ミスタと子どもがあって、早くも1年が過ぎた。
子どもには戸籍がなかったので、どうしたものかと頭を抱えたが、イウスは超文明の住人ということも有り、あっさりと違和感なく自分たちの戸籍を作り上げた。
その際せっかくなので、イタリア人とのハーフにしてはどうかという話になった。
「どーせならよぉ。チトセもかっこいい名前にしようぜ。見た目が可愛いからよぉ。せめて名前は男らしくカッチョいいのによぉ」
「カッコいいという物がよくわからないが、本人次第だろうな」
いくつかの候補の中から、日本人でも比較的発音しやすいエドをファーストネームにし、あとは適当なセカンドネームとファミリーネームを置いた。
その結果。ネアポリスに二人の人間が住むことになった。
胡散臭く何を生業としているのかわからない、人を小馬鹿にしたような話し方をしている青年。イウス・アクス・ヴォーナと、どう見ても女の子と間違えられような容姿と、特定の人間しか信用しない閉ざされた心を持った少年。源千歳ことエド・コンスタンチァ・ミナモトである。
ミスタとエドは7つ程離れており、当然ながら二人が合うのは、休日を除けば朝と夕方以外殆どない。
ついこの間まで、追われる生活をしていたエドが、周りに馴染めず、ゴロツキやチンピラの様な生活をするのも、無理からぬ事であった。
エドにとって、これは別に不思議な事ではなかった。
弱肉強食の時代の教育を受けて来たエドからすれば、自分が安心する為の縄張りの確保は至極当然の思考だ。と思ったからである。
小さなエドが、縄張りを拡大することに対して、当然我慢ならないのは、昔からそこを縄張りとしている、ガキ大将たちである。
彼らは子供なりに考え、直接的、或いは間接的に、エドを追い詰めようとするも、追い詰めれば追い詰めるほどに、エドの凶暴ぶりが増してしまい、一年も経つ頃には、同年代やちょっと年上程度では、エドを止めることはできない有様になっていた。
しかし、出過ぎた杭は打たれると言うのが、世の常だった。
イタリアンギャング パッショーネ。
彼らの目に止まり、エドの火遊びは終わりを告げた。
それは、なんの前触れもなかった。
いつもの様に悪ガキ共とつるんでいると、おかっぱ頭の男がやってきた。
そこらの大人など鼻にもかけないエドは、この男を追い出そうと近づいた。
「訪ねたいことがある」
エドは足を止めた。
別に面識があるわけではないが、道や人を訪ねているのなら、特に無碍に扱う必要もないと感じたからだ。
「聞こう」
「この辺りにエド・コンスタンチァ・ミナモトと言う少年がいると聞いて来たんだが…知らないか?」
「何故?」
「警告をしに来た。俺はパッショーネのブローノ・ブチャラティ。今まではお目溢しされていたようだが、俺がこの辺りを取り仕切るからには、お前らの様な子どもに、こんな事馬鹿なマネはさせない。痛い目に遭う前に真っ当な道を歩め」
エドはこいつもまた、綺麗事を並べ立てるだけの、話す価値も無い男だと判断しだ。
平和ボケした間抜けだと。
「そうか。言いたいことはそれだけか?」
いうが早いか、エドは一気に踏み込んだ。
予備動作のまったくない加速は、ブチャラティも目をむいた。
懐に踏み込み、最早受けるも止めるも叶わない距離で、腰から吊り下げた愛刀、薄緑・陽炎を一気に引き抜いた。
無論この程度の男を斬り殺すなどとは、考えていない。
寸止めしてやれば実力差に気づき、2度とナメた口は効けなくなる。
何時もどおりだ。そうエドは思っていた。
だが眼の前の男は違うという事を、エドは、いや千歳はこの後、思い知らされるのだった。
Side:Citose
刀が当たる瞬間、ブチャラティという男の胴が切り離された。
「……っ!」
「速い…この速さは躊躇いのない速さだ。正直驚いたよ。この歳で随分手慣れてやがる」
ふざけるな!驚いたのはこっちだ!
何だ今のは!?
今も何事も無かったかのように、再び胴体をくっつけ、私の前に立っているし。
何だコイツ…今までの連中とは明らかに違う。
「噂には聞いていたがエド。確かにかなり腕が立つようだな。ポルポが組織に引き入れて来い。というのも頷ける」
言い終わると、ブチャラティは私を睨み付ける。
雰囲気が変わった。
ここからが本番という訳か。
「だからこそ!お前はここで止める!これ以上こちら側へ越させないために!!」
「抜かせ!!鉄火場も知らん腑抜けが!!」
「知らないのはお前の方だ!ステッィキィ・フィンガーズ!!」
何事か叫んだ瞬間、ブチャラティの前から、筋肉質でヘルメットを被った全体的に青い男が現れ、こちらに突っ込んできた。
「貴様!?一体どこに!?くっ!」
「何!?見えているのか!?」
殴りかかってきたソレをなんとか躱し、距離を取る。
何だコイツ…本当になんなんだいったい…。
ブチャラティを見ると、驚いた顔をしている。
なるほど。
今までは、この姿が見えない何者かの協力のお陰で、何とかなってたという事か。
先程の胴体を切り離した回避も、手品か何かだと思えば分かりやすい。
防ぐ手はある。
「お前ら!この青いのは私が相手をする。お前らはもう一人のおかっぱをやれ!」
「なにいってんだ!青いのってどれだ!」
「寝ぼけてるのか!ヤツの前にたっているだろう!カフェの入口の看板メニューみたいに!」
「あんたこそ寝ぼけてんじゃねーのか!?俺達の目にはそんなもん見えねーよ!」
「ちっ!もういい!役立たず共が!!」
眼の前にいるだろうが!
やはり他人など当てにならない!
ここは私一人でここにいる全員やるしかない!
信じられるのは…ミスタとイウスだけだ!
「ずえええぇぇぇぇい!!!」
叫びながら思いっきり眼の前の青い奴に斬りかかる。
恐らくは防がれる。だが防げばその瞬間は無防備!
思いっきり体当りして体制を崩せばこちらに分が傾く!
さぁ受け止めろ!
「……俺のスティッキー・フィンガーズが見えている事には驚いた…そして、残念なことに、お前を組織に入れざるを得なくなってしまった」
それがどうした!
そしてもう受け止めることはできん!
避けれるものなら避けてみろ!
「安心しろ。俺がお前を守る…必ずだ!!」
「!?」
その言葉は…!
「アリィ!!!」
気を取られている隙に、ブチャラティの鋭い拳が鳩尾に深く刺さり、私の意識はそこで落ちた。
Side:Bucciarati
「思ったよりも強い奴だ」
それは嫌味ではなく本心からだ。
10にもならない子どもが、あそこ迄動けるとは想定もしてなかった。
不発には終わったが、彼我の実力差を見極め、人海戦術で俺を抑え込もうとした手腕も、実に手慣れたように思えた。
ただの子どもと侮っていた。
だがそれよりも驚いたのは、俺のスタンド、スティッキーフィンガーズを視認していたという事だ。
スタンドはスタンド使いにしか見ることができない。
ポルポはこの事を知っているのだろうか?
……いや、恐らく知らないはずだ。
俺が受けた指令は、縄張りでウロチョロしているガキ共に、大人の怖さをわからせてやれ。だったからな。
あわよくば組織に入れてこいというのも、この歳でこの人数を纏められる能力を買っただけだろう。
ここで俺がこいつを見逃したとしても、他の連中を使ってパッショーネに入れようとするに違いない。
こいつは恐らく信頼というものに飢えている。
先程、俺がコイツに対する決意を口にした時、明らかに動揺した。
そしてもし、麻薬を扱うゲスな野郎にそれを利用されたなら…。
そんな事を防ぐ為にも、ここでコイツには組織に入れさせ、俺の下で保護する必要がある。
組織の調べでは、両親は既に亡く、父親の友人だと言う男の元で暮らしているらしいが…。
なんにせよ。コイツは連れて行くか。
エドを担ぎ上げ、遠巻きに見ている連中の方を向く。
「見てのとおりだ。お前たちのリーダーは俺にやられた。よって俺の言う事には従ってもらう。これからは真面目に学校へ行って、家族とも仲良く暮らせ。もう二度とこんなバカな真似するんじゃないぞ?いいな!」
一喝とも言うべきだろうか。
俺の言葉がどれほど届くのかは分からんが、言わないよりは遥かにマシだ。
反応がない連中から踵を返し、この場を離れるとしよう。