さくら、もゆる、季節にて   作:ぴんころ

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クロルートが終わってない方は読まないでください! ネタバレ満載だよ!!



いいな!? 俺は忠告したぞ!!










この季節(生涯)を君と共に

 目を覚ます。

 今日からはいつもと違う毎日が始まる。

 あの子と一緒に暮らすことになる。

 

 うちの両親が万年新婚夫婦であるために突発的に発生する新婚旅行。

 それにあの子の両親がついていくことになったらしく、その間だけではあるが一時的に我が家で一緒に生活することになった。

 

 正確には昨日から来ているわけだけど、今日は彼女が来てから初めての朝。

 緊張でなかなか眠れなかったから今もまだ眠いけれど、その眼をこすりながら体を起こす。

 

「まだ六時か……もう少し眠れるかな?」

 

 呟いて、起こした体をまた横にする。

 あの子は、どちらかといえば夜行性で朝は弱い。

 だからこんなに早く起きたとしても、胸の中に普段とは違うこと……彼女と会えるっていう出来事が起こるんじゃないかというドキドキがあっても、この時間帯では発生する余地がない。

 

 ……そう、思っていたのだけれど。

 

「…………」

 

 コンコン、とノックをする音が聞こえる。

 ハッと息を飲む。

 もしかしてあの子じゃないのか。

 そんな期待が膨らんで、ついつい返事が遅れる。

 

 慌てて返事をしようとすると、それよりも早く扉が開く。

 この時間帯だと姉さんは多分食事の用意をしているし、妹はまだまだ寝ている時間だ。

 父さんと母さんは昨日、何回目か数えるのも億劫な新婚旅行に向かったから家にはいない。

 

 そこまで考えたところで、半開きになった扉から、ノックの主が姿を見せる。

 

 ……思っていた通り、あの子の姿がそこにはあった。

 

「…………」

 

 こちらを見て驚いている。

 ノックをしても返事がなかったから起きていないと思ったのだろうか。

 けれど、それでも入って来たってことは何かあるのだろうか……?

 

「……起きてる」

 

「ああ、うん、起きてるよ」

 

「ノックの、返事はなかったから、私が起こそうと思ったのに……」

 

「うん、ごめん。ちょっとぼうっとしてた」

 

 灰色の猫耳パーカーのパジャマ。

 彼女が持つ生来の猫のような雰囲気にぴったりで、ここ数年目撃することのなかったパジャマ姿という事実が、一緒に暮らしているという実感をぼくにくれた。

 

「おはよう、クロ」

 

「うん、おはよう」

 

 昔からの愛称で呼ぶと君は笑って。

 その顔がとても可愛いとは知っていたけれど。

 こうしてその姿を朝から見ることができてどこかホッとしていた。

 

「もう、ご飯できてるって」

 

「そうなの?」

 

 珍しい。

 姉さんは普段朝ごはんの時間をだいたい七時くらいにしている。

 今日に限ってそれを早くする理由なんて……

 

「あ……」

 

 あった。

 というよりも目の前にいた。

 そういえば確かに昨日の夜、クロが来たことで豪勢になった夕飯の席でそんなことを言っていたような覚えがある。

 

 今日から花嫁修行ってことでクロにも厨房に立ってもらうって。

 余裕を持ってやりたいから、いつもよりも早く準備するって。

 

「どうかした?」

 

「ううん、なんでもないよ」

 

 そんなことを考えていると君に疑問をもたせてしまったみたいだ。

 行こっか、と言って手を差し出す。

 君は恥ずかしがりながらもぼくの手を取ってくれた。

 

 今日もまた、一日が始まる。

 

 

さくら、もゆ

 

 

 学校にたどり着くと、喧騒が広がっていた。

 中心にいるのは昨日転校して来た生徒、柊ハル。

 ぼくたちには一生縁がなさそうな相手だ。

 

「君、は」

 

 横にいた君からの声に、そちらに目を向けると、どこか不満そうな、そして不安そうなクロの顔が。

 なんでだろう。

 何かしてしまったのだろうか。

 

「あの転校生みたいな子が、好き、なの?」

 

「…………え?」

 

 意味がわからなかった。

 

「どうして、そう思ったの?」

 

 だから、聞き返した。

 

「だって」

 

 口をもにょもにょと動かしながら、小さな声で君は言う。

 

「さっきから、あの転校生の子のことばっかり見てるし……」

 

 なぜか、瞳が潤んでいる。

 君のそんな顔は見たくないと思っているのに。

 ぼくのせいでそんな顔をさせてしまった。

 

「そ、そんなことないよ!」

 

 少し大きな声で否定する。

 幸いにも、朝礼前の喧騒の中では目立たなかったようで、教室中から視線を受けることはなかった。

 

「そう……」

 

 君はぼくの答えを聞いて、そっぽを向きながらもどこか安心したよう。

 よかった。

 どういうことかわからないけれど、君の機嫌が直る……とまではいかなくても、これ以上悪くなることはなかったみたいだ。

 

 いつものように今日の分の教材を用意する。

 

「あ……」

 

 そんな時、通学鞄の中に入れてある姉さんの手作り弁当が目に入る。

 そうだ。

 

「どうか、した?」

 

「うん、あのねクロ」

 

 昨日、あの糸電話でまた話せるようになった君と、

 今日、姉さんから持たされた二人お揃いのお弁当。

 

 この二つが、ぼくに勇気をくれた。

 

「今日のお昼、二人で一緒に屋上で食べない?」

 

 

さくら、もゆ

 

 

 そんな二人の姿を私、柊ハルは朝礼が始まるまでの間に発見していた。

 とは言っても、その程度。

 私に何かできるようなことではない。

 

 あの友達以上、恋人未満の見ていてもどかしい関係性の二人に手出しできることなんてない。

 華の女子高生として、同じクラスの仲間として、あの二人の恋愛には興味があったんだけど……

 

「ねえ、ハルちゃん」

 

「え、あ、な、なに姫織ちゃん?」

 

 話しかけてきてくれたのは黒髪がとても綺麗な女の子。

 この学校に転校してきてまだ馴染めていないーーーとは言っても昨日来たんだから当然なんだけどーーー私に話しかけてくれて仲良くしようとしてくれている素敵な女の子。

 

「なんだか朝からぼーっとしてるように見えたけど、どうかしたの?」

 

「え、あ、うん、ちょ、ちょっとね」

 

 さすがに全く関係ない人にまで広めるのはあの二人にも迷惑だよね?

 そう思って隠す。

 自力で気づいたならしょうがないけど、そうでないなら隠さないと。

 

 そう思っていたけれど。

 

「もしかして、『全校生徒に聞いた、とっととくっついてほしい男女ランキング』でトップを飾った二人を見てたの?」

 

「なんなのそのランキング!?」

 

 驚いた私は大声を上げてしまった。

 

「お? そういえば柊さんは知らなかったよな」

 

「まあ、去年のランキングだしね」

 

「あの二人、見ててもどかしいのよねー」

 

「いや、でも昨日、二人で手を繋いで帰ってる姿を目撃したって話があるぞ」

 

「え、それほんと?」

 

「ああ、しかも今朝に関しては一緒に登校して来たらしい」

 

「そっちはいつものことでしょ」

 

 え、え? これは何? 一体どういうことなの?

 

 わらわらと集まって来たクラスメイトたち。

 どうやら『全校生徒に聞いた』というのは伊達ではないらしく、皆あの二人については知っているようだった。

 

「あの二人、自分たちでは目立ってないつもりで、私たちもそれを理解しているから関わらないようにしているけど。本当は皆、とっとと付き合えって思ってるの」

 

 まあ、しょうがないよねなんて苦笑する姫織ちゃん。

 うん、そうだ。私も頷く。

 

「あの子、同性の私たちから見ても可愛いもん。男から見たらそりゃそうなるよねって話ですよ」

 

「うん、わかる。わかるよ。あの子、お隣の男の子にしか懐いてない感じがあるよね。本当の幸せそうな笑顔を見せるのが男の子だけって感じが」

 

「最初の頃は告白しようとした男子もいたけど、あの二人が相手が見ていないところでその相手を視線が無意識に追ってるんだもん。告白のために何組の誰々ってことを確認しようとした人たちはそれを見て撃沈したらしいよ」

 

「見ててじれったい気持ちもあるけど、下手にいじってあの尊い関係を崩すのはダメだもんね!」

 

「うん、そう。……でも今日からは手出しするけど」

 

「え」

 

 私の意見に同意してくれた姫織ちゃんは、すぐにその意見とは真っ向から対立する言葉を放った。

 

「あの二人が話すようになったっていうことが本当だって確認は取れてる?」

 

「ええ、きっちり目撃してますよ」

 

「普段、誰とも話さない、お互いと話しても恥ずかしそうに最低限しか話さなかった二人が、糸電話を使って嬉しそうな表情で話をしているところを!」

 

「そう……ならそれはつまり『二人の関係が進展した』ってことだよね?」

 

「はい!」

 

「なら、ここに宣言しましょう。『二人にとっとと恋人になってもらいましょう大作戦』の発令を!」

 

「え、ええーーー!?」

 

 昼休みの教室。

 私の叫び声は、直後に教室の中に轟いたクラスメイトたちの雄叫びにかき消された。




エピローグが主人公視点だけだったのでできたクラスメイトたちから見た主人公たちという妄想。

続かない(?)
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