Lato:Yith
源千歳が眠りについた後、彼が目を覚まさないよう、昏睡の魔術を施し、朝彼が見せてきたライターを手に取る。
ガスが漏れ出ているそれを持ち出し、外に出る。
当然だが深夜のこの時間は辺りは暗い。
だが関係ない。私が興味があるのはこのライターに着いているスタンドの能力だ。
恐らくは選定の能力があり、トリガーが発動する事により、選定が始まる。この場合はライターの再点火が、そのトリガーなのだろう。
既にその能力は解析済み且つ取得済みだ。
いつかこの腕時計に模した装置は渡すつもりだが、蓄積データ第一号が選定とはな。
後はこれを源千歳が居ない内に交渉しておいた奴に渡し、最初の試練を超えてもらうとしよう。
まぁ、試練というよりは切っ掛けに過ぎないがな。
Lato:Chitose
今私は朝早いネアポリスの路地裏を全力で走っている。
昼間は陽気で温かいとはいえ、まだ日も登りかけの朝は程よく寒く、人によっては涼しいと感じる筈だ。
今はそれを楽しむ余裕は全くないが!
「止まれドロボー!!そのライター返せコノヤロー!」
「ひぃ!なんだって俺がこんな目に!!??」
「人の物握って逃げてるからだろーが!止まれ!止まらないとその脚斬り落とすぞ!」
ホームレスの男は、昨日ポルポさんから預かったライターを握りしめ、逃走している。
朝早くイウスに叩き起こされ、無くなっていた代物だ。
やっぱりガスの充満を避ける為とはいえ、個人宅でも家の外に置いたのはマズかったか。
ライターでシケモクとやらをしようとしているこの男を見つけ、追うこと数分。いい加減疲れてきた。
ホームレスも疲れてきたのか、足取りが重くなってきている。
そしてまだ誰もいない公園についた頃、漸く観念したのか、それとも単に体力が無くなったのか、ホームレスは足を止め、身体を大きく上下させ、息を整えている。
私もちょっと肩で息をしている。
「さぁ、もう観念しろ。ライターを返せばそれでいい。タバコを吸いたいなら、一本火を点けるくらいなら許してやる。だからさっさと返せ」
「ぜぇー…ぜぇー…あ、あぁ…分かったよ……タバコ一本なら許してくれるんだな?」
「あぁ。だからさっさと火をつけて返せ」
「ぜぇー…せ、急かすなよ……ふぅ、それじゃあ一服」
そう言って、男がライターを再点火した。
ガスが漏れていた事もあり、一瞬だけだが、物凄く火が点いたが、すぐに治まった。
そして男がタバコに火を……ん!?
「おいオッサン…アンタに仲間がいたのか?」
「あっ?いるわけ無いだろ。ただのホームレスだぜ俺は」
そうだ。その筈だ…第一仲間がいるならとっくに襲われている筈だ。じゃあいま見えたのは……!
いま見えた黒い影は…!
「今すぐそのライターを寄越せ!オッサーーン!!!」
『再点火したな!!』
ホームレスの影から、仮面舞踏会にでも居そうな黒い人型が現れた!
その人型は、ホームレスの影を掴むと、そこから半透明のホームレスを作り上げた。
「お、おい…なんだ…身体が…動かねぇぞ?」
あのホームレスはもうダメだ。
完全に捕まってしまっている。
別に顔の知らないホームレスが死のうがどうでも良いけれど、あいつの手の中にあるライターだけは回収しなくては。
となれば方法は一つ!
『貴様にチャンスをやろう!』
「ら、ライターを取ったことは謝るよ。だ、だが俺は…」
『チャンスとは…2つの道。一つは選ばれ、生き残る道。もう一つは……』
「俺は…」
『向かうべき死の道だ!』
ホームレスが何か言おうとしたが、人型の口から出てきた矢に、男の影が貫かれた瞬間、頭から大量の血が流れた。
男の影から出ているそれは、現実なら出血死していても、可笑しくない量だ。
つまり人型から投げ捨てられた男が、指先一つ動かないのは、そういう事なのだろう。
良し。どうやら事は終わったようだ。なら後はライターを回収して…
『お前も再点火をしたな?』
えっ?
『再点火をしたのならば、お前にもチャンスをやろう!』
後ろに!?
こ、こいついつの間に!?
つうか私は再点火なんてしてないぞ!?
選ばれるものとそうでない者の区別が分からない以上、今コイツから攻撃されるのはマズい!離れなくては!
……え?脚が、身体が動かない?
まさか…まさかもう……!
『チャンスをやろう!選ばれるべき者の道か!死ぬべき道か!』
矢が!僕の影に…いや魂に!
『受けてもらうぞ!』
イヤ!イヤイヤイヤイヤイヤ!!
『試練を!!』
死にたくない!!