強い風に、突き刺すような日光に、鮮やかな色彩に身を洗われる。1歩、2歩。先行する彼らの後をゆっくり進んだ。3歩、4歩・・・銃声と怒号が飛び交う戦場が、再び私たちの前に立ちはだかった。怪物が居る。戦っている人が居る。そこは紛うことなき、戦場だった。
「俺たちは戦闘中の仲間の援護に向かう。伍長、民間人を頼んだぞ」
怪物達は基地内で発生したのではなく、地上で飽和したために基地内に入り込んだのだ。脱出して1分と経過しないうちに“安全な地上”がここにはもう無いのだと思い知らされた。話に出た伍長さんはここで生き残り、戦っていた。軍曹たちは彼に私を預け、振り返らずに激戦地へと走りゆく。
カイブツの、ニンゲンの。カラダの部品が明るい太陽に焼かれ散らばる。空の青さは金色の船に遮られてくすむ。
「民間人、その武器は・・・」
「軍曹が持たせてくれました」
「そうか・・・緊急事態とはいえ、戦闘への協力に感謝する。可能な限りの護衛に努めるが、引き続き自衛は怠らないでほしい。ひとまず安全な場所を探そう」
私の体温に、てのひらに馴染んだ武器を今一度握りしめる。
「承知、しました」
希望の光が私たちを焼き焦がす。地面にも、死にも、命にも降り注ぐ。冷たい汗が止まらない。
怪物の密度が低い場所を目指すも、そう簡単に事は進まなかった。道を切り開けど、怪物はとめどなく押し寄せる。「クソっ」伍長が右腕に刻まれた噛み跡から血を払い捨てた。
戦車や戦闘機が目の前でなぶられているのを、コンクリートの地面が酸で傷んでいくのを、倉庫をやすやすと登り破壊する異形たちの姿を、どこか遠い場所の出来事みたいに視認する。何がホントウなのか、もしかするとウソなのか。走って、狙撃して、走って、狙撃する。
「基地内に戻ろう。出入口は私が固める!」
伍長に連れられ、先程脱出に使った出口にようやく辿り着くことができた。
「・・・よし。万が一地下からヤツらが登ってきたら、迎撃してすぐに教えてくれ」
どこかでニュース番組の音声が流れている。伍長が侵入しようとする怪物を撃つ。私は地下を見る。通信機から誰かの声がする。伍長が怪物を殺す。私は耳を澄ましてみる。UFOが飛行/怪物の群れだ!/正体は不明/総員、応戦せよ!/悲鳴/怒号/銃声/咀嚼
「ぐわあああああああああああああ!!!!」
私の足元の坂道をアサルトライフルが滑り落ちていった。酸が何かを溶かす音。オレンジと赤の液体。肉体が壊される音。傷だらけの右腕が1本。
「伍長さん―・・・」
『伍長!応答願います!伍長!・・・クソ!』
伍長を奪い合う怪物らに照準を合わせた。震える右腕は、左腕で必死に支えた。トリガーを引く。
やがて無線機も酸に焼かれ、押し黙った。
怪物の破片でできた山を慎重に越え、再び陽の差す地上へ出た。向こうには人影がある。軍曹は、私を待っていてくれるだろうか。フライトユニットをちらりと見やったが、しかし突然の轟音と風圧に思わず目を閉じた。
長い瞬きを終えてみると、薄紫色の光を灯した塔と、怪物の群れで視界はいっぱいになり、私はまた誰も彼もを見失ってしまった。
現れた細長い塔。それには見覚えがあるような気がしたし、はじめて見るものだとも思う。知っているけど思い出せないような、知らないけれど思い出せるような、そんな光が私を見下ろしていた。
“民間人”になる前、私が居たのは瓦礫の街だったように思う。それとも私は未来予知の夢でも見ていたのだろうか。228基地がこれからあの姿に塗り替えられてしまうのだろうか。何かを忘れているのかな。何が本当で、夢で、どこがホントウで、どこが行くべき場所で、私は一体何なのか・・・
『民間人!』
声が、聞こえたような気がした。レイピアの駆動音と怪物のバラけて行く音以外、今は何も分からないのに。
右と左と後ろを見て、上を見る。驚くべきことに、塔の上部にある光の中から怪物が産まれている。
『塔の上部分を攻撃しろ!』
やはり声が聞こえる。足元。誰かの無線機だ。ノイズ音を割って、人の声がする。
「どうやって使うんですか、軍曹」
拾いあげたそれに私の声は届かない。
何が夢で本物かなんて分からない。だけど私は今武器を持っていて、翼を持っている。
フライトユニットは望むがままに私を空へと運んでくれた。生き延びなくちゃいけない。自分を守らないといけない。私は、飛ばなければならない。どこか恍惚とさせるような紫色の光の許へ辿り着く。足場を確保。息を大きく吸ってみる。
『アイツは誰だ!』
『ウイングダイバーが到着したのか?』
『いや、あのユニットは明らかにちげぇ』
『塔に立ってるぞ!』
『民間人だ!アイツ、クソ度胸ありやがる!』
携えた無線機から声が聞こえる。引鉄に指を掛け、私はあの声を待っていた。私を導く声が届くことを、どうしてか確信していたから。
『いいぞ民間人、そのまま撃て!』
「・・・サー、イエッサー!」
そしてプラズマアーク刃を射出して十数秒、粉々に砕け散った光体と金属片が巻き起こす暴風を身に受けながら、塔が崩れ落ちていく様を見届けた。怪物の製造は終わり、塔が死んだと理解した。しかし、軟着陸し、顔を上げてみるとその塔は敷地内に何本も生えている。再装填。まだ飛べる。それから、私を呼ぶ声を辿って走る。
閲覧、ブクマ、評価、そして感想を本当にありがとうございます。
(通信機ってやっぱ内蔵なのかしら・・・その、勢いで・・・)