卯月は寂しいと死ぬ   作:Higashi-text

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01話

 

「はい、次はいつもやってるウサギのポーズをお願いします!」

 

「わかったぴょん! これでいいぴょん?」

 

「いいですね! すごく可愛いですよ! いい笑顔!」

 

私は今、広報のパンフレットに使う写真の被写体になっている。

各艦種から1人以上の艦娘が大本営に呼び出されていて、今回は私と同じ鎮守府の瑞鶴さんも一緒にここまで来ていた。

先程まで彼女がポーズを決めているのをカメラマンである青葉さんの後ろから眺めていたのだが、瑞鶴さんははじめての撮影にもかかわらず緊張していないようだった。かなり良い写真が撮れたのではないだろうか。

 

この写真撮影は定期的に行われていて、写りが良くて戦果をあげた艦娘が呼ばれている。参加するか否かは任意であるため、ここにいる艦娘よりも戦果を挙げている人はいるはずだ。私の場合は半ば強制になってしまったけれど。

 

「あと、これは上からの指示なんですが、敬礼のポーズをお願いします」

 

「司令官にぃ〜、敬礼ぃ! ぴょん!」

 

「はぅあ! すばらしいです!」

 

カシャカシャとカメラのシャッターの鳴る音がするのを笑顔とポーズを崩さずに聞き流す。青葉さんの後ろにいる他の艦娘が、私を見て目をキラキラさせているのがわかる。私は広報の写真撮影など既に何回もこなしているし、笑顔には自信があるのだ。それに可愛くてあざといような仕草とポーズを加えると、シャッターの鳴る頻度が上がり、他の艦娘が更に目をキラキラさせる。

実は私のファンは意外と多いのだ。他の鎮守府の艦娘と会うと、握手やサインを求められることがある。今も私をキラキラした目で見ているのはそう言った人達なのだろう。もはや1種のアイドルみたいな扱いだ。

 

今回も私の写真が駆逐艦の中で1番大きく掲載されるかもしれない。

アイドルの気分を味わいながら、写真撮影をこなしていく。

全艦娘で1番ではないけれど、私は常に上位3位に入る人気がある。それは見た目の良さだけではなく、艦娘としての強さと戦果も理由になっているのだが、私が戦うところを知っているのは自分の鎮守府の人達だけだ。

 

「ありがとうございました! あちらに休憩スペースがあるので撮影が終わるまで自由に過ごしてください」

 

「青葉さんもおつかれぴょん! 可愛く撮ってくれてありがとぴょん!」

 

「それは私ではなくて卯月さんの実力ですよ。カメラマンに撮られるのではなくて、撮らせることができるなんて、まるで本当のアイドルみたいです」

 

「えへへぇ、褒められると照れるぴょん。青葉さんも残りの撮影がんばるぴょん!」

 

私は青葉さんにそう言ってから次の人と交代する。その時に緊張した様子で握手を求められたけど、握手した後に脇腹をくすぐってあげた。

そんなに緊張していたらいい写真が撮れないから。

 

 

 

 

休憩室にいく途中で通路を逸れて、非常口から外に出る。周りに誰もいない事を確認してから、私はため息を吐き出した。先ほどの笑顔も既に引っ込めている。

 

「はぁ……」

 

 

 

ーー私は写真を取られるのが嫌いだ。

卯月を演じる必要があるから。

 

 

 

あのテンションは私が卯月であるための儀式みたいなものだ。普段の私はあそこまでハイテンションではないし、笑顔でもない。

最初の撮影で普段通りに振る舞った時、誰かに『卯月じゃないみたいだ』と言われたことがある。それがショックで私は卯月を演じることにした。あの頃は今以上に自分の存在に対して疑問を持っていたから、せめてあの場では卯月であろうとしたのだ。

今では鎮守府では普段通りだが、外では卯月を演じている。

ちなみに普通の卯月は常にあんな感じだ。私も昔はそうだった。いつからだっけ、こんなふうになったのは。

 

 

本来なら広報の写真撮影なんてやりたくない。しかし、前に一度引き受けてしまってからは、妙に人気が出てしまい断れなくなった。

何故か写真や映像など、人を魅せるのは得意なのだ。先程青葉さんが言っていたのはお世辞ではなく事実であり、私は自分の意思でカメラマンにシャッターを押させることができる。

うちの鎮守府の那珂ちゃんは私を師匠と仰いで鏡の前で笑顔やポーズの練習をしているが、そもそも艦娘としての練度と戦果を上げないと撮影には呼ばれないと思う。

 

 

しばらくぼーっとしてから、休憩室に向かう。そろそろ撮影は終わっただろうか。休憩室に入ると、そこには瑞鶴さんしかいなかった。

 

「あれ? 瑞鶴さんだけ? 他の人たちはどうしたぴょん?」

 

「もうみんな解散したわ。残ってるは私達だけ」

 

「あぅ……ごめんなさい」

 

「別に怒ってないって。私もゆっくりしたかったから丁度良かったし。……それよりあなた本当に人気あるのね。さっきまでいた子達に卯月のことすごく聞かれたわ」

 

「うぅ……申し訳ないぴょん。なんか知らないうちにファンとか沢山できてて……」

 

「あれだけ人気あると大変そうね。まあ確かに、可愛くて強いとなればみんな憧れるか」

 

これが私が演技を辞めれない理由の一つでもある。変にアイドルみたいになってしまったため、私に憧れなんかを抱く子達が現れてしまったのだ。

 

「瑞鶴さんも明日は我が身だぴょん。多分、今回の写真が載ったらファンが出てくるよ」

 

「あなたみたいに毎回撮影に呼ばれてる艦娘と一緒にされてもねぇ……」

 

「そのうち、私達の鎮守府でも写真の切り抜きやら、保存用や布教用のパンフレットとかがたくさん……」

 

「やめてよ! っていうか提督さんが保管してる卯月のやつ、そろそろ業務用棚にまで侵食してきそうなんだけど」

 

「司令官には止めるように言ったけど、聞いてくれないぴょん」

 

「私のもやろうとしたらまとめて爆撃しようかな」

 

「司令官がやらなくても加賀さんはやると思う」

 

「……帰ったら絶対やらないように言っておくわ」

 

瑞鶴さんは私が卯月を演じている理由を知っている。特に第1艦隊で一緒に出撃するので、私の事情もよく知っているのだ。

私が気兼ねなく話せる人は結構限られている。

基本的に第1艦隊の皆と一部の艦娘は大丈夫だ。とある事情のせいで自分から仲良く話しかけられないのが理由なのだが、この人は何があっても最初から今まで態度を変えなかったし、気にしなかった。

 

 

2人で休憩室から出て廊下を歩いていると、前から他の鎮守府の艦娘が歩いてくるのが見えた。私はすぐに卯月になりきり笑顔を見せる。

 

「よよよぉ? そこにいるのは電だぴょん? どうしたぴょん?」

 

「く、呉の卯月ちゃんなのです! あ、あ、あの、私、休憩室に忘れ物をしてしまって! えと、ええと、」

 

「それは大変だぴょん! 瑞鶴さん、何か見なかったぴょん?」

 

「ああ、このカバンはあなたのだったのね。丁度これから帰るついでに届けようと思ってたんだけど……はいこれ」

 

「あ、あ、ありがとうなのです!」

 

「よかったぴょん! これでうーちゃん達は真っ直ぐ帰れるぴょん!」

 

「あ、あのっ!!! 卯月ちゃん!!!」

 

「どうしたぴょん?」

 

「サ、サインくだしゃい!」

 

電はいま受け取ったカバンから色紙とサインペンを取り出して叫んだ。

私と瑞鶴さんは一瞬固まってしまったが、私はすぐに再起動して対応する。サインをねだられるなんてよくある事だ。遠征任務先で会ったりすると艤装や服にサインすることもある。私がいる撮影に来れると知って準備したのだろう。

私を慕ってくれるのは嬉しいが、同時に寂しくもある。ファンが慕っているのは本来の卯月ではなく、私が演じる卯月なのだから。

 

電が去ったあと、瑞鶴さんはそっと私の頭を撫でてきた。

 

「……大丈夫?」

 

「……ぴょん」

 

 

 

ーー私は他の鎮守府の子達と話すのが嫌いだ。

彼女達を騙しているみたいだから。

 

 

 

最前線で活躍する私に憧れて努力する駆逐艦は多いらしい。特に他の鎮守府にいる卯月はその傾向が強いと聞く。しかし、そんな子達が憧れているのは、一見卯月に見えるが、よく分からない何かなのだ。

 

私は自分が卯月であるという確証が持てない。

それは自分が卯月じゃない事を感じることがある、私だからこそのものだろう。

 

 

 

ーー私は自分が嫌いだ。

自分が何か分からないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

呉鎮守府に帰ってくると入り口で加賀さんが立っており、私達を出迎えてくれた。加賀さんは私達と同じ第1艦隊に所属していてよく一緒に出撃する。

また、ここの鎮守府では加賀さんと瑞鶴さんの仲が非常に良い。そして加賀さんが瑞鶴さんへの好意をあまり隠さない。最近、この2人の部屋が同室になったのだが、それを最初に言い出したのは加賀さんだった。

 

艦娘寮の部屋へ荷物を置くため瑞鶴さんと加賀さんの後ろを歩く。

 

「瑞鶴、撮った写真はないのかしら」

 

「まだ私も貰ってないって」

 

「そう。写真が使われるパンフレットはいつこちらにくるの? そもそも写真が使われるのはパンフレットだけなの?」

 

「……発行されるのは2週間くらい先だと思う。今のところはパンフレットの話しか聞いてないわ」

 

「卯月、どうなの? あなたはパンフレット以外にもインターネットや雑誌に写真が使われているわよね?」

 

「うーん、何とも言えないぴょん。写真の出来が良いと使われることもあるけど、この間雑誌で特集やったばかりだからしばらくは無いんじゃないかな」

 

「つまりどこかで艦娘の記事を載せる機会があれば良いのね。ちょっと出版社に連絡してきます」

 

「待った待った。加賀さん、変なことしないで」

 

「出版社に連絡することは変なことではありません」

 

「やめて。卯月が写真の出来がよくないとダメって言ってるでしょ」

 

「写真は素晴らしいに決まっています。鎧袖一触よ」

 

「やかましいわ。もしそうでも余計なことしないで。お願いだから」

 

「余計とはなに。あなたの素晴らしさを広めることは私の義務みたいなものです」

 

「私を褒めてくれるのは嬉しいけど、大ごとにしないで。あとパンフレットが来ても切り抜きや保存は禁止ね」

 

「!? ……じゃあ私は何をすればいいの」

 

「知らないわよ」

 

「……なるほど。私が自分であなたを撮ればいいのね」

 

「このまえ一緒に撮ったじゃん」

 

「あなたの写真は何枚あってもいいもの」

 

「自分の部屋に自分の写真がたくさん飾られる身にもなってよ! せめてツーショットの写真飾ってよ!」

 

「私は自分の写真は恥ずかしいからいやよ」

 

「……加賀さん、今日中に飾ってある私の写真を全部片付けて」

 

「いやよ」

 

「やりなさい」

 

「…………瑞鶴、五航戦が一航戦に指図するなんて、あなた随分と偉くなったものね?」

 

「やらないとしばらく口きいてあげないから」

 

「卯月、助けて」

 

加賀さんから助けを求められるが、瑞鶴さんもなんだかんだで加賀さんを受け入れているので、私が言えるのはこのくらいだ。

 

「……まずはお互いに繋いでる手を離すぴょん」

 

 

 

 

 

 

荷物を置いた後、司令官に帰還報告をするため瑞鶴さんと執務室に向かう。

 

ドアの前に立つと、向こうから声が聞こえてきた。

どうやら司令官は電話越しに怒鳴っているようで、ドアのすぐ前に立っている私達に声が丸聞こえだ。

瑞鶴さんに目線でどうするか聞くと、首を横に振られた。報告は後にしよう。

私達がドアから離れようとした時、司令官の怒鳴り声で私は聞いてしまった。

 

我が第1艦隊が大規模作戦の本丸として出撃要請されている事を。

 

 

 

 

ああ、またか。

次は大丈夫だろうか。一緒に出撃するみんなは気をつけてくれるが、不安は消えない。

 

 

 

 

 

ーー私は自分が大嫌いだ。

仲間を傷つけてしまうから。

 

 

 

 

 

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