GBF-L外伝 Limitless Sword(無限の剣)   作:杉村 祐介

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【挿絵表示】

デルタオークアンタ・インフィニティソード
新たにダブルオークアンタを採用しながらも
破損したダブルオーを流用しつつ完成されたガンプラ。
装備されている武装は近接武器が多く
デルタオーの由来とされる三つのGNドライブが特徴的


GBF-L #ERR04「弾けたParticle」

 無限に続くかのように広々とした宇宙空域。円型のマップ端はデブリ群がドーナツ状に帯をなし、中央には居住用コロニーが一つ佇んでいる。あそこへ逃げこむか、はたまた宇宙で舞い踊るか。当然コロニーに入ってしまったほうが、得意の近接戦闘に持ち込みやすくて有利になるだろう。けれど自分がコロニーに入ったところで、はいそうですかと付いてきてくれるはずもない。

 そもそもそんな逃げまわるような戦いは好きじゃない。まずは死なない程度に、真っ向勝負!

 

「いくぜぇ、インフィニティ!」

 

 素体はクアンタ、バックパックと一部のパーツをダブルオーや他のキットに差し替えた俺の相棒は、両肩のGNドライブを背面へ向けてGN粒子を振りまく。機体が加速し、周囲のデブリを風のように追い抜く。その輝きは、いつまでも消えない流れ星のようで──

 

 

 

「へぇ、"がんだむ"ってもっと泥くさいもんかと思ってたけど、結構キレイなんだな」

 

 フィールドの外、バトルシステムの青白い輝きとガンプラが織りなす光に見惚れていたその目は、普段と違って少女のそれに見えたかもしれない。

 

「そうだね、ガンダムの世界観でもGN粒子ほど美しい物はそうそう無いよ」

「……えっと、あんたは」

 

 彼女に話しかけた、カッターシャツの上に白衣を羽織っている男。彼はバツの悪そうに後頭部を手で掻いた。

 

「急にごめん、模型部の顧問だ。君は1年生の青井くんだね。素行が悪い女子生徒っていうので先生の間では有名になってる」

「そりゃどーも」

 

 ハル自信も普段の行いが良い方ではないということは分かっていた。だからこそ、それをつつかれて嫌な気分になるのも仕方ないというか。

 だがそんな気持ちも、緑色の粒子を見ていると忘れられるような優しさを感じる。

 

「本当にキレイだねプラフスキー粒子は……ああ、懐かしい」

「そんなに過疎ってたの、この部活」

「悲しいけれど、それが現実だね。引退した3年生は多かったが、2年生は部長の彼一人、1年生は何人かいたが最近は幽霊部員だ。来年もこの調子なら廃部も──」

 

 先生が言葉に詰まる。それはバトルシステムから鳴り響く爆音のせいか、それとも先生の意思か。

 

「来年までに彼らが戻ってきて、模型の楽しさを思い出して、また活気が戻ってきてくれることを願うよ」

 

 ハルは「叶うといいね」とだけ、返事をした。

 

 

 

 目の前のMSはもはやMSというには収まらない火力だ。MAか、もしくは戦艦に匹敵するくらいの、途切れない弾幕と迫る爆撃は津波のようだった。ビームマシンガンの雨を避けて、時折迫るバズーカやミサイルランチャーを剣で逸し、ライフルで射抜き、ダメージを受けないので精一杯でとても近づくことさえままならない。

 

「くっそ、なんだあれ! チートじゃねぇか!」

「褒め言葉として受け取っておくよ!」

 

 フルアーマーユニコーンガンダム。通常のユニコーンに超大型のプロペラントタンクと、できうる限りのバズーカやミサイルを乗せまくった機体。一体何発の弾が搭載されてるのか、過剰積載もいいところだ。もっとも、クアンタに剣を8本も乗せた俺が言えた限りじゃないけど。

 

「部長はやっぱユニコーンで来ると思ってましたよ! けど──」

 

 けど、この弾幕は正直つらい。近接武器がメインの相棒に対して、中〜遠距離武器だらけの相手に手も足も出ない。それに部長の動きは常に正確で、ほんの少しのリロードの合間すら、デブリに隠れて見えなくなる。こちらに付け入る隙を与えない教科書通りの動き方。さすが部長、俺にはとうてい真似できないマニューバだ。

 ……本当に教科書通りなら、逆に勝ち目があるか? じりじりと追い詰められる今を突破するために、一か八かの神頼みをやってみる価値はあるか?

 やるか、やらないか。俺は迷った時、必ず一歩前に出る。

 

「部長、いざ尋常に勝負っ!」

 

 操縦桿を思いっきり前に突き出す。インフィニティソードも全速力で前に進む。さすがのクアンタ、さすがのダブルオー。その速度で近づけば、武装だらけで重量が増しているユニコーンでは逃げられないはずだ!

 

「ただ突出するだけではね!」

 

 けれどユニコーンは逃げなくても良いのだ。こちらがいかに早く動こうとも、相手からすればほんの少しだけ角度を変えて射撃すれば狙いはできる。命中精度をあげるために、自分の足を止めるのもセオリー。そうやって常に教科書通りの戦闘ができるのが部長の強みだ。だからこそ。

 

「いくぜいくぜーっ!」

 

 スロットEX、GNドライブ可変。クアンタの肩を使った都合上、この機体は右側のGNドライブに自由度が少ない。逆に言えば、左側のGNドライブの動きは右の比じゃないくらいグイグイ動かせるって寸法だ。右のドライブを後方へ固定し、左のドライブが横へ後ろへ動けば、それが推力を狂わせ、予測できない動きへ発展させる──

 

「この動きでは、射撃が」

「定まるわけないですよねぇ!」

 

 この技は俺自身も目が回って3D酔いしそうになるが。俺は最終的に敵に近づけたら良いだけで。近づけさせないという部長の思惑はこれで大きく狂わせられる。

 螺旋を描きながら、時折雷が走るように鋭角に曲がる。ユニコーンの弾幕を力任せに振り回し、その射撃精度を無意味にする動きで、今まで埋めることのできなかった距離を一気に詰めて。

 

「貰ったぁ!」

 

 右腕のGNソード改を振りかぶる。

 だがユニコーンもタダでやられてくれるような、そんなやわな機体じゃない。部長もただで勝利をくれるようなやわなファイターじゃない。

 

「ブランクがあっても、この程度の反応なら!」

 

 そうやって両腕のシールドを最大展開する。サイコフレームの硬さはGNソードすら弾き飛ばし、腕を切り落とすことすら叶わない。

 この動きに部長が反応できることなんて、とっくの昔に知っていた。だからこそガンプラバトルは楽しい!

 

 すれ違う閃光、煌めく粒子、僅かな時間差で爆発の衝撃が宇宙を走る。

 

「シールドで防いだはず。いや、防げなかったのはGNソードVか!」

 

 敵を切り捨てられなかった俺のインフィニティソードは、そのまま横をすり抜けて反転、背中を見せるユニコーンにGNソードVを投擲していた。旋回速度に劣る機体はそれを回避できず、ウィークポイントの巨大プロペラントタンクに直撃、それが大きな爆発を伴って消失したってわけだ。

 正直投げた先でどこに当たるかなんて大博打だったけど、当たりも当たり、大当たりってやつかな!

 

「どうっすか! 俺だってやりゃあ出来るんですよ!」

 

 憧れの先輩に一矢報いたことは、俺の自身に繋がった。勝てる。チャンスはいくらでもある!

 

「正直驚いたよ。この動きが"まだ"できたことに」

 

 しかし部長の言葉は俺の予想とは違って、俺の惚けた気持ちは一瞬で冷静さを取り戻す。

 

「桜井くん。君はプロペラントタンク"だけ"で済んだこと、不思議に思わないのかい」

「それって……つまり」

 

 先の爆煙からユニコーンが転進する。その後ろを、先ほどの爆発から本体を守ったであろう、自立行動するシールドが3枚追従していた。プロペラントタンクが片方失われたというのに、だからこそか、その速度は失われてはいない。

 

「まだまだ勝負はこれから、というやつだ」

 

 部長のユニコーンは改めて距離を取ると、背面のミサイルを、バズーカを、今の今まで温存してきた戦力を、これでもかと吐き出すように一斉攻撃を仕掛けた。今まではまだ点での攻撃だったから回避できたというのに、もはや目の前にある火力は線、いや面。一面が敗北に繋がる攻撃、逃げ場なんてどこにもない。

 

「じ、GNフィールド、最大展開っ!」

 

 推力である両肩のGNドライブを今度は前面に押し出して、あらゆる攻撃を防ぎうる粒子の盾を展開する。エネルギー消費さえ考えなければ最強の守り、だからこれで負けることはない。だが展開が早すぎる。もっと温存して、ここぞという時に使いたかった。まだフルアーマーユニコーンの本懐はここから、ビームマシンガンもビームマグナムも残されているというのに。安心と不安が募るが、だが今この攻撃を受けきる手段はこれしかない。使うしか無いんだ、このタイミングで。

 直後、GNフィールドとミサイルやバズーカの弾頭が次々直撃し、俺の視界は赤や黄色を超えて真っ白に染まった。もう目も開けてられないほど眩しくて、耳への影響がないように補正がかかっているサウンドすら鼓膜を破りそうな勢いで、1秒とも10秒とも1分とも思えるほどの長い長い爆撃が俺とインフィニティソードを襲った、そんな気がした。

 

 静かになって、目を開けたら、木っ端微塵になったデブリと、はるか遠くに見えるバーニアの光。まっすぐとコロニーを目指して伸びている光。

 

「部長……逃げるんですか!?」

「仕切りなおしだ。こうなってしまえば対面での戦闘は不利だからね!」

 

 まさかあの部長が自分に背中を見せるなんてという失望感と、逆に憧れの人を追い詰めている高揚感と、これからが本当の決戦になるという緊張感が織り交ざって、胸の高鳴りは止まらなかった。

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