憑依出来なかった憑依主人公   作:GIZEN

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黒の嘆き

あれから数日たったが、クロノ少年の探索は今だに成功を納めていない。

アースラの援護なしではどうしても後手に回ってしまうし、俺の記憶にあるジュエルシードだって街の特徴を大雑把に知ることが出来ても、それが何処にあるのかはクロノ自身が調べ回らなければならない。

良く、二次創作では確かこことか言って、わりと直ぐに見つけているけど……現実ってこんなものなんだな…と思う。

だけど、それよりも……

 

「シロノ…。確かにここにジュエルシードはあったはずなんだな」

 

ああ、そうだ。

ジュエルシードは確かにここにあった筈なのだ。

しかし、最近はそれをクロノとは違う誰かが先に回収している形跡がある。

 

「……考えられる勢力は、プレシア・テスタロッサ自身が直々に探索に出たか。闇の書の騎士達が何かしらの可能性を見つけたか。イレギュラーが現れたか……か」

 

それだけ言うと、クロノ少年は辺りの魔力の残留と戦闘の形跡を調べ始めた。

みるみるクロノ少年が不機嫌かつ警戒するような心境になって行くのが手に取るように分かる。

 

「プレシアにしては魔力の運用に無駄がある気がする。騎士達にしては戦闘の痕跡が荒々しすぎる。その癖、魔力の残留は濃い。よほど、魔力残量に余裕のあるリンカーコアの持ち主だろうな」

 

クロノ少年がなにを考えているか想像はついた。

転生者或いはオリキャラ。その何方かがとうとう世界に介入して来たのだ……と考えているのだろう。

 

「くっ、まともな思考の持ち主ならいいが……それ意外なら危険な綱渡りをする事になりかねない」

 

でも、俺としてはこれ転生者でもオリキャラでもない気がするんだよね〜。

だってさ、転生者やオリキャラにしては証拠が残りすぎてる或いは残らな過ぎだもん。

証拠隠滅系の能力ありならクロノに気付かれないだろうし、そんなの気にしない奴ならもっと暴れると思う。

 

「……なるほど。そちら関連の方は君の方が詳しいし、判断は任せるさ」

 

だが、しかし……とクロノ少年は頭を捻る。

確かに、クロノ少年と俺の理屈が確かならジュエルシードを回収した人物は不明瞭となる。

形の無い第三者。これはある意味、転生者やオリ主よりも厄介だ。

 

「あっ……いや、しかし…だが…」

 

突然、クロノ少年が何か思い当たったのか顔を青ざめさせた。

あり得ないとか、でもそれならとか、いやそれでもと言って顔をふかせる。

 

「シロノ、月村邸の猫騒動は……時期的にはそろそろだったな?」

 

ん?確かにそうかも。

詳しくは知らないけど、わりと序盤の方だったし……ああ、悪魔っこが魔法使えないんじゃ三人娘危ないか。

 

「ああ、僕の予想が間違ってなければ危ない。僕の予想が当たってれば……僕が危ない」

 

イマイチ容量の掴めないクロノ少年の言葉に頭を捻らせるが……ただ、近いうちに分かるとしか伝えられなかった。

と言うか、何で俺の思考はただ漏れなのにクロノ少年の思考は大雑把にしか捉えられないの?ズルくない?

 

 

 

 

 

 

で、数日後。

クロノ少年の努力と言うなのストーカー行為の結果、猫さんは無事にジュエルシードを起動させた。

うん、外道だよクロノ少年。幾ら囮とはいえ幼気な猫さんに……外道だよ。

 

「黙れシロノ。僕だってやりたくてやってる訳じゃない。綺麗なだけじゃ何も成し遂げられないんだ」

 

まあ、それが世界の仕組みだね。

綺麗な理想の為にほんの少しの汚れから目を逸らして、尊い願いの為に多少の願いを踏み躙る。

誰でも意識的か無意識的に行う自然の摂理だね。

 

「………」

 

だけど、俺が心配してるのはさ。

クロノ少年はそれを容認出来ない人間だってことだよ。

クロノ少年は……こんなはずじゃないと哀しむ人間を救う……正義の味方だろ?

 

「君の記憶の言葉ではこんな言葉があったな。一殺多生。一つの命を斬り、多くの人を生かす。ああ、僕は確かに全てを救いたい。犯罪者も一般人も誰一人取りこぼしたくない。その為の魔法だ。だから、多少の犠牲を強いる。哀しみを無くしたいと願いながら……いや、言い訳はやめよう」

 

前から思ってたけど、クロノ少年は俺の好きなアニメ、運命の弓兵と主人公を足して2で割ったイメージがある。

犯罪者を見捨てるような判断をしたかと思えば、犯罪者を救えなかったと憤る。

親の仇と冷静さを喪ったかと思えば、彼女達は被害者だと救う道を模索する。

それは、まるで自分の心を蔑ろにするような所業だ。

 

「随分持ち上げてくれてるみたいだが、僕はそこまで立派な人間じゃない。彼はどうかは知らないけど……僕は今だにヴォルケンリッターに関してはやり切れない感情があるんだ」

 

クロノ少年はS2Uを駆動させる。

やりきれない感情と嘆きが俺にのし掛かる。

 

「やはり、上手くはいかないんだな……。まさか、母さんが……その役割をするとは思わなかったけど」

 

対立するのは黒と白。

色だけは原作と全く同じだ。

ただ、黒に従う狼は無く、白はフェレットの代わりに妖精と共に有る……。

 

「貴方は!?」

 

白の言葉が疑問を投じ。

 

「時空管理局、執務官……クロノ・ハラオウンだ」

 

黒はそれに応えた。

 

「ところでシロノ。さっきから五月蝿いぞ」

 

……いいじゃんカッコつけて!

俺はこんな事くらいしか出来ないんだからさ!!




タイトルを一種のダジャレと気付いてくれた上に引かなかった人に感謝します。

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