GBF-L外伝 Limitless Sword(無限の剣) 作:杉村 祐介
廊下を駆け抜け階段を降りて、俺は久々に、見慣れた空き教室へ滑り込む。扉は開いていたが、部屋の電気はついていない。
元々理科の実験薬品とかが置かれていた部屋を間借りしているからか、それとも模型のシンナーの匂いか、はたまた放置された床板の匂いか。普段使われている教室とは違った匂いが俺を迎えてくれる。窓からの光は植木に遮られ、電気もついてない部屋は昼間なのに薄暗い。ガラス扉の棚には無数に薬品のビンが並んでいて、その一角にはホコリを被ったガンプラたちが、各々のポーズで飾られている。何体かは倒れたり、横のガンプラにもたれかかっていたり。どれも当時の楽しかった記憶を呼び覚ます。
そんな部屋の真ん中に、薄くホコリを被ってしまった六角形のバトルシステムと、その淵を指でなぞる一人の生徒の姿が。
「部長!」
中学2年にして模型部の部長、長谷川先輩の姿が。
「やぁ、桜井くんか」
前見た時、入学当時に部の説明会で呼び込みをしていた時とは雰囲気が違って、どこか物寂しげな、悲しそうな雰囲気だった。なんだろう、憧れていた部長と同じはずなのに、いまはまるで別人みたいだ。
「やぁ、じゃないですよ。今まで何やってたんですか……6月くらいから急に全然部活出なくなっちゃったし、心配したんですよ。なんか部活来ても楽しくないし、皆バラバラになっちゃって、夏のガンプラバトル大会だってメンバー不足で参加すらできなくて」
「大会なら、僕がいなくても副部長の早川くんがまとめて」
早川。ああ、俺の隣のクラスのいやらしい奴だ。俺と同じく模型部員として入部したけど、同じ趣味を持つ仲間だと思っていたけど、今となっては何もかもが嫌いな奴。
「あいつがそんな器なわけないじゃないですか! ガンプラの工作技術は先輩に負けないくらいすごい奴だけど、バトル下手くそだし、オリジナル改造に反対するし、皆の改造をバカにしてくるし、だから他の部員だって辞めてっちゃって。俺は部長に憧れて部活に入ったのに、部長は来ないし。俺には早川を押しのけて皆を引っ張っていく力なんてなかったし。部長がいてくれたらこんなことにはならなかったのに!」
あふれた感情をそのまま投げつけていることに、ここまで言ったところでやっと気づいた。さっきと同じように、言ってしまってから気づいて、その手を引っ込めても引っ込められない言葉に後悔して。
「すみません、言い過ぎました」
「いや、いいよ」
部長は悲しい目で俺を許してくれた。
窓は閉められている。風は入ってこない。
「部長」
「なんだい」
「部室に来たってことは、またガンプラバトル、やりに来てくれたってことですか」
俺の質問に、部長はすこしだけ言葉を濁した。
「そう、だな。やりたい気持ちはあるけれど、それよりも先に、やらなきゃいけないことがあってね。そういう君は?」
「俺は部長とバトルが──」
バトルがしたくてと言おうとして、ふと我に返る。相棒のガンプラは先日のバトルでボロボロで、戦える状態ではない。戦いたくても戦えない。俺には今戦う剣がない。部長と戦いたいという願いを叶えるスタートラインにすら、立てていない。
それでも。
「俺は、部長とバトルがしたくて来ました!」
それでも、気持ちだけでも前へ。
「けど、この前のバトルで相棒のガンプラが壊れちゃって。時間をください!」
「時間?」
「はい。次の登校日の8月21日、授業が終わったら、ここで、バトルしたいです!」
俺は直立して「おねがいします!」とかしこまって頭を下げた。断られるだろうか。いや、断られることを前提に考えるな。もしもで良いから、チャンスを狙え。行きあたりばったり、上等じゃないか。俺はいつもそうやって前を向いてきた。
「頭を上げてくれ、桜井くん。その気持ち確かに受け取った」
「じ、じゃあ」
「ああ。次の登校日、またここで会おう」
チャンスが舞い降りた。今日は神様にいくら感謝しても足りないくらいだ……!