「新人ってのはキミか?」
音と光と炎が炸裂し、濁流となって私の身体をもみくちゃにする。途方もない圧力によりバラバラになった肉体と意識。
それが突如終わった。目の前に男が立っていた。私を見て、私に言葉を投げた。
「さあ、始めようか」
EDFー全地球防衛機構軍、第228駐屯基地。それが場所。基地見学ツアーのクライマックスを飾る飛行ショーに出演すること。それが目的。フライトユニットは空を飛ぶため。この人と話をするのは打ち合わせが必要だから・・・目に見える物事ひとつひとつについて思考する。納得をして、心に落とし込んでゆく。身体は歩かせたりジャンプさせたりと、徐々に慣らしてゆく。
人生が意識の連続として語られるべきものならば、その始まりを私は今コトバにすることが出来なかった。言語、知識、心も身体も備わっているはずなのに、人生だけが足りなかった。だって私はさっき、崩れた街の中で音と光と炎にまかれて、バラバラになって・・・死んでしまったハズなのに。
「どうして?」
「ん?なんか言ったかい?…じゃあ仕事にかかろう」
男は時計をちらと見る。
「案内するよ、ついてきて」
時間は勝手。どうしても待ってくれない。数歩遅れた私は“扱い慣れない”フライトユニットを早速稼働させ彼に追い付いてみせた。・・・飛行ショー、なんて言ってたけど、私では前座にもならない。どうしよう。
「怪物だ!逃げろ!逃げろー!!」
私の心配を霧散させるかのように、怒号が辺りに反響した。途端に胸を締め付けられるような感覚に襲われる。カイブツ・・・?
そして畳み掛けるかのように全ての室内灯が消えて、また点灯して、しぼられた心臓が反動でばくばくばくと血を送り出す。なんだろう、何か、これは・・・
「こっちだ、車輌に気を付けて」
飄々とした先導人にまたしても置いて行かれる。待って。待って。待ってーー・・・
「怪物よ!ダメ、逃げないと!」
記憶の断片が舞い戻る。“怪物”そう呼ぶに相応しいデザインの生き物たち。それは人間を溶かし尽くす。血肉を喰らう。捉えて殺す。潰して、襲って、焼いて、殺す、殺す、殺される!
「食われた!ジョージが食われた!」
「イヤ・・・イヤ・・・!」
「気にしなくていいよ、軍人ってのはこういう悪ふざけが大好きなんだ」
彼の笑顔は数メートル先にあった。
「あなたも逃げないと、逃げないと!」
フライトユニットのことも忘れて私は走る。また辺りは暗くなる。脳裏に怪物が閃く。明るくなる。不安はどこにも行かない。
「非常事態発生!非常事態発生!ー・・・!!・・・!」
「待って!待ってよ!」
「本当に何かあったのかもしれないな」
自分が、何かが、立っている足場が、周りに存在する全てが壊れていくことへの恐怖。フライトユニットをようやく起動。あっという間に追い付く。突如隔壁が開く。ああ、ここから逃げられるのかな、扉の外へ行けば、この不安から・・・
「うわあああ!助けてえええええええええ!!!ぐわ、ああああああああああ」
血液の赤い色だった。巨大で異形なる怪物は男の身体を軽々と持ち上げ、噛み砕き、命を絞り出し、身体を壊し、溢れ出たのは赤い血液。男のすぐ後ろ、空中に居た私は、損壊した彼の体液を頭からつま先までしこたまに浴びた。
どうして私は死んで、ここに来て、また死んでしまうのかな。何も分からないまま・・・
オーバーヒートしたフライトユニットの警告アラートと人体を咀嚼する音の二重奏は最低だった。私は煙を上げながら、コンサートの最前席に着陸した。もう、ダメだ。荒ぶる怪物の姿を見上げて、私は震える身体を自分で抱き締めてやることしかできなかった。
「撃て!撃てー!」
突然、誰かの声が乱入した。軍靴が鳴らす足音は猛々しく、銃声は易々と空気を切り裂いて響く。
「なんてデカさだ!」
「死ね!化け物め!」
私の横をすり抜けて、弾丸の嵐が吹き荒れる。
粉々になった怪物の破片と濁った体液に汚れた床、血まみれの私、硝煙の中の軍人たち。アイガード越しでも分かる、鋭く厳しい瞳が私を捕まえた。
「大丈夫か」
「あ、ありがとうございます、私・・・」
「お前は民間人だな。来い、武器をやる」
有無を言わさぬ口調は、つかまるものを持っていなかった私を離さないでおくには十分すぎる引力をもっていた。
「私、死にたくない」
人生が意識の連続として語られるべきものならば、フライトユニットを携えた“私”の人生の始まりは今、かもしれない。
ほとんど何も分からないのに、パニックになる前にとんでもないことが始まってしまった。さっきまでが夢なのか、今ここにいる私が夢なのか。
分からない。分からないけれど。彼の瞳の奥に見た、死の運命より大きく、明るく、熱く、強い奔流に、私は身を委ねることにした。
5から入隊し、ゲームを進める度に軍曹のかっこよさに痺れまくり、睡眠時間を犠牲にしてクリアしました。
そんな二次創作です。勢いです。宜しくお願いします。