女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
『コリンズ指揮官。今回はご協力いただきありがとうございます』
モニターにビシッと決まった敬礼をするモイラが映った。
大分グリフィン指揮官って仕事も板についてきたみたいね。
まあ、それはさておき。
「今回はよろしくシンプソン指揮官。早速だけど状況と情報の共有をしてもらえるかしら?」
『了解しました』
それからモイラに聞いた話だと、R05地区の街のすぐ外で半分E.L.I.D化した男がさまよっているのが目撃されたそうだ。
報告を受けてモイラの基地の人形達が確保に向かった先で見たのは、既に理性を失った男の姿だったそうだ。
規則に則り警告を行ったものの、結局人語を解することも出来なかったらしく人形達に襲い掛かってきたので射殺したらしい。
「そう。……まあ、二次被害を防げたから良かったわ」
『……はい』
モニターには何とも言えない苦い顔をしているモイラが映っていた。
そりゃあそうだろう。引き金を引いたのは人形達だけど、その命令を下したのはモイラだ。それはつまり、男を殺したのはモイラだと言ってもいいと思う。
人を殺したこと。それを自分は安全なところから見ているだけだったこと。その事実は、彼女の心に少なからず影を落としていることだろう。
けれど、PMCに所属する以上その感情をいつまでも引きずっていられては困る。
「モイラ」
声のトーンを落とし、やや威圧的に取られるような声色で彼女の名前を呼ぶ。
『……ッ! はい』
モイラが驚いたように私の方を見て、姿勢を正したのがモニターに映った。
「アナタ、E.L.I.D化した男を殺したことに責任を感じているの?」
『……シーラさん。その言い方は、責任を感じるなってことですか』
ほんの少し反抗的な目と声色で、モイラはそう返してきた。
「半分正解で半分不正解ね。……人を殺したことに何かしら負い目を感じるのは大事な事よ。でもねモイラ。私達は人を殺すのが仕事なのよ」
そういうと、モイラは目を見開いて息を呑んだ。……私の言っていることにびっくりしたのか、それとも考えないようにしていたことを突き付けられてショックを受けたのか。どちらだろうか。
「PMCっていうのはそういう仕事なの。……決して、市民を外敵から守ることだけが仕事の正義のヒーローじゃないのよ」
今はE.L.I.Dや鉄血という分かりやすい人類の敵がいる。だから戦う相手の大半は人間じゃないし、それゆえに罪悪感やショックを受けることも少ないだろう。
それでも、いつかそんな人類共通の脅威がいなくなったら。人類が次に戦う相手は同じ人類だ。世界中の人間が手を繋げる日なんて、絶対に来ない。
「いい? 人を殺すことに慣れろとは言わない。むしろ負い目を感じられるのは人として大事な事よ。でも、それをいつまでも引きずるのはやめなさい」
『…………』
「話し合いじゃ解決できない問題もあるし、殺さなければより多くの人間が死ぬようなことだってある。そういう問題を解決するのが、私達の仕事なの。……まあ、そういう意味では私達は市民を守るヒーローかもしれないわね」
私の言葉に、ショックで揺れていたモイラの瞳がほんの少しだけ落ち着いた。
でも、今私が言ったことは嘘だ。少なくとも真実じゃないのは確かだと思う。
殺さなければ、の対象は何も悪人だけじゃない。時と場合次第では無実の人をも殺す必要が出てくる。
例えば今回、E.L.I.D化した男を殺したように。
それでも、今の彼女にはそういう大義名分が必要だ。誰かを守る。自分の行いは正義である。そういった大義名分は、良くも悪くも人の考えを肯定する材料になるから。
「モイラ、忘れないで。私達が戦わなければ、守れない命は確かにあるの。そして今回の作戦は、大勢の命が私達の肩にかかっている」
『……ッ!!』
モイラの目に光が戻る。……真っすぐな目だな。なんだか、若い頃の私を鏡越しにでも見ているような気分だ。
きっと、第10部隊に入ったばかりの頃の私は、こんな顔をしていたんだろう。
「私達はここで足踏みをしている場合じゃない。今私達がやるべきは殺してしまった人への追悼や哀悼なんかじゃない」
『はい。……あの男性が、ああなってしまった原因の調査と対策、ですね』
「ええ。街の外とはいえ、それでも彼が見つかったのは街のそばだったんでしょう?」
『そうです。顔認証などを行ってみました結果、彼は発見された場所のそばの街の住人であることが分かりました』
となると変異したのは街を出た直後か、あるいは余所から帰ってくる直前だろうか。
「彼の身元は分かっているのよね?」
『はい。ごく普通の独り身の男性だったようです。現在聞き込みなども行っていますが一週間ほど前から音信不通になっていたことが分かっています』
「失踪する直前に何か変わったこととかは?」
『すみません……今も人形達に聞き込みさせていますが、特に目ぼしい情報はなくて……』
「了解よ。じゃあひとまずその男性の情報をくれる?」
『了解しました』
さて。情報をまとめるとなるとこんな感じだろうか。
一つ。男は発見された場所のすぐそばにある街の住人である。
二つ。発見された場所から推測されるに街から出かけた直後、あるいは帰ってくる直前にE.L.I.D化した。
三つ。男はE.L.I.D化する一週間ほど前から行方知れずになっていた。
まあ、十中八九なんかしらのトラブルに巻き込まれてしまったんだろう。
問題は、どういうトラブルに巻き込まれてしまったのかだけど……。
『シーラさん。データ送りました』
「ん、ありがと」
さて……それじゃあ情報に目を通して今後の動きの方針を立てるとしようかな。
色々ありましたが、今年一年お付き合いいただきありがとうございました。
来年には完結を目指したいですね
それでは皆様、良いお年を