軍曹と転生ダイバーの戦場   作:月治

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#4 光が散る街

壊せども壊せども“塔”が雨のように降り注ぐ。呆気に取られて空に見入る私の肩を揺さぶったのは、合流したばかりの軍曹だった。

 

『基地を放棄する!直ちに撤退せよ!』

 

全てのスピーカーから同じ号令が同じ音量で飛び交って共鳴する。サイレン。繰り返される撤退の合図。それらを背に、私たちは軍用車両に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

「逃げろっつったって・・・クソ、どこに行きゃいいんだ」

「ひとまず市街地を目指すか。通信は任せた」

「あいよ」

 

後部座席に通され、窓の外を見ながらニュース放送に耳を傾ける。車両はうなりをあげてぐんぐんと進む。

 

『臨時ニュースです。現在、いくつかの地域で怪物が目撃されています。怪物は危険性があるようです。もし目撃した場合はー・・・』

「外に出ても同じ、か」

 

隣の若い隊員が膝を拳で叩いた。後部席は運転席に対し垂直に座席が並び、全員が窓の外を目視出来るよう背中合わせに設置されている。

私の背面で、ああ、と返事があった。

 

「大阪、北海道・・・いや、全国各地で目撃情報が続出しているらしい。そして、日本国外でも」

「なんだよ、なんなんだよ!家は・・・大丈夫なのか・・・」

 

通信機はニュースキャスターのアナウンスと、EDFの回線が伝える各地の悲痛な状況を伝える声ばかり流す。

 

「家と言えばそうだ、民間人、お前はそもそもどこに住んでー・・」

「なんだと?!」

 

呼ばれた方向へ振り返るも、運転席の軍曹があげた声に反応し、みながそちらに注目した。減速しながら指示を出す、その声はどこか怒りを孕んでいた。

 

「前方を見ろ。怪物どもが街を攻撃している。ここで降りる。救援に向かうぞ!」

 

 

 

 

街だ。私は何よりまずそう思った。そして、できれば血の匂いがしない風を、崩壊せず行儀よく並んだマンション群を先に知覚したかった。そう、思った。悲鳴も怒号も、この短時間で何度聞いてしまっただろう。全てが、恐ろしかった。

 

『軍曹、ちょうどいい。協力してくれ。一刻を争う。被害者をひとりでも減らしたい』

 

軍曹のチームに向けられた通信だったが、私も仮の一員としてそれを聞くことができた。チャンネルを合わせた無線機を借りたのだった。

 

『了解、戦闘に参加する』

 

軍曹の声を受信し、ノイズが一瞬、通信が終わる。それから生身の軍曹の声。

 

「民間人、酷な事を言うがーー戦え。その銃で。お前には勇気がある。兵士に必要な素質だ」

 

4人分の視線を受けた私のハラはもとより据わっていた。怖くても、恐ろしくても。

 

「大丈夫だ、俺たちはお前から目を離さないようにする」

「軍曹直々のスカウトたぁ、恐れ入ったぜ」

「ま、アンタなら大丈夫な気がしてきたけどな」

 

頷いてみせると、3つの笑顔が返ってくる。

 

「ここを切り抜ければ安全な場所が待っている。やれるな」

「・・・ええ、やれます」

 

かくして私たちは、怪物と塔とに占拠された街へ躍り出た。武装した部隊とタンクがパレードのように進み、街の人たちは悲鳴をあげながら逆走してゆく。象みたいな大きさの異形がみせる破壊的なサーカスは、テントから観客を追い出して尚も続く。噛み砕き、溶かし尽くし、尚も、続く。

 

 

 

 

塔のてっぺん、光体部分を私が請け負い、生まれる怪物、よじ登る怪物を軍曹たちに任せ、ひとつずつ打ち砕いていく作戦。上手く機能し、全ての攻撃対象を壊し、さあ逃げ遅れた人はいないかな、という段階で、異なる種類の悲鳴がまた響いた。驚嘆。絶望。

突如不思議な円盤が来襲し、市街はたちまち凄惨な戦いの舞台と化してしまった。円盤は、薄紙が落下するような気軽さと、真っ直ぐ人間を攻撃する正確さを兼ね備えて自由自在に空中を飛び交った。

 

「ひどい・・・」

 

円盤が放つ光線は街を壊し、狙いを定めた人間に声を出す暇さえ与えず、撃ち殺した。ベランダから空を指差す少女を地上へ撃ち落とす。家族のしんがりを務めて逃げる父親の背中を撃つ。瓦礫に脚を潰された人も、救助するEDF隊員も、助けを求めて叫ぶ人も、みんな、みんな、みんな・・・

 

「オレたちの武器でもなんとかやれる!」

「撃墜した!」

 

希望の声が聞こえるのに、私の絶望が耳を塞ごうとする。だって、私が見てきたものは、抵抗の準備も整わないうちに殺される人々、崩壊する建物、それから、きっと私が最後に見たのは、最後に見ることになるのは。死に尽くし、壊され尽くした、きっと、私がーー・・・

 

“銃口を敵に向ける。引き金を引く。簡単だ”

“手が震えてなければな!”

 

撃ち落とした円盤は炎上して消え失せる。何機落としても、何機落としても、それらは次々と飛来する。だけど、私の手は、震えていた。

 

 

 

「民間人!どうした!」

「おい、ドローンはもういい!上のでかいのが動いたぞ!」

「撤退しろー!」

 

いつの間にか、空には円盤よりずっと大きい、あまりにも巨大な塊が飛んでいた。金色の船。それは基地で見た船だった。追いかけて来たのだろうか・・・そんなことを考える暇もない。そして人々の悲鳴をかき消しながら、街はそれが放った緑の光に包まれた。何もかも消えて無くなると思ったけれど、強固に築かれた人間の街は、ボロボロに傷つきながらもまだ立っていた。それはとても美しくて、とても悲しかった。

 

やがて巨大船が円盤を大量に発進させた。しかし、生き残った市民の誘導が完了したとの通信を受けた私たちはその日、228基地に続き1つの街をも諦めた。

1人抵抗し続ける“街”の姿を何度も振り返った。私には本当にあるのだろうか、勇気とか、助ける力が。思い出すことも、形にして今示すこともできない。もどかしくて苦しくて、怖くて、でも逃げ出したくは、ない。

私を救ってくれた人達の顔を盗み見た。基地を脱出した時のような安堵の欠片はなかったのに、目が合うと軍曹はこう言った。

 

「大丈夫だ、心配するな」

 

車窓の外には夜が降りてきたけれど、いっとう輝く星がひとつ、私は、それを見逃さなかった。

 




閲覧、感想、ブクマなどありがとうございます!
未だフリック入力が苦手。あとハーメルンの機能、絶対半分も使いこなせていない気がする。。
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