クロノ少年が猫に杖を向ける。
瞬間、脚に、胴体の三箇所、首、計八ヶ所に青い輪っかが現れて瞬く間に巨大猫は拘束された。
まあ、クロノ少年は悪魔っこと遭遇する前から魔法の準備してたし、このくらいの芸当は朝飯前なんだろうけど。
「なのはさん。気を付けて……彼はとても危険な魔導師よ」
「うん、何となく……分かるよ」
ジリリ と身構える悪魔っこの姿にクロノ少年は何の脅威も感じてはいない。
寧ろ、クロノ少年は妖精の方に気を向けていた。
「母さ……君は…何者だ?」
「私はリンディ。……おそらく時空管理局の魔導師です」
……はい?
いやさ、確かにクロノ少年が現れても何の反応もないからおかしいなって思いましたよ?
でも、おそらくって何さ?
と言うか、何でそんなにちっこいの?
いや、俺はリンディによく似たユニゾンデバイスだと思ってたんですがぁ!!
「…なら、何故武装をとこうとしないんだ。君も管理局の一員なら……」
「私は貴方を重大な次元犯罪者だと疑ってここに来たのよハラオウン執務官。この世界に来てすぐ……おそらく貴方に襲われて記憶を失ってしまったけども……そのことだけはデバイスに記録していたわ」
……ひでぇ。なんすかその言いがかり。
と言うか、犯罪者と疑う?何処にクロノ少年がそんな事する理由があるのさ?
こいつは根っからの正義の味方なんだぞ!
「成る程、確かに最近の僕は疑われても当然なことをしていたのだろう」
しかし、クロノ少年はそれを肯定した。
いちいち声に出しているのは俺に状況説明するためか?
「僕が休暇を取ったタイミング、場所、輸送船の謎の墜落、ジュエルシードと言うロストロギアの騒動。全てが確かに……出来過ぎている」
ん?
「さらに言えば、この事件の下準備でもするようにこの世界に詳しいギル・グレアム及びロッテとアリアの逮捕。恩師に対しての情など持ち合わせないような処罰」
うわぁ……。
「ええ、どれをとっても……貴方の行いは…この件とは無関係とは言えないわ」
その……はい。
めっちゃ怪しいね。もう、疑ってくれと言わんばかりの怪しさだよクロノ少年。
そこの悪魔っこ九歳児にも理解できるラスボス臭だよ。
全部勘違いとも言い切れないしな!
「教えて。何でクロノ君はジュエルシードを集めてるの?
何で同じ管理局のリンディさんを襲ったの!!」
いや、もうお手上げです。
完全に悪魔っこと妖精さんはクロノ少年を犯人と確信してますね。
クロノ少年もクロノ少年で頭が痛いと額に手を置く。
これが、二次創作で噂される世界の修正力ですね。
都合悪いことばっかり非現実的とか苛めですか?
「……君たちは勘違いしている。僕の目的は…」
次の瞬間、雷光が鳴り響いた。
クロノ少年が呆気にとられた表情を浮かべる中、金色の魔力光が悪魔っこと妖精さんの視界を遮る。
「電気への魔力変換!やはり、貴方が…」
「お願い、クロノ君話を聞いて!」
「いや、待ってくれ!これは僕の意思では…」
犯人確信が犯人認定となった瞬間である。
え?何この状況?
混乱の極みにくる俺の頭。
そんな時に一つの念話。
(クロノ、フェイトが援護している間にそこを離脱するんだ!)
「待て!ユーノ……彼女は…」
(ユーノに聞いたよ。酷い人たちがクロノを殺そうとしてるって)
ああ、凄いぞKA☆N☆TI☆GA☆I。
ここまで来ると芸術だ。まあ、なのはの魔力を知らないユーノからすれば彼女こそが転生者に見えますよね。
痴女っこは……いつの間にか絆されてた?
いや、ユーノ少年がクロノ少年の位置なら分かるけど……。
「頼む!本当に待っ…」
「なに、ぼさっとしてるんだい!逃げるんだよ!!」
「ってくれぇぇぇ!!」
響くのはクロノ少年の声と狼娘の怒号。
ああ、もうどうにでもな〜〜れっな状況に。
いや、しかし中々手癖が悪いなクロノ少年。
ジュエルシードはちゃっかし回収してるんだね。
そして、クロノ少年の目の前には土下座した三人の姿だけが残った。
いやもう、最近カッコ良く決めてた代償がここで支払わされたねクロノ少年。
「何で……君たちは…あんな……軽率な…真似をしたんだ!!」
あれ?
何時もなら黙れとか言うのに……クロノ少年?
「だって、あの緑の髪のやつ……絶対奴らの仲間じゃないか」
「そうだよ。ユーノから聞いたけど、あの子たちは魔導師に人殺しをさせて愉悦に浸ってるんでしょ?」
ああ、ユーノ少年。
彼らは別に人殺しで愉悦に浸ってませんよ〜。
ただ、一殺多生を文字のまんま生きてる……ん?
大切な人だけ守るなら他殺一生?
あれ?でも、結果的に多くを救えてるの多いから一殺多生?
「かっのっじょっは……僕の母さんだ!」
空気が冷たい。
暴風中心点は俺の宿主。
晒されてるのは目の前の少年少女見た目大人の少女。
「え、でもじゃあ…あの馬鹿魔力の持ち主は…」
「彼女が……なのはだ」
諦めたように呟くクロノ少年。
気まずそうに目を逸らすユーノ少年。
不思議そうに小首を傾げる痴女っこ。
我関せずのアルフ。
うん、転生者やオリ主を警戒しすぎたね。
「だいたい、ユーノ……君なら僕たちの会話である程度把握出来たんじゃないか?」
気まずそうなユーノ少年と何故か慌て出す痴女……。
「シロノ、そろそろその呼び方は止めろ。消すぞ」
もといフェイト嬢!
やめて!ただ、特徴的な格好だからそうイメージ付いただけだから!!
全力で訂正するから謝罪するからぁぁぁ!!
「えっとね。それは私のせいなんだ」
フェイト嬢がそう言うと渋々といった様子で不格好なクッキーを取り出した。
「料理はリニスから教わってたけど……お菓子の作り方は分からなくて」
「友達になる為の仲直りの証だって。ぼくも貰ったんだよ」
ユーノ少年の手には明らかにクロノ少年のよりも出来のいいクッキーが握られていた。
が、まあクロノ少年的にはそんな事はどうでもいいのだろう。
喜び、疑問、と言うか怒るべき?
と、ごちゃ混ぜの感情を抱え込む。
「……幾ら、嬉しかったとはいえ…探索中に余所見をされては困る」
「ごめんなさい」
「ごめん」
「困るのだが!」
思わず苦笑した。
クロノ少年の悪い癖だ。
不器用な優しさも、不器用な喜びも。
「君たちは協力者で僕も本来勤務外だ。一度くらいは大目に見るさ」
その言葉と同時にフェイト嬢は瞳いっぱいに涙を流し始めた。
初めての友人達を得て嬉しかったのだろうか?
ごめんね と言いながら泣く彼女にクロノ少年とユーノ少年は狼狽えるばかりで……俺としてはとても微笑ましい光景だった。
ただ、不思議だったのは……狼娘だけが、何故か俺たちから距離をとり俯いていた事だ。