女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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今回はUMP9とシーラ指揮官のお話です。
9からすれば45と誓約した指揮官は義理の姉ってことになると思うんです。

9にお義兄さんとか呼ばれてみたいかもしれない。


お義姉ちゃん、って呼んでいい?

「ねえ、お義姉(ねえ)ちゃん」

 

 司令室で書類仕事をこなしていると、隣から今日の副官を務めているUMP9の声が聞こえてきた。

 ……今、私のことを『姉』と呼んでいたような気がするんだけど。

 

「9、今私のこと『おねえちゃん』って呼んだ?」

「うん。そう呼んだ」

 

 どういう風の吹きまわしだろう。彼女が気さくな性格なのは知っての通りだけど、姉と呼ぶのは45だけだったはず。

 私のことでさえ今の今まで『指揮官』と呼んでいたのに。何か面白いことでも思いついたのだろうか。UMP姉妹は割と面白そうって理由で突拍子もないことを始めたりするから。

 

「むぅ。お義姉ちゃん、なんか失礼なこと考えてるでしょ」

「あれ、顔に出てた?」

 

 クスクスと笑いながら9の方を見れば、彼女は頬を膨らませていた。

 

「どうせ、私達は面白そうって理由で変なことやってそうとか、そんな感じのことを考えてたんでしょ」

 

 お、正解だ。流石にそれなりの付き合いになってきてるし、分かるようになってきたみたい。

 

「ひどいなあ。私達、面白かったらなんだってやるわけじゃないんだよ?」

「どの口が言うのよ。この間の私のお昼に増強カプセルを混ぜ込んだの、忘れてないからね」

 

 そう言って睨めば、そんなことは知りませんとばかりに9は首をかしげた。小動物みたいな首の傾げ方で可愛げがあるけど、私は騙されないぞ。ホント、カプセルが人に害のない成分で構成されてて良かった……

 

「で、お義姉ちゃん」

「まだ続けるの? ていうか、なんで突然私を姉なんて呼び始めたのよ」

 

 もしかして、今日一日こうやっておちょくられるんだろうか。副官としての仕事は十二分にこなしているから、これくらいは目をつぶってもいいけど……

 そんなことを考えていると、9は意外にも真面目な表情で語りだした。

 

「いやあ、ふと思ったんだけどね。お義姉ちゃんって45姉と誓約したじゃない?」

「したわね」

 

 思わず、左手薬指にはめられた指輪へ視線を落とす。これをつけてから、それなりの時間は経ったような気もするなぁ。

 

「誓約って、人間でいうところの結婚でしょう?」

「まあ、そんな感じになるのかな」

 

 実際は人形の所有権が誓約を交わした人間のものへと上書きされ、なおかつ誓約を交わした人形自身の性能限界を引き上げるという装備システムだ。疑似感情モジュールの作用を利用したシステムだから、人形から十二分に信頼されていないと使えないのが一番の特徴だろう。

 けれど銀の指輪という形状と『誓約の証』なんて名前、そしてその特徴的な制限のせいで、人形と指揮官の愛の証というか、まあそんな感じのロマンチックな誤解が広まってしまった。開発者としてはそれも狙いかもしれないけれど。

 ともあれ、今では誓約の証を渡すということは、渡した人形と事実婚の関係になるというのが暗黙の了解になっている。

 

「結婚って、二人の人間が家族になるってことじゃない?」

 

 続ける9はなおも真面目な表情だ。いつもニコニコしている彼女が、作戦行動以外でこうも真面目だとちょっと調子が狂うかもしれない。

 

「で、45姉は私にとってお姉ちゃんで、お義姉ちゃんはそんな45姉と家族になったわけだ」

 

 なるほど読めた。そういうことだったか。

 

「つまり9の大好きな45と家族になった私は、アナタの義理の姉って訳ね」

 

 そう、そういうこと! とニカっといつもの快活な笑みを浮かべて、9が書類を渡してきた。

 

「まあそんなわけで、私としては指揮官のことをこれからは『お義姉ちゃん』って呼びたいなって思うわけです」

 

 まあ、話は分かった。しかし家族かあ。45と私は家族……つまり9も家族。ってことは404小隊は皆家族……?

 そこで想像してしまった。仕事が終わって仲良く45と私を、9とか416とかG11が家で待ち受けている場面を。

 そして私を『お義姉ちゃん』とか『義姉(ねえ)さん』と呼んでくる404小隊の皆の姿が頭の中に浮かんでくる。

 あ、やばい。想像してたらなんかすごく恥ずかしくなってきた。背中のあたりがこそばゆいというか、なんかムズムズしてやばい。

 思わず書類で顔を覆ってしまう。これから404小隊には『お義姉ちゃん』と呼ばれるんだろうか。今更になって特別な存在になっちゃったみたいで、すごく恥ずかしくなってきてる。本当に今更なんだけど。

 

「あれ、指揮官もしかして、嫌だった……?」

 

 私の様子を見てか、9が申し訳なさそうな声色で問いかけてくる。

 

「あ、いや……うーん、とね。その……」

 

 うわ、改めて口にするとなるとかなり恥ずかしいかもしれない。口の中がパサパサしてきた。

 本当に、今更何でこんなことで恥ずかしくなるのか自分でもよく分からない。でもちょっと申し訳なさそうに眉尻を下げてる顔を見ると、言わなきゃなとも思う。勘違いされたままっていうのは私としてももやっとするし。

 ええい、大丈夫だ。9も『家族』なんだし、恥ずかしいって言っても笑ったりしない……はず!

 そう自分に言い聞かせて、私は意を決して口を開いた。

 

「その、なんていうのかな……『お義姉ちゃん』って呼ばれるの、なんか恥ずかしくなっちゃった……」

 

 書類で隠した顔から目だけを出して、ちらりと9の方を見る。

 キョトンとした表情で、9は固まっていた。やめて、そんな目で私を見ないで。今更というか、このタイミングで変なことを言ってる自覚はあるんだから。

 

「……っぷ! あはははは! 恥ずかしいって、さんざん45姉とラブラブなところを見せつけるようなことやっておいて、今更なの指揮官!」

 

 お腹を抱えて爆笑する9に、余計顔が熱くなるのを感じた。耳の先まで熱いから、相当顔真っ赤になってるんだとは思うけれど。

 

「わ、笑わないでよ! しょうがないでしょ、想像したらなんか恥ずかしくなっちゃったんだから!」

「あははは! あー、おかしい。でも、指揮官……いや、『お義姉ちゃん』のそんな顔を見るのはなんか新鮮だね!」

 

 お義姉ちゃん、という単語に思わず体がびくりと反応してしまった。

 そんな私を見て、愉快そうに9が唇の端を吊り上げる。

 

「ッ! 9、アナタ……!」

 

 やっぱりこの子45の妹だ。私が恥ずかしがるって分かってて『お義姉ちゃん』なんて呼んできたよ。楽しそうな笑顔がなお恨めしい。

 

「全く、『お義姉ちゃん』って呼ばれることを想像するだけで恥ずかしくなるなんて、一体何を想像したのかな? ナニかな? ねえ、お義姉ちゃ~ん?」

 

 うっわ、45の『しきか~ん』を思い起こさせるようなトーンで『お義姉ちゃん』って呼んできたよこの子! 悪魔だ悪魔! 可愛い小悪魔だ! この状況だと有難みゼロだけど!

 

「っていうか、私別に45とイチャイチャしてるの見せつけるようなことはそんなにしてないでしょ!」

「えー? この間404小隊皆で副官やった時とか、おでこにキスしてたじゃん」

 

 あれもイチャイチャ判定になっちゃうのか。

 そんなことを思う私の横で、9は右手の人差し指と中指の二本を立てる。二つ目のイチャイチャ見せつけ場面があるとでもいうつもりなのかな。

 

「後はAR小隊が子犬連れて来た日だったかな? 司令室で45姉に抱き着いてたでしょ」

 

 予想だにしない場面を口にされて、驚きのあまり勢い良く立ち上がってしまった。そのはずみで私が座っていた椅子が音を立てて倒れる。

 

「なんッ…!? 何で知ってるの!? あの時司令室は二人だけだったはず……!」

「いやあ、気づかれる前に離れられて良かったよ? 私もびっくりしたもん。まさか業務時間中にあんなことしてるとは思わなくて」

 

 誤解を生むような発言は止めてほしいと思う。というか、見られているとは思わなかった。

 さらに9が薬指を立てる。まだあったっけ!?

 

「後はこの間、お義姉ちゃんが非番の時は45姉とお楽しみだったんでしょ? 朝、廊下に声が漏れてたって噂が……」

 

 ちょっと待って、私の部屋は防音もしっかりしてるし、部屋の扉もしっかり閉まってたはず。それすら貫通するほどの声で乱れた覚えはないんだけど!

 それでも、万が一音が漏れていたとしたら恥ずかしすぎる。私と45がそういう関係っていうのは基地の人形達も知ってはいると思うけど、どうしようとてもマズいんじゃないかなこれ……

 どうしたらいいかわからなくなってきて額に手を当てる。指先がちょびっとひんやり感じるくらいには恥ずかしさで顔面が熱くなっているっていうのが分かった。

 

「ごめん、最後のは嘘。でも良いもの見れたなぁ。そんな恥ずかしがる『指揮官』、初めてみたかもしれないし!」

 

 指揮官呼びに戻った……? ということは、もう悪ふざけは終わりってことかな。

 それじゃあ……

 

「9、ちょっとそこに座んなさい。パーで殴られるか、グーで殴られるか位は選ばせてあげる。悪い子には『お義姉ちゃん』がお仕置きしないとね?」

 

 おいたがすぎたわね、9。あんまり『お義姉ちゃん』をからかうモノじゃないってこと、きっちり体に教えてあげないと。

 

「し、指揮官? もしかしてすごく怒ってる?」

「口で説明した方がいい?」

「できれば口で説明してくれた方が、私としては嬉しいなー……なんて」

 

 ちょっぴり可愛くお願いしてくる9に対して、顎に手を当てて考えるふりをする。

 時間にして一分くらい経った後、私は顎から手を離して9を見た。

 まるで無罪判決を祈る被告みたいな顔をしている。これは……あれだ、イジメたくなる顔ね。

 

「うん、決めたわ。9、さっき手伝ってくれた書類だけど、すごく良く出来てた。私でもあんなにうまくは作れないかもしれないわね」

 

 そんな誉め言葉に9は一瞬顔を輝かせて、けれどすぐに怪しむような表情に変わった。む、鋭い。

 

「指揮官? 上げて落とすつもりじゃないでしょうね?」

「あれ、それが良かった? 私としてはこのまま無罪放免にしようかと思ったんだけど」

 

 そんな私の返答に、9がしまったと言わんばかりに顔をしかめる。

 んふふ、甘いわよ9。先を読めば逃げられると思ったか。

 

「さぁて? イタズラ好きな9ちゃんにはどんなお仕置きがいいかなあ?」

「お、お願い指揮官……許して……」

 

 自分でも分かるくらいにはニヤニヤし始めた私を見て、9は目に涙を溜めて懇願し始める。

 

「許してほしい?」

「ゆ、許してほしいです」

 

 うるうると目を潤ませて私に縋りつくように見上げる9を見て、なんだか満足できた。これ以上はかわいそうかもしれない。

 甘いとは思うけど、このくらいにしておこうかな。

 

「ショートケーキ一個」

 

 私の言葉に、9は訳が分からないといった表情をする。

 

「スプリングフィールドのカフェでショートケーキ奢って。それで許してあげる」

「ホント!? ありがとう『お義姉ちゃん』! ……あ」

 

 今のは完全に思わず口に出ちゃったって感じだったみたいね。9が再び不安そうに私の様子をうかがってきた。

 まあ、恥ずかしいけど嫌ってわけじゃないし、あんまり人のいるところで言わなければいいかな。

 

「周りに人がいないときだったらいいわよ。その呼び方でも」

 

 流石に基地の皆に『おねえちゃん』と呼ばれるのは恥ずかしいからね。

 しかし、改めて誓約の意味についても考えさせられるなあ。

 

「『家族』……か」

 

 思わずこぼれた単語。口にする機会は多くても、それがどういうものかを考える機会は案外少ない気もする。

 左手を目線の高さに持ち上げて、薬指にはめられた指輪を見つめる。

 もう少し、この指輪をつける『意味』をしっかりと考えてもいいかもしれない。

 今度、45と一緒に話してみよう。

 好きだ、愛してる。そんな言葉はたくさん言ったけれども、『家族になろう』といったことはなかった気がする。

 家族になろうって言ったら、45は喜んでくれるかな。それとも、今まで家族だと思ってなかったのかって怒るのかな。

 喜んでくれればそれでよし、怒られたら甘んじてその怒りを受けることにしよう。

 

 

 それはさておき。

 

「9、今日の仕事が終わったら、ちゃんとショートケーキご馳走してね?」

「むぅ……一個だけだからね! あんまりたくさん食べないでよ? 『お義姉ちゃん』」

 

 うん、悪くない。まだ恥ずかしいけど、これはこれで心地よい響きかな。

 そんな心地よさに思わず頬を緩めながら、倒れた椅子を元に戻す。

 仕事はまだある。でも、不思議と頑張れそうな気がした。ショートケーキも待っていることだしね。

 

 

 

 ちなみにその日の夜、9にはショートケーキと紅茶のセットをご馳走してもらった。人のお金で食べるスイーツってまた格別だね。

 




悩んだところで良質な話なんて書けない、と悟った上に怠け癖がバッチリついた自分がそれなりに作品を読んでもらうにはと思いついたのが『短いスパンでどんどん投稿する』だったんですが、間違いではなかったと実感しました。

思ってた以上に色んな人に読んでいただいていたようで、結構嬉しかったりします。

リアル指揮官としても、ドルフロ二次作者としても駆け出しですがこれからも頑張って続けていきたいと思います。
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