少年とポルポ
Lato:Altro
風光明媚な観光都市であるネアポリスにも、当然の事ながら犯罪は起こるものである。
犯罪が起こるのなら、それを取り締まる警察や、捕まえた犯罪者を収容する刑務所も存在する。
犯罪を犯すことが常のギャングにとっては、正に水と油な関係の筈の場所に、エドとブチャラティは来ていた。
「さてエド。まだアルバイトもしたことが無いお前に、これからやる事を説明する。昨日の内に、ポルポには俺の方から話は通してある。お前はこれからこの刑務所の中でポルポに会い、試験を受け合格しなければならない。試験の内容に関して、俺の口から話すことはできないが、まぁそう難しいものじゃない」
「刑務所の中で行うものですか?それすらも明かせないのでしょうか?」
「そうだな…(まぁエドは若いしこれ位なら良いだろう)俺が受けた試験は刑務所の外にまで及んだ。お前が同じとは約束できないが、概ねそうだと思っておいてほしい」
「分かりました。所でなぜギャングの幹部とも有ろう方が刑務所に?」
「それは行けばわかる。ポルポがこの刑務所に入ったのは10年前なんだが、その理由も本人に会えば分かる」
「そうですか。分かりました」
「あぁ。最後に1つ。俺から忠告しておく。ポルポにはお前がスタンドが見える事を話していない。くれぐれもバレないようにな」
「………はい」
スタンド使いにしか見えないスタンドと言う存在。
それが見えてしまっていると言う事実。
自分の直属の上司であろう、ポルポにすら黙っておいてくれたブチャラティの為にも、絶対にバレてはいけないと、エドは決意を新たに、刑務所へと入っていった。
Lato:Chitose
「面会だね。社会勉強とは関心だ。規則だから財布を含めた手荷物や、ポケットの中身をこのトレイに入れて、あそこにいるお兄さんにボディチェックを受けてもらってね」
「ちょっとくすぐったいかも知れないけど、我慢してくれよ?しかし若いのにポルポに面会したいとはねぇー。ポルポは奥のゲートをくぐって真っ直ぐ行った、突き当たりの部屋にいる。強化ガラスって普通より頑丈なガラスが貼ってあるけど、会話は出来るからな。でもガラスに触れちゃ駄目だ。一応言っておくけど、何か貰ったり、あげたりしちゃ駄目だぞ?」
私が6歳ということもあり、ボディチェックは軽くで済んだ。
別に変なものは入ってないので、構わないのだが、このボディチェックとやらは擽ったくて敵わない。
背中とか触られると変な声が出そうになるし。
「よーし。OKだ。君がゲートを潜ったら扉は閉まる。怖いとは思うが、我慢してくれ。何かあれば大声で叫んでくれよ。すぐに飛んできてやるからな」
「分かりました」
「面会時間は15分だが、もちろん早く戻って来ても全然大丈夫だぞ。気をつけて」
警察官に促され、ゲートを超えて間もなく、重厚そうな扉がゆっくりと音を立てて閉まった。
刑務所で人と会うなんて初めてだけど、牢屋越しに話すんだ。知らなかった。
そのまま言われた通りに突き当たりまで進んでいくと、ガラス越しに広い部屋が見えた。
大きなベッドに新聞やグラス置いてあるテーブル。置き時計なんかもある。
囚人って言ってもそこらへんの、人達と変わらない生活してるんだ。
でもミスタは、刑務所をブタ箱なんて表現してたし、もしかしてイタリアの家畜は人間換算でみんなこんな感じの暮らしなのかな?
「随分と綺麗な髪だねぇ。とても荒事をやっていたとは思えない」
えっ!?
今どこから声が!?
「あぁ、ちょっと待っててくれよ?今起き上がるから」
男の声が言い終わるやいなや、目の前のベッドから手が生え、足が生え、頭が生えた。
そしてゆっくりと起き上がり、こちらを見下ろしている。
こ、この人がポルポ!?
大きい!イタリアに住んでる人は皆なんて大きいんだ!私なんか120cmしかないのに!
「驚かせてしまったかな?君がまだ小学生くらいだと聞いてね。どうやったら驚いて貰えるのかと考えたんだよ。どうやらその顔を見るに、やはりいつも通りのやり方が一番という私の考えは、正しかったようだ。ブフゥ〜」
デカい。めちゃくちゃデカい。
ミスタも父上より大きかったけど、この人は今まで会ったどの人よりもデカい。
天井に頭がついてる人なんてきっとこの人位だ。
エスプレッソか?ブチャラティもミスタもこの人も、イタリア人でエスプレッソ飲んでるからこんなに大きいのか?
イタリア人だからと言わないで欲しい。頼むから。
私だって背の高くてカッコいい大人になりたいんだ。エスプレッソのせいだと言ってくれ。
クソ!こうなったら何が何でも、エスプレッソを平気な顔で飲めるようになってやる!
「……どうしたのかね?」
「何でもありません。ちょっとエスプレッソを飲みたくなっただけです」
「ほぉ!その歳でエスプレッソを?ミルクを飲んでても、全然可笑しくない歳でエスプレッソを?無理は良くないぞ。あ〜……エドくん?」
くっ!お腹を抱えて笑われてしまった。
そりゃ確かに小さいですけど成長期が残ってるんです。これからですこれから!
「コーヒーを取り過ぎると、身長が伸びにくくなるそうだ。眠れなくなるからな。出来る大人は適度にコーヒーを楽しみ、良く眠るのだよ。覚えておきたまえ」
「え?!そうなんですか!」
思わずガラスに触れそうになった。
危ない危ない…。
「ブッフゥ〜。やはりそうか。君は早く大人の仲間入りをしたかったんだねぇ。しかし、カッコいい大人になりたければ、常に冷静である事だ。だが気持ちは分かる。君は腕っ節もあるし、その歳でこの辺の悪ガキ共を従えるだけの能力がある。それは素晴らしい才能だ。それと同時に、それは君を孤独にさせるものでもある。感じた事はないか?」
「……はい」
確かにその通りだ。私は本当の事情も然ることながら、温湯に使った連中の不甲斐なさと能天気さに隔たりを感じていた。
時代が違うとは分かっていても、最初のうちは慣れなかったし、未だに物音がすると飛び起きてしまう。
安眠できた試しがない。
私は今でも孤独だ。
「その孤独を剥がしてあげよう。その為にブチャラティを使って、君を組織に入れようと思ったのだよ」
「え」
「だが!」
大きな声をだし、ズイッと顔を近づけてくるポルポさん。
デカい。ガラス越しでこちらにはスペースがあると言うのに、圧迫感が凄い。思わず後ずさりしちゃった。
「そうする為にはお互いの為にあるものを見せなければいけない!それが何か分かるかね?エドくん」
あるもの?お互いの為に?
「それは君が一番良く知っていることだよ」
「私が…?」
「君が人を選ぶに当たって重要な要素だよ。何でも良い。言ってごらん」
私が人を選ぶときに一番重きを置いている事…。
私の原点…。
……ならあれしかない。
「信頼です。背中を預け、また預けてもらえる安心感。それが私の重要なものです」
ポルポさんの目を真っ直ぐ見つめそう言う。
そうだ。それこそが私にとって大事なものだ。
「その通りだとも。信頼は何にも勝る重要な要素だ。それに比べたら、頭が良いとか喧嘩が強いなんていうのは、このクラッカーを食べた時に着いてしまう、歯くそ以下だ!あむ…ムグムグ…」
そう言ってポルポさんはクラッカーを食べた。
なんか色々上に乗ってたけど何だったんだろうか。
しかし能力を計算外にして良いものだろうか?能力から出来上がる信頼、或いは能力に対する信頼もあるのではなかろうか?
もしかして最終的に信頼に帰結するからいいや。て考えなのだろうか?
私もそれなりだけど、この人も人に対して余り心を開いてないな。
まぁギャングなんだなら当然といえば当然か。
「ブフゥ〜…さて、どうやって信頼を示すかだが…私はこのライターを使う」
いつの間にか火の着いたライターを持っている。どこから取り出したんだろう?
そう思っていると、入口と思われる扉の方から、何かが開く音がした。
これは見に行けってことなんだろうか?
ポルポさんは黙って先を促してる。
つまりはそういうことなんだろう。
音のした方に行くと、そこにはさっきポルポさんが持っていたものと、全く同じのライターが、やはり同じく火がつけられた状態で置いてあった。
「火を消さないように。その火は君と私の信頼の象徴と考えてくれたまえ。フラーと言う17世紀頃にいた神学者の言った言葉に、見えない所で友人のことを良く言っている者こそ、信頼できる。と言うものがある。テストというのは、その火を24時間守り続けることだ」
24時間…って事は明日の朝9時まで?
長いなぁ。ライターのオイルは持つのかな?
「君がすることは実に簡単だ。明日のこの時間までに、火が消えない様にする。それだけだ。ライターのガスは十分ある。君がそのライターを、どうこうする必要は一切無い」
なんだ。そっか。ガスが切れたらどうしようかと思ってしまった。
「だがもし!君が私の事を軽んじていたり、どうでも良いと感じているような子なら…きっとその火は消されてしまうだろう。クシャミをしたり、風で消えたり、或いは他の事でね。そう成れば君は信頼の置けない人間と言う事だ」
なるほど。これは失敗出来ない仕事に対しての、この人の評価方法。
一見簡単そうに見えるけど、ほんの少しの油断が失敗を招く。
上手いやり方だ。流石はブチャラティの上司。ギャングの幹部の座に居るだけあって、私よりも頭が良い。
それはそれとして…
「質問よろしいでしょうか?」
「何かね?」
「表の警察官達は、このライターを持ち出す事を許してくれますか?」
持っていってボディチェックを受けたら事だ。
洋服の中に隠してもバレてしまうし、火を消したら元も子もない。
「あぁ、その事か。良く気がついたね。言わなければ、君はボディチェックを受け、そのライターをどうにかして隠さなければ行けなかっただろう。少し待っていなさい。ライターは持ちたまえ」
「分かりました」
そ〜っと持たないと。
手の動きの僅かな変化も、ライターの火はあっさり揺らぐ。
とにかく家だ。家に帰ってイウスに相談しよう。
きっと良い考えをだして…だして……出してくれるかな?
たまに凄い意地悪だし。
「手に取ったね。では進むと良い。ボディチェックをするのは、私の息が掛かった人間になっている。そのライターは見逃してくれる。ではまた24時間後、会えることを楽しみにしてるよ」
ポルポさんのいる刑務所から出た私は、一目散にイウスのいる自宅へと戻った。
途中色々あったが、火が消えなかったのは僥倖だ。
後はイウスに相談してこの火が消えないようにしないと。
「と言うわけでイウス。この火を消さないようにしたいのですが、何かいい案は有りませんか?」
「…最初に確認だ。君はこれをビジネスの予行演習と考えている。そうだな?」
「?えぇまぁ」
「ではこうしよう」
そういうと何とイウスは火を消した。
えええええぇぇぇぇぇ!!??
「な、何してるんですか!?人の話聞いてましたか!?」
「聞いていたとも。聞いた上でこれで良いと判断した」
「はぁ!?どこをどう聞いたらこれでいいと思ったんですか!?」
「落ち着きたまえよ。君はこれをビジネスの予行演習と言った。ビジネスに完璧な成功はあり得ない。必ず失敗に繋がる何かが起きる。そしてこれはビジネスに限らず、全てに言えることだが、失敗したらその後のリカバリーこそが、一番重要な事だ」
「それと火を消すことに何の関係が?」
「見たところこのライターには!この時代の隠しカメラや盗聴器の類は無い。と言う事はポルポはこのライターの火が、消えようが消えまいが、最終的に持って帰って来ているという、結果のみを欲していることが分かる」
な、なるほど。
というかあの一瞬で隠しカメラとか調べたのか。
流石はイウス。父上の友人なだけはある。
「手で仰いで消したのは、ガスが減ってなくてバレるのを防ぐ為だ。ガスは出ているだろう?」
そう言って、火が消えたライターを近づけてくる。
耳を澄ませてよく聞けば、確かにガスの漏れる音がしている。
「確かに…」
「あぁ。だったら後は朝になるまで外に置いておいて、明日の朝、再点火すれば良いだろう」
おぉ。流石イウス。
やはり私はまだまだだ。
「流石です。勉強になりました」
「……いや、なに。我が王の為なら当然さ」
何で今一瞬胡散臭い顔したの?
私は素直に褒めたってのに。