憑依出来なかった憑依主人公   作:GIZEN

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みんなの事情シリーズはシロノ以外の視点の物語に必要な外伝シリーズです。



みんなの事情①

リンディの事情

 

いつからであっただろう?

自分の息子に不審な行動が多くなったのは。

ギル・グレアム逮捕の時であったか?

それよりも……前からであったか?

何処か必死にもがくようで、それでいて何処までも効率的にスムーズに生きる様な在り方。

思えば、今回の長期休暇にしても怪しい所がある。

代休も取らず我武者羅に働いていたかと思えば溜まりに溜まった休みを一ヶ月間も取り、果てにはその休みを全て管理外世界で過ごすと言う。

そして、クロノがその管理外世界に行って五日後にその管理外世界周辺で一船の運搬船が堕ちた。

 

「エイミィ。この情報は確かなのね」

 

「はい。でも、クロノくんに限って……」

 

「この仕事ではね……珍しくないことよ。管理局に絶望する局員は意外と多いの。優秀な身内がいつの間にか敵になることもね」

 

息子を信じたい母の願いと対立する客観的な管理局員の視点。

せめぎ合う願いと使命が私を苦しめる。

それでも、私の指針はどうあっても変わらない。

私は……息子を…クロノ・ハラオウンを重大な次元犯罪の容疑者として調べる。

 

「エイミィ…私のレイジングハートの調子はどう?」

 

「はい、整備の方は完璧みたいです。……本当に行くんですね」

 

「ええ、アースラが動かせない。疑いがあっても証拠が無い。なら、私が個人的に調べなければならないわ」

 

何よりも……せめて。

大切な息子が犯罪に手を染めているのなら……自分の手で捕まえてあげたいから。

 

 

 

 

 

 

転移の光が消えて世界が広がる。

この世界は魔法科学が発展していないため魔力の変わりに電気やガソリンなどの油が主燃料であるらしい。

でも、ここはそう言う世界のわりにガス臭さがなく、寧ろ何処か空気が澄んでいる様な気がする。

 

「いい街ね」

 

感想があるとすればこの一言。

将来、引退して落ち着くならこういう街がいいと思う。

まあ、兎に角今は拠点を見つけなければならない。

近くに何処か宿泊施設はないだろうか?

 

「ええ、その言葉には賛同するわ」

 

しまった。反応が遅れた。

一瞬の気の緩みが全てを台無しにした。

視界に広がるのは紫色の雷光。

おそらく殺傷設定のそれが何度も何度も体を貫く。

辛うじて展開したバリアジャケットもそれには生命維持程度の役にしか立たない。

 

「これ以上。私の計画を邪魔される訳にはいかないのよ。生きていたなら……せめて殺さないであげるわ。さよなら……管理局の魔導師さん」

 

ああ、なんて不様なのか。

息子を探しに来て……何も出来ないまま何て…。

 

(誰か……誰か私の声を…聞いて。力を…貸して…魔法の力を……レイジングハートを)

 

その言葉を確かに感じるクロノとその周辺の魔導師達だけを除外して無差別に飛ばした。

誰か、どうか……この声に答えてくれますように…。

 

 

 

 

 

 

アルフの事情

 

正直に言ってあたしは今の状況を気に入っている。

例え、それが管理局の連中に囚われている立場だとしてもだ。

クロノは生意気で不器用だけどいい奴だってことは分かるし、ユーノに関しては文句の付けようが無い程いい奴だ。

そのおかげで……フェイトは本当にユーノには楽しそうな笑顔を見せるようになってきた。

クロノには……まだ警戒心があるようだけどね。

 

「さて、僕は探索にでる。ユーノ、彼女達の見張りを頼む」

 

「分かってるよ。心配しなくても大丈夫だ」

 

さて、あたしとしては逃げるつもりはない。

寧ろこの時間が長く続けばいいとすら思ってる。

でも、フェイトは違う。笑ってはいても何時も逃げる隙を伺ってるし、鬼ババアの事を心配すらしている。

ただ、ユーノを傷つけてまで……ていう方法を無意識で除外しているんだろうけど。

その点を考えてクロノって奴は利口だ。

何か用事があればユーノを残してあいつが外に出る。自分がここに残れば戦闘になる可能性を考慮しているみたいだ。

本当、抜け目の無い嫌な奴。まあ、今はそれが有難いんだけどさ。

 

「アルフ、母さんは大丈夫かな?」

 

「心配することないよ。あの鬼ババアなら今頃、別の方法でジュエルシードを集めてるんじゃないかい?」

 

でも…… っとフェイトは呟く。

本当は分かってるよ。フェイトが本当の意味で幸せになるにはあの鬼ババアが必要なのはさ。

でも、それでも……あたしには納得がいかないんだ。

リニスを消して、自分の娘にも酷いことをして……目的の為に手段を選ばないあいつが。

 

(聞こえるかしら……フェイト)

 

だから、この声を聞いた瞬間。

あたしの心は絶望に染まった。フェイトの驚いた、嬉しそうな顔を見ながら……。

 

「どうしたのアルフ。君が食事に手をつけないなんて」

 

「な、何でもないよ。ユーノ、ちょっとあたしはお腹空いてないからさ…眠らせて貰うよ」

 

自分の表情でユーノに悟られては不味い。

狼の形態に戻って身体を丸めて鬼ババアの念話に集中する。

あの鬼ババアがフェイトを探して念話の使用可能範囲に来たとは考えずらい。

きっと、ジュエルシードを探していたに違いない。

 

(それで、管理局から逃げられずに怠惰をうってる訳ね……本当に使えない)

 

(ごめんなさい。母さん……今すぐ…ここから逃げ出してジュエルシードを探します)

 

ああ、とうとう終わりの日は来たのかと思う。

フェイトはきっと母の願いを実行する。それが、どんなに自分の苦痛になるとしても。

悔しくて歯ぎしりをならす。本当に……なんでこんないい子がこんな目に合わなくちゃならないんだ。

 

(本当に使えないわね。いい、フェイト。貴女はそのまま管理局と行動なさい)

 

だから、その言葉の意味が分からなかった。

フェイトも困惑した表情を浮かべる。

でも、その言葉はあたしに……フェイトに…ただ逃げろと伝えらるよりも…ずっとずっと酷い言葉を伝えるためのものでしかなかった。

 

(そこのお人好し達の信頼を勝ち取りなさい。いっそ共闘してもいい、友情でも恋人になってもいいわ。そして、ジュエルシードが……そうね、八個集まった時に……彼らから奪って私の下に持ってくるのよ)

 

ああ、神様。

フェイトが何をしたって言うんだい?


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