GBF-L外伝 Limitless Sword(無限の剣) 作:杉村 祐介
しかし、チャンスの神様ってのはそうそう微笑んでくれるもんじゃない。むしろ裏を返せばピンチの神様だ。
寝ても醒めても次の機体が決まらない。俺の相棒、ダブルオーライザー・インフィニティソードはダブルオーライザーにセブンソード/Gの武装をふんだんに盛りつけて、その数を書くのもやぼったいと思ったから、"無限の剣"という意味の名前をつけて、インフィニティソード。当然次の機体も剣ましましのダブルオー系統で行こうと思っている。だが、ガンダム00というアニメが好きなだけで、正直な所他のガンダム作品はてんで素人だし、どうやって改造するべきかも全然わかんない。わかんないというか、アイデアが浮かばない。
「だ〜めだ、全然進まねぇ……」
机に並べられたGNソード達とバラバラになったダブルオー。ダブルオー自体を直してやることはそうむずかしいことじゃないし、元の姿に戻すだけならいっそ新しいダブルオーを買ってきて組んだほうが早いし綺麗に仕上げられると思う。けどそれじゃダメだ。前と同じじゃ、あこがれの部長には勝てない。あの黒い機体に勝てるぐらい強い機体でなきゃあ。
ダブルオー系統のガンダムは剣が強い。それ以上でもそれ以下でもなく、射撃はテンで苦手なものだらけで。実際俺だって射撃は苦手だし、ギュイーンと動いてズバっと切り抜けるほうが性に合ってたからダブルオーが好きで、なにより使ってて楽しかったったわけで。だけど相手はあの部長だ。ユニコーンガンダムを使い、的確な射撃と緩急のある近接攻撃で敵を華麗に倒していくあの純白のMSに、俺は多分近づくことすらままならないだろう。だから射撃武器をもたせたほうが良いとも思った。射撃といえばデュナメス系統か。狙い撃ちできれば勝負は五分に持ち込める。それともヴァーチェ系の火力で攻めるか。遠距離が不利だと思わせれば相手から近づいてくれるかも知れない。はたまたキュリオス系統の可変機構を取り込んで、こっちから特攻まがいの速度で突っ込むか。
「わかんねぇ、どうすりゃいいかなぁ」
目の前に並べたGNソード達は何も答えてくれない。
諦めてジュースでも飲もうかと思った時、スマホが鳴った。ハルからのLineだ。「勉強捗ってるか?」って、今俺はそれどころじゃない。それどころじゃ。
Lineが続けざまに来る。「次の登校日は数学テキスト提出日だぞ、お前ちゃんとできてんのか?」だって。
現実に引き戻される。嫌な予感を振り払おうと考えつつも、恐る恐る数学のテキストを開く。どのページも、まるで新品同様に白紙のページだらけ。とうぜん提出なんて出来る状態ではない。このまま当日を迎えたら、もしかして一人居残りで先生とマンツーマンでテキストやらされることに──
急ぎ電話を返す。
「もしもし、どしたの」
「ハル! お前数学得意だったよな」
「あ、うんそうだけど、やっぱ進んでない感じだ」
呆れている感じの、でも予測してましたよって具合の声がムカつくけど、今はそれどころじゃない。
「なぁ頼む、どうせお前のことだ、終わってんだろ。見せてくれよ!」
「はあ、ケンジも毎年変わんねーなぁ」
「んなこと言わずに頼む! おねがいします、ハル神様!」
「……分かったよ、その代わりオレの国語と社会、手伝えよな」
「ありがとうほんとありがとう!」
俺は通話を切って、かばんを引っ掴んで部屋を飛び出した。目の前にある今できること、今やらなきゃいけないことを。相棒には申し訳ないけど、悩んで立ち止まってる時間がもったいない。俺は前に進むんだ。
開け放たれた窓、葉の隙間から眩しく差し込んでくる陽の光、吹き抜ける風。今日という日を待ちわびた、俺と、部長と、部屋にどんと構えるバトルシステム。積もったホコリは綺麗に拭き掃除され、そのスタンバイ状態の機械音は万全だとアピールするようだった。
「桜井くん、待っていたよ」
「すみません。こんな日に居残り食らっちゃって」
結局のところ今日提出の数学テキストがギリギリ間に合わず、授業後にあわてて仕上げたところだった。そのため部長がこの部屋を、そしてバトルシステムを掃除して待っていてくれた。
時間は午前の11時半を過ぎた所。
「先にお昼にするかい?」
「いえ、俺はバトルが先にやりたいです」
部長の提案を断ってでも、昼前の空腹を押してでも、動かしたいガンプラがここにある。この新しい相棒"デルタオークアンタ・インフィニティソード"を。
「ほぉ!」
部長が目を丸くして俺のガンプラを食い入るように見つめた。
「ダブルオークアンタをベースにツインドライブを乗せて、セブンソード/Gのショート&ロングソード、GNソード改、その他諸々……また随分と載せたね」
「ええ、好きなんで!」
本音を言えばこの機体で部長に勝てる確証はない。だけどハルと勉強をやって思った。好きな教科は勉強しようって気になるのに、苦手な教科はどんだけやっても好きにならないし上達もしない。ならいっそ、好きだけを勉強できたらって。だからガンプラバトルも同じで、苦手な射撃を付け焼き刃で練習するよりも、好きな剣をたくさん持って戦うほうがずっと気持ちが良いはずだし、勝ち目だって見えてくるはずだ。当然、最初から負けるつもりもさらさら無い。
「ほんと、ケンジはバカのひとつ覚えだよなー」
「なんだとぉ!?」
聞き慣れた声。部室に入った時は眼中になかったが、声を聞いてやっと認識できた。なぜかハルが居る。
「なんでお前がここに」
「長谷川先輩とオレで、お前が居残りしてる間に掃除やってたんだぞ。チョットは感謝しろー」
全くこういう時だけ女子力発揮しやがって!
「すごく助かったよ、ありがとう」
「さっすが長谷川先輩。どこぞのガンプラバカとは大違いですね」
「こいつぅ……っ」
いつもなら怒りでハルに飛びかかってるところだが、部長の手前、さすがにこれ以上試合を先延ばしにもできず。
「部外者のことはおいといて、さっさと始めましょう、部長!」
「ふふ、観客は大事にするものだよ、桜井くん!」
対面する部長に少し笑顔が戻っていたのを、俺は見逃さなかった。
『Gum-pla battle combat mode start up』
眠っていたバトルシステムが、久しいファイターの気鋭を感じて蘇る。
『Please set your GP base』
あの敗北から止まっていたファイターとしての俺が、再起動する。
『Please set your Gum-pla』
"無限の剣"という、諦めない限り戦い続ける意思を刻んだ名前を叫ぶ。
『Battle start!』
「桜井健司、デルタオークアンタ・インフィニティソード。出るぜ!」
「長谷川卓、フルアーマーユニコーン。出撃する!」
想いを乗せたガンプラが、緑の粒子の風を受け、翔ぶ。