軍曹と転生ダイバーの戦場   作:月治

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#10 女子会と夜

こんないい城があっただなんて!途端にはしゃぎだす10名を止めることは私にはできなかった。EDF関東支部地下2階・女性宿直室1号部屋、その一角にある私の居住区域。二段ベッドが6台置かれたその部屋はそんなに広くはないのだけれど、とにかく私を含めて11人。ウイングダイバー【ピジョン】チームの面々が図らずも勢ぞろいした。香理花さんの「良いたまり場ができちゃった!」という無邪気な笑い声が聞こえてしまった。

巨船破壊作戦改めエイリアン殲滅作戦で共闘したのは、隊長の鳩子さん、その後輩の琴さん。EDFに入隊して2年目の晶紀さん、飛行ショーで鳩子さんと知り合ったという飛行演者の香理花さん、飛行射撃部現役選手で高校休校に伴って入隊した18歳の十和子さん。

 

「私は旦那がα型に食われて以来行くところなかったのよねえ。ココで洗濯係でもやろうかと思ったけど、せっかくだし戦おうと思って」

気だるげに語るのは侵略直後に入隊した菜摘(なつみ)さん。モラハラ旦那だったけど、最後は私を守ってくれたわ、と笑っていた。

「大学の飛行サークルで飛んでたんだけど、内定も保留になったし、勉強しても世界終わるかもしんないし、ね」

「エミ・・・あたしは勉強ちゃんとしてるよ?」

エミさんと千沙(ちさ)さんは大学の同級生。一家で避難所に入ったけれど、ウイングダイバーの適正を認められて入隊したらしい。

「しかしまさか昔の職場に復帰するきっかけが宇宙人侵略とは思わなかったわね」

狭治(さじ)さんは3年前、結婚を機にEDFを辞し、このプライマー侵攻で再び前線に志願して現在この隊で副隊長を担っている。

「あ、ごめん勇ちゃん、お茶こぼした」

彩風(あやか)さんは私と研修で同じ組だった。のんびりしているけれどゲームで鍛えた?らしい機器や射撃の腕前を買われている。

 

「私が言うのもなんですが、ピジョンは民間出身者が多いですね」

彩風さんにタオルを渡しながら鳩子さんに尋ねてみる。

「まぁ、そうね。だからここ、前線に出ることも多いけど私が隊長ってこともあって、避難誘導とか避難所への補給とか、ちょっぴり飛行ショー開いたりとかもあるわよ」

「叩き上げのウイングダイバーはプライド高いからね!結構冷たい目で見てくるチームもあるっちゃあるよ。これは民間人が気安く着られるものではないぞって」

ひょこっと狭治さんが顔を出す。

「あはは、そんなに気になるほどでもないですって。コマドリの湖山隊長とかはすごい良い人だよ。ていうかこれまでEDFで私が訓練受けたとき、あの人がリーダーしていたことが多くて。それで今回私に隊長任せてくれたって経緯もあるの」

滅茶苦茶面倒見良くってホント姉御って感じ、と評される。雛羽ヶ里中央での任務を思い出してみると、その慕われっぷりには頷けた。

「ていうか狭治さん今の明らかにスプリガン隊長の声真似じゃないですか・・・聞かれたら怖いですよ」

「あっはは!2個上の先輩だったわ、あの隊長。ここにいればまた会うことになるのかねえ」

晶紀さんが恐る恐る突っ込みを入れる。佐治さんが豪快に笑い飛ばす。私の部屋で繰り広げられる突然の女子会は、それはもう弾丸の如くお喋りと笑いが絶えない。

「スプリガンってチームの名前ですか?」

「そうっすよ、ウイングダイバーの精鋭!ぴっかぴかの赤いフライトユニット!素早いし華麗だし射撃は外さないし、エリートですよ本当!一度大会の開会式で見たことあるけど、かっこよかった・・・」

私の質問には十和子さんが答えた。よく知ってるねぇ、と晶紀さんが目を丸くした。

「今は被害甚大な東北方面に出ているらしいけど、関東所属だしそのうち帰って来られるわよ」

鳩子さんが無邪気ににっこりと笑った。その横で「お楽しみに」と佐治さんが邪悪ににっこりと笑った。

 

大皿にはプチトマトやらキュウリやら、一口大の野菜が盛られている。食堂で定刻に出る夕食を食べ損ねたため、私たちはこうして簡単な食事をとっていた。なぜか私の部屋で。エミさんと千沙さんの大学生コンビは元気にむしゃむしゃと頬張っている。

「しかしこれだけ地球上の被害は甚大なのに、野菜はむしろ安定供給なんですね」

千沙さんが首を傾げる。菜摘さんがそうねぇ、とミニトマトを唇に当てた。

「ニュースで聞いたけど、収穫速度も上がっているとかなんとか?宇宙物質が含まれているとかでアンチ畑野菜の団体も出ていて、野菜工場も忙しいみたいよ」

「食べ物無いよりマシですけどね!だって人も減って食べ物も奪い合いになって人間同士の争いになったら本格的に終わりですもん」

エミさんがまくし立てながらジャガイモにフォークを突き立てた。

 

「ていうかさ、ももちーはなんで赤城軍曹と知り合ったワケ?教えて教えて!」

「どわっ、香理花さん」

ていうか・の前の会話の流れが分からなかったけれど、背中から抱き着かれ、胡坐をかいていた私は床に倒れかける。こんな場所なのに石けんのようなお花のような、不思議ないい香りがした。

「えー、えっと、命の恩人かな。228基地で助けてもらったの」

「いいないいな、香理花もドラマティックな出会いしたかったぁ。そんで?そのあとは?」

「うう、待って、説明が追い付かない・・・」

 

 

夜は更けていった。結局明日も集合が早いから、と面々はこのまま宿直室に泊まることにしたらしく、ベッドは次々と埋まっていく。

「百瀬さぁん、あの、トイレ一緒に行ってくれませんか・・・?迷いそうだしここ地下だしなんか・・・」

背中を突かれて振り返ってみると、上目遣いの十和子さんにもじもじとお願いされた。なんだかかわいくて嬉しくて、私は張り切って先導することにした。

 

大した距離ではないけれど2回角を曲がるので、確かに歩きなれない人は迷ってしまうかもしれない。小声で会話しながら夜の廊下を歩くなんて、なんだか言いようのない懐かしさのような特別感のようなものを感じてほんの少しだけわくわくした。お手洗いの横にシャワールームがある。電気が点いていた。その光を見詰めながら十和子さんを待つ。お待たせしました、の声が終わるか終わらないか、その時だった。バン!と中の引き戸が乱暴に閉められる音と、ばたばたと慌ただしい音が連続した。何かあったのだろうか、と言葉にするより早く目の前のシャワー室出入口のドアが開かれた。湖山隊長だった。急いで着たのかワイシャツのボタンがずれて留まっている。肩で息をしている。

「どうか、しましたか」

十和子さんがシャワールームに入ろうとドアに手を掛けた。

「入るな!」

湖山さんが震える声で怒鳴った。びくりと肩を震わせた私たちに「ごめん」と小さい声で謝り、湖山さんはそのトーンのまま呟いた。

「誰か呼んできてくれるか。東が、死んでいる」

 

 

 

 

 

騒動の翌日も出撃だったため、詳しいことは分からない。警察の捜査があったこと、湖山さんが見つけたときは既にシャワールームで手首を深く切り意識を失っていたこと、遺体は火葬され敷地内の合同墓所に埋葬されたこと、東さんの実家は5か月前に失われていたこと、そして“人を殺したくない”そう書かれた走り書きの遺書が見つかったこと。私が聞いたことはそれで全てだった。

ちょうど同時期にこんなニュースが報道された。対エイリアン和平交渉団のメンバーが全員殺されたと。それなのに世論としては未だエイリアンを人間と見做す声の方が大きかった。EDF宛てに人権団体からエイリアン殺しを咎める匿名電話が何本か入ったことがブリーフィングでも話題になる。

あの日、東さんの目の前でエイリアンを殺したのは私だった。彼女が怯える人殺しとは、私のことなのだろうか。

エイリアン達には地球人に対する敵意がある。彼らは侵略者だった。目の前で見たからそう断言できる。筈なのに、筈だけれど、これは世間からしてみれば言い訳に過ぎないのだろうか。エイリアン殺しの大義名分だと思われてしまうのだろうか。私は、人殺しなのだろうか。忘れているだけで、本当は、もしかすると。それでも、戦場に行かなくてはならない。レイピアがいつもよりも重たく感じられた。

 

 

 

 




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世界観回。登場人物まとめるか悩み中。

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