およそ半年前に雛羽ヶ里住宅展示場で行われた飛行ショーのイベントで、私と鳩子さんは出会っていたらしい。作戦終了後、帰還して報告を済ませてシャワーを浴びて、私たちは廊下のソファに隣り合って座った。
「私は西雛羽ヶ里交番勤めで、百瀬ちゃんがニシヒナ出身だって言うから、盛り上がったんだよねえ」
私は自分の思い出や記録全てを忘れてしまっている。記憶の残滓としては、なぜか壊滅した街の風景だけ。EDFへの入隊は228基地の飛行ショーの際に提出した履歴書データを青柳さんが取り出してくれたこと、赤城軍曹が推薦してくれたこともあって無事に叶ったけれど、もしこの凄惨極まりない世界にひとり放り出されていたら、私はどうなっていたことだろう。そしてこうして過去の百瀬勇を少しでも知る人と話してみると、改めて自分自身の存在の危うさを実感してめまいがする。
女性警察官は柔道・剣道・飛行の中から専門を選択するらしい。鳩子さんはさらに上の段階としてEDFウイングダイバーと合同の飛行訓練を受講していて、加えてプライベートや公務で飛行ショーの演者も務めていたということだった。地球侵略から五か月が経過し、ウイングダイバーとして従軍する女性も増えた。コマドリ隊の湖山隊長のように元々EDF隊員だという人は勿論居るけれど、警察・消防、飛行ショーや飛行教習所勤めの方、飛行競技の選手など、その職業は多岐にわたる。終わりの見えない侵略者たちとの戦闘に挑むため、自ら地球防衛軍の隊列に加わる“元民間人”も増えている。地球は何億もの人命を失っていた。日常生活はもはや失われていた。
私を穏やかな瞳で私を見つめる鳩子さんは西雛羽ヶ里の街と交番を失った後、治安維持や犯罪対応を所属署に託し戦闘の最前線に加わった。
「あなたは特にチームに所属していない駆け出しの演者だっていうから、よかったら別のショーに出る時に声かけるねって連絡先を交換したんだ。まさかこんな事態になるとは思ってもいなかったけど」
「すみません、本当に悲しいくらい何も思い出せなくって・・・」
ゆっくり首を振る鳩子さんの外跳ねボブが揺れる。
「あの時もっと仲良くなっておけばよかったな。とにかく、これから改めて宜しくね」
これは帰還報告の際に決まったことだった。
「ピジョン隊11番目の隊員として、頑張ってよね」
「あ、赤城軍曹!」
食事を済ませて自室というか宿直室というか、とにかくベッドに戻ろうというところで、お風呂上りらしき軍曹に出くわした。着替えと書類をそれぞれ手にして、休もうとしているのか仕事しようとしているのかよく分からないスタイルだった。軍服と防具を取り払ってしまうと、鋭い目つきや鼻の形も相まって、軍曹はワシのような印象があって少し怖い。水気を含んだ短髪が逆立ち、なおさら猛禽類じみていた。
「百瀬か。早く寝ろよ」
「そうします。今日みたいに寝坊・・・いやなんでもないです」
少しだけ目つきが緩む。
「そういえば湖山がお前をスカウトし損ねたと悔しがっていたな。明日は俺たちもピジョンも巨船破壊作戦だ、宜しく頼む」
「また一緒に出撃できて嬉しいです。お願いします」
お前とこんな会話をするようになるなんてな・と微笑した軍曹の背中を、廊下の角で曲がるまで見送った。本当ですね。民間人!と呼びかけられていた時のことを思い出す。心底恐ろしい日々だったけれど、私の大切な思い出。きっと私に意志が芽生えたのは・・・戦う意志が育ったのは、誰かを守ることができる存在になりたいと思ったのは、軍曹の力強い言葉を聞いてきたからだと、そう断言できる。
明朝、私たちは街へ出た。マザーシップ攻撃作戦。この国に降り立ったマザーシップナンバー9が関東支部の防衛区域に近づいているということで、昨晩立案された作戦だった。観測は夜通し行われていた。明け方、巨船は市街地上空で位置座標を固定したと報告があり、隊員たちは緊急アラートで叩き起こされた。
AFVに随行して、ピジョン隊とフェンサー部隊が行軍する。街の別方向から何隊かが動いている。戦闘ドローンをボルトガンとレイピアで撃ち落としながら、私は必死に着いて行った。作戦に参加する部隊は多数。ドローンの銃撃に負傷しながらも、地球人は弾数にものを言わせこの戦場のイニシアチブを握りつつあった。
マグ・ブラスターはどうしても照準を合わせることが苦手で使いこなせなかった。敵に近づいて、そのために必死に飛び回って、時には這ってでも敵を破壊する。それが戦闘経験の浅い私が取れる精いっぱいのスタイルだった。ドローンの破片が肌を掠めて痛い。けれど、射撃した後の立ち回りをピジョン隊のみなさんに指導してもらううちに、効率的に敵を屠れるようになってきた。飛行射撃競技のインターハイ選手だという高校生の
「宇宙人・・・?何を言っているの?」
関東支部のチャンネルから漏れる憔悴しきった声に、私たちは戦闘を続行しながら首を傾げた。ドローンの猛攻を乗り越え、それぞれが無線機の意味不明な報告に集中する。人間とよく似た構造をもつ生物が現れた。武装しており、二足歩行で、頭も目もある。宇宙人が侵略してきたという。
「鳩子隊長、あれ・・・」
ふと空を見上げた晶紀さんの声は震えている。果たして視線の先、中空を遊泳していたのは、人間に酷似した巨体を満載した宇宙船だった。
先行している部隊のものだろうか。その時悲鳴が聞こえた。撃て、後退しろ、助けて、逃げろ。だけどもう何もかもが遅い。だって、宇宙人は。奇妙な機械と武装で身を固めた巨人は私たちを大きな目で見つめている。そこに来ている。距離にして50メートルだろうか。
銃口を向けられる。大きな口が開く。何か言葉が聞こえる。ボルトガンを構えた。
『 攻撃を許可する!直ちに侵略者を殲滅せよ!』
「無理よ、イヤ・・・あんなの、撃てない!」
「やらなきゃ殺されるわよ!」
無線の声と戦場の声が交錯する。心臓がばくばくと脈打つのを感じる。脚が竦む。私の意思は決まっていた。
『こちらチームガンマ!救援を・・・うわああああ!!!』
「百瀬、交戦・・・します!」
射出音が周囲で炸裂し、宇宙人と地球人の銃弾が飛び交った。粘ついた体液が宇宙人の身体から飛び散り、もはや、誰の血が流れたのか分からない。
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コロちゃんは人間に似ている説でゆきます。コロニストのゲ〜ロゲロ!って雄叫びが好きです。いやカエルじゃんか