女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
カフェへのドアを開くとカランコロン、とドアに備え付けられたカウベルが鳴った。
「あら、指揮官。いらっしゃいませ」
カウンターの向こうにいたスプリングが、いつも通りの柔らかい笑みを浮かべながら私のことを出迎えてくれた。
「スプリング、パンケーキとココア頂戴。あ、ココアはあったかいやつね」
「かしこまりました」
カウンター席に着きながら注文をする。ほんの数日来てないだけなんだけど、なんだか妙に久しぶりなような気がした。
そんなことを考えた瞬間、なんだか一気に体が重たくなった。たまらずカウンターに突っ伏した。
「ふぅー……」
肺の中の空気をゆっくりと吐きだす。思っていたより、R05地区での作戦は負担になっていたらしい。
いや、違うか。それ以前のE.L.I.D研究絡みの情報収集をしている段階からの疲れかもしれないな。
そんなことを考えていると、横になった視界にほんのりと湯気の立つマグカップが置かれた。
「指揮官、ココアです。……お疲れのようですね?」
「ん、ありがとスプリング。そうね、ちょっと疲れてる」
のっそりと体を起こしながらマグカップを手に取ってココアをすする。……うん、甘くておいしい。
温かいものを飲んでさらに気分が落ち着いたのか、思わずホッと息を吐いた。
「美味しい」
「それは良かったです。最近指揮官さまこちらへいらっしゃらないから、少し腕が鈍ってないか不安でした」
パンケーキの準備をしながらこちらにそう笑いかけるスプリングに、私は思わず苦笑する。
「鈍るって……アナタに限ってそう言うことはないでしょう?」
戦術人形はいわば頭がコンピューターみたいなものだ。一度作り方なんかを覚えれば、後は覚えたとおりに演算だとかをしてその通りに動けば良いはずなんだけど。
そんなことを考えていると、スプリングはそんなことはないと首を横に振った。
「そうでもないですよ。確かに、ただ作るだけなら全く同じものは作れるんですが……」
「……? どういうこと?」
思わず首をかしげると、スプリングがちょっぴり恥ずかしそうにはにかみながら答えを教えてくれた。
「同じものを作るだけなら自律人形にだって出来るでしょう、指揮官?」
「ああ……ごめん。そうよね」
スプリングはこのカフェのマスターとして食べ物とかを皆に振舞っている。それは単に飲食の提供を役割としてこなしているんじゃなくて、彼女自身が誰かに何かを与えたいというヒトとしての欲求を満たすためにやっていることだ。
要するに、ハートが伴わないものを出すのは彼女のプライドが許さないってことなんだろう。
そこを忘れるなんて、ちょっと最近自分のことしか考えられていなかったのかもしれない。
「指揮官、そんなに落ち込まないでくださいな」
「え、そんな顔してた?」
「ええ。思わず私を機械扱いしてしまった申し訳ない、って顏に書いてあります」
うーん。そんなにわかりやすかったか。指揮官になる前はもっとポーカーフェイスが上手かったと思うんだけどなあ。
別にここにいる間は今のままでもいいんだけど、現場に出て交渉とか色々しなきゃいけないって時にこれだとちょっとまずいよなあ。
「クスクス。大丈夫ですよ指揮官。そんなに表情がコロコロ変わるのはお仕事してない時だけですから」
「…………」
そう言って笑うスプリングの言葉に、思わず顔をしかめてしまった。
こうも心の内を読まれてしまうことを危惧するべきなのか、言葉通り仕事の時はしっかりできているという言葉に安心するべきなのか。
思わず腕を組みながらそんなことを真面目に考え始めたタイミングで、目の前にパンケーキの乗ったお皿が運ばれてきた。
「あっ! 今日はちょっとホイップクリーム多めにしてくれたのね? ……あ」
しまった、思わず自分でも分かるくらい嬉しそうな顔になってしまった気がする。
後ろで誰か吹きだした音が聞こえたぞ。誰だ!?
「ちょっとスコーピオン! 何笑ってんのよ!」
「あはははは! だ、だって指揮官、その話の流れで腕組んで考え事したかと思ったらホイップクリームでテンション上がるって……あははははは!」
「う、うるさいな! いいじゃん、ホイップクリーム好きなんだから!」
「あの、指揮官……そうやってムキになるところが子供っぽいって言われるんじゃ……」
「フュンフに言われたくないわよ! 少なくとも私の方が大人でしょ!」
「だぁれが万年幼児体型ですか!? 毎日牛乳飲んでるんですから、そのうち指揮官様よりないすばでーになるんですぅ!」
そんな感じでギャーギャー騒いでいると、唐突に背後でボルトアクションの音が聞こえた。……気のせいだといいんだけど、薬きょうが床に落ちる音も聞こえた気がする。
「皆さん、カフェではお静かにお願いしますね?」
私とフュンフとスコーピオンがぎこちない動きで声の主の方へと向けば、そこには大変いい笑顔をしたスプリングが己が半身を持って立っていた。
「指揮官。パンケーキとココアが冷めてしまいますよ? 温め直しは承っておりませんから、早めにお召し上がりくださいね?」
「は、はい……」
いい笑顔のままそんなことを言われてしまったらもう大人しく食べるしかない。
でも、一口食べてみればいつもの美味しいパンケーキだった。思わず頬が緩み……そうになったけどそこは頑張って抑える。
うん、カフェで騒ぐのはパーティとかをしてる時だけにしよう。分かってたことだけれど、スプリングは怒らせちゃダメだ。
それはそれとしてパンケーキは美味しかった。正直毎日食べたい。
「毎日はダメですよ指揮官」
「……何も言ってないのに」
やっぱりポーカーフェイスの勘を取り戻す練習しよう。