卯月は寂しいと死ぬ   作:Higashi-text

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02話

 

 

大本営から帰ってきて1週間が経とうとする頃、私達第1艦隊は海の上を航行していた。

 

旗艦の長門さんを先頭として単縦陣で進んでいる。今回の出撃は大規模作戦に向けての掃討作戦だ。

この掃討作戦の目的は、組織的な行動をせずにいる厄介な深海棲艦を減らすことである。

 

単独で動いている奴らは大体雑魚だが、まれに鬼級や姫級が数匹の深海棲艦を引き連れて行動していることがあるのだ。奴らに大規模作戦を邪魔されないために、事前に間引いておく。

 

「各艦、そろそろ予定海域だ。気を抜くなよ」

 

水平線を睨んでいた旗艦の長門さんがこちらを振り返りながら言った。彼女は私が着任した時から旗艦を務めており、私もよくお世話になっている。とても優しくて頼れるお姉さんだ。

 

「Hey 長門ー! ワタシ達がここまでする必要あったのですカー? 単独の鬼や姫くらい、他の鎮守府でも問題ないはずネー」

 

「そう言ってやるな。提督も上に散々抗議したんだ」

 

「いくらワタシ達が強いといっても、ワタシ達ばかり戦っていたら他の艦娘が経験を積めまセン」

 

「私もそう思うが、それだけ大本営から信頼されていると前向きに考えるしかない。本来は私達が今後の作戦で最重要戦力になるのだから、それまで温存しておくべきだとは思うのだがな」

 

「せめてうちの鎮守府の第2艦隊と何人か入れ替えて連れてくるべきデシタ」

 

「残念ながら編成も大本営からの指示だ。常に最強戦力で挑むように言われている。本番で1隻でも多くの艦娘を使うためだろう。この編成ならば絶対に欠けたりしないからな」

 

「あいつらどれだけチキンなのデスカ」

 

「……金剛、この掃討作戦で提督との約束がなくなったからといって文句ばかり言うな。今後埋め合わせしてもらえ」

 

「せっかくのチャンスがなくなったのデース!! これくらいイイじゃないデスカー!! 提督は中々構ってくれないのニー!!!」

 

「金剛、うるさいです。ちゃんと警戒してください」

 

「Boo! 加賀も想像してみればイイのデス! 瑞鶴との約束が突然なくなったらどうしますカ!?」

 

「そんなことはありえません」

 

「あ、来週の映画の予定、私行けないかも。なんか翔鶴姉が異動してくるらしくて、さっき案内役たのまれた」

 

「…………………………そう」

 

「ちょ、ちょっと、そんなに落ち込まないでよ! そ、そうだ、加賀さんも一緒に行こう? 私だけである必要ないし!」

 

「………別にいいです。姉妹水入らずで過ごせばいいわ」

 

「じゃ、じゃあ映画は今週行こう? ほら、明後日とか休みもらってさ?」

 

「……それじゃあ足りません」

 

「う、うーん…………今夜は添い寝してあげる」

 

「さすがに気分がこう……しょうがないわね。どうしてもと言うならそれで手を打ちます」

 

「Shit! イチャついてんじゃねーデス」

 

「金剛さん、普段とキャラが違うっぽい」

 

「モー! なんでワタシの恋はうまくいかないデスカー!」

 

「それは提督さんを相手にしてる限りどうしようもないっぽい。あれは分かっててやってるっぽい。まず、金剛さんはそれに気づけないといけないわね」

 

「卯月ー! みんながいじめるヨー! 卯月はワタシの味方ですよネー!?」

 

「……え? も、もちろん、うーちゃんは金剛さんの味方だよ。……夕立、これなんの話ぴょん?」

 

「卯月ちゃん、ぼーっとしてたけど大丈夫っぽい?」

 

「電探に感あり! 10時の方向! 来たぞ!!」

 

長門さんの言葉により、空気が変わった。みんな真剣な顔になり戦闘準備を始める。

 

「加賀と瑞鶴は発艦後、後方から支援! 私と金剛は射程内に入り次第撃つぞ! 卯月、夕立は先に行って撹乱しつつ倒せるものは倒して構わん! 夕立は卯月にあまり近付き過ぎるなよ」

 

「卯月ちゃん、今度こそ負けないっぽい! 夕立の方が活躍してみせるんだから!」

 

「それはいいけど、離れててね? 怪我させたくないぴょん」

 

「わかったっぽい!」

 

加賀さんと瑞鶴さんが艦載機を発艦させたのを確認しながら夕立と2人で先行する。

ある程度進むと敵の深海棲艦が見えてきた。駆逐水鬼と軽巡棲姫が1体ずつ、ヲ級が2体、タ級が2体、ネ級が4体、その他軽巡型と駆逐型が複数。

これは思っていたより数が多い。今回は私達が出てきていて良かったかもしれない。

 

 

今から戦闘が始まる。敵を倒すのだ。

私は冷静であろうと努めた。

しかし深海棲艦が近づいて来るたびに、自分が置き換わって行くのが分かる。

 

 

 

 

ーー私はこの瞬間が嫌いだ。

自分が自分でなくなるから。

 

 

 

 

何かが混じって来るような感覚。

私はそれに必死で抗おうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーああ、ダメだ。やっぱり抗えない。

 

私は思い切り水面を蹴る。そうすると視界が一瞬で流れていき目の前には敵の駆逐艦がいた。そのまま主砲をゼロ距離で放つと次の目標を探して転身する。

すぐ横にいた駆逐艦の頭を思い切り蹴り飛ばすと、破裂音がした後、首だけ無くなった体が沈んでいく。

左にいた軽巡が主砲を打ってくるが、砲弾は私へ当たった瞬間、打った方向に跳ね返り軽巡の主砲を破壊した。私には汚れ一つ付いていない。

仰け反る軽巡の頭を、こちらの主砲で吹き飛ばしてやる。

 

「次はどいつピョン。全員沈めてやるヨォ」

 

 

その時はもう、自分に仲間がいることなんて覚えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前にはゆっくり沈んでいく軽巡棲姫がいる。

逃げ回るから仕留めるまでに時間が掛かってしまった。手こずらせやがって。

苛立ちで思い切り踏みつけてやると軽巡棲姫は何かに発射されたように下へ沈んでいく。浮かんでくる気泡だけが、ここに彼女が居た証拠だった。

 

近くに敵はおらず、私だけが海の上に立っている。

残党を探しに移動しようとしたが艤装が動かない。

 

そこで私はやっと冷静さを取り戻してきた。

自分が何をしていたのかを思い出すと同時に周りを確認する。

 

 

 

 

ーー私はこの瞬間が嫌いだ。

いつのまにか仲間を傷つけているから。

 

 

 

 

大丈夫だ。今回もみんなは私から離れていてくれたらしい。邪魔だからと攻撃した記憶はない。

急いで無線でみんなの居場所を確認した。

 

「こちらうーちゃん。終わったぴょん。みんなどこ?」

 

『こちら長門。今は逃走した雑魚どもを片付けている。もうそっちに近づいても大丈夫だな』

 

「ぴょん。ごめんなさい、燃料切れで航行できないぴょん」

 

『分かった。私が曳航しに行くから少し待て』

 

「ありがとぴょん。毎回申し訳ないです……」

 

『なに、気にするな。私が好きでやっていることだ』

 

 

無線を切ったあと、ぼーっとしながら長門さんを待つ。

今回も大丈夫だった。でも次は大丈夫じゃないかもしれない。

 

 

私は昔、仲間を大破させたことがある。

それは仲間が私を庇って大破したとかではなく、私が邪魔だと思ったから攻撃してどかしたのだ。

その時も戦闘が終わって我に帰ってから攻撃してしまったことを思い出した。

 

そのことがきっかけで、私は自分がだんだんおかしくなって行くのが分かってしまった。

それまでは好戦的になったり周りが見えないことはあったが、戦闘中の緊張による物だと思っていたし、仲間が邪魔だとは思わなかった。

 

しかし、時が経つにつれてどんどんそれが強くなり、仲間を邪魔だと思うようになって、ついには戦闘中に仲間のことは考えなくなった。

ただ敵を倒すという思いだけが私に残るのだ。

 

仲間は敵ではないということだけは認識しているが、自分の邪魔なら攻撃してでも排除するという行動に出てしまう。

私はそうならないように、いつもこれに抗おうとしている。戦闘が始まる前に冷静であろうとして、それを保とうと精一杯努力する。しかしそれが成功したことは今までに一度としてなかった。

 

 

敵の砲弾を跳ね返すのも、その頃から出来るようになった。最初は衝撃が弱いという違和感しか感じなかったが、仲間を攻撃するようになる頃には衝撃を感じずに跳ね返すことができた。今では集中すれば任意に方向を操作出来る。

色々なものの方向を変えることが出来るけれど、自分でも分かっていないことが多い。

 

ちなみに戦闘以外でも役に立つことが多々ある。

その代わりこの力を使うと体力か燃料の消費が激しくて艤装が動かなくなることがあるので多用は出来ないけれど。

 

 

これらのことは同じ鎮守府の皆はだいたい知っている。

これといって何かを言われたり行動をされたりした訳ではないが、私が自分から壁を作ってしまうようになった。

人の本心は分からないのだから。

それに、仲良くしてもいずれ傷つけてしまうかもしれないのだ。運が悪ければ轟沈させてしまうかもしれない。

 

だから私は戦闘を行うことが確実な場合、第1艦隊の艦娘としか出撃しない。

もし私が何かしても彼女達は自分でどうにかすることが可能だから。

 

彼女達くらいの練度になると、意識して倒そうと思わない限り轟沈することはないだろうし、私の邪魔にならないように動いてくれる。

それでも完璧ではなく何回か攻撃してしまうことはあるが、上手く対処してくれている。少なくとも轟沈しないということが分かっているだけでも精神的な負担は減るのだ。

私にとって、それはとてもありがたい。

 

 

遠くから長門さんがこちらに向かってくるのが見える。その後ろにいるのは加賀さんの艦載機だろうか。

我に帰り冷静になると燃料切れで航行出来なくなっていることが多いので、私は誰かに曳航してもらう機会が多い。

長門さんは進んで私を曳航してくれる。ただ、なぜかロープを使わずに抱っこしてくるけど。

多分私に負担が来ないようにしているのだろう。そのうち恩返しをしなくてはいけないな。

 

 

 

長門さんに手を振りながら思う。

いつか、自分は卯月に戻れるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「加賀さん、私の艦載機はこれで全部よ。……あれ、そういえば長門さんは?」

 

「? そういえば居ないわね。さっきまで後ろにいましたが」

 

「長門さんなら卯月ちゃんのとこに行ったっぽい」

 

「What!? 夕立! なんで止めなかったのデスカ!?」

 

「だってそうすれば夕立への被害が減るっぽい。夕立は長門さんにベタベタされるの嫌っぽい」

 

「加賀! まだ飛んでいる艦載機を急いで向かわせるデース!」

 

「わかりました。見つけ次第、発光信号で長門に警告します」

 

「卯月ー! いま助けに行くネー!」

 

 

 

「………ねぇ、夕立。いつも思うけど長門さんて実際にヤバイの?」

 

「ヘタレだからベタベタしてくるだけっぽい」

 

「ってことは合意があればヤバイってことね」

 

「うーん……本当にヤバイことはしないっぽい。たぶん合意があっても踏みとどまると思う。駆逐艦の幸せを1番に考えられる人っぽい」

 

「……意外にしっかりしてるのね」

 

「ホンモノだったら夕立が憲兵に突き出してるわよ。あれでも優しくて頼れるお姉さんを目指してるっぽい」

 

「ふーん。まあ確かに駆逐艦によく話しかけられてるわよね。その時は誰かしらの監視がいるけど」

 

「みんな誤解してるっぽい。でも面白いから、聞かれないとわざわざ夕立からは言わないっぽい」

 

「……私も黙ってよ」

 

 

 

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