女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
R05地区の街でペットを撥ねた車の調査をジェリコ達が開始した。
最初こそ調査は難航したものの、どうにかE.L.I.D化した被害者のペットを轢いた車両の持ち主が発覚。
モイラ達の調査結果と合わせて、予想通り私の部隊と彼女の部隊の目的地が同じ場所になることが分かった。
一応ダメもとでジェリコ達に話を聞きに行ってもらっては見たものの、やはりと言うか門前払いを受けた。
あまつさえ彼女達を勧誘、あるいは異教徒として扱って暴徒化する兆候まで見られたのでその場は一旦下がらせたけど。
とにかく、その場ではどうにもならなかったからこれからどうするべきかのブリーフィングを開くところだ。
今回は、ジェリコ達に加え先んじて捜査を行っていたモイラ達の部隊も一緒にいる。
『それではブリーフィングを始めます。今回の調査の結果、E.L.I.D化した被害者が最後に接触を図ったであろう組織が分かりました』
「最近この街に入ってきた新興宗教、だったかしら」
『しんこーしゅーきょー?』
『スコーピオン……話を遮らないで。ごめんなさい指揮官、続けてください』
「いいのよジェリコ。スコーピオン、要するに良く分からない神様を崇めてる物好きの人間が集まった集団のことね」
『つまり、頭のおかしい連中の集まりってこと?』
スコーピオンの素直な言葉に思わず苦笑いをしてしまう。確かに今回はそうなんだけど、新興宗教=イカれた連中としてしまうのはちょっと短絡的だ。
それはともかく。
「そうね。今回に限って入頭のおかしい連中の集まりってことになるかしら。モイラ、詳しい情報をお願いできる?」
『はい。調査の結果、対象のグループは他の地区で興された宗教団体のようです。どうやら最近になってR05地区の市街地に入ってきたようですね。信仰対象はE.L.I.D……いえ、崩壊液でしょうか。あるいは、それを作り出したと言われているエイリアンかもしれません』
『ホントに頭のおかしい連中じゃったのお』
やれやれと言った感じでモイラの副官のナガンリボルバーがため息を吐く。
まあ気持ちはわかる。アレを神格化するのは私としてはちょっと理解できそうもない。
『一度ジェリコさん達が話を聞きに行ったそうですが、暴徒化の兆候すら見られたんですよね?』
「ええ。正直過激なカルト教団と判断しても良いかもしれないわ」
あの様子じゃ大人しく教団本部の中なんて見せてもらえないだろう。
『でも、無理やり調べるっていうのは出来るんですか? まあグリフィンですから、特に罪を犯した証拠もない組織の強制捜査もできる位偉いんでしょうけれど』
そんな嫌味交じりの疑問を口にしたのはモイラの部隊のカルカノM91/38だ。
とはいえ、事前にモイラから彼女は息をするように嘘を吐く……というか思っていることと反対のことを言う個体だと聞いている。
要するに強制捜査の実行権限が私達にあるのか疑問なんだろう。
そんな疑問に答えたのはモイラだ。
『その辺りは大丈夫よ、シノ。コリンズ指揮官のTAC-50さんが連れているドローンの……えっと』
『
TAC-50の言葉に、モニターの向こう側でモイラが頷く。
その直後、向こうのブリーフィングルームの大きなモニターに画像が映される。
ブリーフィングルームにいるメンバーの何人かが息をのむ音が聞こえた。私自身も、ほんの少し顔をしかめている。
そこに映されていたのは、敷地の隅に掘られた穴に捨てられた人間の死体だった。
いや、捨てられているにしては少し様子が違う。どちらかと言えば埋葬に近いだろうか。
胸の前で両手を抱き込む様に背中を丸めた人間の死体が……最低でも3体。
『こ、これって……』
MP5が困惑したような声を上げた。当然だろう。
モニターに映されているのは、おおよそ普通の死体ではないのだから。
「見ての通り、奴らのアジトにはE.L.I.D化の兆候が見受けられる死体が遺棄されているわ。いずれも初期症状は通り過ぎつつある個体ね。人体のケイ素化が進んで、あちこちが膨れ上がったり、体から石のようなものが飛び出しているでしょう」
『知識としてはありましたが……こんなにもおぞましいものだったとは』
ウェルロッドの言葉にモイラが渋い顔をする。彼女も一緒だろう。まあ、E.L.I.Dなんて汚染区域の横で暮らしているのでもなければ滅多に見るものじゃないとは思う。
「まあともかく、E.L.I.D化の兆候が見られる人間があの宗教団体の中にいた。それだけでも私達が治安維持の名目で強制捜査をすることは可能ってわけ」
私の言葉をモイラが次ぐ。
『とはいえ、向こうもそれは承知でしょう。他の地区で興しておきながらR05地区に来たということは、おそらく元々場所から移動せざるを得なかったのか、あるいは支部の設立を目指したか……前者ならまだいいですが、後者となると厄介です』
「それに、この宗教団体がアジトにしているマーケットの廃墟はE.L.I.D化した被害者が最初に目撃された位置からそう離れてはいないわ。ほぼ黒と見ていいでしょうね」
『指揮官、よろしいでしょうか』
スッと挙手をしたのはモイラの部隊の9A-91だ。
『どうしたの、9A-91』
『いえ、他の地区でこんな危険な思想の宗教を興してこの地区に来たのは分かるんですが、先ほどの支部設立のために来たとするならE.L.I.D化した被害者を野放しにするなんてちょっと危機管理が出来てないような気がするんです。それだけの勢力があるなら、その辺りのリスクマネージメントを徹底する慎重な幹部とかがいてもいいような気がして……だから、ソレが出来ないということは元の地区にいられなくなったから逃げてきた、という線の方が濃厚ではないでしょうか』
確かに9A-91の言うとおりだ。野放しにすれば私達が動き出すのは目に見えて明らかだろう。
「確かにあなたの指摘の通りよ9A-91。でもだからころ、今回の強制捜査では、後者である可能性を考慮して動くわ」
『と、言うと?』
「逆に考えるの。野放しにすることが向こうの作戦の内ってね。私達に気づかせるのが目的であえて野放しにさせた可能性もある」
『えー。でも指揮官、いくらアイツらがイカれてるからって言ってもグリフィンを敵に回して無事で済むと思ってるのかな?』
「そうよ、スコーピオン。いい? アイツらは人をE.L.I.D化させられる何かを持ってる。と言うことは、下手に突っ込めば私達までそうなりかねないの。……そうね。例えば切り札として鉄血のハイエンドを隠し持っている、みたいな感じなら分かりやすいかな」
『むむ……つまり、私達を鉄血の雑魚で釣って、ハイエンドで一網打尽にしようとしてるかもしれないってこと?』
「その通りよ」
私が肯定すると、スコーピオンはうげぇと嫌そうな声を漏らした。そりゃそうだよね。
そんな彼女を置いて、モイラが咳払いをして場を鎮めた。
『今回の作戦目標はE.L.I.D化する人間を発生させる原因の調査。それと、出来ればその原因となる物品のサンプル回収です。今回はほぼ確実に崩壊液が絡む作戦ですから、各自細心の注意を払ってください』
モイラの言葉を受けて、モニター越しでも向こうのブリーフィングルームにいるメンバーの気が引き締まったのが分かる。
さあ、N03地区の時ぶりの大仕事になりそうだ。私も気を引き締めてかかろう。