に角、僕はもうあんなものは食べないからな」
なんでだよ!確かに胡散臭そうなおっさんが麻婆風だけ限定で作ってたけどいいじゃないか麻婆風!!
「麻婆が悪いわけじゃない。あの麻婆が麻婆と言う名のナニカだから食べたくないんだ」
どうやら説得は無意味らしい。
ああ、さよなら麻婆……俺が体を手にするまで。
しかし、それにしても……見事に嫌われたもんだなクロノ少年。
アニメではわりと仲のいい兄妹だったのに。
「当然さ。君の知っている僕らと今の僕らは別人だ。君には何度も言っているはずだぞ……僕は君の知る僕には絶対にならないと」
それはクロノ少年の決意で絶対のルールだ。
クロノ少年は人助けの為になら俺の記憶を最大限に活用する。
それと同時に……クロノ少年は俺の記憶で知り得た己の未来へは絶対に足を向けない。
エイミィと迎える幸せな生活も、フェイトを加えた暖かな家族も、なのはを中心に出来上がった確かな絆も。
クロノ・ハラオウンはいらないと断じたんだ。
それは、アニメのクロノ・ハラオウンが先の見えない未来へと手探りで探り当てた結果得た優しい場所であり、現在のクロノ・ハラオウンの様に未来を知った者の居場所ではないと言う。
「僕はこれからの人生でアニメの僕とは違う事を経験して、思って、考えて行くのだと思う。なら、最初から彼と同じ道をなぞろうとするのは間違いだ。
僕は僕の道を行く。その結果、彼と同じ様にエイミィを好きになっても彼とは違う過程だろう。片想いになるかもしれない。もしかしたら僕自信が別の誰かを好きになるかもしれない……とにかく」
クロノ少年は水面に映る自分の……いや、俺の顔に真剣な視線を向ける。
「僕は君に証明してみせる。ここは物語の世界じゃない。僕たちは物語の登場人物じゃない。僕たちは……現実に存在する人間で、今ある最善をやることしか出来ない存在だと。その結果が良かれ悪かれ……ね」
そう言い終わると口内にカレーの味が広がった。
そう、きっとこれは俺の罪のひとつ。
クロノ・ハラオウンは強い存在だ。強い存在であるから……彼は俺の勘違いを正そうと、正し続けようと己の……辿り着くはずの未来を捨てた。捨てさせてしまった。
そして、クロノ・ハラオウンは言うだろう。
こうやって彼に幸せを捨てさせたと考えること自体が勘違いなのだと。