女性指揮官と戦術人形達のかしましおぺれーしょん【完結】 作:笹の船
苦手な方は回れ右。
シーラさんと45姉達が紅い蝶をプレイしたらどんなリアクション?とリクエストを受けたので書きました(超絶大遅刻
シーラ&ナタリア(45姉)のコンビやっぱ好きだよ。
正規軍が起こしたゴタゴタのアフターケアも一段落落ち着いた頃。
私とナタリア達はR06基地でのんびりと休暇を満喫していた。
休暇なのだからあちこちへ出かける、というのも考えはしたけれどソレは止めた。
だってそれこそ仕事でこの間まであちこちへと移動をさせられていたのだ。しばらくはうら若き乙女の柔肌をジワジワと痛めつけてくる座り心地の悪い列車の椅子とは顔を合わせたくないところだ。
「あら、シーラ。ここにいたのね」
あのにっくき列車の座椅子のことを思い出してため息を吐いていると、自室の扉がスッと開いてナタリアが入ってきた。
今日のナタリアはいつもの制服ではなく、ジーンズに黒のTシャツというラフな格好だ。……というか、私のおさがりである。
新しいのを買えと言ったのに、この子は私のいらなくなった奴が良いと言い張って譲らなかったのだ。サイズは一応着れる程度の体格差だったから良かったけれど、もし合わなかったらどうするつもりだったんだろうか。
「なーに考えてるの?」
「うわっ! ……何考えてたんだと思う?」
自室の椅子に座っていると、ナタリアが首の後ろから手を回して抱き着いてきた。ナタリアの可愛らしい顔が私の顔のすぐ横にある。
「シーラが何考えてたかって? ……うーん。あ、私の顔が可愛いとか?」
「それはいつも思ってることね」
「あら、ありがと。……うーん、じゃあ今日の夕飯とか?」
「子供か私は」
「アナタしょっちゅう子供っぽいことしてるじゃない」
「あー、そういう意地悪なこと言う?」
なんてことない、くだらない会話。明日にはお互い死んでいるかもしれない身の上でありながら――いや、そんな身の上だからこそ大切なこの時間。
最も、私達が出会ったころに比べたら明日死ぬかもしれないみたいな状況とは縁遠くなりつつある。
鉄血人形の暴走も収束し、正規軍の暴走も食い止められた。少なくとも私達の周辺にある大きな火種は消えたと言っていい。
とは言え、外交的な戦力の喪失によりもしかしたら近々隣国、あるいは米国との戦争状態に入るかもしれないという懸念点が新たに出てはきたけれど。
ま、そうなったらその時はその時だ。独りぼっちだったあの頃とは違って、今は頼もしい仲間たちがたくさんいる。
勿論、誰よりも大切で頼もしいパートナーのナタリアも。
「それで? 私に何か用?」
すぐ横にあるナタリアの頬にそっと触れる。人肌のような温もりが、私の指先を温めてくれた。たとえこの温もりが造り物だったとしても、私には関係ない話だ。
「あー、そうそう。9がね、ブラックマーケットで日本のレトロゲーム見つけて買って来たらか皆でやろうって」
「あの子、またそんなモノを買ってきて……」
以前基地で映画鑑賞が流行ったのは9が発端だった気がする。今度はレトロゲームの流行でも起こす気だろうか。……MDRとか辺りが大喜びしそうね。
まあ、折角の休暇だしどこかに遊びに行く予定があるわけでもない。それにナタリアばかり構ってると他の子が不貞腐れちゃうからな。
「オッケー。それじゃあ私も見に行こうかしら」
「ん、それじゃあ行きましょうか」
椅子からゆっくりと立ち上がって自室を後にする。
最近はあんまり歩いていなかった基地の廊下だけど、こうして改めてナタリアと並んで歩くとああ帰ってきたんだなって実感が湧いてくる。
んあー、しばらくはのんびりしたいなあ。
そんなことを考えながらカフェの隣にある遊戯室へとやってきた。
既に9がレトロゲームをセッティングしていて、いつでもゲームが始められる状態になっていた。
「あ、指揮官にナタリア姉! やっと来たね!」
「はぁい9。今日は何のゲームやるの?」
「怖いの!」
ニコニコしながら9が手に持ったパッケージをこちらに見せてくる。
そこには十代の女の子が互いに背を合わせて座った絵が描かれていた。二人とも片膝を抱いているから、まるで二人で一羽の蝶のようにも見える。
サブタイトルにも「蝶」の文字が入っているし、きっと蝶が物語の中でキーになってくるホラーゲームなんだろう。
ふと、きゅっと私のシャツが握られた感触がした。
振り返ればなんてことない顔をしたナタリアが私の視線に気づいて微笑んでくれたけど、私のシャツを握る手は緩まない。
そういえばこの子、怖いやつで幽霊系は苦手だったっけか。可愛いところ見られそうだけど、シャツ伸びないといいな。
「それじゃあ始めるね!」
そういって9が元気よくディスクをゲーム機に入れた。ちなみに遊戯室は映画を見るのによく使われていたので、ゲーム画面もプロジェクターで投影している。
こういう古いゲームってパソコンの画面に映すには専用の機材がいるのだけれど、用意のいいことに9はソレも買っていたらしい。……いったいどこで見つけてくるんだろう。
そうこうしているうちにゲームが始まった。
どうやら双子の姉妹がダムの底に沈むことになった生まれ故郷に思い出巡りで小さいころに遊んだところを巡っているらしい。主人公は妹ちゃんのようだ。
けれど、決していい思い出ばかりではないみたいだった。どうやら、小さいころにお姉ちゃんの方は妹ちゃんを追いかけている最中に足を滑らせて大怪我をしてしまったらしい。
そんな仄暗い記憶を思い出した妹ちゃんがふと顔を上げると、お姉ちゃんの姿が見えなくなっていた。
あたりを見渡せば、ほのかに輝く紅い蝶を足を引きずって追いかけて森の奥へと入っていくお姉ちゃんの後ろ姿が見えた。
慌てて追いかける主人公ちゃん。けれどどうしてかなかなか追いつかない。そうこうしているうちに草木に隠れた道祖神に挟まれた道を通った。
モノクロになる世界、鳥居の前で顔を覆って泣く着物姿の女性。
どうしたのかと不安そうな顔をしながら主人公ちゃんが追い越すと同時に鳥居の下をくぐり、世界に色が戻る。そこに着物姿の女性の姿はない。
そうして操作パートが始まった。9がややたどたどしい動きで主人公ちゃんを動かしながら、先へと進む。
少し進んだところで再びムービーパートに入った。暗い森の坂を上り切った先に佇んでいたお姉ちゃんの背後を何羽もの紅い蝶が舞う。
地図から消えた村に迷い込んだ姉妹が脱出を目指す物語がここから始まったようだ。
ここまで来るのに使ったはずの道は消え、ひとまず他に人がいないかを探す姉妹。
ところどころに残された痕跡はありつつも、人の気配はない。人影を見ることはあっても、追いかけたところで人はいない。
探索を進めるうちにゲーム内の時代ですら古ぼけていると分かるようなカメラを姉妹は手に入れた。
ありえないモノを写す「射影機」と呼ばれるカメラは、どうやらそのありえないモノを消したり追い払ったりするのに使えるらしい。
隣に座ったナタリアの手が私のシャツの裾をきゅっと握った。まだ何も出てないけど、確かに雰囲気はもうばっちりだ。
ちなみにちらりと周囲を見渡すと、416は既に顔面蒼白だ。9はにこにこしながらプレイしているし、G11は珍しく興味深そうにゲームを見ている。
射影機を手に探索を進める主人公ちゃん。初めての人ならざる者との戦い、消えたお姉ちゃん、垣間見える幼い頃の約束。
『ずっと一緒だよね? 約束だよね』
再会して、またはぐれてを繰り返す姉妹と徐々に明らかになる地図から消えた村に隠された真相。
襲い掛かる幽霊に416が悲鳴を上げたり、ナタリアが私の服の袖を固く握りしめたり、9はコントローラーを握りながら必死に戦ったり。
それでもどうにか村の最深部の前にまでたどり着き、強大な霊をも退けて奥にいるお姉ちゃんも元へ急ぐ。
繰り返し、互いの繋がりを確かめるかのように交わされた約束。ずっと一緒にいよう、というありきたりで姉妹にとっては何よりも大切な約束。
終わらない闇夜に閉ざされた村を解き放つための儀式が進む。双子の妹が姉の命を奪い、生贄にすることで常世の闇を封じ込めるという儀式。
そんなことは望んでいないはずなのに、お姉ちゃん自身に誘われるままに自分の姉の首へ手をかける主人公ちゃん。
儀式装束に身を包んだ村人の霊が錫杖を地面に打ち付けて音を鳴らす。錫杖の音のテンポは早まり、主人公ちゃんの手に力が入る。
ハッと我に返ったとき、お姉ちゃんは目を閉じて力なくその場に横たわっていた。……その白い首に紅い蝶のような手の跡――他の誰でもない主人公ちゃんの手の跡が付いた姿で。
目の前の現実と自分の行いを受け止めきれない主人公ちゃんを他所に、お姉ちゃんの亡骸は村人によって常世へ繋がる孔へと投げ込まれる。
もう二度と愛しい人のぬくもりは感じられない。もう二度とあの手を握ることは出来ない。どんなに手を伸ばしても届かない。
お姉ちゃんは、闇の底へと消えていった。
流れ始めるエンディングテーマ、響く慟哭、モノクロの世界に鮮やかな紅い羽根をはばたかせる蝶。愛しいお姉ちゃんの最後の言葉。
涙と共に姉だった蝶を追いかける主人公ちゃん。空高く羽ばたいていく蝶と共に、村に夜明けが訪れる。
結局、お互いをどうしようもなく大切に思っていた姉妹の悲しいすれ違いの物語だった。
人としてお姉ちゃんと一緒に
かつて姉を置き去りにしてしまった負い目を持った主人公ちゃんと、村が闇に閉ざされる原因となった双子の妹。
かつて妹に置き去りにされたお姉ちゃんと、置き去りにされた結果闇に閉ざされた村で独り
約束は呪いに変わり、呪いは遺されたものに確かに刻み込まれた。
時は過ぎ、村があったあの森はダムの底に沈んだ。そのダムを見渡せる場所にあるベンチに、主人公ちゃんは一人座っている。
そうしてお姉ちゃんとの約束を繰り返す主人公ちゃんの首には、確かにあの日自分の手で刻み込んだ蝶のような紅い痣が浮かび上がっていた。
人として一緒にいることはもう叶わない。他の誰でもない主人公ちゃんがお姉ちゃんを手にかけたから。
けれどそれは他ならないお姉ちゃんの望みで、双子の姉という存在はきっと未来永劫主人公ちゃんの心の内に居続けることになる。
ある意味で、姉妹の約束はこれから先ずっと守られることになる。呪いにも等しい約束の果たし方だった。
そうして、ゲームは終わった。
全てが終わってタイトル画面が再び映し出された時、辺りからは鼻をすする音が響いていた。
かなり長時間のプレイになっていたから、少なくない数のギャラリーに来た人形達がいたようだ。
見渡す限りでは、やっぱり姉妹機を持つ子の方がより強く感じ入るものがあったようだ。
かくいう私も、あの姉妹に対して共感することが多かった。
愛する人の傍にずっといたい。たとえどんな手段を使ったとしても。その気持ちは、痛いほど分かる。
「ナタリア、どうだった?」
自然とそんな風に隣に座るナタリアに感想を聞いていた。彼女も私と同じように感じているのか、知りたかったから。
見れば、涙をこぼすことを隠そうともしないナタリアの目がまっすぐと私の方に向けられていた。
「ねえ、シーラはどこにも行かないよね?」
不安に揺れるナタリアの瞳が、私をとらえて離さない。ずっと握られていた服の袖がさらに引っ張られるような感触がした。
できることなら、ここで「どこにも行かない」と答えてあげたい。
それでも、私はそう答えない。
「……どこにも行きたくはないわ。でも、いつか別れは来る」
私は軍人で、ナタリアは戦術人形。戦いに身を置く私達は、いつ死ぬかわからない。死ぬ時が一緒とは限らない。
離れ離れになったタイミングで、お互いの知らないところで、あっさりと死んでしまうかもしれない。
だから、唐突に別れが来ることに対して覚悟を決めておかなきゃいけない。
「そんなこと言わないで! ねえ、シーラ……!」
イヤイヤと首を振って私に縋り付いてくるナタリア。思ったよりもゲームに感情移入をしちゃっているみたいだ。
一過性の不安感だとは思う。あと数十分もすれば、きっといつものドライなナタリアに戻る。
分かってはいるけど、きっと今のナタリアの言葉はまぎれもない本音なんだと思う。
だからこそ、私は私の思っていることをまっすぐ伝えたい。
世界の存亡よりも大事なヒトだから、自分の気持ちをごまかさないで伝える。これまでの戦いを通じて、私達が学んだ一番大切なことだ。
「ナタリア。私達はいつか死ぬ。それは明日かもしれないし、100年後かもしれない。でも別れはいつか絶対に来る」
「分かってる……! でもッ……!」
私の胸に顔を押し付けるようにして抱き着いてくるナタリアの背中を優しくさすりながら、私はナタリアをなだめる様に言葉を紡ぐ。
「別れがくるのは私も怖い。でも、だからこそ。笑ってアナタとさよならしたいと思ってる」
「……え?」
涙を流しながら、きょとんとした表情で私を見つめるナタリアの頬にそっと手を添える。
「泣き虫で弱虫な私達だけど、最後くらいは笑って終わりにしたいじゃない? このクソッタレな世界に『私達は幸せだったぞ、ざまあみろ』って言えるようにさ」
「シーラ……うん、そうね。そっちの方が私達らしいかもしれないし?」
そういって、ナタリアもふわりと笑みを浮かべてくれた。
「じゃあ、約束ね」
言って、私は小指を差し出す。
それを見たナタリアも、自分の小指を差し出して私の小指に絡めてくれた。
「うん、約束」
そうして私達は、互いに
きっとこの
見る人が見れば、これほど歪んでおぞましいものもないのかもしれない。
けれどそれでいいんだ。確かにこれはロクでもない
それでも、このクソにまみれたイカれた世界で
それに、日本では『呪い』という文字は二通りの読み方がある。
一つ目は勿論、相手や自分を傷つける『
そしてもう一つが、相手や自分を奮い立たせてくれる『お
どちらも同じ文字だし、結局のところ本質は変わらないと思う。かけられた側はソレに縛られることになるんだから。
それでも、読み方一つ変えるだけでもたらされるものは変わると思う。
さっき私達が交わした約束は、この世界を生き続けるための『おまじない』だ。
あの地図から消えて闇夜に閉ざされた村の様に、先の見えない世界でも前を向いて歩いていくためのおまじない。
このおまじないがあれば、また立ち止まることや転ぶようなことがあったってきっと大丈夫。
それはそれとして、お腹がすいた。おまじないをかけあってホッとしたのもあるのかもしれない。
何か美味しいものを食べたい気分になってきた。
「それじゃあ、約束もしたしとりあえずご飯食べよっか?」
「シーラ雰囲気台無し」
「お腹すいたのは事実だもの」
そんなくだらないやり取りをしながら、私達は遊戯室を後にする。
ご飯を食べるまでの短い時間だとしても、この手は離さないとお互いの手をしっかりと握ったままで。