暗殺教室 〜幽霊が見える生徒〜   作:稲葉 諸共

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デートの事なんてわかんねぇよ(怒)




幽霊教室 6限目 デートの時間

 

 

 つい先日。イリーナ・イェラビッチとかいう外国人の女が、英語の教師としてこの暗殺教室に赴任して来た。

 

 当然、ただの教師ではない。

 

 殺し屋だ。

 

 

 

 自らの美貌を武器にして殺しを行うハニートラップの達人。赴任当日、イリーナは殺せんせーの情報を得る為、渚にディープキスをした。それもかなりエグいやつを。

 

 ハニトラを得意とするイリーナらしいやり口なのだが、問題は崇道もその対象にされかけた事だ。

 

 崇道も渚と同じく独自で殺せんせーの弱点を探り、情報を集めている。それを欲してイリーナは崇道に迫ってきた。当然、崇道は拒んだ。よく知りもしない相手とキスなどしたくないし、人前でディープキスなど論外である。

 

 面倒くさかったので無償で情報を提供する事にしたのだが──

 

『ハッ。キスくらいで照れるなんて、純情な坊やね』

 

 ──と煽られた。

 

 かなり腹が立った。表情にこそ出ていなかったが、普通にぶん殴ってやりたくなる程に崇道はムカついた。

 

 元々、傲慢な性格をしていたイリーナ。案の定、暗殺教室に馴染めなかった彼女は崇道に限らず、他の生徒たちとも揉める事になる。軽く学級崩壊を起こす程。

 

 立ち上がる生徒達。飛び交う文句と罵声、そして文房具。普段クラスメイト達と一緒になって何かをする事がない崇道だが、この時だけは一緒になって物を投げた。崇道が投げたのはゴミだった。

 

 流石に反省したイリーナは生徒達に謝罪し、また生徒達もそんなイリーナを受け入れ、徐々に馴染んでいった。

 

 崇道を除いて……。

 

 

 崇道だけはイリーナが苦手だった。勘違いしないで欲しいのは、崇道は別に煽られた事を根に持っている訳ではない。もうとっくに許している。

 

 嫌っているのではなく、苦手なのだ。

 

 その理由として、クラスの皆がイリーナの事をビッチ先生と割と失礼な呼び名で呼ぶ中、クラスのノリに付き合わない崇道だけはイリーナの事を普通にイリーナ先生と呼んでしまったからだ。

 

 普通に先生扱いしてくれる生徒。おまけにキスを恥ずかしがるその純情さは、これまでハニトラで相手にしてきた汚れた男達には無い初々しさがあった。

 

 そのせいで崇道はイリーナに気に入られ、授業で当てられる回数なんかも多くなってしまう。

 

 先生風を吹かせたいのだろうが、英語が苦手な崇道にとってはかなり有難迷惑な話だ。

 

 幽霊のあぐりに殺せんせー、赤羽、更にはイリーナと癖のある人物が増えてしまい、面倒事も比例して増えていく。

 

 ようやく一日が終わり、自室のベッドで寛いでいると、珍しくあぐりが部屋にやって来た。普段はプライバシーもあり、日が暮れると気を遣って何処かに行く彼女だが、こうしてやって来たという事は何か話があっての事だろう。また面倒事だろうか。

 

 正直、嫌な予感しかしない。

 

 窓から顔を覗かせたあぐりは手をパンッと勢い良く合わせ、拝む様に頭を下げると、こう頼み込んできた。

 

『お願い崇道君! デートして!』

 

「何言ってんだてめぇは(怒)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外国人の女の子の幽霊だぁ?」

 

『はい……。その子と…その、デートしてあげて欲しくて……』

 

 正座するあぐりを上から睨みつける崇道。イリーナの授業でBとVの発音を練習させられて癖になってしまったのか、怒りに耐える様に下唇を軽く噛んでいる。

 

「ふざけんなよ。俺は幽霊相談所も恋人代行サービスもやってねーんだよ」

 

『聞いて崇道君。その子、とっても可哀想な子なの。親の仕事の都合で日本に来たんだけど、日本語が話せなくて周りに馴染めず。友達を作ろうと必死で日本語勉強した矢先、事故で幽霊になっちゃってひとりぼっち。寂しいからずっと成仏したかったって』

 

「友達ならアンタがなってやれば良いだろ。同じ幽霊だし丁度良い。そのうち成仏もするだろ」

 

『友達にはなってあげられるけど、あの子が言うの』

 

 

 ── 一度で良いから素敵なデートをしてみたかったって。

 

 

 やたら純粋なというか、夢見る少女みたいな発言。

 

 現在、中学三年生の崇道。すれた性格で現実を見ている彼は恋人ができたことも、デートした事もないのだが、恋愛が漫画や小説で見るほど甘ったるいだけのものじゃない事は容易に想像できる。

 

 更にあぐりの話し方からも、その女の子はかなり若いんじゃないかと感じてならない。

 

「ちょっと待て。さっきからあの子あの子って、そいつ何歳だ?」

 

『幽霊になってから数年経ってるらしいけど、生きてた時は小学三年生だったって』

 

「ガキじゃねーか! ますますデートなんてできるか! 大体知らない奴となんてそいつもお断りだろ」

 

『それが、崇道君のこと話したら会ってみたいって』

 

「何だって?」

 

 何かの冗談かと思う。

 自分と会いたがっている? 

 いったい自分はどんな男だと思われているのだろうか。とても素敵な男性とでも勘違いされているのだったらたまったもんじゃないと頭を抱える崇道。

 

「アンタ、俺の事どんな風に話した? 変に脚色して話したんじゃないだろうな」

 

『まさか。脚色なんてしてません。ありのままの崇道君を話しました』

 

 背筋を伸ばして答えるあぐり。だが、人の良いこの教師の事だ。無意識に他人の良い所を強調して話してもおかしくは無い。要らぬ期待を背負わされたと嘆く崇道。

 

『とにかくお願い! 一度会ってあげるだけで良いの』

 

 あぐりに懇願されても答えは出ず、返事は後日に持ち越しとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 崇道は学校に行こうと家の門を開けると、電柱の影からこちらを覗き込む小さな何かを見つける。

 

 外国人特有の長い金髪。話に聞いていた小学三年生くらいの女の子。その幽霊だ。

 

(うわぁ……。いるし)

 

 目と目が合い思わず固まる女の子と崇道。恥ずかしくなったのか、女の子はサッと姿を隠してしまう。

 

(あの教師。家の場所教えたのか。それとも後をつけられたのか。返事待たずに来たぞ……)

 

 対応に困っていた崇道だが、丁度そのタイミングであぐりがやって来た。

 

『おはよう崇道君。昨日の話、考えてくれた?』

 

「おい。考える前に相手が来てんじゃねーか。どうすんだよ」

 

『え? うそ。何処に……』

 

「あの家の塀の中に入ってったぞ」

 

 それを聞いてあぐりは隠れた女の子を探しに行く。結局自分は幽霊からは逃れられない運命なのかと、諦めて二人の幽霊を待つ崇道。

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、色々予定は狂っちゃったけど、せっかく会いに来てくれたんだし、取り敢えず二人とも自己紹介しよっか』

 

「……」

 

『……』

 

 ……気まずい。

 

 場所をいつかの河川敷に変え、仕切り直したあぐり。

 

 しかし、その気遣いも虚しく二人は無言。崇道は腕を組んで女の子を見下ろし、女の子はそんな崇道を見上げられず目を泳がしていた。

 

『か、彼が崇道幽太くん。以前話した通り幽霊が見えるの。凄いでしょ…』

 

 気まずい沈黙に耐えられなくなったのか。代わりにあぐりがお互いについて紹介し始める。

 

『そ、それでこっちはサラちゃん。昨日話した女の子…』

 

『コ、コンニチワ……』

 

 カタコトの日本語。

 

『スドウ、サン。オ、オアイデキテ……コウエイ…デス…』

 

 俯き見えづらい表情。垂れ下がった長い金髪。緊張で縮こまった肩。恥ずかしそうに弄る指先。初々し過ぎる少女の様子。

 

 正直なところ、かなり対応に困る。

 

「……コチラコソ」

 

 思わず崇道までカタコトになってしまう。

 

 様子を見ていたあぐりにも『崇道君、顔怖いよ。あと、腕組みはやめよう』と小声で注意される始末。誰のせいだよと、心の中で愚痴を言わずにはいられなかった。

 

『ア、アノ! トツゼン、コンナコト…メイワク、カモ…シレマセン…ガ……』

 

 意を決したのか、不安から無意識に弄っていた手を胸に添えて、女の子は覚えたての日本語を発する。

 

『ヨロシケレバ…ワタシ…ト、デート……シテ、クダサイ』

 

「……」

 

 何て断れば良いものか。否、何て答えれば良いものか。返事に時間を掛ければ掛けるほど、女の子の肩が震える。

 

 非常に断りづらかった。

 

 というか、断れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ありがとね。崇道君。デート引き受けてくれて』

 

「もう良い。諦めた。付き纏う幽霊が増えても面倒だしな。成仏するってんならデートくらいしてやるよ」

 

 デートの約束をした後、女の子は恥ずかしいそうにそそくさと帰っていった。それでも帰る際、律儀にお辞儀をしている事から育ちの良さを感じる。

 

『でも崇道君。デートなんて経験あるの?』

 

「あ?」

 

 かなりイラッとする発言。自分から頼み込んでおいてこの女……と思わずにはいられない。

 

 崇道が睨むと流石に失言だと気づいたあぐり。サラに素敵なデートを楽しんで欲しいという純粋な気持ちが先走り、つい言ってしまった。

 

「そういうアンタはさぞかし経験豊富なんだろうなぁ?」

 

『うう…。すみません』

 

 生前は仕事に明け暮れ、デートなど殆どした事がない。その上、数少ないデート相手は碌な相手じゃなかった。人に語れる程の恋愛経験はあぐりにはない。

 

「ったく。デートなんて、妹と接する様にやれば良いだろ。妹いねーけど……」

 

『駄目だよ崇道君。サラちゃんにとっては一生に一度の大切なデートなんだから。素敵なデートを演出してあげなくちゃ』

 

「人様のデートで乗り気になりやがって。そう言うからには何か良い案あんだろうな?」

 

 正直なところアドバイスは欲しい崇道。デートに満足して貰えず、成仏失敗なんて事になるのが一番面倒だ。一発で決める。そう考えていた。

 

『えっと……その…。とにかく誠実に接してあげる事! そう誠実に!』

 

「使えねぇ」

 

 思った以上に恋愛方面で役に立たないあぐり。どうしたものかと悩んでいると、あぐりからとある提案が出される。

 

『あ! そうだ。あの人にアドバイス貰うのはどうかな?』

 

「あの人?」

 

『ほら。あの人なら同じ外国人で女の子の気持ちもわかるだろうし。なによりデートに詳しそうな……』

 

 嫌な顔が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ崇道。授業でわからないとこでもあったわけ?」

 

(こいつかぁ……)

 

 職員室から人気のない校舎裏に呼び出した相手を見て、崇道は一抹の不安を感じる。

 

 ハニトラの達人。イリーナ・イェラビッチ。

 

 経験豊富過ぎて駄目な奴だと思った。小学三年生相手のデートにアドバイス貰うには不健全過ぎる相手だ。

 

 かといって崇道の狭い交友関係の中、他にアテになる相手はおらず。デバガメ根性の逞しいタコ型生物なんて、はなから選択肢にも入らない。

 

「授業か…。そうだな」

 

 よりにもよってコイツに頼るハメになるなんて。だが何かしらの参考にはなるかも知れないと、覚悟を決めてイリーナに恋愛の授業をしてもらう事にした。

 

「外国の女の子ってどうすれば喜ぶんだ?」

 

「はぁ? 何よいきなり」

 

「なんか言われて喜ぶ事とか、されて嬉しい事とか……」

 

 次第にこちらの事情を察して食い付くような反応を見せるイリーナ。

 

「……まさかデートのアドバイス? 何よアンタ奥手っぽくみせてやる事やってんじゃない!」

 

「違う。……いや違わないけど。ちょっと一緒に出かける事になっただけだ」

 

 デートとは意地でも言わない崇道。苦虫を噛み潰すというか、口の中に何か酸っぱい物を噛んでる気分だった。

 

「素直じゃないわね。まぁいいわ! デートのプランならこの百戦錬磨のイリーナ先生にドンと任せなさい! 完璧なプランを整えてあげるわ!」

 

 自身の得意分野である質問に気を良くしたのか。腰と胸に手を当てて自信満々という様相のイリーナ。綺麗な金髪を手でサッと払い、まずは冷静に分析を始めましょうと言わんばかりだ。

 

「それで? 外国人が相手って、何処の国の子? 言語は?」

 

「知らん」

 

「ちょっと! これから口説く相手の出身も知らないってどういう事よ! やる気あんの!?」

 

 初っ端から怒られた。今日出会って、今日決まったデートなんだから仕方がないだろと、言うに言えない歯痒さを味わう。

 

「聞き忘れたんだよ。言葉は普通に英語だったはず」

 

「英語ねぇ。アンタ英語のリスニング苦手だけど、相手の子は日本語話せる訳?」

 

「カタコトだけど一応会話は成り立つ」

 

「そう。相手は年下? 年上?」

 

「……年下」

 

「だったら優しくリードしてやんなさい。若い子は年上の頼れる姿にグッとくるから。リードするには…そうねぇ。その子の好きな物とか把握してんの?」

 

「それについては今知り合いを通して聞いてもらってる」

 

「そう。それならいいわ。恋も暗殺も事前の情報収集が一番肝心なの。それを怠った奴に成功は訪れないわ」

 

 その知り合いとは今この場にいないあぐりの事である。あぐりにはデート前に好きな物とか何かしらの情報を聞き出してもらう為に女の子の方に付いてもらっていた。

 

「あと、アンタは表情に気を付ける事! その冷めた顔は絶対NGよ! 自分に興味が無いんだって相手に不安感を与えるわ」

 

「笑顔か……」

 

「笑顔はコミュニケーションよ。こっちから微笑みかけると相手も返してくれる。最初はたどたどしいやり取りだったとしても。続けていれば自然と二人の間で笑顔が通う様になるから」

 

 意外と健全なアドバイスばかりで驚く崇道。もっとドロドロしたアダルティな意見が飛んでくると身構えていたのが拍子抜け。

 

 初めてイリーナに対して先生らしさを感じた。

 

「そのうち相手の笑顔が薄れ、別の何かを期待してるような、そんなしっとりと甘い雰囲気になったらもうこっちのものよ。そっと優しく手を握って……」

 

「手を握るとかそんなん無しで頼む」

 

「はあ? アンタ手を繋ぐくらいで何ビビってんのよ! もっと男らしいくビシッといきなさい! ビシッと!」

 

(物理的に不可能なんだよ)

 

 幽霊に普通のデートプランが通じるのだろうか。今更ながらそんな不安を感じつつも授業は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えずこんなところね。今言ったところに気をつけていれば最低限デートの形にはなるわ」

 

(ようやく終わった……)

 

 思いのほか時間が掛かってしまい、ようやく一息つく崇道。ここまでしっかりとレクチャーされるとは思ってなかった。正直、人付き合いを避けてきた崇道には教えられた事の半分も実践できるか疑問だった。

 

「それで? デートの日取りはいつなの?」

 

「言わない」

 

「何でよ! アドバイスしたんだからそれくらい教えてくれたって良いじゃない」

 

 報酬を寄越せと言わんばかりに突っかかるイリーナを、崇道はキッパリと突っぱねる。理由はただ一つ。

 

「あのデバガメタコ野郎がいつ何処で聞き耳を立てているかわかったもんじゃないからな」

 

 

 その言葉にとある軟体生物の体はギクッと震えた。

 

 





1月中に投稿しようと思ったけど2月になった。

月一更新は難しいな…。
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