女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
R05地区での作戦が終わった翌日。
私は自室でのんびりしていた。このところは色々あったし、今日のところは急ぎの仕事もないので休みにしたのだ。
ちなみに、休みだからって久しぶりにベッドでゴロゴロしていたら45に毛布をはぎ取られた上に無理やり着替えさせられた。
とはいえ、ベッドへの未練が捨てきれずにもう一回ダイブを決めようとしたんだけど、その時には既にシーツやら何やらをG36がはぎ取って洗濯しに行ってしまった後だった。
「ねえ、45」
「どうしたのシーラ」
私が声をかければ、いつもと変わらない微笑みを浮かべながら45がこっちを向いた。いつも通り過ぎてちょっと憎たらしい。
「私、今日は休みよ?」
「うん、知ってる」
「じゃあゆっくりしたいんだけど」
「別にどこか行ってこいとか、出かけましょうとか言うつもりはないわよ」
だんだん45の顔がいい笑顔になってきた……。ええい、でもダメ元でお願いしてみるか。
「だったらベッドで――」
「それはダメ」
「なんで!?」
解せぬ。今日くらいは毛布の中でぬくぬくしたっていいじゃないか。
そう思って頬を膨らませながら45を睨みつければ、向こうも同じような顔で私のことを睨んでいた。
「ねえ、シーラ。私達、最近忙しくて全然一緒にいられなかったじゃない」
「そりゃまあ、やることいっぱいあったわけだし……」
「だったら、今日くらい一緒にゆっくりしようよ」
突然の45のワガママに、思わずぽかんとマヌケな顔になってしまったのが自分でも分かった。なんだなんだ。珍しくストレートに甘えてきたじゃないこの子。
確かに、最近は仕事でも一緒にいる時間がほとんどなかった。45には秘密裏に情報を探らせに行ってもらってたし、帰ってきた後は修復だなんだとバタついていたし。
私は私でR05地区での作戦の指揮が忙しくて、会いに行ったりもしてなかったっけ。
なるほど。それは確かに45が甘えたくなるのも仕方がないかもしれない。
「あの……シーラ?」
「ん? なぁに?」
あれ、なんか45の様子がちょっと落ち着かなさそうな感じになってるけど、どうしたんだろう。
「なんか……すっごいいい笑顔なんだけど?」
「んー? そりゃあまあ、どこかのお姫様がストレートに甘えてきたもんだから?」
「誰のせいよ」
「んー。強いて言うなら怪しい動きしてばっかりの正規軍のクソッタレどもかな」
嘘じゃない。アイツらが余計なことしなければ私達も変に気を張らずにいつも通り過ごせていたんだから。
けれど、私の答えは45にとっては不満だったらしい。これでもかと唇をへの字に曲げて、遺憾の意を最大限に表現していた。
「はいはい。そんな顔しないの。今日一日、一緒にゆっくりしてあげるから」
「ちょっと! なんだか私がワガママだから仕方なく付き合うみたいな言い方しないでよね!」
「違うの?」
「違……くはないけど! その……シーラは私と一緒にいたくなかったの……?」
ちょっと悲しそうに眉尻を下げる45。ハイ、可愛い。
そんな顔をされて何も思わないわけもなく。
私は椅子に座りながら大きく両手を広げた。
「……何よソレ」
「ん? 寂しかったんでしょ? おいでよ。抱きしめてあげるから」
あ、45凄く嫌そうな顔した。でもあれ、多分抱きしめられるのが嫌というよりは子供扱いされてるのが嫌なんだろうなあ。
その証拠に目が泳いでる。飛び込みたいけど、飛び込んだら負けた気がするみたいなこと考えてる顔だなあれは。
よし、追撃をかけるか。
「ねえ、よんごー? このかっこ結構疲れるのよね?」
「う……」
お、揺らいだぞ。そのままこっちに来い来い。
けれどそれだけだった。どうやら45は45で私が疲れて腕を下ろすまで粘る気らしい。
上等。そっちがその気ならこっちも45が折れるまで待つだけだ。状況的には私の方がずっと不利だけど、分の悪い賭けってのもたまには悪くない。
「…………」
「…………」
沈黙が部屋を満たす。私はずっと手を広げたままニコニコしているし、45もいつの間にか余裕そうな笑みを浮かべていた。コイツ、絶対私の方が先に折れると思ってるな? 正規軍で鍛えられた私の底力を知らないと見える。
なおも続けられる我慢比べ。腕はどんどん重たく、そして痛くなってくる。正直肩の辺りもだんだんと辛くなってきた。でも負けない。絶対に45が抱き着くまでこのままでいてみせる。
「シーラ? そろそろ辛いだろうから、腕を下ろしたらどう?」
「あら? 私はまだまだ余裕なんだけど。よんごーこそ、我慢しないで私の胸の中に飛び込んでくればいいじゃない。別に誰も見てないんだしさ」
そうは言うけれど、腕ばプルプルと震えてきた。まだだ。まだ耐えろ私。ここで折れたらなんかすごい敗北感に襲われる確信がある。
「ほらシーラ? 腕が震えてるわよ? こんなことで明日筋肉痛になられても困るんだしさ、そろそろ降ろしなよ」
「よんごーこそ、そんな余裕ある振りしないで早くおいでよ。明日からまた忙しくなったら、しばらく出来ないかもしれないじゃん?」
私の言葉に45の眉が一瞬だけぴくっと動いた。うんうん、迷うよね。意地を張らずにそのままこっちに来ればいいんだよ。
今度こそといっそう大きく腕を広げてみせれば、45は大きくため息をついてこっちに向かって歩き出した。
「全く……そんなに言われちゃったら行くしかないじゃない」
ちょっとだけ唇を尖らせながら、45が私の胸元に抱き着いてきた。
やっとかと苦笑いしながら、疲労でちょっぴり震える腕で45の背に腕を回す。
「やぁっと素直になったわね。全く意地っ張りなんだから」
「どっちがよ。全く。まさかここまで粘ってくるなんて思わなかったわ」
「ふふふ。私、諦めが悪い方だってことはよんごーだって知ってるでしょ?」
笑いながらそう言えば、45は腕の中でため息をつきながら小さく頷いた。
「シーラ、温かいね」
「落ち着く?」
「うん。ご無沙汰だったし」
「そっか」
45の背中に回していた右手を彼女の頭に持って行って、優しく撫でる。胸元の45は、気持ちよさそうに目を細めていた。
こうしてこの子を抱きしめてあげられるのは、あと何回だろう。
そんな縁起でもないことを、思わず考えてしまった。
「ッ! シーラ、ちょっと苦しい」
「あっ……ごめんごめん」
力が入っていたみたいで、胸元で45が苦しそうに息を吐いていた。
「大丈夫よ」
気が付くと、目の前に45の顔があった。
「え?」
「大丈夫。何があっても、私はアナタの隣に帰ってくるから。シーラだって、どこかに行ったとしても私のところへ帰ってきてくれるでしょ?」
私の頬に45の手が添えられる。すべすべした、とても細い指。触れれば折れてしまいそうなそれは、けれど私のものよりもずっと強靭な指だ。
そんな45の手に自分の手を重ねる。私よりもほんの少しだけ冷たい、けれど確かにそこにいることが分かる温もりを帯びた感触が、手のひらに伝わってくる。
「……うん。誓ったからね。45と、これからずっと一緒に生きていくって」
結婚式の真似事をしたあの日を思い出す。あの日、私達は確かに将来を誓い合った。
不安はある。敵に回さなければいけないかもしれない勢力は余りに強大で、何かあったら勝てない可能性の方が大きいのかもしれない。
でも、あの日誓った。たとえ仮初の誓いだったとしても、それは私に勇気と活力を与えるには十分な価値がある。
あと何回抱きしめられるか? 愚問だった。
何度だって抱きしめる。どんなことがあっても、必ず45のところに帰る。私がおばあちゃんになるまで、何があったって45を一人になんてするもんか。
そんな決意を言葉の代わりに、なんてカッコつけたわけじゃないけど。
私はゆっくりと45の唇に自分の唇を重ねた。
またこんな時間を過ごせるように、明日からも頑張ろう。