侵略生物は虫のような姿をしているから殺していいの?宇宙人は人間に似ているから殺したくないの?だって撃たなければ殺される。だって私には“今”以外なにも無い。
人に似た生物を損壊させた私は、私たちは、これからどうなってゆくのだろう。
『こちらフェンサー1、敵性生物と交戦するも攻撃した両脚が再生!やつら治癒能力をもっています!』
『再生する前に殺せ!集団で急所を狙え!』
目前に迫っていたエイリアンのうち1体を、私はレイピアの至近射撃で頭部を破壊して殺害した。ぐずぐずになった体組織が流れ落ちる。血の色は人間のものと違う。着地に失敗して尻もちを着いた私に、手を差し伸べる人は居なかった。
「あなたは」
共に行軍していたレンジャーが私を見下ろして震える声で言う。
「なぜ躊躇しなかったのです」
そこからの展開はあっという間だった。ビルの陰から現れた2体のエイリアンに襲撃され、部隊は散り散りになる。鳩子さんが素早く私の手を取り立ち上がらせてくれた。よくやったよ、と言ってくれた。数体同時に相手取る戦術が無謀であることは、その場にいた全員がすぐに察した。建物の屋上や看板の裏、ベランダなどを使って隠れながら、それでも戦場からの完全逃走は考えず、一撃でも多く食らわせようとウイングダイバー達は羽ばたいた。AFVやフェンサー部隊とはすっかりはぐれてしまった。鳩子さん、十和子さん、香理花さん、私の4人はオフィスビル街、吸い殻やペットボトルが転がった汚い路地裏で息を殺していた。
「晶紀と衣川とは、はぐれちゃったね」
ピジョンの残りの5人はまた別方向から向かっていた。
冬の午後はあっという間に暗くなる。辺りは西日で柔らかく照らされ、乾燥した空気からは不潔な臭いが漂い、この状況の異常さを煽る。
「ホントありえないんだけど。あんなの相手に勝てる?別に戦えないわけじゃないけど」
「自分は・・・正直まだためらっています。まるで人間みたいなその、宇宙人を、撃っていいのか、って」
香理花さんが小声で怒り出し、十和子さんがしゅんと俯いた。
「十和子ぉ、αやβはガンガン殺してたくせに、ニンゲンに似てるからって罪悪感覚えるの?射撃部頼りにしてんのよ?」
「やめなさい香理花、高校生にそういう責め方」
「いえっ、EDFに志願したからには学生であることに甘えず、自分にできることはなんでもする所存です!」
「声が大きいよっ」
鳩子さんに諫められて二人は口をぎゅっと結ぶ。しかし香理花さんはすぐに「で」と口を開いた。
「百瀬さんは?さっきいの一番に戦果挙げてたけど、何か作戦ある?」
「・・・できるなら今すぐにでも飛び出したいです」
思ったままを答えると、きゃっと嬉しそうなリアクションが返ってきた。
「ねえ、聞いても良いかな?どうして百瀬は屈しないのか。意志が強いのか」
鳩子さんに尋ねられた。それは、きっと私の力じゃない、と思う。言葉がまとまらない。
「おい、生存者だな!・・・百瀬か!?無事でよかった」
あなたの、隣で戦えたら。守れたら。生きることができたら。それが、曖昧であやふやな百瀬勇の存在理由。
青柳さんの武装が返り血でぐっしょりと汚れていた。
「手強い相手ですね」
「お互い酷い有様だな、百瀬」
気遣うような口調につられて自分の身体を見下ろすと、なるほど確かに酷い有様だった。花のウイングダイバー装備がエイリアン色の涙で泣いている。
軍曹たちのチームが連れてきたフェンサー2名とも合流し、私たちは赤城軍曹の作戦を聞いた。それは身を隠しながら接近し、攻撃と潜伏を繰り返して攪乱。体格差を活かして死角から攻め、多対一に持ち込むという戦術だった。
「俺たちの重装備は最初の接近に向いていないな。ウイングダイバー!頼むぞ」
フェンサーのひとりが隊長章を付けた鳩子さんに言う。
「そうね、哨戒は引き受けます」
「はぁん?じゃあきっちり攻撃はしてクダサイね?怯えて転んでも、重装備のお兄さんたちなんて起こせないしぃ」
鳩子さんと香理花さんの対照的な返答が重なった。こら、と小突かれた香理花さんが、ピンク色の唇をいーっと伸ばして威嚇する。十和子さんがすみませんすみません!と怯えていた。
「やれやれだ。必要なのはでかい相手に近づく勇気だ!言い出しっぺは俺だ、手本を見せよう」
赤城軍曹が青柳さんと木田さん、ひええと小さく漏らす君鳥さんを伴って表通りにひらりと走っていった。香理花さんが小声でシブ、と呟いた。
「木田、いいぞ、一度下がれ!」
「おおよ!」
道路の向こう側のビル裏手に4人が吸い込まれていく。残されたエイリアンは両足を失ってじたばたともがきながらビルを無茶苦茶に撃ちまくる。2軒隣のコンビニ脇から君鳥さんが飛び出した。背後からうなじを狙ったアサルトライフルの弾道は正確で、急所を連射されたエイリアンは痙攣のち絶命した。
「・・・った、やりました軍曹!」
「よくやった君鳥!その調子だ、行くぞ!」
レンジャーが次の標的を探す。一緒に見ていた十和子さんが凄いっすね!と静かに燃えていた。鳩子さんが早速上昇した。しかしすぐに下降してくる。さっきまで飛んでいた辺りの看板が消し飛んだ。
「見つかった!結構近くにいた、ここ出て右手のT字路さらに右!」
私と十和子さんが同時に低空飛行でブーストを掛けた。学習塾ビルにぴったりと身を寄せたエイリアンを見つけ、プラズマアーク刃を脚部にお見舞いする。しかし削り切れなかったため即座に二手に分かれた。私は背後の建物に隠れ、おびき寄せるようにボルトガンのトリガーを引いた。近づく足音に地面が揺れる。ビルを半周して背後に回り込み、今度は全身に隈なくレイピアの斬撃を浴びせた。十和子さんの援護射撃・プラズマ砲が飛んできて、それがトドメとなる。ぼろぼろとその巨体がアスファルトに崩れ落ちる。
「う、ぐう、」
驚いたのか、十和子さんがしゃがみ込んで嘔吐いた。
「きゃあああああ!」
悲鳴は近くで聞こえた。知らない声、と思われる。落ち着いた十和子さんがあっちです!と飛んで行った。慌てて後を追うと、見覚えのあるピンク色のフライトユニットを着たウイングダイバーが、オーバーヒート状態で座り込んでいた。眼前のエイリアンは身体のところどころにプラズマアーク刃を受けて流血していたが、驚異的な再生能力によってその傷は塞がりつつあった。
「百瀬さん、一気に行きますよ!」
「了解です!」
今度は脚部を数発で吹き飛ばすことに成功した。倒れたエイリアンの銃撃が宙に向かって放たれる。他のエイリアンに感づかれたら厄介だけど、オーバーヒートしたコマドリ隊の人を置いていくわけにはいかなかった。武器を持つ手をレイピアで削って切り離す。左腕でずりずりと地を這うエイリアンに追撃を放つ。撒き散らされた体液が横断歩道の白と黒を覆い尽くした。歩行者信号のふもとに居たコマドリさんのユニット冷却は完了したようだった。彼女の視線が私たちに注がれている。その目の前で私たちは人間に酷似した生き物の頭部を滅茶苦茶に破壊した。
本部からの通信を受け、私たちはエイリアンが街から撤退しつつあることを知った。遭遇率は確かに下がっていた。鳩子さんと香理花さん、フェンサーさんたちも無事だろうか。私と十和子さんは、コマドリ隊の
そうこうしているうちにようやく人間に出会う。赤城軍曹一行も別のレンジャー部隊と合流していた。
「見ていたぞ。お前の勇敢さには本当に驚かされる・・・名前通りだな」
「えっ、あ、えへへ、ありがとうございます」
「なぁに照れてんだよ」
軍曹に褒められた私と小突く君鳥さんを見て、十和子さんがやっとリラックスした笑顔を見せてくれた。高校生も入隊させんのかよ、なんて組織だ!青柳さんから聞いたのか、木田さんが十和子さんを指さして叫んだ。自分はどうしてもと志願したんすよ!と負けじと大声があがった。
「最後のひとり・・・一匹、さっき隊長たちが倒しましたよっと」
空から唐突に、香理花さんが報告をしながら着陸した。同時に本部からねぎらいの言葉と、退却用の車両を用意したとの通信が入った。それをもって面々は実感する。街をエイリアンから奪還することに成功した、と。夕焼けは地平線に沈殿し、ほとんど夜になっていた。レーションで補給はしたけれど、ほっとしたらお腹がすいた。
「晶紀と琴も拾えたし、任務完了よね。ところで」
香理花さんがアイガードを外して軍曹を上目遣いに見つめた。長いまつ毛に縁どられた目は、顔の小ささも相まってきらきらと大きく見えた。
「ねっ、軍曹さん、あたし
「え」
「はああ?!」
「冗談だろ?!」
青柳さん、木田さん、君鳥さんと3パートの合唱が響く。軍曹は一瞬固まったが、ヤツらから地球を奪い返したらな、と動揺した様子もみせずしれっと言ってのけた。
「きゃ、香理花がんばっちゃお」
あーっこら香理花!またあなたは男のケツを追い回す!遅れて到着した鳩子さんの叱り声と、優しい鳩子さんのケツ発言に驚愕したと思しきフェンサーさんの短い悲鳴と、晶紀さん・琴さんと十和子さんの固いハグと、何が何やら混乱して動けない私。激しい戦闘でみんなハイになっていたのか、軍曹が場を諫めるまで騒ぎは止まらなかった。
東さんは一言も話さず俯いていた。この時、それに気付くことができていたら。
アク解見ると元気がでます。閲覧など本当にありがとうございます!
トンデモ生物見てもうろたえない軍曹はどんな時にうろたえるのかな。
鳩11羽もいるし女子が増えていくと思います。スプリガンの姉さんたちは後輩ダイバーたちから恐れられている気がします。
「孤立」の任務ではみんなで筋トレしたり踊ったりしますよね。
あと先日「生存者」で軍曹とだけ合流してソロで歌ってもらったらエイリアンに見つかって射撃されて泣いちゃった。