魔女が使い魔   作:クマだよ

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貴族と使い魔

夕食を済ませたアイールディは、寮室に戻りルイズをネグリジェに着替えさせる。

 

ルイズが着替えたシャツやスカートやショーツは明日水場で洗ってくるよう言われるアイールディ。

 

「使い魔はメイドの仕事もするの?」

 

「そうよ。使い魔はご主人様の下僕っていう扱いになるもの。食事の席と寝床は一緒でも構わないけど、こういう上下関係はしっかりしておかないと貴族としてダメなのよ」

 

「わかったわ」

 

頷いたアイールディは魔法で寝巻きに着替えると、部屋に一つしかない大きなベッドに入る。

 

「おやすみなさい。アイールディ」

 

「おやすみ。ルイズ」

 

 

数分後、ルイズが寝たことを確認したアイールディは、ベッドから出て窓を開ける。

空には赤と青の二つの月がアイールディを照らしていた。

 

窓から飛び降りたアイールディは、地面に軽々と着地すると、先程からアイールディを覗いている人間の方へ転移する。

 

「何か用?お爺さん」

 

「……まさか気付かれるとはのぅ」

 

アイールディは執務室の様な所で大きな鏡を覗いていた一人の老人。

トリステイン魔法学院の学院長オスマンがそこにいた。

 

「よく秘匿されていた。けど魔力とマナが見える私にはあまり意味がないわ」

 

「ほっほ。それは悪いことをしたのぉ」

 

オスマンは和かに笑いながら謝罪をする。

しかしアイールディは頭を横に振り、謝罪は要らないと示す。

 

「構わない。私があなた達にとって、手に負えない存在だということは承知してるわ」

 

「うむ……聞いてもよいじゃろうか」

 

真剣な表情に変えたオスマンはアイールディに問いかける。

アイールディが頷くとオスマンは口を開く。

 

「ミス・アイールディは何処から、そして何者なのか、それを教えてはくれんか?」

 

「この世界ではない別世界からやって来た魔女。あちらでは神族や神殿長と呼ばれていたわ」

 

アイールディは左手にあるルーンを見せる様にオスマンに突き出す。

 

「でも、今はルイズの使い魔よ」

 

 

 

______________

 

 

 

 

爛々と輝く太陽が眩しい朝、アイールディはルイズを優しく起こす。

 

「ルイズ。朝よ、起きない」

 

「んぅ……あんた誰?……」

 

昨日まで一人で寝起きをしていたルイズは、寝惚けている事もあって目の前にいる使い魔の姿に一瞬疑問を持つ。

 

「まだ寝惚けてるの?早く着替えないと朝食が始まるわよ」

 

アイールディは元々一児の母であった為、ルイズを昔の自分の娘に連想してしまう。

 

__娘が増えたみたいね

 

アイールディがルイズをベッドから出して立ち上がらせる。

 

「はい、バンザイ」

 

「ばんざーい」

 

両手を上げさしたアイールディはルイズのネグリジェを"すぽん!"と擬音が出る程、つっかえる事なく脱がして制服をそのまま着させる。

 

鏡が置かれた机の前に座らせ、長いピンクの髪をブラッシングすると、やっと目覚めたのかルイズが反応する。

 

「ん、アイールディ?おはよう」

 

「おはよう、ルイズ。顔を洗うから目を瞑って」

 

ルイズが目を瞑るのを確認したアイールディは、魔法で暖かいお湯を作りルイズの顔を綺麗に洗う。

 

ふわふわな真っ白のタオルで、湿り気を程よく除いたアイールディはルイズにローブを着せてルイズを立ち上がらせる。

 

「終わったわよ」

 

「ありがとう。……随分と慣れているのね」

 

「娘によくしていたからね」

 

「え?」

 

見た目で自分と同い年と思っていたルイズは、アイールディが子持ちであった事に驚く。

 

そうと知らないアイールディは惚気出す。

 

「お転婆な子でね。街に出かけて帰ってくるといつも土汚れを付けて、手の掛かる愛しい子だったわ」

 

想い出に耽るアイールディを見て、先程の疑問がどうでもよくなったルイズは、アイールディの手を引いて食堂に向かうのだった。

 

 

ルイズの隣に座って朝食を食べたアイールディは、洗濯をしに水場に向かっていた。

 

水場に着くと、そこには女中服を着た黒髪のメイドがベッドのシーツを洗っていた。

 

「一緒に洗っていい?」

 

「はい?……え、メイジ……貴族様!?」

 

アイールディがメイドの隣でそう言うと、メイドは振り向きアイールディを見ると、驚いた表情を見せて手を止める。

 

「貴族様に洗濯などさせられません!私が致しますので……」

 

「? 私は使い魔よ。この国の貴族ではないわ」

 

「し、しかし……」

 

メイドはアイールディのローブを指差す。

 

そこでルイズが言っていた言葉をアイールディは思い出す。

 

魔法が使える人間は貴族しか居らず、平民は等しく魔法は使えない。だからか、ローブを着ている人間=魔法を使える貴族という常識が出来上がっているらしい。

 

「確かに魔法は使えるけど、立場はあなた達とあまり変わらない平民よ。だから畏まらなくてもいいわ」

 

「はぁ、」

 

半信半疑なメイド、シエスタは水場の場所を少し空けるとアイールディがそこに入っていった。

 

桶に水を汲み、手洗いで洗うアイールディを不思議に思ったのかシエスタが話しかけてくる。

 

「魔法は使わないのですか?」

 

「素材が繊細なシルクだからね。やろうと思えば出来るけど、普通に手洗いでした方が時間がかからないのよ」

 

「そ、そうなのですか……」

 

静かな時間が続く中、アイールディはルイズの洗濯物を洗い終わると立ち上がる。

 

「私はアイールディ。あなたは?」

 

「へ?私はシエスタと申します」

 

「うん。これからよろしくね、シエスタ」

 

そう言うとアイールディは寮の中へ帰って行った。

 

 

魔法で乾かした洗濯物を箪笥に仕舞い、ルイズの元へ足を運ばせたアイールディ。

外に出てみると昨日のお昼を食べていたバルコニーでルイズの同級生達が使い魔と触れ合っていた。

 

午前の授業がもう始まっていることから、休みなのかな?と考えついたアイールディは、ルイズを探しにその輪に入っていく。

 

中々見つからないルイズに、魔法を使うか考えていたアイールディ。

歩いている途中で視界に綺麗な香水瓶が金髪の男子生徒のポケットから落ちるのを確認する。

 

「君、コレ落としたよ」

 

「ん?なんだね……!? そ、それは……」

 

香水瓶を見た金髪の男子生徒、ギーシュ・ド・グラモンは目を泳がせる。

それに気付いた彼の周りにいる生徒が、ギーシュを煽る。

 

「その香水、モンモランシーの香水じゃないか?」

 

「ギーシュ。君は色々な女子と懇意を見せていたが、ようやく一人に決められたんだな……」

 

「違う!彼女の名誉の為に言っておくが……」

 

ギーシュが勘違いだと返答しようとした時、運悪くギーシュの後ろでバスケットを両手に持った一人の少女、ケティが目に涙を溜めながらギーシュを睨みつけていた。

 

「ギーシュ様……はやり、ミス・モンモランシーと……」

 

「ケティ!彼らは誤解しているんだ。僕の心の中に住んでいるのは君だけさ」

 

ギーシュお得意の気障な言葉も今では浮気がバレた夫の如く。

ケティはギーシュの頬を思いっきり叩くと、そのまま去って行った。

 

その姿を見てギーシュの周りの生徒が笑う中、一人の少女の登場で気まずい雰囲気へと変わる。

 

金髪縦ロールと後ろに結んだ赤いリボンが特徴的で、普段からお嬢様然とした小女、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは普段ならしない怒りを顔に出しながら想い人ギーシュの側に歩いてくる。

 

「モンモランシー誤解なんだ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで、深い関係があった訳では……」

 

「やっぱり……あの、一年生に手を出していたのね?」

 

「お願いだ。『香水』のモンモランシー。君の薔薇のような美しい顔を、そのような怒りで歪ませないでおくれよ。僕まで悲しくなるじゃない……」

 

「嘘つき!!」

 

パァンッッッ!!

 

言い訳を続ける想い人の姿に怒りと悲しみを覚えたモンモランシーは、ギーシュの頬を叩く。

それはバルコニー全体に響き、談話中だった生徒達が気付く程だった。

 

走り去るモンモランシーを呆然と眺めていたギーシュは、ハンカチを取り出し頬に手を置く。

 

そして芝居かかった仕草で

 

「あのレディ達は、薔薇の存在の意味を理解してないようだね」

 

などと言って、ため息を吐く。

 

そんな姿を見たアイールディは、可笑しな子と思いながらルイズ探しに足を運ぼうと、その場を離れる。

 

「待ちたまえ」

 

が、それをギーシュは許さない。

 

衝撃で倒れた椅子を立て直し、それに足を組んで座るギーシュは、アイールディに退場の足を止めさせた。

 

「何かしら?」

 

「君が気を遣わず、目の前で香水を僕に返した所為で、二人の女性の名誉が傷付いた。どうしてくれる?」

 

突然な物言いに、アイールディは素直に言う。

 

「あなたが浮気をするからでしょ?」

 

アイールディの言葉に周りが笑う。

 

その通りだぞギーシュ。

 

お前が悪い。

 

辱められたギーシュは顔を真っ赤にする。

 

「君が機転を利かせて、僕が一人の時に香水を持ってくれば穏便に事が運んだんだよ。メイド君」

 

「私にそんなことを求められても、私はあなたの使い魔でもなければメイドでもないわ」

 

キッパリと言うアイールディに、平民の癖にと思うギーシュはある事に気づく。

 

「ふん……ん?、君は確かルイズの使い魔だったか?」

 

「そうよ」

 

「そうかそうか……へぇ……」

 

ルイズの使い魔だと分かったギーシュはあからさまに馬鹿にした態度で、話を続ける。

 

「確かルイズが呼び出した、魔女だったかな?魔法を使える癖に貴族の気を使うことも出来ないとは……さすがは"落ちこぼれ"のルイズの使い魔だ」

 

明らかな自分の主人への侮辱に、アイールディはギーシュのフリルが付いた襟を掴むと片手で持ち上げる。

 

「ンガッ!?」

 

「ルイズは落ちこぼれではないわ。訂正しなさい」

 

ギーシュはアイールディの事を侮っていた。

 

ゼロのルイズがまぐれで召喚した使い魔。

魔法を使ってはいたが、空を飛んでいただけであったので、コモンマジックが精々だろうと思っていた。

しかし彼女の細腕で自分を片手で持ち上げる事から、安易な考えを捨てざるを得ない。

 

一応は軍人の息子であるギーシュ。掴まれた襟を無理矢理に解いたギーシュはアイールディに怒りを露わにした顔で告げる。

 

「よくもコケにしてくれたな。君には礼儀というモノを教えてやろう……決闘だ!!」

 

胸ポケットに入れた薔薇の杖をアイールディに向けたギーシュは高々に宣言した。

 

 

場所と時間を告げたギーシュがその場を離れて行くと、入れ替わるようにルイズが近づいて来た。

 

「あなた!何をしてんのよ!」

 

「ルイズ。探したわよ」

 

「何、呑気なこと言ってるの!早くギーシュに謝りに行くわよ!」

 

アイールディの手を掴み引きずるように歩くルイズにアイールディは大丈夫だと言う。

 

「心配ないわ、ルイズ。あの程度の相手は障害にならない」

 

「そんなこと言ったって……」

 

「ねぇ、監視役の君。広場に案内してくれるかしら」

 

「いいだろう。ルイズの使い魔」

 

アイールディは監視役の男子生徒に案内を頼み、ルイズに一言だけ残す。

 

「私を信じて、ルイズ。あなたは落ちこぼれなんかじゃないわ」

 

 

決闘場としたヴェストリ広場は魔法学院の敷地内の中庭である。

西側にある広場で、日中でも日があまり差さない場所である。

決闘には打って付けであるが、実際貴族間の決闘は法律で禁止されているため、使われることはあまりなかった場所だったりする。

 

しかし今回は貴族とゼロのルイズの使い魔の決闘。

 

日々に刺激を求める貴族の子供がそんな面白そうな事を耳にして行かない訳がなく、広場には生徒達で溢れかえっていた。

 

「諸君! 決闘だ!」

 

ギーシュが薔薇の杖を掲げると、周りの生徒達の歓声が湧き上がる。

周りの生徒達はギーシュが一方的に使い魔を打ち倒すと思っている為、歓声はギーシュにしか飛ばない。

アイールディに飛んでくるとすれば野次の言葉だけだ。

 

「とりあえず、逃げずに来た事を褒めてやろうじゃないか」

 

「御託はいいわ。さっさと始めましょう」

 

「ふん……まぁいいだろう。では、始めよう」

 

ギーシュが薔薇の杖を振る。

花弁が一枚地面に落ちると、そこから美しい鎧を身に付けた女戦士然としたゴーレムが一体、姿を現わす。

 

「綺麗な人形ね」

 

「フフ、君にもコレの美しさがわかるかい?

言い忘れていたね。僕の二つ名は『青銅』。

『青銅』のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』が君の相手をするよ」

 

ギーシュがゴーレム、ワルキューレを召喚する中、アイールディは空間倉庫から、赤い光が炎を纏ったの様に揺らめく、長く大きな杖を取り出す。

 

一見、剣にも見えるそれは炎を宿した木霊の杖。

身体能力と火炎魔法が強化され、その杖で斬られた者は傷口から燃え上がり、重度の火傷を負う。

 

それはアイールディが、住んでいた大陸で魔女狩りという風習があった時代に、自己防衛として作った武器であった。

 

「な、なんだねその剣は」

 

「これは杖よ。私もあなたに名乗っておきましょう。

私は異世界からやってきた魔女。

二つ名は『命』の魔女、『軍団』の魔女、『剣聖』の魔女、

そして『ゼロ』の使い魔。 好きなのを呼んで貰って構わないわ」

 

アイールディは不敵に微笑むと、赤い木霊の杖を構えた。

 

 

 

ワルキューレがアイールディに近づき、片手に持つ槍ではなく無手の拳で、アイールディの腹部を殴ろうと突き出す。

 

しかしアイールディは避けることもせず、拳が迫る前に杖を横に一振り、するとワルキューレは豆腐のようにいとも容易く、上下に両断され土塊に戻る。

 

「なっ!そんなバカな!」

 

「武器を使わずに戦おうだなんて、相手を舐めすぎよ」

 

アイールディは無感情にそう告げると、今度は煽るようにギーシュに笑う。

 

「一体だけしか出せないなんて言わないわよね?坊や」

 

「ふん……人が慈悲として武器を使わずに終わらせようと気を使ってやったのに……いいだろう。そこまで言うならもう容赦はしない。ワルキューレ!」

 

薔薇の杖から六枚の花弁が地面に落ち、アイールディを囲む様にワルキューレが召喚される。

 

このままではアイールディは槍で串刺しになる。

しかしアイールディは杖を掲げると詠唱する事なく、魔法を発動した。

 

「『三球炎柱』×6」

 

ワルキューレの足元に三つの赤い丸が三角状に置かれた魔法陣と、それを囲むように置かれた二つの魔法陣が現れた。

次の瞬間、巨大な火柱が天に昇り、その中心にいたワルキューレ達が一瞬にして塵となった。

 

それはアイールディにとっては、基礎レベルの主魔法陣と補助魔法陣であった。

そんな初歩の魔法であっても、青銅を塵にするのには十分であった。

 

一瞬にして自分の武器を殲滅された事に呆然とするギーシュは、膝を地面に落として薔薇の杖を手から離してしまう。

その薔薇の杖を拾い上げたアイールディは、ギーシュに命令する。

 

「ルイズに謝罪と先程の言葉の撤回を求めるわ」

 

自分が勝者であると高々に宣言するアイールディに、ギーシュは諦めた面持ちになる。

 

「わかった、撤回しよう。そしてルイズとその使い魔に謝罪する事をここに誓う」

 

ゼロのルイズの使い魔が貴族を倒した。

 

ギーシュとアイールディの決闘は、ギーシュが事実上降伏を宣言した事で終結し、ギーシュを破ったアイールディに周りの生徒達は歓声を上げた。

 




魔女の泉情報

主魔法陣

火炎魔法、雷撃魔法、氷結魔法、治癒魔法の四つが基本で、ストーリーの終盤で無属性魔法を合わせて五つがゲーム内で手に入る魔法陣です。


補助魔法陣

主魔法陣の威力を上げる増幅の魔法陣とマナ消費を抑える魔法陣の二つがゲーム内で手に入る魔法陣です。


この小説では、アイールディは長年の鍛錬と研究でゲーム内の魔法以外にも独自の魔法があります。(例を挙げると飛翔魔法など)

しかし攻撃系統の魔法は魔法陣を支流に書いていきたいので、戦闘シーンではゲーム内の魔法を使っていきます。なので、時間を止めたり、魔法式を視て分解したり、惑星を破壊するパンチをしたり、邪神を召喚したりなどのチートはありません。

かと言って戦闘で手を抜いたり、情けをかける事もしないのでご了承ください。
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