女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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動き出す陰謀

 唐突にG&K傘下の病院から呼び出しを食らった。

 何でも、左肩の診察をする必要が出たということらしい。

 少し前、N03地区での作戦の最後にE.L.I.Dに左肩を貫かれた。怪我自体はそこまで大したことはなかったけれど、何せケガの原因がE.L.I.Dの攻撃だ。

 万が一崩壊液に被爆していて、私が突然基地でE.L.I.Dにでもなってしまったら大惨事になってしまうのは想像に難くない。

 G&Kとしても組織内からE.L.I.Dを出したとなれば他のPMCや正規軍からバッシングを食らってしまうだろう。だから本社としてもその可能性は絶対につぶしたいはずだ。

 故に、私に病院からの呼び出しに応じないという選択肢はない。私だって、突然バケモノになってしまうのはごめんだしね。

 そんなこんなで病院に来たのだけど、いざついてみれば担当医が突然欠勤してしまって準備が出来ていないと来た。

 仕方がないのでペルシカのところで時間を潰して、再度病院を訪れたのが1時間前。

 そして、いつもよりも長い検査を終えて病院を出てきたのが今だ。

 

「指揮官、お疲れ様です!」

「ああ、SPAS。……ホントに疲れたわ」

「長かったですね。どんな検査をされたんですか?」

「どんなって……なんか採血されたり、レントゲン撮られたりよ。まあほとんど健康診断みたいな感じだったわね」

 

 言いながら私は左肩をぐるぐると回す。もうすっかり怪我も治って、激しく動かしても全く問題は無い。

 

「結果は出たんですか?」

「追って知らせる、としか。まあ、本社横の病院だし、下手なこともしないでしょう」

「そんなことしたらすぐバレそうですしね」

 

 そう言ったはいいものの、私は今日の診察に不自然さを感じずにはいられなかった。

 突然の呼び出しに加え、担当医の突然の欠勤。検査内容もその意図については「念のためのものです」という漠然とした回答しかもらえていない。

 何か異変がある、というわけではないと思う。もしも異変があったなら、今頃私は隔離病棟に送り込まれているはずだ。そこまで問題がないにしたって、異変が認められたならこんな素直に返してはもらえないだろう。

 だから、きっと私の体に問題が起きたわけではないんだと思う。念のための診察は元から必要だったけど、病院の移設が決まったとか担当医が退職するとかで予定通りに事が進まなくなったとか……。

 理由はいくらでも考えられる。でも、どれもしっくりは来ない。

 まあ、あんまり深く考えても仕方ないだろう。

 そんなことを考えていると、私のポケットの中の端末が鳴り出した。この端末は……グリフィンの端末じゃない。

 

「SPAS、ごめんちょっと電話する」

「あ、はい」

 

 SPASに一応声を掛けて彼女に背を向ける。

 プライベート用端末のディスプレイには『***』とだけ表示されていた。まあ、私には誰かからであるかはわかる。

 

「私よ」

『よぉ。俺だ』

 

 スピーカーから聞こえてきたのは図書館のオッサンの声だ。そういえば最近はあまり連絡を取っていなかったな。これまで向こうから連絡がこなかったってことは大した情報がなかったってことなんだろう。

 でも、今こうして電話をしてきた。ということは。

 

「何かあったの」

『お前、G&K傘下の病院から呼び出されたよな?』

「……ええ」

『診察したのか?』

「…………」

 

 沈黙が肯定になると分かっていながら、それでも思わず黙り込んでしまう。

 クソ、まさかとは思ったけど本当に不味いことされたっていうのかな。

 

『何をされた?』

「採血、レントゲン撮影、触診ってところかしら」

『ああ、クソ……なあ、その病院から今日お前の診察のデータを盗み出すか、あるいは破棄することは出来るか?』

「……流石に無理ね。色々と厳しすぎる」

 

 オッサンの言う通りに忍び込んで取り返す、あるいは破棄する為には厳重な警備を潜り抜けなければいけない。

 それにすぐ横に本部がいる以上、下手を打てば即座に本部の人形部隊も出動してくる。実行するには余りにもリスクが伴うし、現実的じゃない。バレればそもそも私自身が追われる身になってしまう。伝言屋時代ならそれでも構わないとは思うけど、今はちょっと無理だ。

 

『後手に回っちまったな。いいか、落ち着いて聞け。……グリフィンの一部が独断でE.L.I.Dを手駒にするための実験をやってるって情報が入った』

「っ! ……確かなの?」

 

 思わず端末を握る手の力が強くなる。ミシリ、と嫌な音が聞こえた様な気がした。……大丈夫、気のせいだ。

 

『最近、R05地区で妙な動きがあるらしくてな。何でも、グリフィンがE.L.I.Dをダルマにして連れて帰っているとかいう噂が広まっている。E.L.I.D出現の報とグリフィンの出動にタイムラグが無さすぎるんだ』

「まるで分っていたみたいにって?」

『ああ。出現エリアもいつも同じらしい。だがグリフィンは出現場所と目される場所の調査も、E.L.I.Dの撃滅もする気配がない。だから気になった物好きが見に行って、そこでそう言うことをしてるってのを見たって話だけは聞いた』

「……話だけってことは」

『ああ。証拠になる写真とかを買い取る約束をしてたが、奴は取引場所に現れなかった』

 

 消されたんだろう。そりゃあそうだ。天下のグリフィンが人類の天敵を飼いならそうとなんてバレたらスキャンダルどころでは済まない。

 情報を整理しよう。

 つまりはこうだ。R05地区でE.L.I.Dの出現が重なり、グリフィンが都度出動している。でもE.L.I.Dの出現からR05地区の対応速度が後手に回っているにしては早すぎる。

 加えて、E.L.I.Dの出現する場所は毎度ほぼ変わらない。にもかかわらず、積極的な撃滅の姿勢を見せようとしない。それが気になった物好きが見に行ったところ、どうやら見ちゃいけないものを見てしまって殺された。

 それは分かった。でも、それと今日の私の診察がどう関係してくるのだろう。

 

「ねえ、一つ確認してほしいことがあるんだけど」

『なんだ?』

「件の地区、アタリとハズレがあるんだけど。どっちがアタリかしら」

『古い方だ』

「……そっか。良かった」

 

 頭をよぎったのは可愛らしい後輩のことだ。あの子が腐れ外道に手を貸すとは思えないけれど、何分彼女は若いのだから騙されて悪事の片棒を担がされてる可能性もあった。

 杞憂に終わって良かった、と小さく息を吐いたところでオッサンが再び話しかけてきた。

 

『ところでお前、N03でE.L.I.Dにやられた後体に異変は無いか?』

「あれば今頃見物料で贅沢が出来てそうね」

『だよな。……だからだろうな』

 

 オッサンが一人納得しているけれど、言わんとしていることはなんとなくわかった気がする。

 

「……私、抗体持ちだったってこと?」

『崩壊液に抗体って概念があるならな。爪で肩を貫かれたんだ。E.L.I.Dの組織片くらい確実にお前の体内に入ってるはずだ。手術したって取り出せないレベルの小さな奴がな』

「…………」

『その状態でお前の体に異変は全くない。そもそもE.L.I.Dは低濃度の崩壊液に被爆することで起きる変異だ。その変異した個体の体組織が微量にでもお前の中に入ったんだ。ほとんど0と言って良いかもしれないが、お前も崩壊液に被爆したと言って良いだろうぜ』

「……クソ」

 

 そう。E.L.I.Dは低濃度の崩壊液にさらされた人間の成れの果てだ。つまり、汚染されたE.L.I.Dの体組織を体内に取り込んだ可能性のある私も被爆している可能性が十分にある。

 でも、私の体には何も起きていない。あの爪が崩壊液で汚染されていないという線もあるかもしれないけれど、もし汚染されていたのなら私は本当に崩壊液対する抗体を持っていることになる。

 だとすれば、今回の下手人が診察と偽って私の遺伝子情報なんかを欲する理由も察しが付く。

 抗体を使えば、E.L.I.Dを制御する術も見つかるかもしれないのだ。流行病をワクチンで治療するように、変異を食い止める……あるいは変異に指向性を咥えることで都合の良い変異を起こすとか。

 下衆の思考なんて理解したくもないけれど、やりようはいくらでもあるんだろう。そして本当にE.L.I.Dが制御できたなら、世界のパワーバランスをひっくり返すことだって不可能じゃない。

 

「なんにせよ、これ以上奴らにプレゼントはしたくないわね」

『ああ。奴らの目論見が何であれ、情報が確かならロクなことじゃないのは確かだ』

「こっちでも情報は集めとくわ。何か進展有ったら教えて」

『ヘマして首切られるなよクソガキ』

「言ってろオッサン」

 

 そして電話を切った。端末を懐に仕舞いながら、肺の中の空気を吐き出す。

 

「指揮官、今の電話は……」

「昔の知り合いから。ちょっとやんちゃしてるやつがいて困ってるんだって」

 

 SPASの問いに、ほんのちょっぴりだけ申し訳ないと思いながらも適当にあしらう。離したとしても口止めをすればちゃんと黙っていてくれるとは思うけれど、人の口に戸は立てられないともいうし余計な心配もさせたくない。

 それに、正式に動けるようになったら嫌でも働いてもらうからある意味それまでの辛抱だ。

 しかし、ちょっと油断してたな。まさか本部横でそんなヤバイ奴らにしてやられるなんて。

 ……まさかとは思うけど、私達をハメた連中の残党が残ってたんだろうか。主犯格はクルーガーと45達が消したし、研究を主導してたマッドサイエンティストは鉄血によって無様な死に様を晒した。

 でも、もしかしたら。

 ズキリ、と左肩が痛んだ気がする。傷は塞がったはずなのに、体の内側から何かが飛び出して来るんじゃないかみたいな錯覚にとらわれる。思わず左肩に手をやってしまった。

 

「指揮官、大丈夫ですか?」

「うん……古傷が痛んだ気がするだけ。さあ、帰りましょ。皆が待ってる」

 

 帰ったらすぐに調べ物でもしようかな。流石に45とかに怪しまれるだろうか。別に悪いことをするわけじゃないけど、あんまり周りを巻き込みたいことでもない。

 ……まあ、そういうのは帰ったら考えよう。ストレスもたまっちゃったし、まずはスプリングのカフェで甘いものでもつつきながら考えをまとめるかな。

 

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