女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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焦る思考

 E.L.I.Dに変異した男性の資料がモイラから届いたので、それをプリントアウトした。

 資料には男の氏名や年齢などのパーソナルデータに始まり、職歴、資格、それと聞き込みで得られた人となりなどが載っている。

 とはいえ、それだけだ。資料によれば特に借金に困っているわけでもなければ家庭を持っているわけでもなかったらしい。

 仕事も特に対人関係に問題があったわけでもなく、近所の住人ともトラブルは起きていなかったらしい。

 最も、男性は近所付き合いをほとんどしていなかったとのことなので、そもそも素性も良く知られていなかったというのが大きい。

 そんな彼が、一週間ほど前から突然無断欠勤をしたまま連絡がつかなくなっていたらしい。

 

「うーん。普通に考えれば拉致監禁、ってところかなあ」

 

 私以外に誰もいない司令室に、自分のつぶやきが溶けて消えていった。

 正直なところ、頭脳労働は苦手なのだ。やるにしても、安楽椅子探偵(アームチェアディテクティブ)の真似事なんて性に合わない。

 プリントアウトした資料をクリップで留めて机の上に放り投げる。

 バサバサと音を立てながら、紙束は机の上に着地した。ただし、綺麗に整えて留めたはずの紙束は投げた時と落下するときの風圧でクリップを中心にちょっと皺くちゃになったけど。

 考えることは多い。目の前の事件もそうだし、その裏に隠れていそうな奴ら……いや、組織だろうか。

 下手な動きはこちらを不利にするけれど、現状は男性の足取りを追うことくらいしかこちらに撃てる手は無いだろう。

 図書館のオッサンに頼るという手もありっちゃありだけど……。

 ただ、正直気は進まない。なんせR05地区に先行させた45達が手ひどくやられているのだ。

 戦術人形としての能力もさることながら、確かな経験を積み上げているはずの彼女達が遅れをとるほどの敵が向こうにはいる。

 しかも45いわく敵方には45と同等かそれ以上の電子戦能力を持つ奴がいる。いくらオッサンと言えども、分が悪すぎるし最悪知らない間に消されかねない。

 今オッサンに死なれるのは私にとっても都合が悪いし、そうなると彼に頼むというには難しいだろう。

 案外、私自身が行っちゃうのが一番早いかもしれない。これでも元情報屋の端くれだし、私じゃないと出来ない情報収集の仕方だってある。

 でもそれだとなあ……私の留守の間をどうするかとか考えなきゃいけなくなるし……。

 

「……あー! ごちゃごちゃ考えるのは面倒くさいなホント!……私も現地に行くのが一番手っ取り早いかな」

「誰がどこに行くって?」

 

 扉が開けられるのと同時に、やや苛立ちを含んだような固い声が飛んできた。

 見れば、そこにはあちこち包帯を巻いたりしている404小隊メンバーたちが立っている。

 

「ああ、おかえりなさい。……先に修復してきたら?」

「そうね。まずはシーラがこれから何をするつもりだったのか、聞かせてくれたらそうしようかしら」

 

 あー……ダメだ。これは逃がしてくれない。45もそうだけど、416も問い詰めるようなジト目でこっち見てるし、9は諦めてと言わんばかりの愛想笑いを浮かべている。G11はまあ……いつも通り眠そうだ。

 

「R05地区でE.L.I.Dが発生したの。それの原因究明をモイラと……向こうの指揮官と合同で行うことになってね」

「うんうん。……情報共有はネットワーク経由ですぐに出来るわよね?」

 

 うーん、45のさりげない微笑の威圧感が凄い。そんなに凄まなくてもいいじゃないか。

 

「そりゃそうだけど……現場を見ないと分からないこともあるでしょ」

「それは現地の人形にやらせる仕事でしょ? ウチからも1部隊くらいは援護に向かわせたりしてるんじゃないの?」

「まあ、ジェリコを小隊長にした第4部隊を……」

「じゃあなおのことシーラが行く必要ないじゃない」

 

 きっぱりと言い切られてしまった。まあ……うん。そうなんだけどさ。

 でも、事態を鑑みてもそんなに時間的余裕があるわけじゃない。45達だって今すぐはR05に行くことは出来ないだろうし、モイラには悪いけど彼女達にこの手の捜査の経験は無いだろうから当てにもできない。

 

「シーラ」

 

 でも45達が遅れを取るような奴がR05地区にいる以上、もたもたしていると証拠を全部消されてしまう可能性だってある。

 支援に向かわせたジェリコ達も防衛や襲撃任務はこなさせたことはあっても、犯罪者や犯罪組織の調査任務をさせたことはほとんどない。

 

「シーラ!」

「……え、あ……ごめん、なんだっけ?」

「ハァ……少し落ち着きなさいよ。らしくないわよ」

「……私は落ち着いているわよ」

「そんなウソが私に通じると思ってるの?」

「ウソなんてつかないわよ」

「じゃあ鏡見て見なさいよ」

 

 そういうと同時に、45が懐から携帯端末のカメラをこちらに向けてきた。

 自撮りモードになっているのか、ディスプレイには私の顔が写っている。

 そこに写っていた私の顔は、自分でも分かるぐらい険しいものだった。

 

「あ…………」

「分かった? ……シーラ、落ち着いて動かないと倒せる敵も倒せないわよ」

 

 失敗したな。どうやら思っていた以上に煮詰まっていたらしい。

 ゆっくりと席を立ちながら、大きく深呼吸する。吸って、吐いて、吸って、吐いて。

 うん、少しスッキリした気がする。

 

「ごめん。ちょっと落ち着いた」

「ん。じゃあ私達、修復してくるから」

「ええ。報告は後で聞くわ。ごめんね、無駄な時間を使わせて」

「全くだわ。次はこんなことないようにしてよね」

 

 相変わらず辛口だなぁ……もっと優しくして欲しいんだけど。

 そんなことを考えていると45がクスクス笑った。

 

「優しくしたらアナタまた変なことし出すでしょ」

「……私、何も言ってないけど」

「顔に出てるのよ」

「……早く修復行ってきなさい」

 

 ああもう。これじゃあ指揮官の面目丸つぶれ……いや、前からか。

 とにかく、おかげで少し頭が冷えた。

 時間に余裕が無いのは変わらないけど、だからと言って一足飛びに結果を求めるのは最悪の結果を招きかねない。

 とにかく、ジェリコ達が向こうに着くまで資料を読んだりモイラから情報の共有をしてもらうことにしよう。

 

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