女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】   作:笹の船

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作戦終了

 新興宗教のアジトでE.L.I.D達と戦闘をし、正規軍に入手した情報をかすめ取られた翌日。

 明け方になってジェリコ率いる第4部隊が私達の基地へと帰還した。

 

「指揮官。第4部隊、帰還しました」

「皆、おかえりなさい。無事で何よりだわ」

 

 笑顔で皆を迎える私と対照的に、第4部隊の面々の表情はやや暗い。

 そりゃあそうだろう。元々の作戦目標は結局何一つ自分達の手で完了させることが出来なかったのだから。

 とはいえ、介入してきたのが正規軍となるとそれも仕方のない話ではある。

 いくらそこらの人間よりも戦術人形が強いとはいえ、正規軍の兵士も口先ばかりのトーシローって訳じゃない。

 むしろ、対E.L.I.D戦についていえばそこらの戦術人形よりもよほどノウハウがある。

 

「とりあえずデブリーフィングしましょうか」

 

 私の言葉に第4部隊のメンバーの背筋が伸びる。うん、こういう切り替えをしてくれるのはいいね。

 

「作戦目標のE.L.I.D化の原因の調査だけど……残念ながら私達がそれを手に入れることは出来なかったわ」

 

 私が作戦の結果を述べると、皆の表情が苦いものへと変わる。

 

「とはいえ、あのタイミングでの正規軍の介入は私達にも予想できなかった。本来であればそんなことは余りないはずなんだけど……」

「それだよ!」

「スコーピオン! 静かにしなさい!」

 

 正規軍という言葉を聞いてスコーピオンが目を吊り上げながら声を上げる。それをジェリコが叱責したけれど、私はそれを手で止めた。

 ほんの少し眉間にシワを寄せながらも、ジェリコはそれに従ってくれる。

 それをいいことに、スコーピオンはなおヒートしていった。

 

「今回の仕事は私達がやるべき仕事だったよね! 私達じゃ手に負えない、って助けを求めたならああいう状況も分かるよ? でも、何の連絡もなくかってに来てお宝を横からかすめ取っていくなんて、ズルくない!?」

「そうね、スコーピオン。アナタの言葉は最もよ。事情はどうあれ、状況だけ見れば正規軍は良いところだけかっさらっていったようなものになるわ」

「じゃあ、どうして指揮官はそんな平然としていられるの!? 悔しくないの!? フュンフもTACもジェリコもウェルロッドも、皆あんなに頑張ったのに!」

 

 スコーピオンの声にフュンフやTACは少し悲しそうにうつむき、ウェルロッドとジェリコはやるせなさを隠す様にやや視線を落としながら唇を真一文字にキュッと結んだ。

 それでも、私は残酷な現実を告げないといけない。

 

「正規軍の横暴とも言えるあの行動に、グリフィンが異議を唱えることはできないのよ」

「なっ……どうして!?」

「スコーピオン。アナタも知っているでしょう。鉄血の掃討と鎮圧、各市街の運営をグリフィンに依頼しているのは他でもない正規軍よ。彼らが私達の依頼主である以上、私達はクライアントにおいそれと歯向かうことはできないの」

 

 私の言葉にスコーピオンは何かを言おうとして、けれど結局何も言うことはないまま表情を歪めてうつむいた。

 彼女達にはこれ以上ない理不尽な結果だっただろう。

 それでも、私にとっては収穫があったと言っていい。

 

「そんなに落ち込まないで。確かに私達がやるべき仕事は取られちゃったけど、かといって全く何も収穫がなかったわけじゃないもの」

 

 私の言葉に、皆がハッとした表情でこっちを見る。

 

「皆思いだして。今回の仕事は、元々E.L.I.Dが出現したことで街の安全が脅かされるかもしれない事態を事前にどうにかする為のモノだったのよ? 私たち自身がそれをすることは出来なかったけれど、少なくとも守るべき人々の安全を確保することが出来たのは確かでしょ? だったら、それは喜ばないと」

 

 フュンフ、TAC、スコーピオンは納得しきれないと唇がへの字になってはいたけれど、それで良しとしようと静かに頷いてくれた。

 ウェルロッドとジェリコは私が意図的に論点をずらしたことに気づいたようで、やや眉をひそめている。

 けれど、聞くべきじゃないと判断してくれたのか二人も静かに頷いてくれた。

 

「よし。それじゃあみんな、今日はゆっくり休んで。解散」

 

 私の言葉を受けてそれぞれが司令室を後にしていった。

 けれど、最後に部屋を後にしようとしたジェリコだけが扉の前で立ち止まる。

 

「指揮官」

「何かしら?」

「……何を考えていらっしゃるんですか」

 

 それは疑問を口にしたというよりも、確信を持っての質問のように聞こえた。

 まあ、バレないとは思っていなかったから仕方がないな。

 けれど、今彼女にそれは伝えられない。

 

「何のことかしら?」

「……いえ、すみません。勘違いだったようです」

 

 そう言って、ジェリコも部屋を後にする。

 全員が司令室を出て行き、部屋の中を静寂が満たした。

 

「ふぅ。……エゴール、か」

 

 思い返されるのはあの場に出てきたエゴール大尉のことだ。正規軍の上層部、カーター将軍の懐刀がわざわざあの場に出向いてきた。

 それは間違いなく、一瞬でもグリフィンに――あるいは私の手に渡ってしまっては不都合なものがあのラップトップの中ににあったということになる。

 このところ頻発するR05地区でのE.L.I.D出現の報と対応の早すぎる正規軍……私の遺伝子情報を狙ったグリフィン直下の病院の連中……。

 ここまで来れば、正規軍が何かしらの形でかかわってるのは確定したとみていいだろう。それも、軍中枢が絡むようなデカい話だ。

 それが分かっただけでも収穫だ。とはいえ、そのことを下手に誰かに漏らすのもできない。

 今回のことで、グリフィンの回線では正規軍に簡単に盗聴されてしまうことが分かった。

 最悪割込み通信、着信先なんかも弄られたっておかしくない。

 下手に通信で情報共有するのは得策じゃないな。かといって、直接会うとなればそれも目立つ可能性がある。

 難しいもんだ。……一応、図書館のオッサンを頼るのが対策ともなりそうだけど。

 ともかく、今日のところは私も休もう。……このところ張り詰めてスプリングのカフェに行ってなかった気がするな。

 久しぶりに温かいココアと美味しいパンケーキでも振舞ってもらうとするかな。

 

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