女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
建物内に爆音と言ってもいいくらいの銃声が響く。
TAC-50が己の半身で発砲した音だ。
一度の発砲につき一体、彼女達の方へ迫ってくるE.L.I.Dと化した宗教信者たちを物言わぬ死体に変えていく。
けれど、建物内全ての信者がE.L.I.Dになったのかと思いたくなるほどの数の前には効果的な攻撃とは言い切れない。
『ウェルロッド、まだですか!?』
『あと45秒です! もう少し持ちこたえてください!』
「フュンフ、フォースシールドを展開してE.L.I.Dの動きを止めて! スコーピオン、フュンフがシールドを展開した後固まったE.L.I.Dに焼夷手榴弾! TAC、暗視モード解除して焼夷手榴弾を突破した個体の撃破!」
今回の編成にTACを組み込んでおいて本当に良かった。
うちの基地ではごく最近に着任した新参者だったからダミーは1体しか使えないけれど、元々大人数で動くことは想定してない作戦だったのと専用ドローンとの同期機能を使った情報収集能力が使えると見込んでの起用した。
結果から見れば正解だったといえると思う。ただ欲を言えばもっとダミーが運用できる状態で連れてきたかった。
いくらTACが対物ライフルで初期段階のE.L.I.Dを一撃でぶち抜けるとはいっても、この敵の数を相手にメインフレーム一体だけで対応するのは難しい。
防衛対象のウェルロッドたちがいる部屋までのラインも少しずつ下がってきてしまっている。
フュンフ、スコーピオンも応戦してはくれているけれど、拳銃弾ではE.L.I.Dを止めることは難しい。
とはいえ、そこは着任したてのころと比べたら大きく成長したフュンフとスコーピオンだ。
止めにくいだけであって、E.L.I.Dの体の硬質化していない部分を的確に狙って動きを止めに行っているし、接近されても慌てることなく冷静に対処できている。
『スコーピオン、これで私が1体多く行動不能にしましたよ!』
『はっ! それくらいすぐに追いついて見せるよ!』
「二人とも、競い合うのもいいけど弾の無駄遣いは避けてね?」
後はこれ。着任日が近いのもあってお互いをライバル視してる二人はいい意味で高めあってくれてる。
まあ、スコーピオンは元々そういう子だったからともかくとして、まさかフュンフまで血気盛ん気味な一面が出てくるとは予想外だったけど。
そんなことを考えているとウェルロッドが声を上げた。
『皆さん、お待たせしました。データダウンロード完了です!』
「全員屋外へ撤退! モイラ、入り口付近と退路の確保は?」
『問題ありません。シノ、建物周辺に敵は見える?』
『あら指揮官。私達を捨てて向こうの人達にヘッドハンティングをするおつもりでしたか? それは残念でしたね』
『シノ……他所の部隊の人達が混乱する言い方やめてってば』
『ふふ。冗談です。まあそんなこと言えるくらいには暇ですよ』
……ちょっと分かりにくいけど、嘘をつくことのが多いと聞くタイプの方のカルカノライフルの言うことだ。大丈夫ということらしい。
が、暇を持て余しているところ悪いけれど彼女達にも仕事をしてもらわなくてはならない。
「あら、仕事がないならお願いがあるんだけど」
『何でしょうか、先輩指揮官様』
「今うちの子たちを撤退させてるけど、多分その子たち追いかけてE.L.I.Dも出てくるわ。外に放つわけにはいかないから、撃滅を手伝ってほしいの」
私の言葉にカルカノライフルの嫌そうな声が聞こえてきた。
そりゃあそうだろう。一撃でE.L.I.Dを屠れるのは今この場にはTAC-50くらいしかいない。そんな面倒な相手と戦わなければならないとあれば、嫌な顔の一つくらいはしてしまうもんだと思う。
でもやらなきゃいけない。いくらE.L.I.Dが接触感染でパンデミックを起こしに行くいとはいえ、確率がゼロじゃない以上は最善を尽くさなければならない。
「モイラ、正面エントランスはともかく裏口が今手薄になっちゃってると思う。そっちの対応も頼める?」
『はい。先ほどこちらの第2部隊を増援で向かわせました。しばらくは今の戦力で対応するしかありませんが、彼らを建物から逃がさないようにするくらいは出来ると思います』
「上等。全員聞いてたわね? 1人たりともここから逃がしちゃダメよ!」
そう言って皆からの返事を待とうとした瞬間、無線にノイズが入った。
『悪いがそこから先はこちらに任せてもらおうか、グリフィン』
『な、何者ですか! 所属を……』
『正規軍のエゴール大尉だ。E.L.I.D出現の報を受けてきた。拡散阻止の協力に感謝する。あとはこちらに任せて、貴君らは帰還せよ』
有無を言わせぬ口調。そしてこの声とあの名前。カーター将軍の懐刀のエゴールか……。
ちょうど、第4部隊の皆が正面エントランスを飛び出した。
そこには既に2基のヘリコプターと、そこからファストロープ降下をしている兵士たちが何人もいた。
その中には見たことのある顔の男……エゴールも含まれている。
『指揮官、これは……』
「ジェリコ、および他の全員に告ぐ。全員帰還しなさい。今すぐに」
第4部隊のメンバーとすれ違った正規軍の兵士たちが次々に発砲を開始する。
こうなった以上私達にできることはない。速やかに退散するとしよう。
ドローンからの映像には唐突すぎる事態にやや唖然としている皆の顔が映っていた。気持ちは分かる。
『ああ、そこの金髪の人形』
帰還しようと作戦エリアを後にしているウェルロッドを、不意にエゴールが呼び止めた。
『何でしょうか』
『貴君の懐にある記憶媒体。それをこちらに渡してもらおうか』
クソッタレめ。さっきのやつと言い、やっぱり時々起きてた無線のノイズ、こいつらの盗聴だったか。
ってことはウェルロッドがラップトップの中身をコピーしたこともバレてるわけね……。
「お言葉ですがエゴール大尉。そちらの記憶媒体は我々グリフィンの調査、治安維持のために必要なものが入っていると思われます。後日改めてそちらに提出しますので、今は預からせていただけないでしょうか」
『その必要はない。シーラ=コリンズ上等兵……いや、今は指揮官だったか。』
コイツ……仕方ない。嫌だけどとりあえずダメもとで昔みたいにやるか。
「質問の許可をいただけますでしょうか、エゴール大尉」
『いいだろう』
「その必要はない、とおっしゃっておりましたが何故ですか? 先ほども述べましたが、その情報は私達グリフィンが担当している各市街の治安維持に必要な情報が収められていると思われます。その情報がなければ、治安維持に支障が出るかもしれないのです」
私の問いに対し、エゴールは鼻を鳴らしてこちらを……ドローンを見た。
『その治安維持というのは、E.L.I.Dの拡散防止のことか? そもそもそれは我々正規軍の領分だ。拡散元となり得る宗教団体もこの様子ではほぼ全員E.L.I.D化したとみていいだろう。まともに活動できる人員が残っているとも思えん。貴君らが危惧している事態は回避されたと判断していい。それに崩壊液を取り扱っている組織ということで既に我々が密偵を送り込んでいてな。要するに貴君らには見せられない機密情報があるということだ。……何か質問は?』
チッ……反論のしようがない。まあ機密があるからこそ私達の手に渡る前にここに来たってことだろう。
じゃないと増援要請もしていないし、その旨の連絡を私たちが受ける間もなくこんなところに来た理由が説明できない。
私としてはその『機密』が欲しかったところなんだけど……。
「……いえ、ありません。ご回答いただき感謝します」
『ふん。本来ならこうなる前に状況を収めてほしかったのだがな』
嫌味な奴だ。盗み聞ぎしておいてよく言うよ。
ともあれこうなっては仕方ない。
「ウェルロッド。入手したデータを大尉に渡して」
『……了解しました』
ウェルロッドが記憶媒体をエゴールに渡す。
クソ……ここまで来て何の収穫もなしになるなんて。
とにかく、今は一旦引こう。何をするにしたって、今できることはもうない。
「作戦終了を宣言するわ、みんな……」
『そんな! シーラさん、それでいいんですか!?』
声を上げたのはモイラだ。
気持ちは分かる。でも相手が悪すぎるのよね……。
「モイラ、私の指示に従って。私達の仕事はここまでよ」
『くっ……』
そうして、私達の合同作戦は終了した。
モチベ死にかけなんで今後失踪したら察してください