暗殺教室 〜幽霊が見える生徒〜   作:稲葉 諸共

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幽霊教室 1限目 幽霊の時間

椚ヶ丘中学3年E組。劣等生や問題児が集められた落ちこぼれクラス。

E組の教室は他とは違い山の上に建てられている。E組の生徒は険しい山道を毎日登校して行かなければならない。

 

今まさにその山道を登る少年が1人。彼もE組の生徒である。彼は何処にでもいる普通の生徒だった。

 

ある一点を除けば…

 

 

「ん?」

 

山道を登り切り校舎に向かおうとした彼は、少し離れたところに佇む1人の女性に気がついた。見知った顔だった。少し前までは同じ教室にいた人なのだから。

 

だからこそ驚いた。

その人の身体がおかしい事に、

その人の身体が透けている事に、

 

「雪村先生? アンタ死んだのか?」

 

『崇道…君??』

 

 

 

3年E組 崇道 幽太(すどう ゆうた)。彼は幽霊が見えた…。

 

 

 

 

 

 

 

「ヌルフフフフ…! 私が月を壊した犯人です」

 

クラスを襲う静寂。まるで時間が止まったかの様に、皆言葉を発しない。しかし、皆の心の声は1つに重なった。

 

((((いや、まず5、6箇所ツッコませろ‼︎‼︎‼︎‼︎))))

 

 3年E組の教室にやって来た『黄色いタコ型生物』。

クラス全員の視線が正体不明の生物に突き刺さる中、彼…崇道 幽太の視線だけは隣の人物…いや、幽霊に突き刺さっていた。

 

 

『ほわああああ!///// ほわあああ!/////』

 

元担任・雪村あぐり。

タコ相手に目をハートにして興奮している、ズレた感性の持ち主だ。

 

(うるせぇなコイツ…)

 

雪村あぐりに冷たい視線を送っていると、タコの側に立っているスーツ姿の男が前に出て話はじめる。

 

 

「防衛省の烏間だ。単刀直入に言う…

 

…君達にこの化け物を暗殺してほしい」

 

 

 

 

 

3年E組の潮田 渚。小柄な体型と女子の様なルックスを持つ少年。防衛省の説明が一通り終わり、頭の中を整理していた。

 

「とんでもない事になったねー渚」

 

そんな渚に茅野 カエデという少女が話かけてくる。

 

「うん。いきなり暗殺っていわれても…」

 

「そうだよね。それに来年の春には地球が消滅するなんて言われても正直ピンとこないよね」

 

そもそもあのタコ型生物は何なのかとか、本当に月を破壊した犯人なのかとか、普通の中学生には判断できない突拍子のない事ばかりで混乱するのも当然だ。しかし1つだけシンプルな事がある。その事実1つで3年E組のクラス皆は殺し屋になる事を選んだ。

 

「でもさ、暗殺に成功すれば賞金100億だよ、100億! 渚は100億円貰ったら何に使いたい?」

 

そう。それは暗殺に成功した場合の報酬だ。クラスも先程からその話で持ちきりだ。100億を何に使うだのと、楽しそうに話し合っている。

 

そんな中、誰とも話さず教室から退出する生徒が1人。渚はその人物を見つめる。

 

 

「どうしたの渚?」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

 

崇道 幽太。このクラスになって少し経ったけど、渚は未だに彼と話した事がない。それどころか誰とも話そうとしない。他の人が話かけているのを遠目で見ていたが、彼はまったく見向きもしなかった。コミュニケーションを取ろうとしないのだ。流石に教師に話しかけられれば無視しない様だが。

同じクラスメイト同士仲良くしたいという気持ちはあるのだけど、彼の放つ近寄りがたい雰囲気につい畏縮してしまう。まるで自分たちとでは住む世界が違うかの様な。

 

彼の目には世界がどう写っているのだろうか…

 

 

崇道side

 

「それで? アンタどうして死んだんだ? 雪村先生」

 

教室を出て人気のない校舎裏。そこで崇道は幽霊となった雪村あぐりに事情を聞くことにした。

 

『えっと…、その…』

 

話しづらいことなのだろうか、あぐりは目を泳がしながら両手の人差し指をくっ付けてモジモジしている。

 

「まぁ、別にアンタの死因を聞いたところで、どうでもいいか……」

 

『あはは……ところで崇道君は昔から見えるの? その……幽霊が』

 

 雪村あぐりの質問は思っていた通り霊感の事に関してだ。そりゃそうだ、幽霊が見える奴なんて、崇道も自分以外知らない。気になって当然だ。今まで出会ってきた幽霊達にも同じ質問をされた。

 

「物心ついた時から。さすがに知り合いが死んで幽霊になったのは初めてのことだよ……」

 

『先生も驚いちゃった、まさか本当に幽霊になるなんて』

 

今でも不思議そうに自分の半透明な体を確認する あぐり。でも崇道にとってそれ以上に驚くべき存在がこの3年E組にやってきたのだ。

 

 

 

「おや? 君は確か…崇道 幽太君でしたね」

 

不意に声をかけられ、振り向くとそこには奴がいた。新しく担任としてやって来たタコ型超生物。

 

「こんな所でどうしたのですか?」

 

幽霊と話していた、なんて言えるわけもなく。誤魔化す事にした。

 

「別に…。アンタこそ何してんだよ」

 

「いやね。先生これからお世話になる校舎を歩いて見て回っていたところです」

 

今更だが、本当にこんな奴が教師なんて出来るのだろうか。

 

「……んじゃ、先に教室戻るんで」

 

「はい、それでは後ほど。それから崇道君、できれば私の事は先生と呼んでください」

 

この時、後に殺せんせーと呼ばれる生物は知らなかった。

 

自分の目の前に教師としての道を示してくれた大切な人がいる事を…。

 

 

 

 

 

渚side

 

3年E組が暗殺教室になってから数日。クラスの生徒達もこの異様な状況に段々慣れてきていた。みんな思い思いに暗殺に意気込んでいるが、今日もターゲットの先生は殺せず放課後を迎えた。

 

渚はカバンに教科書を詰め込み帰りの準備をしていた。

 

「おーい渚。一緒に帰ろうぜ」

 

「うん。杉野」

 

杉野に誘われ席を立つ渚。そこへ後ろから歩いて来た崇道 幽太とぶつかってしまう。一瞬、崇道と目が合い硬直してしまう渚。そんな渚など気にも留めず崇道は教室から出て行く。

 

「大丈夫か渚?」

 

「うん。軽くぶつかっただけだったら」

 

杉野は怪我というよりどちらかと言うと、不良に絡まれた虐められっ子みたいな印象で心配していたのだが。

 

「それにしても相変わらず取っ付き難いやつだよな〜。崇道って」

 

「うん。なんていうか…近寄り難いっていうか」

 

この教室が暗殺教室になっても、殺しのターゲットが担任になっても、崇道は相変わらず1人だった。

 

 

 

 

 

帰り道。雪村 あぐりは周りに人気がいない事を確認して崇道に話しかける。

 

『崇道君…。もうちょっとこう、友達付き合いとか…しっかりした方が。さっきもホラ、渚君達に話しかければ良いのに』

 

「余計なお世話だな」

 

雪村 あぐりは誰とも打ち解けない崇道を心配していた。以前というか生前というか、担任だった時から崇道が1人だった事を気にしていたのだが、未だ友達がいないとは…。

 

「大体、あいつらとは見えてる世界が違う」

 

自分には幽霊が見えて彼らには見えない。それだけの事? とんでもない。とても大きな違いだ。

 

「友達? なれるかよ」

 

『………。』

 

 崇道のその言葉に、あぐりは生前によく話し合っていた、とある男の事を思い出す。とても大切な思い出。

 

『そんなことないよ崇道君。例え見える世界が違っても、住む世界が違っても、本心で話し合えば分かり合える』

 

 殺し屋と教師でも分かり合えたのだから。

 

『渚君達なら崇道君の事、ちゃんと分かってくれるよ』

 

 何故そこまで断言できるのか崇道にはわからなかった。あぐりの真剣な表情。そこには嘘は無かった。本気で分かり合えると信じている顔だった。

 

「…うるせぇんだよ」

 

 崇道の声色が暗く変わる。雪村あぐりは自分が失言した事を理解した。崇道にとって触れられたくない部分に触れてしまったのだと。

 

「アンタもいつまで俺に付き纏うつもりだ? さっさと成仏しろよ。鬱陶しい」

 

『崇道君…』

 

あぐりを置いてそのまま帰る崇道。その背中を黙って見ている事しか出来ないあぐりは、自分の無力差が悔しかった。

 

 

 

 

家に帰るなり自室のベッドに寝転がる崇道。頭に浮かぶのは先程のあぐりの言葉。

 

『渚君達なら崇道君の事、ちゃんと分かってくれるよ』

 

その言葉が崇道の神経を逆撫でする。

 

 

物心ついた頃から幽霊が見えていた。

 

そんな彼を両親は気味悪がった。誰もいない筈の場所を指差しては、「誰かいる」「そこにホラ」。こんな不気味な事ばかり言う息子を両親は初め心配した。病院の精神科に連れて行ったり、あらゆる手を使った。それでも崇道幽太の虚言が消える事は無かった。

 

当然だ。彼は嘘などついていないのだから…。

 

両親はそんな息子の言葉を信じる事が出来なかった。しばらくして両親が幽太に何か言う事は無くなった。それは幽太を受け入れたのでは無く、幽太を拒絶したのだ。

 

その後、幽太と両親との間に言葉は消えた。それからの事だろう。人にも幽霊にも関わらない様になったのは。

 

「……」

 

 

 

翌日。

 

今日は朝から崇道の機嫌が悪かった。昨日 あぐりに言われた事がまだ頭から離れないでいたからだ。イライラしながらも学校へ向かう崇道はE組の校舎へ向かう山道の途中であぐりと出会う。

 

『おはよう。崇道くん』

 

「……チ」

 

露骨な舌打ち。あぐりは神妙そうな面持ちで話しかける。

 

『昨日はゴメンね崇道くん。でも先生が言った事、決して忘れないで欲しい』

 

「…………」

 

崇道はあぐりを無視して校舎へ向かう。あぐりも今日は崇道に付きまとうのは止した方が良いと判断して追いかけなかった。焦らなくて良い。

 

あの子達なら分かり合えると信じているから。

 

 

 

 

「それでは先生 中国に行って本場の麻婆豆腐を食べて来ます」

 

お昼休みの短い時間で中国まで往復して帰ってくる。人間では不可能な事をこの怪物教師は当然の様に熟してしまう。見せつけられる先生の凄さに、生徒達は目的の暗殺が如何に遠い道のりかを認識させられる。

 

しかし、それは今更だ。あの先生の凄さはこの数日で十分体験済みだ。それに賞金の100億円を諦める生徒はいない。

 

そして今日この日。とある少年達の暗殺計画が動き出そうとしていた。

 

「おい渚。ちょっと付き合えよ。暗殺の計画進めようぜ」

 

 

 

あぐりside

 

『はあ〜』

 

雪村 あぐりは校庭にいた。幽霊となった彼女は出来る事がほとんど無い。物には触れれず、人とも喋れず、唯一話せる崇道とは今は会わない方がいい。何もする事がなく、ただ校庭にいたあぐりはとても退屈していた。すると校舎から出てくる4人の生徒に気づく。

 

よく一緒に行動してる寺坂、吉田、村松の3人と渚、計4人の少年達だ。

 

話を聞いていると、どうやら暗殺の計画らしい。寺坂が渚に小袋を渡して立ち去ると、中国に行っていたターゲットが帰って来た。

 

もうすぐ授業が始まると言って、ターゲットはそそくさと校舎に入って行った。

 

『結局、寺坂くん達が渡したのは何だったのかしら?』

 

渚を見ると丁度、寺坂達から貰った袋を開けていた。中身が気になり覗くあぐり。

 

『手榴弾!?』

 

手榴弾を首にぶら下げる渚を見て、このままでは不味い! そう考えた あぐりは急いで校舎に駆け込む。

 

 

 

 

 

『崇道くん!!!!』

 

「……」

 

これから授業が始まるという時に、血相変えて現れたあぐりに崇道は驚いた。昔から幽霊には慣れている崇道は微動だにせず、そのままあぐりの言葉に耳を傾けた。

 

『お願い! 渚くんを止めて!!』

 

 

 

 

 

 

「短歌の最後に”触手なりけり”とつけてください。それが出来た人から今日は帰ってよろしい」

 

ターゲットから提示された問題。触手を説いた短歌など中々思いつかず、クラスのみんなが頭を悩ませている中、潮田 渚は密かにターゲットの隙を狙っていた。

 

そしてもう一人、崇道 幽太も別の事を考えていた。

 

先程あぐりに聞いた渚の自爆テロ。

 

今も崇道の隣で必死に自爆を止める様に訴えるあぐり。崇道は表情にこそ出していないが迷い、悩んでいた。

 

いくら人との繋がりを避ける崇道でも、このまま渚を見捨ててもいいのかと良心が痛む。

 

だが、身体が動かない。顔が下を向く。声が出せない。動く前に言い訳が浮かぶ。

 

手榴弾と言ってもターゲット様の物。人間には無害だ……

 

『……道…ん…』

 

そもそも何と言って止める。何故自分が手榴弾の事を知っていると聞かれたらどうする……

 

『崇……くん…!!』

 

そうだ。だいたい他人がどうなろうと知った事じゃ…

 

『崇道くん!!!!』

 

「ッ!?」

 

気が付けば渚はまさに自爆する直前……!

 

崇道の体は脳から切り離されたかの様に動いた。

 

 

 

 

 

教室内で爆発音が響き渡った……

 

 

 

 

 

 

 

 

渚は目を開けると、自分の現状に驚いた。

 

ゼロ距離で爆発が起きたのに無事な事にではない。薄皮の様な幕が爆発の影響を防いだ事にでもない。

 

「崇道……君……?」

 

 

崇道 幽太が自身の体を盾にする様に渚を守っていたからだ…

 

 

 

 

 

 

 

暗殺の結果は失敗に終わった。このタコ型超生物は月に一度脱皮ができるようで、その皮を盾とし渚と崇道を爆発から守ったのだ。自分に対しその皮を使わずに事なきを得たと言う事は、超生物にとって超至近距離からの爆弾も大した脅威ではないという事だ。改めてこの超生物の怪物性に驚愕するが、その怪物性のおかげで2人とも無傷で済んだと言えよう。

 

その後、渚に手榴弾を渡した寺坂たち、そして渚本人も加え、タコ型超生物からお説教をくらった。寺坂たちは渚を、渚は自分自身を大切にしなかったと。ありがたいお説教だが、その後、人に胸を張れる暗殺をしましょうなどと、訳分からない事を言って締め括っていたが。

 

 

ちなみに、このタコ型超生物は殺せない先生、略して≪殺せんせー≫と呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 

そのまま授業が終わり、一人帰ろうと崇道は校舎を出たところ、殺せんせーに呼び止められた。

 

「……何ですか?」

 

「いやね、先生、君に伝えたいことがありまして……」

 

「伝えたいこと?」

 

「君が飛び込んできた時は、先生驚きでした。渚君を庇おうと決死の行動。自分を盾にするという無謀な行動でしたが、誰かを助けようとする。そんな優しい心を君が持っていることを、とても嬉しく思います」

 

否定しようとした。だが、言葉が出なかった。事実、自分は渚を庇おうとしたのだから。無意識に……。

 

「どうか、その優しい心をいつまでも失くさないで下さい。先生からのお願いです。君のその優しさは美徳ですから」

 

「……」

 

返事をしなかったのは、認めたくなかったからだ。自分が他人と関わろうとしたことを。認めてしまえば自覚してしまう。

 

自分が寂しがっていること、人に飢えていることを。

 

それだけは崇道の自尊心が許さなかった。

 

そのまま立ち去る崇道の背を見て、殺せんせーはこれ以上何も言わない事にした。その場にいた雪村あぐりも、何も言わず、崇道の背中を見送った。

 

 

 

そんな教師2人の間を、一人の少年がすり抜けて行った。

 

「崇道君!」

 

崇道に呼び止めたのは、潮田 渚だった。

 

「……潮田」

 

「渚でいいよ、崇道君。皆、そう呼んでるし」

 

「何か用か?」

 

「うん。……さっきはありがとう。助けてくれて」

 

「助けたのは、あのタコだ」

 

「それでも、君は僕を助けようとしてくれた。だからお礼を言いたいんだ」

 

渚は嬉しかった。話したこと無い、そう、崇道が言う≪他人≫という関係なのにも関わらず、助けようとしてくれた事に。崇道のことを少しは理解できた気がしたから。

 

「話はそれだけか? それだけなら俺はもう帰る」

 

「え? ……うん」

 

ぶっきらぼうに返し、そのまま立ち去る崇道。やっぱり、まだ彼との心の距離は遠いと渚は思った。それでも渚は知った。彼の≪優しさ≫を。だから……。

 

「また明日ね! 崇道君!」

 

 

 

 

帰り道、崇道は不貞腐れていた。その後ろをふよふよと漂うようにあぐりが浮遊していた。

 

あぐりは嬉しそうに話しかける。

 

『……渚君。良い子だね』

 

自分に向けてくる、あぐりの笑顔が鬱陶しい。潮田も変に勘違いして鬱陶しい事この上ない。

 

そして何よりも腹が立つのは、自分の口元が少し緩んでいる事だ。

 

 

 

 

 

その後も嬉しそうに語りかけてくる幽霊を無視して崇道は家に帰った。

 

 




誰か続き書いてくんないかな〜
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