女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
この話を持って、一旦かしましおぺれーしょんは完結とさせていただきたいと思います。
カーター将軍一派が企てたクーデターを私達が食い止めてから、大分経った。
正規軍は大幅な組織再編を強いられ、その力――特に政治的なものだ――を急速に失っている。
E.L.I.Dに対する戦力までもが失われなかったのは不幸中の幸いで、一般人を奴らの脅威から守ることはできているみたいだった。
逆に言えば、それくらいしかできていることがない。これじゃあ、そこらの自警団と大して変わらないものだ。もちろん、装備は段違いなんだけど。
とはいえ、政治や外交にも使える戦力だった正規軍が瓦解した損失は計り知れない。今頃、背広姿のお偉方が必至こいて他国との議論のテーブルに座っているんだろう。
私? 私も大分忙しくなった。
元々グリフィンは正規軍に代わり各市街地の治安維持、運営などを行っていたけれど流石に全ての場所を網羅していたわけじゃない。
正規軍が主な活動拠点としていた規模の大きな都市の中には、正規軍の半壊によって治安が悪化してしまった例もある。
そういった街に対するアフターケアを、私達は任されたわけだ。
仮にも正規軍半壊の直接的原因を作ったのが私達ってことと、私が元正規軍の一兵卒だったこと。
そして元々の担当区域だったR06地区の街の発展、それと街とグリフィンとの関係性を改善した手腕を見込まれてのことだ。
おかげでR06地区の前線基地を離れてあっちこっちへ移動する日々だ。私のお尻をジワジワと痛めつけてくる座り心地の悪い列車の座椅子のことは、そろそろ腐れ縁と呼んでもいいんじゃないかと思う。
ああ『私達』と言ったけれど、当然各所に赴いて色々するのだって私ひとりじゃ大したことはできない。
治安維持にだって戦力は必要だ。とはいえR06地区の基地の皆を連れて行くわけにもいかない。そんなことをすれば有事の際にあそこを守ることも出来なくなるし。
だから、全部で10近くあった部隊の内2つ。再編した第1部隊と404小隊についてきてもらっている。
勿論それだけじゃ足りない。足りない分は各地のグリフィン所属の人形部隊や、正規軍兵を借りてどうにかしている。
人形はともかく、人間の方は面倒だ。まだ20代半ばの小娘に指示されることに不満や敵意を剥き出しにするやつもいる。特に正規軍兵にはそういったやつも少なくない。
ただ、私が正規軍を半壊させた事実がある一方、『暴走した上層部を食い止め、世界を救った』なんて持ち上げて従順になってくれた奴もいる。
世界を救った、なんてつもりはない。私はただ、もう二度と私の家族を崩壊液技術のおもちゃにされたくなかった。それだけだ。
――いや、これももしかしたら建前かもしれない。本当は、ずっと帰りたかったんだと思う。
「どうしたの? シーラ」
「んーん。何でもないわ。……ねぇ、ナタリア」
「ちょっと。今はまだ業務時間中よ。UMP45って呼んでよね」
「ごめん45」
仕方ないわね、と微笑むのは私の妻……夫だろうか? まあ、ともかく誓約なんて仮の形ではなくて、本当の意味で生涯のパートナーになったナタリアことUMP45だ。
そう。私が帰りたかった場所。それはこの子の隣だ。一時は離れることを余儀なくされた。二度と帰れないと諦めたこともある。
なんせ一度はE.L.I.Dになった身だ。帰れないと思う方が自然だと思う。ホント、よくあそこから人間に戻れたもんだ。
でもまあ、ナタリア始めペルシカやヘリアン、図書館のオッサンやドクターの尽力で、私は今もこうしてヒトとしてナタリアの隣にいることが出来ている。
それは私がずっと望んでいたことで、ナタリアも望んでくれていたことでもある。
ずっと怖くて触れてこなかったお互いの過去や傷に関しても、ちゃんと面と向き合って話した。
生涯のパートナーになった気でいながら一番大事なところから目を背け続けてきた私達の関係は、あれから確かに進歩した。
お互いがお互いの傷を作る遠因だったのは間違いない。カーター将軍の目論見に感づいた私の部隊の隊長達を部隊ごと抹殺する為に、将軍は蝶事件を画策した。
そしてその蝶事件のキーになったのがナタリア……というより、その姉妹機のUMP40だった。彼女達の役割は「傘ウィルス」を運び、作戦に参加した人形を感染させることだ。
結果として鉄血人形が人類に反旗を翻し、私達第10部隊は壊滅した。ナタリアの存在が私の家族を殺したと言っても良い。
だけど、そもそもの原因は私達第10部隊だ。私達がいなくても蝶事件は起きたかもしれない。でも、私達がいたから蝶事件が企てられ、ナタリアは誰よりも信頼していた姉を自分の手で殺すという地獄を味わうことになった。
けれどカーター将軍にとっての誤算だったのは抹殺したはずの第10部隊で私だけが生き残ったこと。そして蝶事件でも本来なら証拠隠滅のために廃棄されるはずだったナタリアが生き残ったことだ。
そこで生じた歪みは徐々に大きくなって、結果として将軍は自分の地位だけでなく人としての尊厳、プライド、そして命でもってそのツケを払うことになった。
ともかく、色々あったけどお互いの罪やら罰やらを告白した私達は今日も変わらず仲良しって訳だ。
一時期みたいにやたら夜になると体を重ねる、なんて退廃的なことはしていない。でも、手を繋ぐとか軽くキスをするとか、そういう回数は増えたようにも思う。
列車の車窓の外を流れる景色を眺める。
どんよりと曇った空に、荒れ果てた大地。第3次大戦と崩壊液の爪あとは、未だ世界中に残っている。
あちこちに飛ぶことになって改めて分かったのは、世界はまだまだ地獄のままだってことだった。
私やナタリアが経験したような地獄を味わう人々は多い。私達以上に辛い目に遭ってる人もきっといるんだと思う。
別に世界をよく出来るほどの力を私が持っている、と思っているつもりはあんまりない。
皆無じゃないのは、ほんの少しでも人の力になれた実績があるからだけど、これくらいの思い上がりは許してくれてもいいんじゃないだろうか。
次に行くところも荒れているという情報はヘリアンからもらっている。中々骨の折れる仕事だろうけど、あんまり弱音を吐いてもいられない。
そう言えば、私が留守にしているR06地区の前線基地での指揮だけど、妹に任せることにした。
妹、というのが正しい呼び方かどうかはわからない。
セシリア=コリンズ。それが今の彼女の名前だ。かつてはモイラ=シンプソンという女の子だった。
カーター将軍一派の崩壊液研究の犠牲になった彼女は、一時は自我が崩壊するまで様々な人体実験を加えられた。
E.L.I.Dにならなかったのは、崩壊液にたぐいまれな耐性を持った私のDNA情報やら何やらを使ったかららしい。
自らの無力さに絶望した彼女が最期に願ったのは「シーラ=コリンズになる」ことだった。勿論、私になったからってスーパーヒーローにでもなれるわけじゃない。
でも彼女は私に成れば皆を守れる。そう信じていた。
そんな彼女を私は利用した。崩壊液に体を蝕まれ、ヒトではなくなりつつあった自分の影武者として私は「シーラ=コリンズ」に仕立て上げた。――私に成りたい、という彼女の望み通りに。
勿論皆を、そして彼女自身を誤魔化し続けるのは不可能だった。話を聞くに、やっぱり一時は荒れたらしい。
それでもセシリアはそれを乗り越えたし、自分が影武者だったという真実を知ってなお、私を元に戻すための作戦を立ててくれた。
とはいえ、私が戻ってくることによって「シーラ=コリンズ」が2人存在することになってしまうのは色々と不味い。
そんなわけで、私達が取った対策が彼女を私の妹「セシリア=コリンズ」としてグリフィンに迎えることだった。
彼女もカーター将軍一派のクーデター鎮圧の立役者でもあったから、戸籍とかその辺はクソヒゲことクルーガーに無理を言ってどうにかさせた。
以降、私の代理としてセシリアはよく働いてくれる。たまに帰るとベッドの上に大人のオモチャを散らかしておくような悪戯をしてきたり、私の分のプリンとかを勝手に食べているのはまあ大目に――いやダメだな。今度帰ったら締めよう。
「今度帰ったらどんないたずらされるんだろうね」
「ナタリア……アナタからも少しは止めろと言ってよ。どっかで締めないとセシリアの奴、どんどん調子乗るんだから」
「そう? あの子なりに気を遣ってのことだと思うんだけど」
「プリンは違うでしょ!」
「私はプリンで騒ぐアナタ達見てて楽しかったから、またやってもいいかなって」
ダメだ、ナタリアが味方してくれない。
他にセシリアの手綱握ってくれそうなのは……。
「あ、フュンフに頼んだら止めてくれるかな」
かつてはルーキーだったフュンフことMP5も今では立派な第3部隊の隊長だ。人形だから相変わらずの小柄だけど、真面目な性格と確かな実力で部隊員の人形からの信頼も厚い。
ついでにセシリアへの当りも強い。別にセシリアが嫌いというわけじゃなくて、彼女のことを想ってのことだからだけど。
いつの間にかフュンフも言うようになっていたものだ。時にはひっぱたいてでも相手を励ますあの強かさは、一体誰に似たのやら。
まあおかげで、「鬼のフュンフ」とセシリアからは恐れられているらしい。いいぞもっとやれ。
なんてことを考えていたら、突然列車が揺れた。何かがぶつかったような揺れ方だ。
油断していたので前につんのめって転びそうになる。それを隣のナタリアが支えて止めてくれた。
「指揮官!」
「分かってる。404小隊、第1部隊。戦闘態勢!」
ただ鳥がぶつかったなんて平和的な揺れじゃないのは確かだ。考えられるのは未だに発生する要注意団体のテロか。
『乗員乗客に注ぐ。今からこの列車は我ら人形人権団体が占拠した。大人しくしていれば危害は――』
なるほど。まあ良くある手口だろう。人質を取って、己の要求を通そうって腹積もりかな。
アナウンスが流れながら、車両を繋ぐ扉が開き武装した連中が押し入ってきた。
「武器を捨て、手を上げ――ギャッ!?」
即座にテロリストが地面に転がされる。やったのは416とM14だ。後続のテロリストがその様子を見てトリガーに指をかけるその前にUMP9とガバメントが銃を抜いて奴らの銃を撃って弾き飛ばす。
おっと、サイドアーム抜こうとしている奴がまだ奥にいる。9はまだ気づいてない。
だから私は即座に腰のガバメントを引き抜いてソイツの腕を撃った。
「がっ!?」
「あちゃー、見逃してたか……ごめん指揮官助かったよ」
「10点減点ね。とりあえず全員縛り上げといて」
「はいはーい」
9の返事を聞きながら席を立ちあがって辺りを見回す。既に404小隊と第1部隊の面々は完全に戦闘態勢に入っている。流石は私の自慢の戦友たちだ。
「準備は良いわね? 目標は列車の奪還とテロリストの捕縛。やむを得ない場合は射殺も許可するわ。でも、民間人の安全が最優先よ」
了解!という元気のいい返事が聞こえてくる。気合も十分みたいだ。
ならば何も心配はいらない。さっさとこの騒がしい連中を大人しくさせるとしよう。
「404小隊は先頭車両に向かって。恐らくテロリストに指示を出している奴がそっちの方にいるだろうから。第1部隊は最後尾に向かいながら敵の無力化と安全の確保。終わったら404小隊に合流して」
「指揮官はここにいて指示を出すんですよね?」
質問してきたのはM14だ。その目はちょっと咎めるような鋭い視線になっている。
「勿論。私はチェスでいうところのキングなんだから、動けないわよ」
「ええ。ぜひそうしていただけると私も安心して作戦行動出来ます」
「ちょっと! どういうことよソレ。まるで私がキングの癖に動きまわってるみたいじゃない!」
「違うんですか?」
ジト目でこっちを睨んでくるM14に思わず言葉が詰まる。
確かに今までのことを考えると間違いではない……気がする。でもソレは必要に迫られたからやっていることで、私が望んでやっているわけじゃない。
「まあ指揮官堪え性ないからねー。ホントに指揮官向いてないとは思うよ~」
「G11まで!」
「今更ですね。ご主人様がじっとしていられることがあったら、それこそ天変地異でも起きるかもしれません」
「G36!?」
「さっきの9のカバーもいい例だよね。別に自分がやらなくても他の子がカバーできたし」
「スコーピオン……」
おかしいな。私この子達の指揮官のはずなんだけど、なんか保護対象みたいな扱いされてる気がする。……やっぱりおかしいと思うな。
「ほらほら、皆指揮官をイジメないの。指揮官、お願いですからココで指示を出しててくださいね?」
「ナタリア……」
「今はUMP45よ。そう呼びたいならさっさとアイツらを片付けましょ」
「副官は相変わらず指揮官に甘いよねぇ」
「45姉デレデレだもんねぇ」
「私としては、もっと副官として毅然とした態度で仕事をしてほしいと思うことも……」
「何よ! アンタ達後で鼻折られたいわけ!?」
やれやれ、なんとまあ騒がしい子達だろうか。
まあ男三人集まれば文殊の知恵、女三人集まればかしましいとは言うけれどね。
「ハイハイ皆! それじゃあ一発ぶちかまそうじゃない。かしましく、ね?」
湿っぽい空気はもともと肌に合わない。ぎゃあぎゃあ騒ぐくらいがきっと丁度いいんだと思う。
女三人寄ればかしましい、なんていうくらいだし。
改めて皆の顔を見回す。自信に満ちた、いい顔だ。
大丈夫。皆一緒なら、これからなんだってやっていける。
「全員、作戦開始!」
さあ、今日もやっていきますか!
前書きでも書きましたが、これが投稿されたということ=モチベが完全に尽きたということです。
続きが書かれることはないと思います。
ドルフロ自体にも大分飽きが来てしまっていて、もうアンインストールしてしまったし、設定した着地点までに書かなければいけない話の量が余りも多く風呂敷を畳めないので今回強引に締めました。
やりたかった話の内容はこの話で説明したことが大半です。
気が向いたらキングクリムゾンしてしまった間の話を埋めていくことや、指揮官になる前~UMP45と結ばれるまでのお話を書くことはあるかもしれません。
やり逃げと思う方もいるかと思いますが、まあエタるよりはマシだと思ってくだしあ。
それではこれまでお付き合いいただきありがとうございました。