GBF-L外伝 Limitless Sword(無限の剣) 作:杉村 祐介
わざわざMSの侵入経路を開けてまでコロニー内部へ入っていった部長のユニコーン。それを追いかけて俺は閉められた隔壁をサーベルで切り裂く。宇宙へと逃げていく空気の流れに逆らって、無限の剣は前へ前へと進んだ。
人工太陽が眩しい。ちょうど筒状になっているコロニーの芯のあたりから、向こう側まで一瞥できる位置にいるようだ。コロニー内部はビルや住宅などが並ぶ住居用ともあって、遠目に見れば凹凸だらけで足場がおぼつかない。人のために作られた路地はMSには狭く、車のために作られたハイウェイは脆い。
宇宙空域ならユニコーンとクアンタの機動性は五分五分かもしれないけど、重力下なら自由に飛行できるこちらが有利だ。けれどコロニーの地表は自転して重力を作っているので、自転に速度をあわせて飛ばなければ建物に打ち付けられて大破もありうる。飛んでいるのはある意味危険で、ある意味安全か。
それにどちらにせよ、敵を目視できなきゃ始まらない。
「さてと、部長はどこへ行ったかな!」
わざとらしく、声を上げてコロニーの地表へと速度を合わせながら着地をしようとすると──
「……来るか!」
俺はぎりぎりのところで画面に表示されたアラートに反応して、インフィニティソードを転進。直後、無数に降り注ぐビームの雨を紙一重でかわし、その発砲主へと視線を移す。ビル群の隙間から飛び出したユニコーンが、その銃口をこちらに向けていた。
「着地狩りとはみみっちぃ手段ですね、ビビってるんですか!」
「正攻法だと言ってくれ」
見えない攻撃ほどやっかいなものはないが、見える攻撃ほど簡単なものはない。某大佐ではないが"当たらなければどうということはない"ってことだ。
ビルの隙間を縫うように飛び回り、時折ビームマシンガンを放ってくる白い機影を、見失わないように追いかけながら、攻撃を右へ左へ回避しながらその距離をじわりじわりと縮めていく。
だが、縮まらない。
「また右からっ!」
見えない攻撃が無数に飛んでくる。右や左、時には後ろからの不意打ち。敵は一人のはずなのに、1度に3人や4人も相手しているような、そんな気分だ。
シールドファンネル。フルアーマーユニコーンに3枚装備されたそれは、極限状態においてビームガトリングを保持しながらファンネルビットのように自立行動できる強力な武器。そのうえ3枚が陣を組めばコロニーレーザーさえ止めかねないほどの防御力を持つ。さっき片方のプロペラントタンクが破壊された時にユニコーンを守ったのもこの盾だろう。近接武装がメインのこちらにとって厄介な事この上ない。
手が、剣が届く範囲まで近づいたと思ったらシールドファンネルの横槍を入れられ、その間にまた距離をとられる。いやらしい、とてもイライラする教科書通りの戦法だ。
「君の回避能力はすごいな、ここまでの攻撃をもろともしないとは」
「褒められても、今はちっとも嬉しくないですね!」
見えているのに届かない敵に対して、GNソード改をライフルモードにして無闇矢鱈にトリガーを引く。当然の如く回避されることにまたイライラしてしまう。
「さあ、その集中力はいつまで続くかな!」
「くそぉっ!?」
ジュッと言う音に慌てて身体を捻る。目をやると、インフィニティソードの肩に少しだけ焼け焦げた跡がついていた。このままじゃ埒が明かない。けれどこれも長くは続かない。武装には当然補給が必要だ。
飛ばされていたシールドファンネルが持ち主へと戻っていく。弾切れ、リロードが必要なんだと察するのには十分過ぎる不自然なタイミングだった。その上モニターに映っていたのは、ユニコーンが上空──といってもそれもまた地表──へと一目散に逃げていく姿。
「今ので仕留められなかったこと、後悔させてやりますよ!」
飛び上がればビームガトリングの雨に晒される。そうならないよう、こちらは自転に逆らう形でコロニーの地表を撫でるように駆ける。迫り来るのはビームか、ビル群か。そのどちらも回避し、時には切り捨て、相手の照準より一歩先を進み続ける。
「今度こそ貰ったぁ!」
ビルの影に隠れていた熱源を狙って、今度こそとGNソード改を振りかぶる。剣が届く距離、手が届く位置だ。
「……斬れるものなら斬ってみろ!」
シールド3枚をマウントしたユニコーンは、その眼前にもう一本の大型プロペラントタンクを置いて待ち構えていた。
この距離でプロペラントタンクが爆発すればお互いタダじゃすまない。けれど部長のユニコーンにはシールドが3枚も残っている。ガトリングが打てずとも防御形態になることは可能だろう。一方こちらはGNフィールドを使いたいところだけれど、さっきのリチャージがまだ終わらず、もう一回使うのは無理だ。コロニーに誘い込んだのは、最初からこれを狙って──
奥の手を使うしか、ない。
「トラン、ザム!」
TRANS-AM。機体が紅く染まる。GNドライブの悲鳴が聞こえるが、それも無視して機体の性能を引き延ばす。目の前のプロペラントタンクの爆発に巻き込まれない距離まで、全力で、逃げる。負けないために逃げる、足を止めずに逃げる方向へ進み続ける。
迫る爆風、逃げるインフィニティソード。トランザムしているからか、光の速さすら認識できるような気さえして。光すら追い越しているかのような気すらして。俺は逃げ続けた。
「終わったかな?」
意外とコロニーというものは頑丈なもので、中で膨大な爆発があって地表が爆風で焼かれてしまったというのに、まだ止まることなく自転していた。その末端、メガラニカと呼ばれるそこでシールド越しに見物をしていたユニコーンガンダム。
部長は望遠レンズでその終止を見届けていた。
「プロペラントタンクの爆発は終わった。でも僕の手元に勝利の文字はない、ということは」
そう、メガラニカの真反対に位置する俺とインフィニティソードは、まだ終わっちゃいない。トランザムのおかげでギリギリ死の淵から這い上がって、もはや部長の位置なんて把握しきれないほどの距離を逃げてきた。まぁ今となってはそんなことどうでも良い。トランザムが切れる前に、俺はこの剣で、全てを断つ。
「まだ戦えるっていうのか!?」
「……当然っ!」
痩せ我慢でも虚勢でもなんでもない、俺の必殺の一撃はまだ残ってる。このGNソードを天高く掲げ、そこに粒子を集中させれば、まだ。
「ライザーソード!? 冗談じゃない、オーライザーと補助パイロット抜きでそんな芸当が──」
「出来る、俺は出来ると思い込んでいる!」
部長の「なんでもありか」という通信さえかき消すほどのノイズ。それほどまでに粒子が荒れ狂い、渦を成す。
「俺は何度逃げたって負けたって立ち上がる! そのための無限の剣……これが俺のガンプラ、インフィニティソードだ!!」
光の柱がコロニーの上部を突き破った。自転している地表はそのバランスを崩し、ボロボロと崩壊を始める。インフィニティソードの背中にあった甲板が溶け落ち、果てしなく広がる宇宙が見えるようになる。大小様々な星を背に、その光の柱を急転直下。振り下ろした剣こそどこまでも届く無限の剣。コロニーという小さな世界を切り裂き、倒したい相手、あこがれの相手のいるであろう方向へ。
「ライザーッ、ソード!!」