GBF-L外伝 Limitless Sword(無限の剣) 作:杉村 祐介
コロニーはバラバラになり、その原型のほとんどが光に溶けた。残されたパネルが無数に散らばっているのと、大きなパネルの塊が2枚、左右に分かたれて浮遊していた。もはやGNフィールドもトランザムもライザーソードも使い切り、MSだというのにインフィニティソードには疲労の表情すら浮かんで見えた。
「やったか」
近場の大きいパネルに膝を付け、機体の冷却を1秒でも早い状態にしながら、モニターのあちこちに目をやる。残存エネルギーもほぼゼロ、機体損傷も尋常じゃない。だがそれでも「勝利」の2文字には届いてないようだ。
「さすがにコロニーレーザーに匹敵する威力か」
黒く焦げ、燃え尽きた3枚のシールドに守られて、それでもユニコーンガンダムは五体満足、まだ戦える状態だった。
「まさかこうなるとは。やっぱり真正面から戦うべきだったかな」
「そうなってたら、俺のトランザムで真っ二つでしたよ」
精一杯の強がりだ。たとえ最初から対面でトランザムを使ったところで、部長のユニコーンに一太刀浴びせられたかどうかも分からない。
「正面から向き合うのは苦手でね。けれど今は、君の強さに甘えるよ」
ユニコーンがその特徴的なビームマグナムを構える。独特の発射音が鳴る前に、間一髪、インフィニティソードを倒れこむように回避させる。
あれだって対MS用兵器とは思えないほどの威力で、掠っただけで即死級だ。足を止めたら負ける。飛び上がるように立ち直らせ、関節の軋みを聞こえないふりをしてレバーを倒す。
脚部に装備したGNカタールを一基、左手で投げつける。ユニコーンはビームトンファーを即座に展開し、飛来したカタールを切り払った。矢継ぎ早に敵の直上を取り、右腕に接続されていた"GNソード改"を投げつける。
「ここでそれを投げるか!?」
「カタールは弾けても、この質量なら!」
「弾けなくとも!」
受けきれなければ躱せば良い。言葉通り、ユニコーンは片足を軸に回転するようなステップでGNソード改を回避し、右手のマグナムを再びこちらへ向ける。そのマニューバは、俺が憧れていた昔の部長そのもので、俺が録画して何度も見ていた動きそのもので。
「さすが部長、けど!」
同じタイミングで、左腰のGNソードⅡロングをライフルモードに切り替えて狙いをつけていた。両者の射撃タイミングはほぼ同じで、空中で構えていたインフィニティソードがやや射撃の反動を受けたおかげか、武器を失うのみで済んだのに対し、ユニコーンガンダムは右肩の装甲を撃ちぬかれ、ビームマグナムを落とす。
「憧れの部長に、俺は勝ちたい!」
最後の実体剣である2個目のGNカタールと、GNブレイドⅡショートを手に、残されたわずかなエネルギー量を気に留めることもなく、俺とインフィニティソードは最後の突撃に入る。
「嬉しいことを。けれど僕も負ける気はない……ファイターとして!」
部長もまた俺に応えるべく、背面のサーベルを引き抜いて応戦する。
両者の剣が想いと共に交わる。
「なんでこんなに強いのに、ガンプラバトルから離れたんですか!」
刹那、剣が弾かれる音に乗せて、届くともわからない叫びを込めて。
「……気分じゃなかったからだ」
「嘘だ。部長はガンプラバトルが好きで好きでたまらない人のはずだ。だって今もこうして楽しそうにバトルをやってる! それは本心でしょう!?」
「知ったようなことを!」
こちらの剣撃をいなすように弾いたユニコーンのサーベルが、より一層光を強く魅せつける。
「誰だって抱えている物の1つや2つはあるもんだ、僕は部活より大事なもののために──」
「それって勉強ですか、成績ですか、他人の評価ですか! 中二の勉強は中一より難しいってのは分かってるけど、部長みたいに毎日塾に行かなくてもやっていけてる人もたくさんいるし、成績が低い人だってたくさんいる。なのにそれは、大好きな部活を捨ててまでやらなきゃいけないことですか!?」
「なぜそれを」と部長の動揺が見える。剣筋が鈍る。その機を逃さず、GNカタールでユニコーンガンダムの右手首を切り落とした。
「自分の好きを捨ててまで、やりたかったことなんですか。勉強のためだけに俺達は置いて行かれたんですか。そんなの自分勝手ですよ!」
「自分勝手はお互い様だろう!」
矢継ぎ早に、手首を切られた右腕のビームトンファーが、カタールを弾き飛ばす。
「僕が不在の時、なぜ自分たちで努力しなかった。副部長の人選に失敗した僕の責任はあるかもしれない。けれど、大会にむけて行動しなかったのは桜井くん、君もだろう!」
「それは」
「それを人のせいにして、君だって自分勝手だ!」
左腕のビームトンファーも発振され、手数で押された結果、GNソードⅡショートもあえなく切り捨てられる。
だがインフィニティソードは、俺は全ての実体剣を失っても、なお闘志の炎を消さず。
「それでも、だからこそ、こうして戦っていることが楽しくて。諦めずに戦い続けて、負けて壊されても修理して改良して、勝ちを取りに行く。それが楽しくて、その楽しさを長谷川部長にも味わって欲しくて!」
腰裏のビームサーベルを引き抜いて、迫り来るビームトンファーを弾き、かいくぐった。インフィニティソードはダブルオークアンタの腰をベースにしていたが、リアアーマーだけはダブルオーライザーに差し替えていた。そのことを部長は最初から見ぬいていただろう。だがこの極限でそのことを失念していただろう。ここにサーベルがあったことを、知っていたけれど忘れていただろう。
「前に出なかった過去を悔やんでも仕方ないじゃないですか! 今、足を前に出すことを恐れずに、進むしか!」
切り抜けた先の地面、突き刺さったGNソード改を引き抜いて、それをユニコーンの胴体へと叩きつける。ビームサーベルも、ビームトンファーも切り裂いて、その刃はコックピットブロックを貫いて──
『Battle ended』
薄暗い部室、汗だくな二人。プラフスキー粒子がその役目を終えバトルシステムから開放され、窓から入ってくる風にのってどこかへと流れて消えた。生暖かい風が俺の頬を撫でる。
「負けたか」
部長のその表情は不思議と誇らしげで、その口調は優しさにあふれていた。
「いやぁ、運が良かっただけっすよ。部長だってブランクあったし、改造機ですらなかった」
「負けは負けさ。正直君を見くびっていたよ」
部長の差し出した手に応じて、俺も手を出して握手を交わした。正直な感想を言えば、お互い手汗でべっとりとしてて気持ちのよいものじゃなかったけれど。
「実にいい試合だった。長谷川くんも桜井くんもよく戦った」
「先生」
部長は先生に対して申し訳無さそうに会釈した。6月頃から全く部活に顔を出してなかったのだから当然の反応か。
けれど先生は部長の頭を優しく撫でるだけで。
「ケンジもお疲れ。初めて見たけどハラハラすんな!」
「お、おぉハル、お前まだ居たのか」
気が抜けて、ぽっと出た言葉が癪に障ったのか、いつものごとくげんこつが頭頂部を直撃した。痛い。
部長は窓を、窓の外を──いやもっと遠いどこかを──見て言った。
「バトル中に言われた通り、僕は"勉強にかまけて趣味をおろそかにしてしまっていた"みたいだね。反省するよ」
「ってことは、部長!?」
やや困り顔で笑っていたその表情は、昔から憧れていた先輩の素の顔そのものだった。それが見れたことがなんだか嬉しくて。入部したての頃の楽しい部活が戻ってくるかと思うと、ついほろっと泣いてしまいそうで。
「おいケンジ、泣いてんのか?」
「な、泣いてねぇよ。これは汗だっ」
ハルのちょっかいも今なら許せる。今なら。
俺とハルのやり取りを見ていた先生も部長も笑っていた。
それからしばらくして二学期が始まった。部長も少しづつではあるけど部活に顔を出すようになって、なぜかついでに副部長の早川も丸くなって帰ってきやがって。あいつは気に食わねえけど、やっと部活の明るさが少しは戻ったような、そんな気がした。それでも部員数が五人居ないと廃部になる校則があるから、気を抜かずに新入部員を探さなきゃいけないんだけど。
「なぁハル、お前ほぼ毎日模型部に遊びに来るけど、なんで部活入んねぇの?」
「ゔっ」
「そろそろお前も部活決めないと、レギュラー取れないし内申点にも響くんじゃね?」
「うっさい! オレは運動神経抜群だからどの部活入ってもレギュラー確定だし!」
「へぇー、じゃあなんで決めないのかねー」
「……てめぇなんかウザいぞ今日!」
出すぎるとこうやって殴られたり叩かれることもあるけど、こういうことも悪くないとオレは思うんだ。