この世界において、民法731条は未だ改正に至っていない。
その日、S.O.N.G.本部発令所にて、風鳴弦十郎は集めた面々の顔を見回す。
緒川慎次。
藤尭朔也。
友里あおい。
特異災害対策機動部二課からの肝煎りの部下たち。
エルフナインには席を外してもらっている。
聖遺物や錬金術のスペシャリストたる彼女に対し、聞かせたくない政治的な話だった。
すでに概要は弦十郎が話し終え、皆が手に持った資料に視線を落としている。
「…こういう搦め手で来ましたか」
呟く緒川。
「同時に、激しく疑わしい内容ですね、これ」
藤尭がプリントの端を指で弾く。
頷き、その紙面の内容を弦十郎も再び黙読した。
そこにはとある人物の詳細が記されている。
マクシミリアン・モリーナ
ロンドン在住のイタリア系イギリス人。
地元密着型のスーパーを複数持つ経営者で、地元のウェールズではそれなりの資産家で名士だと言う。
巷間にいくらでもいる、多少裕福で平凡な人間だろう。
そんな初老の男が英国政府を通じて、こと国連直属組織に訴えかけてきているのが問題だ。
疑問の種を割ってしまえば、彼の持つ姓が答えだった。
モリーナ。
雪音クリスの母である、ソネット・
マクシミリアン自身は、ソネットの血縁だと主張している。
その上で、クリスの活躍を目の当たりにし、親族として彼女を英国に引き取りたいのだと言う。
「とりあえず、ミスター・モリーナの身辺情報に関しては疑わしいところは見つかりませんでした」
友里はそう報告し、ややうんざりとした顔つきで、
「それこそ完璧すぎるほどに」
そう付け足した。
「そこいらへんは英政府がしっかりとクリーンアップしてるでしょうからねぇ」
藤尭の声も苦々しい。
雪音クリスの編入に先立ち、特異災害対策機動部でも彼女の親族の捜索や調査は行っている。
しかし雪音家もモリーナ家も血縁が薄いらしく、ついぞクリスを保護したいという親族は見つけられなかった。
それが今となって突然沸いて出たかのような申し出である。
「いや、今となってこそ、か…」
シンフォギア装者たちの激闘は、あまりにも大規模なものになりすぎた。
いくら情報統制を敷こうとも、個人が携帯端末などで動画を撮ることまでとても制止できない。
SNSなどにアップされるものは即座に削除され、そのためにも大規模な予算が投じられているが、壮絶なイタチごっこにしかなっていない現状である。
そんな中で動画を目にし、途絶えたと思われたクリスの親族が名乗りを上げたとあれば、それは本来喜ぶべきことなのかも知れぬ。
「モリーナ氏の要望としては、ぜひクリスくんと英国で一緒に暮らしたいとある」
親族がおり、一緒に暮らしたいというのであれば、それは最大限尊重されるべきだと弦十郎は思う。
ただし、それが本当の親族であるならば。
藤尭の言った通り、このモリーナ氏がクリスの血縁であるという主張は疑わしい。
あるいは英政府が国の威信にかけて探しだしたのかも知れないが、だけに余計に疑わしく思える。
そもそも国の主張というのは、様々な権益が背景に存在するものだ。
遠くの親族の心からの陳情という美談など、とても素直に受け取ることができない。
「要は、英政府は雪音さんを自国で囲み込いたいのでは?」
緒川の言に、弦十郎は瞑目。
国連直属組織S.O.N.G.といえど、そこで働く人種は日本人が多数を占める。
元は日本国の特務機関からの再編・出向なので、それは当然かも知れないが、装者もまた日本人がほとんどである。
レセプターチルドレンの三人は、マリア・カデンツァヴナ・イヴのみが国連直属のエージェントという背景を設定されているが、月読調、暁切歌の身柄は日本国の預かりであり、名前の字面からも日本人と見做されているだろう。
立花響、風鳴翼は生粋の日本人である。
そういう目線でみれば、なるほど、出自と身元がはっきりとしていながら純粋な日本人ではないのは、雪音クリス一人だけかも知れない。
母方の血筋からのアプローチでクリスを渡英させ、国籍を取らせる。
シンフォギア装者は一歩間違えれば大量破壊兵器となりうる。一国に装者個人が所属するとれば、世界のパワーバランスが大きく揺れるだろう。
もちろんそのような事態を防ぐための国連直属組織という体裁なのであるが。
「そんなの、アメリカ様が黙ってないでしょうよ」
緒川の発言に対抗したのは藤尭だった。
アメリカが国連に対しもっとも強い影響力を持つのは世界の不文律だ。
そもそも特異災害対策機動部二課がS.O.N.G.に移行した理由も、かの大国の意向が働いた結果である。
となれば藤尭の言うとおり、英国の言い分に対し、米国が横やりを入れないわけがない。
「ところが、どうもアメリカが裏で支援しているみたいなのよ」
友里が否定した。
「ま、マジで…!?」
狼狽する藤尭を前に、開眼した弦十郎は唸るように言う。
「彼らの懸念はいわゆる
その声に、部下三人は一瞬言葉を失う。
「むしろ愛国心と言い換えたほうが分かり易いか」
部下を見やり、弦十郎は苦笑して訂正した。
国連が様々な人種で構成されているのは周知の通りだ。
彼らは世界平和のために奉職するのが務めであり、国連という組織へ帰属している。
しかし、仮に国連が機能不全、もしくは崩壊した際に彼らの帰属意識はどこへ向かうのか?
それは、自らの生まれ育った国土へ向けられることが殆どであろうと思われる。
同様に、国連の制御を離れたシンフォギア装者たちの動向は、出身国である日本を守ることを第一とすることだろう。
そのような状態にならぬよう国連もアメリカも腐心しているだろうが、内心で苦々しく思っていることは想像に難くない。
そう弦十郎が説明すると、部下三人も納得したように頷き合っている。
「まあ、愛国者がいなければ立ち行かぬ場合もあるしな」
弦十郎の脳裏に実父の威容が浮かぶ。
しかし、あまりに極端な例だと慌てて掻き消し、次に思い浮かべたのはイギリス国防大臣の姿だ。
非公式の会談の席で彼の人はこう言っていた。
『我が国にもシンフォギア装者が一人でもいれば…』
錬金術師の胎動が専らとされる欧州一帯において、それは切実すぎる望みだろう。
そのような愛国心に基づく清廉な願いも、後ろ暗い権益塗れの汚濁も、合わせて奔流となるのが政治というものだ。
「実際のところ、雪音さんの国籍の移動などはさすがに無理でしょう」
友里が言う。
後押しする米国としても、そこまでは看過しないだろう。
「となれば、装者に対し英国として紐をつける形、ということでしょうか?」
「おそらく落としどころはそこらへんを想定しているだろうな」
藤尭の問いに弦十郎は頷く。
現状、国連直属の建前はあれど、その実日本とアメリカの影響を無視できないS.O.N.G.。
そこにイギリスも一枚噛ませろということか。
イギリスは権益を求め、アメリカは日本の力を削ごうとしている。
両者の思惑が一致したわけだ。
はっきりいって不快である。とても子供たちに聞かせられる話ではない。
太い眉を勢いよく跳ね上げ、弦十郎は言った。
「そこで打開策だ。諸君には、どうやってこの難題を突っぱねるか知恵を貸してもらおうッ!」
「養子縁組は、どうでしょうかね?」
藤尭が言う。
「それも有効だったかも知れんが、期を逸してしまった」
弦十郎は応じる。
このような事態が持ち上がる前に、純日本人の誰かと養子縁組を結んでおけば、ある程度の対抗措置となったはず。
しかし、親族が名乗り出てしまった以上、今更実行しようとすれば、あからさまな対抗と見做されてしまう。
日本国が制度を使って無理やり自国に引き止めようとしているとの苦言に弁明するのは難しい。
「彼女がまだ未成年なのも苦しいですねえ」
緒川が唇の前に指を押し当てて考え込んでいる。
雪音クリスはまだ17歳だ。
現状の日本国の民法では、まだ20歳が成人年齢となっており、国籍の選択もその時点で可能となっている。
そしてイギリスでは既に1964年に法改正が行われ、18歳で成人となる。
イギリスの法律を盾に、クリスに国籍の選択を迫ってくる可能性があった。
当然、その時点でクリスは日本国上の成人年齢に達していないから、イギリス国籍を取得しろとの外圧も想定される。
牽強付会もいいところだが、政治が時にして法律すら凌駕することは珍しくない。
「加えて、こんな反証もありまして…」
そういって友里がモニター上に展開した映像にクリスが映っていた。
ただし、纏っているのはイチイバルではなくネフシュタンの鎧。
過去、二課の装者たちを襲撃した際の映像である
「こんなものまで流出していたなんて…」
緒川と藤尭が異口同音に
元の特異災害対策機動部一課をして、各種データの隠蔽作業には細心の注意を払っていたはず。
それが漏れたとあれば、やはり背後に最大の同盟国の影を見ざるを得ない。
「この映像の内容を持って、雪音さんは本来、二課に対立していたのでは、とのことで」
引いては意に沿わないままにS.O.N.G.に所属して戦わせているのでは、と友里より渡された書簡には記されていた。
書簡には、血縁の娘が望まぬ戦いに身を沈めているなら、どうにか救ってほしいとのモリーナ氏の署名もある。
モリーナ氏の実在はともかく、さすがの弦十郎も軽い頭痛を覚え、コメカミに指を当てた。
元特異災害対策機動部二課、いや、日本にとってはこれらの映像の流出は元より、ルナアタック事変そのものが痛恨事であった。
フィーネの情報は共有されてたとはいえ、なにせカ・ディンギルが製造されていたのが当初の本部の地下である。
その後、国連直属組織への出向という形で幕引きは図ったものの、一部では未だ国を挙げて行った壮大なマッチポンプだったのではという意見も根強い。
装者の活躍を見てもらえれば、そのような無責任なことは口には出来ないのに、と弦十郎は思う。
だが、世界には自分の都合の良いものしか見えない人間も多いのも事実だ。
「…他に、何か妙案はないか?」
部下が一斉に
この会議に先立つこと先日、弦十郎は兄である風鳴八紘に会っている。
その席で八紘はこれらの懸案を投げかけると同時に、こうも言っていた。
『弦―――済まない』
意訳すれば、八紘の剛腕を持ってしても、この事態に持ち込まれてしまったということだろう。
兄の政治的手腕など自分の遥か高みにある。
その兄を持ってしても駄目だった懸案を、俺たちで処理できるものかよ。
心の中で
そんな中、室内の紅一点である友里が、なぜかそわそわしている姿が目に入った。
「どうした友里? 何か意見でもあるのか?」
「い、いえ、その…」
さらにそわそわし、うつむいて口ごもる友里。
しかし弦十郎がゆったりと構えていると、意を決したように訴えてくる。
「そ、その! 雪音さんに結婚してもらうというのはどうでしょうか?」
果たして弦十郎は目を剥いて立ち上がった。
「なんだとッ! クリスくんは学校に意中の人でもいるのかッ!?」
「いや、司令。そこはリディアンは女子高ですし」
反射的に突っ込む藤尭。
「すると、市井に付き合っている一般人の相手がいるのか?」
「それも残念ながら確認されませんけど」
と友里。
なるほど、考えてみれば訓練に出撃の繰り返しで、一般人との出会いなどあるまいよ。
過酷な学生生活を押し付けているなと弦十郎は反省。
「となれば…偽装結婚という格好か?」
そういって太い腕を組む。
雪音クリスの後見人を買って出ている弦十郎であるから、本当に好きあっている人と結婚できるなら手放しで祝福してやりたい。
だが、政治の始末の結果として、彼女に望まぬ結婚を勧めるなど、唾棄したいところだ。
「ですが、この形が一番説得力があるのも事実です」
養子縁組と違い、結婚は恋愛と自由意志に基づくもの。
日本での女性の婚姻年齢は16歳と法律で定められている。
仮にこれを阻害するようであれば、逆に責められるべきはイギリスの方になるだろう。
最低限の労力で最大限の効果を上げるという意味においては理想であるかも知れない。
「…ならば、なるべくクリスくんの嗜好に沿った人選をするか」
弦十郎の脳裏で、部下たちの顔がリストアップされた。
幸いといっていいのか、未婚の男性は結構多い。皆、エージェントとしての実力は折り紙つきだ。その中で、なるべく歳が近いほうがいいだろう。
「いえいえ、司令。偽装ですから、なにもそんなリストアップせんでも」
藤尭が、なぜか慌てて手を振ってくる。
「ふむ。そうだな、では緒川、おまえはどうだ?」
急にそう振られ、緒川慎次は珍しく飲んでいたお茶でむせた。
「…光栄ですが、僕は翼さんのマネージャーの仕事がありますので」
そういって眼鏡を装着した涼しい顔に戻っている。
「なら、藤尭。おまえは?」
「…冗談ですよね? 本気で言っています?」
藤尭の顔色は本当に変わっている。
弦十郎にとって、二人とも自慢の部下である。
才気と器量は抜群で、およそ他に替えがたい貴重な人材だ。
彼らなら、クリスと十分に釣り合うし、護ってくれるだろう。
そう思う反面、命令で戸籍を汚させるのには、さすがに忸怩たるものがある。
「すまんすまん。しかし、事情を弁えて、かつ才幹を持った男など、他に思い浮かばなくてな」
仮にもクリスと結婚となれば、無形有形の様々な圧力や干渉があることが想定される。
それを弾き返すだけの強靭さに加え、S.O.N.G.関係者であればバックアップもしやすい。
これで相手がなまじ市井の人間となれば、個人だけでなくその家族にまで気を配らなけばれならぬ。
「そういう意味においては、もっと身近に適材な人間がいると思うのですが…」
なぜか不愉快そうな顔つきで友里が言う。
「ほう? それは誰だ? 是非紹介してもらいたいのだが」
「…それはともかく、この場合、雪音さんの意志を確認するのが先決では?」
「ふむ…」
弦十郎は考え込む。
解決手段はさておき、英国に身内が発見されたとの情報すら本人には伝えていない。
渡英したいと彼女が望んだとして、弦十郎はそれを安易に認められない。逆に説得しなければならない立場である。
その上でも、やはり本人の意志確認はさすがに必要だろう。
「分かった。友里、至急クリスくんを呼んでくれないか?」
緊張した面持ちで雪音クリスが発令所に現れた。
弦十郎がイギリス政府からの通達と書簡を渡して説明したところ、瞳を輝かせたのも一瞬で、たちまち胡散臭い顔つきになる。
「なるほどな、事情は分かった。でもこれって、絶対イギリスの策略だろ?」
「ほう、どうしてそう思う?」
無意識で頬を綻ばせながら弦十郎はそう問うた。
「こんなとってつけたような親戚っていわれてもなー。しかも今さらだし」
唇を尖らせるクリスは、どうやら彼女なりに大人たちと同じ結論に達したらしい。
「だいたい、見たことも会ったこともないような自称ママの親戚に付き合う義理はねーよ」
「なるほど、それがクリスくんの意志ということでいいのだな?」
頷くクリス。
「でも、雪音さん。ことはそう簡単には収まりそうにはないのよ」
友里がやや緊張した面持ちで説明を始めた。
未だ未成年の彼女の保護を訴える道義的な根拠。
国籍の選択を盾にイギリスより身柄を迫られる可能性。
また、かつての二課と対立していたという情報を持って、クリス自身が自意識に反し組織に所属しているのではという疑念。
これらを解決しないことには、政治的な納得と決着に至らないこと。
「そんなもんッ…! …全部突っぱねてくれよ」
小さな肩がいきり立ち、直後にたちまち消沈した。
個人レベルでどうこう出来る話でないことを悟ったのだろう。
頭のいい子だ、と弦十郎は思う。
そして不憫に思ったのは友里も同じらしく、続きの言葉を言いあぐねているよう。
「そこで、一つ解決策がある」
見兼ねた弦十郎がそう口を開いた。
「…それは?」
上目使いで見てくるクリスの眼を真っ直ぐ見つめ、弦十郎は答えた。
「クリスくんに結婚してもらうことだ」
「はあッ!? 結婚だあッ!?」
狼狽も露わにするクリスに、それも当然だなと思いつつ、弦十郎は優しく言葉をつづけた。
「とは言っても、偽装的なものになると思う。要は政治的な体裁を整えてもらいたいのだ」
「て、体裁って…、でも結婚は結婚だろうがよッ」
「確かに戸籍を汚してしまうことになるかも知れん。それでも、これが一番波風が立たない手法なのだ」
一転、弦十郎は真摯な態度で頭を下げた。
或いは断られるかも知れないが、それはそれで構わないと思っている。
どだい17の子供に無理を強いているのだから。
クリスの反応はない。
仕方ない、他の方法を探すか。
そう思って顔を上げた弦十郎の目前で、クリスは俯いている。表情は読めない。
「…まあ、それが一番冴えたやり方なら、仕方ねーけどよ」
ポツリと呟く。
「そうか、承知してくれるか」
思いのほか肩の荷が下りた気がする。
それでも、済まないな、という気持ちを抱えたまま、弦十郎はクリスに室内を指し示した。
「それで、相手だが、緒川や藤尭ではどうだろう?」
その声に、ちょうど温かいものを飲んでいた両名が噴き出す。
「ちょっ、司令、諦めてなかったんですか!?」
「いや、やはりS.O.N.G.関係者が最適だと思ってな」
むせかえる藤尭に、なぜか怒りの形相の友里が割って入ってきた。
「そうおっしゃるなら、司令自らも入っていなければ不公平でしょうッ!?」
「はあッ!? 俺もか?」
そういわれ弦十郎も考え込み、ほぼ半瞬で折り合いをつける。
なるほど、男性ならば、確かに自分も結婚対象ではある。
それを忘れて部下たちに責任を押しつける形になっていたのは猛省すべきだろう。
組織のトップであることを嵩に着ていたとの指摘も免れまい。
ならば上司が自ら範を示すべきだ。
「…そういうわけで、相手は俺でどうだろう、クリスくん?」
「ええッ!? うええええええええええッ!?」
顔を真っ赤にして、これ以上もないほど狼狽するクリス。
両腕をだばだばと振り回す姿に、まるで
そんな茹蛸は独特な髪型をたなびかせ、発令所を飛び出して行ってしまう。
「やれやれ、どうやら怒らせてしまったようだ」
弦十郎は苦笑しつつ部下たちを振り返った。
「…本当にそう思っています?」
友里にジト目で睨まれた。
「当然だろう。偽装とはいえ、こんなおっさんと結婚しろと強いたんだ。そりゃあ嫌だろうさ」
朗らかに言う弦十郎。
「さあ、仕切り直しだ。別のアイディアを期待するッ」
しかし、消沈した部下たちからはろくな発案もなく、その日の会議は結局流れることになる。
明けて翌日。
司令席についた弦十郎のもとに、友里がメッセージを携えて持ってきた。
彼女は、クリスより送られてきたというメールを、司令席の専用ディスプレイに表示させる。
「…これを、クリスくんが?」
「はい」
頷く友里は笑顔なのだが、なぜか背中がうすら寒くなるような印象がある。
そんな部下から務めて顔を逸らし、弦十郎は腕を組む。
宛名は自分宛になっている極め付けの短文を再読。
『よろしくお願いします』
ふむ。
年頃の娘は、分からん。